第83回 日本音楽コンクール 本選会《バイオリン部門》
THE 83rd MUSIC COMPETITION OF JAPAN "VIOLIN"
2014年10月25日(土)16:00~ 東京オペラシティコンサートホール S席 1階 4列(2列目)15番 3,500円
指 揮: 梅田俊明
管弦楽: 東京交響楽団
昨年と同様に、今年も「第83回 日本音楽コンクール 本選会《バイオリン部門》」を聴きにいった。今年はちょっと《バイオリン部門》にこだわって、トッパンホールでの予選会から聴きに出かけた。9月7日に行われた第2予選では勝ち抜いた11名が第3予選に進み、翌8日に行われた第3予選で本日の本選会に駒を進めた4名に絞り込まれた。そのプロセスを(全部ではなかったが)見て、聴いて来たので、今年の本選会は、自分としてはすでにこの人が優勝するだろうという予想を持っていた。それが誰かということはヒミツにしておこう。
今年の本選会は、8曲のヴァイオリン協奏曲が課題曲に上げられていたが、4名のうち3名が同じ曲を選択するいうことになってしまった。それはシベリウスのヴァイオリン協奏曲。来年がシベリウスの生誕150周年に当たるということもあったのだろう。偶然とはいえ、1日に同じ曲を3回続けて聴くというのも滅多にできない体験だ。しかもある意味で真剣勝負の演奏会である。聴く方も緊張を強いられそうだ。
本選に進んだ4名のうち、土岐祐奈さんは昨年の第82回開催で第3位を受賞し、北川千紗さんも昨年のファイナリストで、二人が昨年に続けての本選入り、リベンジの大会となった。
今回は本選会の演奏少量後、審査結果が会場で発表されるまで待っていた。というわけなので結果は知っているのだが、それは最後に書くとして、以下、時系列で本選会の様子をレポートしてみたい。画像は今年9月8日に行われた第3予選の際のもの。
●北川千紗(きたがわ・ちさ/1997年生まれ。東京藝術大学附属音楽高等学校3年在学中)
【曲目】シベリウス: ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47
北川さんは最初の演奏者ということもあってか、始めの方はちょっと固くなっていたようだ。基本的にはとても丁寧な演奏をしていて、楽譜に書かれているすべての音符がキチンと聞こえてくる。正確さも好感が持てるし、オーケストラとの親和性も高い。基本的にはそうした演奏スタイルの上で、時折豊かな抒情性が姿を表してくる辺りに、むしろ将来に向けての可能性(進むべき方向性のようなもの)が感じられるのである。
技巧的には問題はないどころか、かなり難度の高いパッセージも正確にさらりと弾いていて、むしろ技巧的なところを感じさせないところが良い。音色もとても自然で美しいと思う。
第1楽章後半のカデンツァ辺りから固さが取れてきて、しなやかさとキレの良さが出て来た。リズム感にも音楽に乗る感じが出て来た。予選の時にも感じた、キレの良いヴィブラートが音色を鮮やかなものに変えて行く。第2楽章の抒情的な表現も非常に律儀な印象で、正確で丁寧なのだが、G線上の主題の豊かな歌わせ方などにキラリと光るものがある。第3楽章になると完全に固さが取れて、リズムにもうまく乗るようになっていた。
全体の感じでは、本来持っている実力を十分に発揮しきれなかったような印象だったのが残念。あるいはシベリウスの協奏曲に関してはまだまだ十分に弾き込めていなかったのかも。いずれにしても、予選会の時に比べると、やや未完成のイメージ残ってしまった。
●土岐祐奈(1994年生まれ。とき・ゆうな/桐朋学園大学音楽学部2年在学中〈特待生〉)
【曲目】シベリウス: ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47
土岐さんの演奏は、端的にいえば極めて完成度が高いといえる。1音に込められた細やかなニュアンス、フレーズ毎に起承転結があるような歌わせ方、音量はそれほど大きくはないが、弱音を忍ばせることによってダイナミックレンジを広げる手法、楽曲全体の構成力、そして抒情的かつ冷めた情熱を感じさせるシベリウスの解釈とその表現力、等々。いずれの方角から見ても、しっかりと作り上げて来ていて、隙がない。それだけに、演奏のスタイルにも態度にも自信が表れている。あるいはご自身の演奏に確信を持って臨んでいるというべきか、そんなイメージであった。つまり、完成度が高いということである。
