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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

10/2(木)NHK音楽祭2014/N響/アヴデーエワの秀麗なモーツァルトとブル4「ロマンティック」

2014年10月02日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
NHK音楽祭2014 管弦楽の黄金時代~後期ロマン派の壮大な調べ~
NHK交響楽団


2014年10月2日(木)19:00~ NHKホール S席 1階 C01列 14番 ¥6,300(複数公演割引)
指 揮: マルティン・ジークハルト
ピアノ: ユリアンナ・アヴデーエワ*
管弦楽: NHK交響楽団
【曲目】
モーツァルト: ビアノ協奏曲 第21番 ハ長調 K.467*
《アンコール》
 ショパン: マズルカ 第23番 ニ長調 作品33-2*
ブルックナー: 交響曲 第4番 変ホ長調「ロマンティック」〈1878/80、ノヴァーク版〉

 毎年恒例のNHK音楽祭の季節がやってきた。昨年の開催時には大変不愉快な思いをし、しかも損害まであったので、この音楽祭は正直言って行くべきではないとの思いが強かった。とはいえ、不愉快なのは主催者に対してであって、音楽家に恨みがあるわけではない。コンサートを聴きにいけば主催者が儲かるのだから不愉快には違いないが、素晴らしい音楽を聴くこととは次元の異なることでもあるので、誘惑に駆られて、今年も聴きに行くことになってしまった。
「NHK音楽祭2014」の第1夜は、マルティン・ジークハルトさんの指揮するHK交響楽団である。この後、ワレリー・ゲルギエフさんの指揮するマリインスキー劇場管弦楽団と、ズービン・メータさんの指揮するイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートが予定されており、合わせて3つのコンサートによる音楽祭ということになっている。今年のテーマは「管弦楽の黄金時代~後期ロマン派の壮大な調べ~」。この大仰なテーマを掲げているわりには、今日のコンサートは前半がモーツァルトのビアノ協奏曲第21番。どうせなら後期ロマン派のビアノ協奏曲にすれば良いのに。企画主旨が今ひとつピント来ない。ちなみにイスラエル・フィルのコンサートも、前半はシューベルトの交響曲第6番だ。どうやら企画をしっかりと組み立てているとは言い難いようである。
 奇しくも音楽祭のN響のコンサートは、昨年と同じ席で聴くことになった。要するに最前列のソリスト正面というわけだが、協奏曲付きのN響のコンサートをこの席で、しかも6,300円で聴くということは、普段の定期公演ではまったく不可能なので、どうしてもこういう機会を逃せなくなってしまうのだ。

 さて前半は、モーツァルトの「ビアノ協奏曲第21番」。ゲスト・ソリストのユリアンナ・アヴデーエワさんは、2010年のショパン国際ビアノ・コンクールに優勝して一躍その名を世界中に轟かせた。アルゲリッチさん以来、45年ぶりの女性覇者とのことだった。この後の活躍ぶりは多くの人々の知るところだが、私は一度だけ、昨年2013年4月に、フランス・ブリュッヘンさんの率いる18世紀オーケストラが来日公演を行った際、ショパンのピアノ協奏曲第1番と第2番を1873年製のエラールのピアノで演奏したのを聴いたことがあるだけだ。つまりモダン・ピアノのスタインウェイを聴くのは今日が初めてであり、しかもモーツァルトなのである。登場したアヴデーエワさんは、トレードマークの黒の燕尾服姿。私の席からはちょうどこんな感じに見えた(画像)。
 曲が始まると、小編成のN響の緻密なサウンドが流れてくる。マルティン・ジークハルトの指揮は、大きな特徴を感じるものではなかったが、引き締まったキビキビとした演奏で、どちらかといえば、モダンなモーツァルトだ。そこへアヴデーエワさんのピアノが入ってくる。鍵盤側とはいえ、最前列の目の前では、どうしてもピアノの音が大くきなりすぎ、オーケストラの音が聞こえなくなってしまうものだがが、今日はちょっと違うようだ。音量もかなり抑えめにしているし、ダイナミックレンジをフラットにして、モーツァルトに相応しいように音の粒立ちを整えている。この位置で聴いていても、丸く均質な音が聞こえていたので、もう少し後方の席が聴いていれば文句なしだったろう。その中で微妙にニュアンスの表現が緻密さと変幻さを与えていて、音楽に生命力を吹き込んでいるようだ。
 第2楽章は美しく澄みきったN響の弦楽で始まった。木管群も素晴らしく、優雅な響きだ。アヴデーエワさんのピアノは淡々とした調子の中に、ロマン的な抒情性を見え隠れさせる。柔らかいタッチの左手伴奏とクリアな音色の右手の主旋律が見事な対比を見せながら溶け合い、なるほどモダン楽器による現代的なモーツァルトの描き方だと思う。
 第3楽章になるとピアノにも疾走感が加わり、まさに煌めく玉を転がすような、キラキラした音色に変わる。オーケストラとのやり取りも、軽快にリズム感にのって、輝かしく、瑞々しさを感じる演奏だ。澄んだ音色のN響との相性も良いようで、可憐でスッキリした演奏であった。
 アヴデーエワさんのアンコールは、ショパンの「マズルカ 第23番」。コチラの方はモーツァルトとはまったく違うアプローチで、フワリフワリと揺れるようなリズム感と、抒情的ながらもメリハリの効いた、ショパンらしい華やかさと繊細さが程良くミックスされた演奏である。

