弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

長野五輪の思い出

2021-07-26 21:28:55 | 趣味・読書
五輪スケートボード男子の試合、ライブ観戦はしませんでしたが、ネットで以下の話題がありました。
【東京五輪】スケボー珍解説が生んだ新採点「やばいっす→8・0、ハンパねえ→8・5」
7/25(日) 東スポ
『試合を中継したNHK「Eテレ」の解説を務めたプロスケートボーダー・瀬尻稜氏だ。「ハンパねえ」「やべえっす」「鬼ヤバいっす」などの若者言葉を畳みかけつつも、その後には丁寧で分かりやすい解説。』

このニュースを読んで、1998年長野オリンピックの女子モーグルの試合を思い出しました。私は、予選、決勝ともにテレビでライブ観戦していました。
予選で里谷多英(ウィキ)を含めて滑り終わりました。里谷は11位です。その予選を振り返って、テレビの若い解説者が
  「里谷はメダルを取れますよ」
と発言します。11位なのに?
アナウンサーがそれを聞いて
  「そこまで言いますか?」
と問い返したその声が裏返っていました。そりゃびっくりしますよね。予選11位から、何を根拠に「メダル」を予想するのか。

そして決勝です。
里谷は先頭(あるいはそのすぐ後)に滑りました。そして、ゴールした瞬間、あの解説者が叫んだのです。
  「やったぁ! 多英、すっげぇ!」

見ているこちらは、どれだけすごいのか、あるいはすごくないのか、全くわかりません。とにかく点数が表示されます。
その後、有力選手が次々と滑りますが、里谷の点数を超える選手が現れません。つまり優勝、金メダルです。

里谷の滑りが終わった直後の解説者、予選のときに「メダルが取れる」と予言したのですから、「やったぁ!」は「これでメダル確実」との安堵を含んでいるでしょう。さらに金まで予測できたか、そこはわかりませが。

このときの解説者、調べたらすぐにわかりました。山崎修さんという方なのですね(ウィキ)。

長野オリンピックは、印象に残った場面がいつくかあります。

ジャンプの第一人者は船木和喜でした。彼が助走に入ったその直後、会場のスピーカーから女性アナウンサーの声で「フナキ! フナキ!」との声援が聞こえました。あの声援は何だったのだろうか。

ラージヒル団体の一人は原田雅彦でした。競技は、2本飛んで点数の合計で争われます。原田は結果のばらつきが大きく、2本飛ぶと1本はスーパージャンプ、もう1本は失敗ジャンプ、が多かったです。問題は、2本のうちのどちらで失敗するかです。
1本目がスーパージャンプだと、2本目原田の前で金メダルが見えています。そこで原田が失敗すると、「原田、またやっちゃったー」と日本中が失望することとなります。リレハンメルがそうでした。
そして長野です。長野のラージヒルでは、原田は1本目が失敗ジャンプだったのです。そして、天候悪化での競技中断をはさんでの2本目、原田の番です。原田が飛び出し、ぐんぐん距離が伸びます。スーパージャンプです。原田は団体で、2本のうち1本目を失敗、2本目を成功させることにより、忘れ得ないドラマを作り上げたのです。
p.s. 7/27 着地寸前、アナウンサーが「立て、立て、立ってくれー。立ったー!」と絶叫したのは、原田の個人種目でした。

アルペンスキー男子滑降で、最有力だったヘルマン・マイヤーが、コースの罠にひっかかって空中に吹っ飛んだのにはびっくりしました(動画)。動画の解説によると、八方尾根のコースにおいて、大会直前に要望を受けてスタート地点をより高い位置に変更した結果、コースの途中に難所ができてしまったということでした。私は今まで、コース設計者のベルンハルト・ルッシの意地悪だと思い込んでいました。

