弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

ダイヤモンド・プリンセス号で何が起こっていたのか

2020-02-24 17:32:11 | 歴史・社会
ダイヤモンド・プリンセス号での新型コロナウイルス感染症の異常発生について、船内では一体何が起こっているか(起こっていたのか)がさっぱりわからず、ずっとフラストレーションが溜まっていました。今でも良く分かった、というレベルからはほど遠いのですが、取り敢えず私が知り得た範囲で、まとめておこうと思います。

2月1日には、その5日前に香港で下船した乗客のひとりが、新型コロナウイルスに感染していると診断されました。これを受けて日本の厚生労働省は2月4日、検疫のためにダイヤモンド・プリンセス号の航海を24時間差し止めました。
船を運営するプリンセス・クルーズはただちにその後の日程をすべて中止したものの、船内では隔離は行われず、普通の生活が続いていました。
2月5日、10人の乗客の感染が確認され、これ以降、乗客は2週間の間、船内の自室に隔離されることになりました。

その後の検査陽性反応人数の推移は調べて分かるものの、「陽性人数/検査人数」の比率がわかりません。いろいろ調べた結果、厚生労働省報道発表資料 2020年2月に日々挙げられる日報(例えば2月16日の第10報)を集計することにより、やっと全体がつかめました。

日時 日別                   累計
 陽性反応人数/検査人数 陽性反応率 陽性反応人数/検査人数
2/5    10/31      32%       10/31
2/6    10/71      14%       20/102
2/7    41/171      24%       61/273
2/8     3/6      50%       64/279
2/9    6/57      11%       70/336
2/10   65/103      63%       135/439
2/11-12  (39/53)      (74%)     (174/492)
2/13    44/221      20%       218/713
2/14-15   67/217      31%       285/930
2/1    70/289      24%       355/1219
2/17    99/504      20%       454/1723
2/18    88/681      13%       542/2404
2/19    79/607      13%       621/3011
2/20    13/52      25%       634/3068
2/21-24   57/831      7%       691/3894
   (うち乗員)55/819

2月5日判明の検査で、31人中10人(32%)の陽性反応率が出ました。この時点で、「乗客・乗員の感染率は相当に高い比率(少なくとも10%あるいはそれ以上)との推定ができたはずです。以下の判断はなされたと思います。
(1)乗客の全員を無検査のままで市中に解放することはできない。
(2)その後、全員の検査が終了するまで、感染率を増大させない対策が絶対に必要。
そこで、乗客は自室に隔離する決定がなされました。
その後、2月15日段階で、合計930人の検査人数で285人の陽性反応が出たわけで、この方たちの少なくとも大部分は2月5日の隔離前に感染していたでしょうから、市中に解放しなかった判断は適切でした。

2月5日隔離以降の2週間について
感染しているのは乗客のみならず、接客をしている乗員にも高い感染率で感染していることが誰にでも分かります。従って、接客対応乗員をどうするのかが、この時点で重要な判断でした。
今から考えれば、接客対応乗員も隔離対象者とすべきでした。その代わり、3000人以上の隔離者の生活を維持するためのサービス要員を他から調達する必要があります。今から考えれば、パンデミック危機対応訓練を受けている自衛隊を導入し、少なくとも自衛隊の指導の下、ルールを厳格に定めて、感染拡大を防止しつつ隔離者の生活を維持する対応が必要でした。
現実には、2月5日以前と同じ乗員が、サービスを継続することになりました。
この点は、判断が甘かったというしかありません。

第1のポイントは、2月1日です。すでに下船した乗客の一人の感染が判明した時点で、船内を可能な範囲で隔離状態に置くことができれば、2月5日までの感染数を減らすことができたでしょう。それができなかった点は、旗船国英国、米国運営会社、船長の責任が問われるべきでしょう。
日本政府は、以上の点について世界にもっと発信すべきです。そうでないと、ダイヤモンド・プリンセス号に関するすべてが、日本の失態で引き起こされたという印象を形成してしまうでしょう。