それにしても、本日の指揮者の梅田俊明さんは、東京交響楽団をけっこう思い切り鳴らしている(とくに金管と打楽器)。独奏ヴァイオリンが入らない部分でのシンフォニックな演奏は大胆なくらいだ。そんな感じなので、ソロの音量が小さめなところではオーケストラの音がやや邪魔をしてしまっている印象もあった。2列目のソリスト前で聴いていてもそう感じたので、2階席センターに陣取った審査員の先生方にはどのように聞こえているのか、ちょっと心配になった。抒情性が前面に出てくる第2楽章でその傾向が顕著になり、分厚いオーケストラの伴奏に埋没してしまいがちだったのである。第3楽章はリズムにも乗り、ヴァイオリンもガンガン出てくるところなので、むしろ細かなところまで作り込まれた土岐さんの演奏は、音量を上げて前面に押し出していけば、もはやプロ・レベルの演奏だ(どこからがプロ・レベルだという線引きがあるわけではないが)。いずれにしても、完成度の高い演奏だという印象に変わりはなかった。
★ここで20分間の休憩となった。この次点では、土岐さんの方が完成度という点でちょっと上かな、と思えた。
●吉田 南(よしだ・みなみ/1998年生まれ。桐朋女子高等学校音楽科1年在学中〈特待生〉)
【曲目】シベリウス: ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47
吉田さんは高校1年生だという。今回の本選会でももちろん最年少で、良い意味でコワイもの知らずといったところがある。予選会でも聴いているので、今回の4名のファイナリストの中ではダークホース的な存在だと思っていた。演奏は予想していた通り、はじめからガンガン責めてくるもの。全体に音量がかなり大きく、強烈な発揮度で、ガンガン押し出して来るのだ。梅田さんもオーケストラをさらに鳴らしていたが、吉田さんの方も負けてはいなかった。もちろん、ただ音が大きいだけではない。非常に技巧的でもあるのだ。極端にメリハリの効かせた強弱の対比や、低音をG線で豊かに響かせると思えば、一気に駆け上がり高音部も張りのある強い音で唸らせる。カデンツァなどは早いテンポで超絶技巧風な聴かせ方。つまりヴィルトゥオーソ的な発揮度が高いのである。同じ曲を弾いていても、北川さんや土岐さんとは方向性が明らかに違うのである。彼女のことをダークホース的存在だといったのは、この技巧派的な演奏のスタイルを審査員の先生方がどのように評価するかによるからだ。高校1年生の吉田さんが現在できる最大限のことを堂々とやってのけている、しかも技巧的で押し出しも強、発揮時抜群、というプラス評価。楽曲の深く掘り下げた解釈や繊細な(心理描写的な)表現力、その完成度などを重視するとしたらマイナス評価。そういう微妙な位置づけにいると思われるような演奏だったのである。
確かにいえることは、吉田さんの演奏スタイルは協奏曲には向いているということ。あれだけの音量と押し出しの強い演奏で、オーケストラと丁々発止をやり合うのは、まさに協奏曲の醍醐味であって、スリリングで楽しいことは間違いない。そういう意味で、聴衆賞は吉田さんでキマリだと、この時点で確信した。
★この時点で、順位予想はまったく分からなくなってしまった。順当なら土岐さん、北川さんの順になるが、やはり吉田さんはダークホースでどこに入るかが評価と好み次第でまったく違ってしまう。私が個人的に推している人はこの3名の中にいるが、それは好みの問題なので、コンクールの評価とは必ずしも一致しないくなってきた。
●小川恭子(おがわ・きょうこ/1993年生まれ。桐朋学園大学音楽学部3年在学中)
【曲目】ブラームス: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
協奏曲の本選会の4名のファイナリストの中で、唯一違う曲=ブラームスのヴァイオリン協奏曲を弾いたのが小川さん。大学の3年生というから、今回の最年長。ということもあってか、4名の中では大人っぽく見えるだけでなく、演奏も大人っぽく感じられた。小川さんの演奏は、あるいみで多面性を持っていて、実をいえばその本質があまりよく見えてこなかった。音質は角張ったところがなく優しい。その分だけ押し出しは強く感じられなくなる。音色はエレガントで美しい。音量はそれほど大きくはない。協奏曲なので全般に大きな音を出そうとして無慮している感じはしていた。技巧的には、巧いことは間違いないが、強音部などで無理をするのか時折、雑音が聞こえたりもする・・・・。ブラームスを選んだということは、当然好きなのだろうが、まったくの偶然とはいえ、ひとりだけ違う曲になってしまったことも評価に微妙に影響してしまうのではないだろうか。・・・・とのように色々な要素があって、今ひとつよき分からない感じがしたのである。もっとも、余計なことは考えずに、じっと聴いていれば、普通に上手いのであって、競う合う場所のコンクールでなければ、また違った印象になるに違いない。