そのほか、印象に残ったのはカーリング男子のスキッパー、敦賀信人ですね。偶然、対アメリカ戦のライブ中継をテレビで見ました。カーリングの試合を見るのは初めてでした。第9,10エンドの敦賀の投球は、素人の私にベストショットと感じました。しかし、アメリカのスキッパーの投球がさらに上回り、最後の最後で日本はアメリカに負けました。その刹那に敦賀が見せた涙が忘れられません(動画)。
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大空に描かれた五輪

2021-07-23 21:18:32 | 趣味・読書
1964年東京オリンピックのとき、私は高校1年生でした。開会式当日、開会式であることを全く意識せず、部活を終わって帰宅の途中、ちょうど茗荷谷駅の近くでした。何気なく空を見上げたら、大空に五輪のマークができあがっていたのを見つけました。突然でした。
こうして、意図することなく、私は東京オリンピックに“参加”することになったのです。国立に入場する入場券をもって参加しなくても、東京在住でありさえすれば開会式に参加することができる、すごいことだと思いました。

あれから57年が経過して、2回目の東京オリンピックです。1回目と同様、大空の五輪のマークをもう一度見ることができたら・・・・、と想像していましたが、それが実現しました。
1回目のときは、練習では1回も成功せず本番で初めて成功したという難しい技だったそうですが、2回目の本番でも成功しました。

我が家は、井の頭通りが神田川と交差するあたりの路上で、そのときを待ちました。あいにく雲の多い空でしたが、五輪が描かれる予定の東の空には青空が広がっていました。
描画は時間通りに実行されました。
夢中でシャッターを切った結果が以下の写真です。
ちょっと残念だったのは、2回目の今回は、写真で見るようにスモークの寿命が短く、一つ一つの輪が円として閉じなかったことです。1回目はきっちりと“輪”として確認できました。

















こうして、2回目の東京オリンピックの開会も、当事者として“参加”することができました。
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加藤陽子先生「任命拒否する政権」

2021-07-20 18:01:56 | 歴史・社会
昨年、日本学術会議の会員推薦に対して菅政権が6人の任命拒否をしました。その6人の中に、加藤陽子先生が含まれていました。私は、「日本学術会議と加藤陽子先生 2020-10-03」で記事にしました。
上記記事でも書いたように、6人の中で、私がある程度存じ上げているのは加藤陽子先生のみです。
加藤陽子著「満州事変から日中戦争へ―シリーズ日本近現代史〈5〉」 (岩波新書)は、私にとって、半藤一利「昭和史1926->1945」とともに昭和初期の歴史を理解する上でのバックボーンになっています。
満州事変から日中戦争へ―シリーズ日本近現代史〈5〉 (岩波新書)
加藤先生の論述は、右にも左にも偏らず、リアリストとして歴史に向き合う姿勢です。私にとっては、日本近代史について、加藤先生の意見であれば傾聴に値する、と尊敬している学者です。
その尊敬すべき学者が、なぜ学術会議会員の任命から外されたのか。

その後、その6人の中では、加藤先生が最も発言が少ないようにお見受けしていました。今回、朝日新聞に加藤先生のインタビュー記事が掲載されました。
学術会議 私が外された理由と「6」の意味 加藤陽子氏
聞き手 編集委員・塩倉裕2021年7月15日 朝日新聞
『日本学術会議の会員に推薦されながら、菅義偉首相によって任命を拒否された問題が報道されてから9カ月余り。歴史学者の加藤陽子さんがインタビューに応じた。1930年代を中心にした戦前の日本近代史の研究で知られる加藤さんは、拒否した理由を説明せず、批判されても見直しに応じない現政権を、どう見ているのか。

 ――菅首相が6人の任命を拒否したと報道されたのは昨年10月でした。自身の任命が拒否されたことをどのように知ったのですか。
「9月29日の午後5時ごろに学術会議の事務局から電話があり、任命されなかったと伝えられました。『寝耳に水』という言葉が実感として浮かびました。私のほかにも任命されなかった推薦者が誰かいる、とも言われています」