第2のポイントは、2月5日です。
31人中10人(32%)の陽性反応率を重く受け止めるべきでした。そして、上記のような対応を考えるべきだったと思います。
まず、乗員を操船要員と乗客サービス要員に分類し、操船要員については、早急に全員の検査を行った上で、陰性の乗員が船内に残り、操船区域をグリーンゾーンとして確保します。
現地対策本部は、桟橋に設けます。建築工事現場の事務所として使われるプレハブなど、1日で構築することができるでしょう。
現地対策本部は、検疫所長と厚労省の2頭態勢になるのでしょうか。事件の捜査本部で、所轄の署長と本庁の監理官が2頭態勢になるようなものですね。専門家がスタッフとして張り付き、責任者は専門家の意見を最大限に取り入れるべきです。さらに、外務省、防衛省、国交省がスタッフとして張り付きます。
船の船長に対し、2月5日以降は現地対策本部の指揮下に入るよう要請すべきです。外務省が、旗船国のイギリス、運営会社国のアメリカと交渉して承諾を得るべきです。「それを行うためには法律が不足する」ということであれば、そんなときこそ、内閣総理大臣の政治判断を活用すべきです。桜を見る会で嘘の強弁をしているときではありません。

以上のような知恵は、船内の情報が適切に開示されていれば得られたはずです。厚労省が蛸壺を構築して、情報を抱え込んでいたのではないか、と危惧します。そのような危惧を嘆じるのは、その日その日に報道される情報があまりにも少なかったからです。

いや、そこまでは必要なかった。今回の対応がベストな選択だった、という考え方もあるでしょう。今のところ、下船者からの陽性反応率は、各国に帰還した人たちの情報から考えると、1~2%でしょう。
「船内で感染した600人以上を食い止めたのだから、それから漏れた数人~数十人の感染者が後から見つかっても、想定の範囲内であり、サービス要員の乗員まで隔離したのでは費用がかかりすぎる。」とする考え方です。
しかし政府は、「絶対に大丈夫だ」とアナウンスした結果として、帰宅者から一人でも陽性の人が出たら、言い訳に回らざるを得ません。

次に検査数です。
乗客・乗員あわせて3000人以上の対象者がいるのに、2月10日の段階で累計439人、2月15日の段階で930人しか検査されていません。なんでこんなに遅かったのでしょうか。確か香港に入船したクルーズ船は、あっという間に全員の検査を終えたと報道されていました。全員の検査が短期間で終わっていれば、さまざまな選択肢が生まれていたと思われます。
未だに、市中の病院において、感染が疑われる患者の検査がままならない状況といいます。本来であれば、風邪かもしれない、という症状で医院を訪れた全員に対して、新型コロナ検査をすぐに実施すべきです。
テレビを観ていると、日本の民間検査会社は、PCR検査能力を豊富に有しているそうです。なぜその能力を活かさないのか、テレビ番組ではまったく明かされていません。未だに謎です。

「2月5日以前の検査しかしていなかった乗客23人が下船した」というこうで厚労大臣が謝っています。ちょっと待ってください。例えば「2月6日に検体採取して陰性だった人は、再検査せずに下船が許されていた」のでしょうか。そうだとしたら大問題です。

船内で執務していた厚労省職員が、検査せずに職場復帰して問題となっていました。その後、検査すること、所定期間自宅待機するように方針が変更になったようですが、当たり前です。厚労省の判断の甘さにはほとほと呆れ果てます。
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習近平中国と同じ隠蔽体質は日本でも

2020-02-09 14:58:33 | 歴史・社会
新型肺炎 SNSで警鐘し摘発された武漢の医師死亡 当局の責任問う声高まる
2/7(金) 19:47配信毎日新聞
『新型コロナウイルスによる肺炎を巡り、2019年12月30日の段階で、医療関係者のグループチャットで「(当時は『原因不明』とされていた肺炎の原因が)コロナウイルスであることが確定した」などといち早く警戒を呼び掛けながら、公安当局に「デマを流した」として摘発された中国湖北省武漢市の医師、李文亮(りぶんりょう)さんが7日未明、院内感染とみられる新型肺炎のため、同市内の病院で亡くなった。33歳だった。勤務先の病院が公表した。
中国国内では「良心の医師」の告発を封じ込めた当局の責任を問う声が高まっており、公職者を取り締まる国家監察委員会が現地調査に乗り出すと発表した。』

習近平中国の悪しき全体主義体制のなせる技、として理解されています。湖北省や武漢市などの地方政府がこのような態度を取らなければ、新型コロナ肺炎の世界的流行はだいぶ抑えられたことでしょう。

ところで、これは習近平中国に特有の現象でしょうか。
福島原発事故の当初、日本でも同じようなことが行われていたことを思い出さなければなりません。2011年3月23日にこのブログで記事にしました。以下に記事を再掲します。