★4名の演奏が終わった時点で、順位予想の方はますます混沌としてきたので、今年は順位予想はヤメることにした。正直言って、ある程度は予想できるのだが、それを書くことは不遜に思えたからである。要するに、誰が優勝してもおかしくはないと思えたのである(自分の中では)。
さて、本選会も無事修了してまずはホッとした。全体の印象としては、4名のファイナリストの演奏には、極端なレベルの差はなかったように思う。ズバ抜けた力量を発揮した人もいなかった代わりに、明らかに実力の伴わないという人もいない。もちろんそれぞれに個性の違いがあり、あるいは目指す音楽の方向性の違いもあるようで、演奏のスタイルはそれぞれ違ってはいたが、実力的には甲乙つけ難いといった感じであった。ごく短くまとめるとすれば、北川さんは丁寧で正確な演奏、土岐さんは細部から全体まで完成度が高い演奏、吉田さんは強い押し出しで発揮時の高い演奏、小川さんは上品で美しい演奏、といったところだ。これでは、審査員の方々も採点が難しかったのではないだろうか。私は第2予選と第3予選での彼女たちの演奏も聴いているが、ピアノ伴奏のソロの時の方が、もっと実力差があるように感じたのは事実。本コンクールのバイオリン部門の審査では、「第3予選で獲得した総和点数の60%を本選の点数に加算して、その合計点のもとに順位を決定」するということになっているので、発表された本選会の審査結果は、概ね納得するものになった。今年の第83回日本音楽コンクール《バイオリン部門》の選考結果は、以下の通りである。
【第83回 日本音楽コンクール《ヴァイオリン部門》最終選考結果】
●第1位・・・・・・吉田 南
●第2位・・・・・・土岐祐奈
●第3位・・・・・・北川千紗
●入 選・・・・・・小川恭子
※岩谷賞・・・・・・吉田 南
吉田さんの優勝は、何と言ってもあの発揮度の強い演奏が評価されたものだろう。評価のスタンスがそうなのであれば、まったく異論のない優勝だと思う。下の画像は、テレビのインタビューを受けているときの吉田さん(上)と北川さん(下)。
なお、「第83回 日本音楽コンクール《バイオリン部門》本選会」の様子は、下記の通り、NHKのテレビとFMラジオで放送される予定。
●NHK BSプレミアム「クラシック倶楽部」 2014年12月8日(月)6:00~6:55
●NHK-FM「ベストオブクラシック」 2014年11月10日(月)19:30~21:10
●NHK Eテレ ドキュメンタリー放送予定 2014年12月6日(土) ※コンクール全般
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THE 83rd MUSIC COMPETITION OF JAPAN "VIOLIN"
2014年10月25日(土)16:00~ 東京オペラシティコンサートホール S席 1階 4列(2列目)15番 3,500円
指 揮: 梅田俊明
管弦楽: 東京交響楽団
昨年と同様に、今年も「第83回 日本音楽コンクール 本選会《バイオリン部門》」を聴きにいった。今年はちょっと《バイオリン部門》にこだわって、トッパンホールでの予選会から聴きに出かけた。9月7日に行われた第2予選では勝ち抜いた11名が第3予選に進み、翌8日に行われた第3予選で本日の本選会に駒を進めた4名に絞り込まれた。そのプロセスを(全部ではなかったが)見て、聴いて来たので、今年の本選会は、自分としてはすでにこの人が優勝するだろうという予想を持っていた。それが誰かということはヒミツにしておこう。
今年の本選会は、8曲のヴァイオリン協奏曲が課題曲に上げられていたが、4名のうち3名が同じ曲を選択するいうことになってしまった。それはシベリウスのヴァイオリン協奏曲。来年がシベリウスの生誕150周年に当たるということもあったのだろう。偶然とはいえ、1日に同じ曲を3回続けて聴くというのも滅多にできない体験だ。しかもある意味で真剣勝負の演奏会である。聴く方も緊張を強いられそうだ。
本選に進んだ4名のうち、土岐祐奈さんは昨年の第82回開催で第3位を受賞し、北川千紗さんも昨年のファイナリストで、二人が昨年に続けての本選入り、リベンジの大会となった。
今回は本選会の演奏少量後、審査結果が会場で発表されるまで待っていた。というわけなので結果は知っているのだが、それは最後に書くとして、以下、時系列で本選会の様子をレポートしてみたい。画像は今年9月8日に行われた第3予選の際のもの。