 ――詳細に覚えているのですね。日時は確かなのですか。
 「確実です。私はこの件が始まって以降、記録として残すために日記をつけていますので」
 「日記には学術会議のことだけでなく、その日の新規感染者数などコロナ禍の情報も書いています。社会の雰囲気や同時代的な偶然性も含めて記録するためです」』

今までは沈黙を守っていたのに対し、この段階でインタビューに応じた理由は。
6人は任命が拒否された理由や経緯がわかる文書を開示するよう政府に請求していましたが、政府は「完全無回答」でした。これにより、政府とのやりとりが一応の区切りを迎えたことです。
もう一つのきっかけは、学術会議の自立性が前政権の時代から何年もかけて掘り崩されてきた過程が、報道機関の調査によって明らかにされたことです。

学術会議会員の任免権に関し、1983年の中曽根内閣の答弁によって確定した法解釈が、菅政権によって変更になりました。政府の法解釈変更が必要になった場合、政府は国会でその経緯を説明する義務があるはずですが、菅政権は説明していません。

日本近現代史研究者として行政側が作成した文書を長らく見てきた加藤先生は、何か初めてのことをするときは文書記録を作成する傾向が官僚にはある、と知っていました。そこで、政府に対して決定の背景を説明できる決裁文書はあるのか、と問うたのです。
ただ近年、官僚が官邸からの要求に押され、適切に文書を作成できない事態が生まれていると、加藤先生は感じていました。(現在の官僚が)どういう行動様式をとるのか、それを確認したいという気持ちが(加藤先生に)今回、ありました。

『首相が「人事の問題なのでお答えを控える」と言うとき、彼は「なぜ外されたのか分かるよね?」と目配せをしているのだと思います。自民党を批判したからだろうとか、政府批判にかかわったからだろうとか。国民がそう忖度することを期待しているから、説明しないのでしょう。忖度を駆動させない対策が必要です。』

加藤先生を菅首相が外した理由について。
2014年ごろから安保法制に反対したり「立憲デモクラシーの会」に参加したりしたことを含めて、政府批判の訴えをしたからだろうと推察されています。

任命拒否した人数が6人だった点について。
前回17年に105人の新会員が任命された際、当時の学術会議会長は政府側から要請されて「事前調整」に応じ、6人多い111名の名前を書き、見せたのです。しかし今回は山極寿一会長(当時)が事前調整に応じず、初めから105人ぴったりの推薦名簿を出しました。それに対する政権の反応が6人を外す決定であり、「次回は2017年のように6人多く書いてこいよ」というシグナルなのだ、とのことです。

任命拒否された6人のうち、加藤先生を除く5人は、会長から連携会員や特任連携会員に任命されるという形で実質的に会議の活動に参加していますが、加藤さんは断っています。
「『実』を取るより『名』を取りたいと思ったからです。」
「特任連携会員になって学術会議の活動を支援することには確実なメリットがあります。実を取る道と言えるでしょう。ただ、政府が問題のある行為をした事実、批判されても決定を覆そうとしない態度をとっきている事実を歴史に刻むことも大事だと私は考えました。実質的に欠員が生じたままにしておくこと、私が外されたという痕跡を名簿の上に残しておくことが、名を取る道です。」

学術会議会員の任命拒否に関して、加藤先生は拒否された当事者でありながら比較的沈黙を守られてきました。その加藤先生が発言されたのですから、この発言は皆が見えるところにきちんと掲示しておくべきと思います。ここでは要約ですが提示することとします。
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ワクチン需給バランスの実態

2021-07-16 21:47:47 | 歴史・社会
このブログの「ワクチン接種回数の実態 2021-07-08」において、VRS入力結果に基づいて政府が把握している接種回数と、本当の接種回数との乖離について推定を試みました。結果は以下のグラフです。