 後半は、文字通り「後期ロマン派の壮大な調べ」となるブルックナーの交響曲「ロマンティック」。ブルックナー開始に乗ってホルンのソロがうまく決まり、壮大な第1主題へと盛り上がる。一山を超えるとヴァイオリンによる可憐な第2主題。まあこの辺までは美しくドラマティックな音楽。N響の演奏も緻密さとダイナミックなスケール感があり、クセのない素直な音色で、なかなか素晴らしい演奏を聴かせている。それはそれで良いのだが・・・・・。ブルックナーにあまりご執心でない私としては、そろそろ飽きてくる頃だ。同じ主題(音型)が執拗に繰り返され・・・・形を変えてさらに繰り返され・・・・。形式的には3つの主題を持つソナタ形式なのだが、やはり20分以上という長さのために、構造的な安定感よりも、繰り返される美しい主題を刹那的に捉えているうちに飽きてしまうのである。良い曲だとは思うのだが・・・・。
 第2楽章は緩徐楽章。しかし第1楽章があまり速くないためか、テンポの差が明瞭でなく、同様に繰り返しが多い。というのも緩徐楽章でもロンド形式なので、繰り返しが多いのは構造的なものだ。つまりはブルックナーらしいということ。一方、N響の演奏は見事なもので、ホルンをはじめとする金管群や、フルートをはじめとする木管群も、非常に質感の高い、それでいてクセのない演奏であった。
 第3楽章はスケルツォ。形式的には古典的な交響曲のカタチになっているが、テンポ設定が「Bewegt(運動的に)」ということになっていて、結果的には速いテンポのイメージではない演奏になってしまう。そして繰り返しが多く、長い・・・・。途中、壮大なクライマックスが何度か訪れるが、それも繰り返しになってしまうので・・・・。
 第4楽章も3つの主題を持つ長大名ソナタ形式。こちらも23分くらいと、長い。細かなことはさておき、ジークハルトさんの音楽作りは緻密で、この壮大にスケールの曲であっても、ディテールまでしっかりとコントロールが行き届いているようで、N響から素晴らしい演奏を引き出している。緻密で繊細な弱音のアンサンブルから、大編成オーケストラの全合奏によるフォルティシモに至るまで、一糸乱れぬ高品質な演奏を聴かせてくれた。

 NHK音楽祭のコンサートは、NHK-FMでナマ中継放送されるので、これを自宅で録音しておいた。改めてそれを聴き直してみると、放送用にミキシングされた演奏は、妙に客観的になってしまい、意外と面白味がない。ダイナミズムが伝わってこないのである。とくに今回のテーマである「後期ロマン派の壮大な調べ」は、おそらく放送や録音では体験しにくいものではないかと思う。会場が響きの良くないHHKホールであっても、最前列の指揮者のすぐ後ろで聴いているオーケストラのナマの音は、とくに今日のN響のブルックナーは「壮大な調べ」を轟かしていた。改めて、録音とライブの違いを感じたものである。N響ファンはテレビやFMの放送を聴いているために全国にいらっしゃると思うが、放送や録音の方が「上手く」聞こえ、ライブの方が「劇的」に聞こえる、というのが私の感想である。

 なお、今日の「NHK音楽祭/NHK交響楽団」のコンサートの模様は、11月2日(日)21:00からのNHK・Eテレ「クラシック音楽館」で放送される予定である。

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