原子力安全保安院はどうなっているのか
2011-03-23
--記事再掲-----------------------
日々、原子力安全保安院が記者会見を開き、福島第一原発の現況について説明しています。一番多く登場するのは、こちらでも顔写真入りで「記者会見する原子力安全・保安院の西山英彦審議官(20日午後)」と紹介されている西山英彦審議官です。
記者会見の発言を聞いても、とても専門家とは思えず、また現場で起きている事象をきちんと把握していないような様子です。一体どういう人なのか、気になっていました。
しかし、幹部一覧(METI/経済産業省)で調べると、通商政策局で通商政策局長の次に「大臣官房審議官(通商政策局担当)」として西山英彦氏の名前が記載されています。原子力安全保安院ではありません。

本日23日の日経新聞にいきさつが載っていました。
『事故当初、保安院の記者会見に「説明が甘い」などと強い批判が集中したことから、13日からは説明者に通商政策職担当の西山英彦審議官を起用。西山氏は・・・、保安院の企画調整課長や資源エネルギー庁・ガス事業部長の経験があることが買われ、兼務となった。』
ここに記載された程度の経歴では、とても「良く分かっている人」とは言えませんね。今、日本国民にしろ世界各国にしろ、この西山審議官を通してしか福島第一原発の状況を把握することができません。不幸なことです。

西山審議官が登場するいきさつは何だったのでしょうか。『事故当初、保安院の記者会見に「説明が甘い」などと強い批判が集中した』とあります。

こちらの記事によると、地震発生翌日の12日、経済産業省原子力安全・保安院の中村幸一郎・審議官が、「(1号機の)炉心の中の燃料が溶けているとみてよい」と記者会見で明らかにしたところが、菅首相が中村幸一郎審議官の“更迭”を命じたというのです。
「菅首相と枝野官房長官は、中村審議官が国民に不安を与えたと問題視し、もう会見させるなといってきた」(経産省幹部)

たしかに、福島第1原発「炉心溶融が進んでいる可能性」 保安院
『2011/3/12 15:30
 経済産業省の原子力安全・保安院は12日午後2時、東京電力の福島第一原発1号機で原子炉の心臓部が損なわれる「炉心溶融が進んでいる可能性がある」と発表した。発電所の周辺地域から、燃料の核分裂に伴うセシウムやヨウ素が検出されたという。燃料が溶けて漏れ出たと考えられる。炉心溶融が事実だとすれば、最悪の原子力事故が起きたことになる。炉心溶融の現象が日本で確認されたのは初めて。』
という記事がありました。写真には『記者会見する経済産業省原子力安全・保安院の中村幸一郎審議官(12日午後)』となっています。

しかし12日のこの発言、今になってみれば全然違和感がなく、だれもが「うん、その通り」と認める内容です。
どうもこのときから、官邸の圧力により、原子力安全保安院は真実をフランクに語ることをやめてしまったようです。

この点については、NB-OnLineの記事原子力保安院密着ルポ 「伝言ゲームの参加者が多すぎる」からも読み取れます。
『3月12日、17時から始まった会見で、官邸との協議を終えた中村幸一郎審議官の口ぶりは重かった。
「詳しいことについて、東京電力に確認できていないので何も申し上げられない」「(炉心溶融が起きているか)予断をもったことを申し上げるのは適当ではない」
結局、再度会見を設けることで記者側と合意。ある記者は「これまでは今後の可能性も含めて詳しく説明してくれていたのに、まるで別人のようだ。何か官邸に言われたのか」といぶかしんでいた。』
3月15日、15時の記者会見では「炉心溶融が進んでいる可能性」と率直に述べたのに対し、17時までの間に官邸から強い圧力がかかったのでしょうね。
そして中村審議官は更迭され、西山審議官が後を継ぎ、現在に至っているというわけです。
--再掲終わり-----------------------

福島原発事故から半年ほどは、「確実に事実として判明していること以外は、憶測で話してはいけない」という縛りがかかったようです。しかし、原子炉の中は見えないのですから、周辺の状況から類推せざるを得ません。そのような類推が一切禁じられた半年だったのです。
今回の新型コロナ肺炎の蔓延初期においては、当然真の原因は解明されていません。このような場合には、類推でも状況を想定し、最悪に備えることが何よりも大事です。それが、中央政府を忖度する地方政府によって封じられてしまいました。
しかし、同じようなことが福島原発事故直後の日本でも起こっていたのですから、人ごととして責めることはできません。
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