「合計(VRS)」とした実線が、VRS入力結果に基づいて政府が把握している接種回数です。一方、「合計(予測実績)」とした破線が、私が推定した真の接種回数です。この乖離部分が、「接種はしたがVRS未入力」の数量となります。グラフからざっと見積もると、合計で5百万回あるいはそれ以上、と読み取れます。

あるはずのワクチンがない? “4000万回分の在庫” は一体どこへ?ワクチン不足問題の裏側を解説(7/15(木) 20:16 FNNプライムオンライン)に以下の記事がありました。
『政治部 阿部桃子記者:
さらに政府関係者によりますと、接種されたものの記録されていないものが500万回分くらいあると言われていて、』
なるほど、上記私の推定がほぼ正しかったようですね。

すでに1回目の接種を終わって2回目を待っている人のワクチンは、きちんと確保しておく必要があります。
上記グラフで、「2回目接種(予測実績)」の破線は、1回目の接種回数実績を3週間ずらしたデータです。このデータから、最近の1回目接種はだいたい60万回/日であると見て取れます。そうすると、60万回/日×21日(3週間)≒1200万回が、すでに1回目を接種して2回目を待っている人数ですから、現在の在庫からこの分はきちんと確保しなければなりません。

政府の発表によると、接種回数をVRSで評価した場合、ファイザー製の市中在庫は4千万回分ということです。
上記のように、VRS未入力が5百万回、1回目を終わって2回目を待っている人の分の確保が12百万回ですから、これから1回目を接種する人のための市中在庫は、
 4千万-(5百万+12百万)=23百万回分
となります。
これから1回目を接種する人の予約のためには、2回分を確保する必要があります。
現時点で、1回目の接種の全国回数は60万回/日程度のようです。これからの予約もこのオーダーで確保しているとすると、上記23百万回分で予約可能な日数は、
 23百万回分/(60万×2)=19日
となります。7月16日からスタートすると、19日後は8月4日です。現在予約を終わっている人のうち、8月4日までに1回目を予約している人は、現在の市中在庫の配分を受けることによって2回目までの接種が可能です。一方、8月5日以降については、全国に1170万回分/2週間で配分されるワクチンの配分の範囲内でしか予約を受け付けることができません。その全国合計は、120万回/日を下回るでしょうから、8月5日以降ですでに受けている予約はキャンセルを含めて減らさざるを得ないというとこになります。
(p.s. 7/17 追記)
8月4日以降の予約可能人数は、
 1170万/14日/2回分≒42万人/日
となります。
 8月4日から3週間は、1回目:42万+2回目:60万=102万人/日
 3週間経過後は、42万人×2=84万人/日
となります。
これは、当初から決まっているファイザーの供給量によるものです。
(p.s. 終わり)

以上のような算術は、小学生でもできることです。
ファイザー製ワクチンが、6月までは1億回分、7~9月は合計で7千万回分、であるという事実は、下記の記事にあるように、5月段階からわかっていたことで、その後に減少したわけではありません。
ファイザーワクチン、7~9月で7千万回分調達の見通し 新型コロナウイルス 2021年5月28日 朝日新聞デジタル
『新型コロナウイルスのワクチン接種をめぐり、政府内の調整を担う河野太郎行政改革相は28日の記者会見で、7月から9月末にかけて、米製薬大手ファイザー社製のワクチン7千万回分(2回接種で3500万人分)を調達できる見通しが立ったことを明らかにした。自治体への配送スケジュールは今後調整する。
政府は1月、ファイザー社と年内に1億4400万回分(7200万人分)の供給を受ける契約を締結。5月には今年9月までに5千万回分(2500万人分)の追加契約を結んでいる。
河野氏は「自治体の皆さんから供給の見通しについて、準備を効率的に進めるためにもできるだけ速く知らせてほしいという声があった」として、7~9月の政府による調達の見通しを示すことにしたという。
ファイザー社製のワクチンについては、今年6月末までに約1億回分(約5千万人分)が自治体に配送される予定で、今回と合わせて契約の約87%の調達の見通しが固まった。河野氏は、残り契約分の約2400万回分(約1200万人分)についても、「第4四半期(10~12月)に来ることになる」と語った。(坂本純也)』