●北川千紗(きたがわ・ちさ/1997年生まれ。東京藝術大学附属音楽高等学校3年在学中)
【曲目】シベリウス: ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47
北川さんは最初の演奏者ということもあってか、始めの方はちょっと固くなっていたようだ。基本的にはとても丁寧な演奏をしていて、楽譜に書かれているすべての音符がキチンと聞こえてくる。正確さも好感が持てるし、オーケストラとの親和性も高い。基本的にはそうした演奏スタイルの上で、時折豊かな抒情性が姿を表してくる辺りに、むしろ将来に向けての可能性(進むべき方向性のようなもの)が感じられるのである。
技巧的には問題はないどころか、かなり難度の高いパッセージも正確にさらりと弾いていて、むしろ技巧的なところを感じさせないところが良い。音色もとても自然で美しいと思う。
第1楽章後半のカデンツァ辺りから固さが取れてきて、しなやかさとキレの良さが出て来た。リズム感にも音楽に乗る感じが出て来た。予選の時にも感じた、キレの良いヴィブラートが音色を鮮やかなものに変えて行く。第2楽章の抒情的な表現も非常に律儀な印象で、正確で丁寧なのだが、G線上の主題の豊かな歌わせ方などにキラリと光るものがある。第3楽章になると完全に固さが取れて、リズムにもうまく乗るようになっていた。
全体の感じでは、本来持っている実力を十分に発揮しきれなかったような印象だったのが残念。あるいはシベリウスの協奏曲に関してはまだまだ十分に弾き込めていなかったのかも。いずれにしても、予選会の時に比べると、やや未完成のイメージ残ってしまった。
●土岐祐奈(1994年生まれ。とき・ゆうな/桐朋学園大学音楽学部2年在学中〈特待生〉)
【曲目】シベリウス: ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47
土岐さんの演奏は、端的にいえば極めて完成度が高いといえる。1音に込められた細やかなニュアンス、フレーズ毎に起承転結があるような歌わせ方、音量はそれほど大きくはないが、弱音を忍ばせることによってダイナミックレンジを広げる手法、楽曲全体の構成力、そして抒情的かつ冷めた情熱を感じさせるシベリウスの解釈とその表現力、等々。いずれの方角から見ても、しっかりと作り上げて来ていて、隙がない。それだけに、演奏のスタイルにも態度にも自信が表れている。あるいはご自身の演奏に確信を持って臨んでいるというべきか、そんなイメージであった。つまり、完成度が高いということである。
それにしても、本日の指揮者の梅田俊明さんは、東京交響楽団をけっこう思い切り鳴らしている(とくに金管と打楽器)。独奏ヴァイオリンが入らない部分でのシンフォニックな演奏は大胆なくらいだ。そんな感じなので、ソロの音量が小さめなところではオーケストラの音がやや邪魔をしてしまっている印象もあった。2列目のソリスト前で聴いていてもそう感じたので、2階席センターに陣取った審査員の先生方にはどのように聞こえているのか、ちょっと心配になった。抒情性が前面に出てくる第2楽章でその傾向が顕著になり、分厚いオーケストラの伴奏に埋没してしまいがちだったのである。第3楽章はリズムにも乗り、ヴァイオリンもガンガン出てくるところなので、むしろ細かなところまで作り込まれた土岐さんの演奏は、音量を上げて前面に押し出していけば、もはやプロ・レベルの演奏だ(どこからがプロ・レベルだという線引きがあるわけではないが)。いずれにしても、完成度の高い演奏だという印象に変わりはなかった。
★ここで20分間の休憩となった。この次点では、土岐さんの方が完成度という点でちょっと上かな、と思えた。
●吉田 南(よしだ・みなみ/1998年生まれ。桐朋女子高等学校音楽科1年在学中〈特待生〉)
【曲目】シベリウス: ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47