6月に比べ、7月から一月あたりの供給量が大幅に減ることがわかっていたわけですから、各市区町村に供給できるワクチン量についても見通しを提示できたはずです。各市区町村は、8月から供給ワクチンが減ることがわかっていたら、当然のこととして予約枠も供給量に合わせていたはずです。それさえできていれば、今この段階で「すでに受け付けた予約を取り消す」などということにはならなかったはずです。
責任官庁の厚労省はなぜこの程度のことができなかったのでしょうか。

このブログの「コロナワクチンが足りない 2021-07-06」に書いた、
『そもそも全国のワクチン接種は、1カ所の司令塔が全体を把握し、供給と接種のバランスを取らなければいけません。それができるのは厚労省しかありません。
ところが菅総理は、厚労省の仕事ぶりが不満で、本来の担当部署ではない総務省に号令を出しました。総務省は、個別の市区町村の首長に直接電話をかけ、接種速度を増大するようにハッパをかけました。しょうがなしに各市区町村は、国全体のバランスなどお構いなしに、自分のところでできる範囲内で接種速度の増強を図ったのでしょう。
国全体のバランスを計画すべき厚労省は、首相と総務省の勝手な動きを横目で見て、全体の調整業務を放棄したものと推定できます。』
との推定がまさに当たっていたのかもしれません。
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ワクチン接種回数の実態

2021-07-08 18:03:45 | 歴史・社会
「ワクチンの供給量が足らない」と大騒ぎになっています。自治体の接種計画も、職域の接種計画も、すでに完了した接種予約をキャンセルする事態です。何が起きているのか、先日のブログ記事「コロナワクチンが足りない 2021-07-06」で分かる範囲を書きました。

モデルナの供給量が当初計画から大きく下回っている問題については、ここでは触れません。
ファイザー製ワクチンについてです。
ファイザーについては、「6月までに1億回分、7~9月の3ヶ月に合計7千万回分」という当初からの計画で、ほぼ計画通りに供給されるようです。それにもかかわらず、なぜ各市区町村の接種計画を見直し、予約をキャンセルする事態に立ち至ったのか。

[1]「6月から現在までにバンバン接種したので、6月中の1億回分を使い切ってしまった。これからは、7~9月の7千万回分を均等に配るしかない。2週間ごとの供給量は、
7千万÷3ヶ月÷2=1170万回
となり、政府のアナウンスの通りである。」
[2]「実績集計では、接種合計は1億回よりもかなり少ない。6月までに市区町村に配布したワクチンのうちの相当部分が現地に在庫しているはずだから、それを探し出して接種を継続して欲しい。2週間ごとの1170万回で足りるはずである。」

上記[1][2]のいずれか、またはその両方なのでしょう。
正しい接種回数が集計できれば問題ありません。しかし、唯一の頼みの綱であるシステム(VRS)への入力が遅れており、自治体によっては1ヶ月遅れで入力しているといいます。現時点で日本政府は、「正しい接種実績」を誰も把握していないのです。

「在庫があるのに頭を下げて予約を取り消す市長なんて、どこにもいない。実質的に“在庫”は無い」突然のワクチン供給量減少に憤る兵庫県明石市の泉房穂市長 7/6(火) 18:25」で面白いデータを見つけました。
「1日あたり接種回数も減少?」と名付けられたグラフです。「医療者接種は除く VRS入力をカウント」とあります。このグラフには、全体合計と、2回目接種回数が示されています。このグラフを読み取ったのが下の図の実線(合計(VRS)と2回目接種(VRS)です。直近で、2回目接種も合計も回数が激減しています。これは、「VRSシステム未入力」による部分が多いと推定できます。

2回目接種は、1回目接種の3週間後に行われているはずです。このグラフから1回目接種の回数を読み取ります。今から3週間前よりも以前については、VRS入力も進んでいることでしょう。そのデータを右側に3週間分ずらせば、「2回目接種(予測実績)」になるはずです。上記グラフの下側の鎖線で示しました。3週間ずらした上で、6月中旬までのグラフで実線と鎖線が一致するよう、鎖線を若干下に下げました。
直近において、2回目接種の実線と鎖線で解離が出ています。実線は直近で低下しているのに、鎖線は一定を保持しています。時期ごとに、鎖線と実線との乖離分が、真の接種数とシステム入力した接種数との乖離に一致しているはずです。そしてその点は、1回目と2回目の合計についても成り立ちます。
そこで、合計(VRS)に対して、2回目で判明した乖離分を反映して、「合計(予測実績)」の鎖線を記載しました。この鎖線からわかるように、直近において、だいたい接種回数は120万回/日をやや下回る程度で推移していることがわかります。

以上のように、最近のワクチン接種実績を大まかに推定することができました。
政府にしても各報道機関にしても、この程度の推理は働かせて欲しいものです。
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コロナワクチンが足りない

2021-07-06 20:26:31 | 歴史・社会
コロナワクチンの供給が追いつかず、各市区町村ですら予約のキャンセルが続出しています。一体何が起こっているのでしょうか。
そもそもファイザー製のワクチンは当初から、6月までに1億回分、7~9月に合計で7千万回分の供給が見込まれていました。最近になってその数値が減少したとの話は聞いていません。
5~9月に合計で1億7千万回分としたら、それを5ヶ月(150日)で均等に接種する場合、一日に百万回とすればほぼ数値が合います。5月初めから百万回/日で打ったとして、6月末までに合計で6千万回、従って、6月末に1億-6千万=4千万回分が在庫として積み上がっていますから、これに7~9月供給の7千万回を足して、7月以降も百万回/日を維持できます。即ち、7月になって(予定通り)供給速度が減ったとしても、在庫分を消費しながら百万回/日が継続できたはずです。

それにもかかわらず、ここへ来て供給が接種に追いつかないということは、何が起きているのでしょうか。
理由は2つ考えられます。

第1に
「6月中、ファイザー製を百万回/日を大きく上回る実績で接種し、6月末で在庫が空になった。7月から供給速度が低下し、一方で7月以降もそれまでと同様に百万回/日を大きく上回る接種計画であったため、当然のこととして供給が不足することになった。」
よくよく考えると、これは菅総理の行動に原因があります。
そもそも全国のワクチン接種は、1カ所の司令塔が全体を把握し、供給と接種のバランスを取らなければいけません。それができるのは厚労省しかありません。
ところが菅総理は、厚労省の仕事ぶりが不満で、本来の担当部署ではない総務省に号令を出しました。総務省は、個別の市区町村の首長に直接電話をかけ、接種速度を増大するようにハッパをかけました。しょうがなしに各市区町村は、国全体のバランスなどお構いなしに、自分のところでできる範囲内で接種速度の増強を図ったのでしょう。
国全体のバランスを計画すべき厚労省は、首相と総務省の勝手な動きを横目で見て、全体の調整業務を放棄したものと推定できます。

第2に
上記のように首相と総務省からハッパをかけられ、各市区町村は、「とにかく打てば良いのだろう」と接種数を増やす一方、接種結果のシステム(VRS)入力を後回しにしているようです。一方で供給サイドの国は、「VRSでの接種実績が少ない市区町村にはワクチン供給量を減らす」との方針をとっているようです。これでは、実際には接種が進んでいる市区町村で、すでに予約した人のキャンセルをするしかありません。