吉田さんは高校1年生だという。今回の本選会でももちろん最年少で、良い意味でコワイもの知らずといったところがある。予選会でも聴いているので、今回の4名のファイナリストの中ではダークホース的な存在だと思っていた。演奏は予想していた通り、はじめからガンガン責めてくるもの。全体に音量がかなり大きく、強烈な発揮度で、ガンガン押し出して来るのだ。梅田さんもオーケストラをさらに鳴らしていたが、吉田さんの方も負けてはいなかった。もちろん、ただ音が大きいだけではない。非常に技巧的でもあるのだ。極端にメリハリの効かせた強弱の対比や、低音をG線で豊かに響かせると思えば、一気に駆け上がり高音部も張りのある強い音で唸らせる。カデンツァなどは早いテンポで超絶技巧風な聴かせ方。つまりヴィルトゥオーソ的な発揮度が高いのである。同じ曲を弾いていても、北川さんや土岐さんとは方向性が明らかに違うのである。彼女のことをダークホース的存在だといったのは、この技巧派的な演奏のスタイルを審査員の先生方がどのように評価するかによるからだ。高校1年生の吉田さんが現在できる最大限のことを堂々とやってのけている、しかも技巧的で押し出しも強、発揮時抜群、というプラス評価。楽曲の深く掘り下げた解釈や繊細な(心理描写的な)表現力、その完成度などを重視するとしたらマイナス評価。そういう微妙な位置づけにいると思われるような演奏だったのである。
確かにいえることは、吉田さんの演奏スタイルは協奏曲には向いているということ。あれだけの音量と押し出しの強い演奏で、オーケストラと丁々発止をやり合うのは、まさに協奏曲の醍醐味であって、スリリングで楽しいことは間違いない。そういう意味で、聴衆賞は吉田さんでキマリだと、この時点で確信した。
★この時点で、順位予想はまったく分からなくなってしまった。順当なら土岐さん、北川さんの順になるが、やはり吉田さんはダークホースでどこに入るかが評価と好み次第でまったく違ってしまう。私が個人的に推している人はこの3名の中にいるが、それは好みの問題なので、コンクールの評価とは必ずしも一致しないくなってきた。
●小川恭子(おがわ・きょうこ/1993年生まれ。桐朋学園大学音楽学部3年在学中)
【曲目】ブラームス: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
協奏曲の本選会の4名のファイナリストの中で、唯一違う曲=ブラームスのヴァイオリン協奏曲を弾いたのが小川さん。大学の3年生というから、今回の最年長。ということもあってか、4名の中では大人っぽく見えるだけでなく、演奏も大人っぽく感じられた。小川さんの演奏は、あるいみで多面性を持っていて、実をいえばその本質があまりよく見えてこなかった。音質は角張ったところがなく優しい。その分だけ押し出しは強く感じられなくなる。音色はエレガントで美しい。音量はそれほど大きくはない。協奏曲なので全般に大きな音を出そうとして無慮している感じはしていた。技巧的には、巧いことは間違いないが、強音部などで無理をするのか時折、雑音が聞こえたりもする・・・・。ブラームスを選んだということは、当然好きなのだろうが、まったくの偶然とはいえ、ひとりだけ違う曲になってしまったことも評価に微妙に影響してしまうのではないだろうか。・・・・とのように色々な要素があって、今ひとつよき分からない感じがしたのである。もっとも、余計なことは考えずに、じっと聴いていれば、普通に上手いのであって、競う合う場所のコンクールでなければ、また違った印象になるに違いない。
★4名の演奏が終わった時点で、順位予想の方はますます混沌としてきたので、今年は順位予想はヤメることにした。正直言って、ある程度は予想できるのだが、それを書くことは不遜に思えたからである。要するに、誰が優勝してもおかしくはないと思えたのである(自分の中では)。
さて、本選会も無事修了してまずはホッとした。全体の印象としては、4名のファイナリストの演奏には、極端なレベルの差はなかったように思う。ズバ抜けた力量を発揮した人もいなかった代わりに、明らかに実力の伴わないという人もいない。もちろんそれぞれに個性の違いがあり、あるいは目指す音楽の方向性の違いもあるようで、演奏のスタイルはそれぞれ違ってはいたが、実力的には甲乙つけ難いといった感じであった。ごく短くまとめるとすれば、北川さんは丁寧で正確な演奏、土岐さんは細部から全体まで完成度が高い演奏、吉田さんは強い押し出しで発揮時の高い演奏、小川さんは上品で美しい演奏、といったところだ。これでは、審査員の方々も採点が難しかったのではないだろうか。私は第2予選と第3予選での彼女たちの演奏も聴いているが、ピアノ伴奏のソロの時の方が、もっと実力差があるように感じたのは事実。本コンクールのバイオリン部門の審査では、「第3予選で獲得した総和点数の60%を本選の点数に加算して、その合計点のもとに順位を決定」するということになっているので、発表された本選会の審査結果は、概ね納得するものになった。今年の第83回日本音楽コンクール《バイオリン部門》の選考結果は、以下の通りである。