以上のように考えると、現時点でファイザー製ワクチンが不足して予定が大幅に後退する理由に納得がいきます。
全く、日本という国は、国全体の計画・調整能力が極めて劣っているとしか言いようがありません。
これも元を正せば、菅総理が組織の担当部署を無視して総務省ルートを作ってしまったこと、その前から、菅総理が内閣人事局の権限を濫用して厚労省の人事に手を突っ込み、優秀な人材を左遷してしまったこと、などが根本原因となっています。

菅総理には早く辞めてもらわなければなりません。
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君津製鉄所の思い出

2021-07-02 16:10:13 | 趣味・読書

群れる文化が巨木を枯らす――九州製鐡崩壊を目にして――
この小説については、すでに一度読み終えてこのブログにも4年前にアップしています。
群れる文化が巨木を枯らす 2017-01-09

今回、また読んでみました。
小説の舞台は、東亜製鐵木更津製鐵所です。東亜製鐵は、九州製鐵と北海道製鐵が1970年に合併してできた製鉄会社です。
木更津製鐵所の製鋼部には、♯2CC(第2連続鋳造設備)が建設され、1980年に操業を開始しました。小説は、♯2CCの計画、特徴、優れた品質を軸として進行します。それまで、連続鋳造設備は「湾曲型」といわれる形式がメインでしたが、♯2CCは「垂直曲げ型」を採用し、それによって従来にはない優れた品質の製品を実現しました。

鋼の連続鋳造では、溶鋼が注入される鋳型の上端において、鋳型壁は垂直下方を向いています。湾曲型においては、鋳型部から半径10m程度の円弧になっており、鋳造された凝固シェルはその円弧に沿って下降し、下端で水平になったところで曲げ戻し矯正されて水平に向きます。
垂直曲げの場合、鋳型上端から下方に2~3mは垂直のまま直線状であり、そこで曲げ矯正されて半径10mの円弧となり、その後、水平になったところで曲げ戻し矯正される点は湾曲型と同様です。
このように、鋳型とその直下に垂直部を有しているか否かが、垂直曲げ型(VB:Vertical Bending)と湾曲型の違いです。

現実の千葉県木更津市に木更津製鐵所は存在しません。木更津市の隣が君津市で、君津市には日本製鉄の君津製鐵所が存在します。君津製鐵所は、新日鐵と住金との合併前は新日本製鐵君津製鐵所でした。

私は、1973年から1986年までの間、この君津製鉄所に勤務し、その期間の大部分を製鋼部・製鋼技術に所属していました。
1980年、君津の製鋼工場に第2連続鋳造装置(2CC)(No.2 Continuous Casting)が稼働しました。2CCは垂直曲げ型のマシンです。まさに、小説中の東亜製鐵木更津製鐵所における2CCと全く同じシチュエーションです。
君津2CCは立ち上げ当初、鋳造する鋳片の表面割れが多発していました。2CCの稼働開始後まもなく、私は2CCの品質を改善する業務につくことになりました。
2CCの鋳片割れは、鋳片下面側のコーナー部に発生します。下面側に引っ張り応力が発生するのは、連続鋳造鋳型の直下にある鋳片の曲げ部です。従って、2CCの下面側コーナー割れは、曲げ部で発生していると推定できます。垂直曲げ型連鋳機特有の表面疵といえます。

自分の来し方を辿ってみた 2021-04-10」でも記載したように、2CCの鋳片の割れ発生を解決するに至った成果が、以下の発表に記述されています。
『討 12 連鋳スラブにおける表面割れ疵の改善(II 連鋳鋳片の品質と鋼の高温における力学的特性, 第 104 回講演大会討論会講演概要) ID 110001488738』
鐵と鋼 : 日本鐡鋼協會々誌 68 (10) A161 - A164 1982-08-01 社団法人日本鉄鋼協会
上記文献をネット上で見つけることができませんでしたが、つい最近、印刷したものを私が持っていることに気づきました。そこで、その印刷物をスキャンしてネットにアップしました。
討 12 連鋳スラブにおける表面割れ疵の改善(II 連鋳鋳片の品質と鋼の高温における力学的特性, 第 104 回講演大会討論会講演概要)
不鮮明な印刷物で申し訳ありません。

連続鋳造中、鋳片の当該部が引っ張り変形を受ける際、当該部位の延性が劣化していると割れが発生します。われわれは、「グリーブル試験」でサンプルに種々の熱履歴を加えた上で、引張り試験を行って延性を評価しました。その結果、連続鋳造の鋳型下で曲げ部に到達するまでに、一度低温に下がってその後復熱した熱履歴を経た場合に、延性が低下することを見いだしました。
この結果に基づき、鋳型直下における鋳片短辺の冷却水量を大幅に低減したところ、見事に鋳片下面側のコーナー割れが消滅したのです。

当時、グリーブル試験は基礎研に依頼して行いました。製鋼部で勤務する私は、夜遅く、ちょっと離れたところにある君津技研の荻林さんをたずね、グリーブル試験の熱履歴水準について打ち合わせました。そのときに「一度急冷してその後復熱する熱履歴パターンをやってみましょう」と提案して実験したことが、問題解決に繋がりました。

こうして、日本製鉄で最初の垂直曲げ型連鋳機において、表面疵の問題が解決したのです。
小説にはこの話(2CCの表面疵改善)は残念ながら出てきませんでした。

連続鋳造で鋳型内に注入された溶鋼中には、ミクロン単位の大きさの非金属介在物(主に金属酸化物)が懸濁しています。非金属介在物がそのまま鋳片中に混入すると、製品欠陥の原因となります。非金属介在物は溶鋼よりも比重が軽いので、鋳型内の溶鋼中で浮上しようとします。
従来の湾曲型の連鋳機の場合、浮上しようとした非金属介在物が、湾曲した凝固シェルの上面側にトラップされてしまいます。それに対して、鋳型下に2.5m程度の垂直部を有する垂直曲げ連鋳機の場合、溶鋼中の非金属介在物は垂直部内で浮上して溶鋼から除去されるため、非金属介在物の少ない清浄な鋳片を製造することができます。
これがために、現在のスラブ連鋳機はそのほとんどが垂直曲げ型に改造されているのです。

当時の新日鐵では、君津2CCが社内で最初の垂直曲げ型でした。他のスラブ連鋳機はみな湾曲型です。
当時、飲料缶の素材として、アルミ缶とスチール缶が覇を競っていました。極端な深絞りで成型されるため、鋼中の非金属介在物を極端に嫌います。スチール缶用のブリキ材を製造する連鋳機では、非金属介在物を低減するために血の出るような努力をしていました。君津はブリキを作っていませんでしたから、その苦労は経験していません。
八幡製鉄所の連続鋳造機がブリキ材を製造していました。

小説「群れる文化が巨木を枯らす」の中に、木更津2CCで鋳造した鋳片を八幡で評価し、ブリキ向けとして非常に良好な品質だった、という話を題材としたネタが出てきます。八幡製鉄所の当事者は草場さん、になっています。草場さんからの依頼で木更津♯2CCでスラブを鋳造し、草場さんが品質評価を行い、その結果が良好だったので「八幡で新設する連鋳機を、湾曲型から垂直曲げ型に変更したい」と本社に掛け合ったところ、本社は「そんな話は木更津から報告を受けていない」とつむじを曲げた、というストーリーでした。
実話では、君津製鉄所側の窓口は私でした。八幡製鋼技術からの依頼で、君津2CCでスラブを鋳造し、八幡に送りました。しかし、小説中に私は登場していませんでした。小説中に記載されていたような本社とのトラブルが実話でもあったのか否か、その点も私は全く知りません。

その後、新日鐵の主要な連続鋳造機は、続々と湾曲型から垂直曲げ型への改造を行うことになりました。

いずれにしろ、小説を再読して、30年以上前の出来事を回想したのでした。
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