【第83回 日本音楽コンクール《ヴァイオリン部門》最終選考結果】
●第1位・・・・・・吉田 南
●第2位・・・・・・土岐祐奈
●第3位・・・・・・北川千紗
●入 選・・・・・・小川恭子
※岩谷賞・・・・・・吉田 南
吉田さんの優勝は、何と言ってもあの発揮度の強い演奏が評価されたものだろう。評価のスタンスがそうなのであれば、まったく異論のない優勝だと思う。下の画像は、テレビのインタビューを受けているときの吉田さん(上)と北川さん(下)。
なお、「第83回 日本音楽コンクール《バイオリン部門》本選会」の様子は、下記の通り、NHKのテレビとFMラジオで放送される予定。
●NHK BSプレミアム「クラシック倶楽部」 2014年12月8日(月)6:00~6:55
●NHK-FM「ベストオブクラシック」 2014年11月10日(月)19:30~21:10
●NHK Eテレ ドキュメンタリー放送予定 2014年12月6日(土) ※コンクール全般
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シベリウスは表現しやすいことで取り上げる方が多いのかもしれませんね。でもシベリウスで1位は近年はなかったですけど。
私は今年は2次予選(1日目)だけ聴いて、あとは本選でした。
コンクールは音色、表現、そして身体の使い方等も審査されますし、また私は今回は3次を聴かなかったので(後日、FMで聴きましたけど)、どういう配点加算になったか、わかりませんが、なかなか難しかったと思います。
まぁ、コンクール自体のことはこの位にして、今回、最初の2人(シベリウス)の演奏直後(まだ、残響が残っていて、弓を下ろしていないのに)、拍手(いわゆるフライング拍手!)するバカ野郎がいて、本当に参りました。
近年、どうもマナー違反の聴衆がいますね。あくまで審査会なのですから。
コメントありがとうございます。
今年の「バイオリン部門」は、予選会と本選会の出来具合からすると、誰が優勝してもおかしくはないというくらい、実力も拮抗していたように思えました。だから後は、評価の方向性の基準によって、今回の結果になったのでしょうね。概ね納得、ちょっと不満、といったところでしょうか。
聴衆マナーの件では、ここ最近コンサート全般で、私もフライング拍手が多くなったような気がしています。速く拍手することが、エライとでも思っているんでしょうかね。困ったものです。
このコンクールもそうですが、やはり予選から出来るだけ聴きたいです。しかし、なかなか平日に休むのは厳しいもので。
このコンクールに限らず、毎年、4人組(?)のオジサマ達を見かけます。都内のコンクールや桐朋の学園祭等でも見かけます。あの方々は根っからのコンクールマニアというかお好きなのでしょうね。
フライング拍手やブラヴォーは大嫌いですが、それに加え、今年はなかったですが、ある大学の方が本選に出た年に、相当な応援団がやってきて、あからさまな応援をした時もありました。勿論、知り合い・友人が出るのであれば応援するのは当たり前ですが、ちょっと度がひどすぎて呆れました。
私は20年ほど、本選を聴いてきましたが、こういうことはなかったです。コンクールは冷静に、鑑賞して欲しいと思っています。
ありがとうございます。
高橋様のブログは私も読ませていただいておりました。
私はコンクールを聞き出したのはこの4~5年のことです。バイオリン部門の予選会は、今年は第2予選が、土日、第3予選が月曜日だったので、月曜日だけ休みを取って聴きにいってみたわけです。もちろん全部聴いてはいませんので一概には言えませんが、第3予選の特典も加算されるとなると、ソロや室内楽が得意な人と協奏曲で度胸を発揮する人との違いなどが結果に反映されているように感じました。
聴衆のマナーに着いてはまったく同感です。応援したからといって、結果が変わるものでもあるまいし・・・。大勢の応援団(ファン?)が来ていると、聴衆賞に組織票が感じられることもありますよね(-。-;) とくに男性演奏者の時の女性ファンが・・・。
審査員の先生方も長期間・長時間にわたる審査、お疲れ様でした。
アップされている会場の写真に私も写っておりました・・・・。
審査員の席は2階のセンターブロックでステージからはかなり離れています。私の席は演奏者の目の前数メートル。聞こえ方にも相当な違いがあると思われます。先日FMで放送された録音も聴きましたが、実際に聴いたときとはかなり印象が違っていました。音楽の奥深いところを感じます。
今後ともよろしくお願いいたします。