弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

日本版セキュリティ・クリアランスの実態

2023-02-19 14:31:28 | 歴史・社会
安保上の機密扱う資格、対象者絞り込み 法整備へ検討
岸田文雄首相が指示、有識者会議立ち上げ
2023年2月15日 日経新聞
『政府は安全保障に関わる機密情報を扱える人を認定する「セキュリティー・クリアランス(適格性評価)」の具体的な制度設計に入る。岸田文雄首相が14日、法整備に向けた検討を指示した。2024年の通常国会への法案提出を視野に入れ、資格を与える対象者の範囲の絞り込みなど調整を急ぐ。
首相は関係閣僚らが参加した14日の経済安保推進会議で1年間をメドに検討作業を進めるよう命じた。高市早苗経済安保相のもとに有識者会議を設け、月内にも初会合を開く。メンバーは経済界や学者、法曹関係者などから選ぶ。
セキュリティー・クリアランスは安保上の重要な情報にアクセスできる一定の要件を満たす人に資格を与える制度を指す。首相は「情報保全強化は同盟国・同志国との円滑な協力で重要だ」と強調した。
日本の情報保全の制度としては14年に施行した「特定秘密保護法」に基づく「適性評価」がある。主に公務員が対象で、特定秘密に指定する情報の分野も防衛、外交、スパイ活動防止、テロ防止に限られる。
高市氏は14日の記者会見で「これからつくり上げていこうとしているのはいわゆる『産業版』」と指摘した。「日本企業が海外の政府調達や海外の企業との取引、共同研究から排除されない環境をつくるためのものだ」と説明する。』
『資格には経済状況や犯罪歴などを確かめる「バックグラウンドチェック」と呼ばれる個人調査が伴う。そのため米国では取得まで1〜2年かかることもあるという。
・・・
一方で審査が緩やかだと国際的に信用を得られなくなる。高市氏は米欧に準じた水準を目指す考えを示す。「主要7カ国(G7)などとの間で通用するものにしなければならない」と話す。』
新聞記事には、「セキュリティー・クリアランスのイメージ」として図が掲載されています。
《政府》→《安保に関わる機密情報》
  機密指定 米国は・Top Secret ・Secret, ・Confudential の主に3段階
《政府》→《・政府職員、・民間の研究者ら》
  バックグラウンドチェック 経済状況や犯罪歴など調査 → 資格付与
《・政府職員、・民間の研究者ら》→《安保に関わる機密情報》
  資格者がアクセス可能
上の図の構造を見ると、私がセキュリティ・クリアランス 2023-02-14で紹介した、飯柴智亮さんの説明による米国版セキュリティ・クリアランス(以下「米国SC」と呼びます。)と一致しています。

さて、これから制定しようとする日本のセキュリティ・クリアランス(以下「日本版SC」といいます。)は、米国SCと同じなのか異なるのか。
上の記事での高市氏の説明では、「これからつくり上げていこうとしているのはいわゆる『産業版』」ということで、この点で米国SCとは相違しています。一方で同じ高市氏は「主要7カ国(G7)などとの間で通用するものにしなければならない」とも述べており、日本版SCを取得した資格者は、米国政府が指定する機密情報にアクセス権を有することを目標としています。

日本版SCの検討に際しては、
 ・どのような情報を機密指定するのか
 ・機密指定した情報へのアクセス権を認めるため、どのような資格認定を行うのか
の2点が必要です。

《機密指定情報》
 ①日本政府が指定する、日本版SCに基づく機密情報→産業界の保有する情報と言うことでしょうか
 ②米国SCに基づく機密情報
 ③特定秘密保護法に基づく特定秘密

上記《機密指定情報》のうち、①のみならず、②のアクセス権をも付与するためには、米国SCと同等の資格審査が要求されるはずです。
そこのところを、どうも高市氏はごまかして、国民受けしやすいように説明を歪曲しているように思われます。

上の新聞記事は政府の方針です。与党の方針も、下記の新聞記事で示されました。
機密扱う資格、導入で一致 自公
経済安保巡り、対象・要件調整へ
2022年10月27日 日経新聞
『自民、公明両党は26日、国の機密情報に触れられる人を民間人も含めて制限する資格制度「セキュリティー・クリアランス(適格性評価)」の導入が必要との認識で一致した。法整備に向けて対象となる情報や要件を調整する。
国家安全保障戦略の改定に向けた実務者協議で確認した。適格性評価は安保上重要な情報を扱う人について、外部に漏洩する恐れがないかなどをあらかじめ調べる制度。』
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セキュリティ・クリアランス

2023-02-14 22:50:41 | 歴史・社会
先端技術扱う民間人の身辺調査、政府が検討 借金の有無や家族情報
2023年2月14日 朝日新聞
『政府は、先端技術を扱う民間人の身辺調査をする「セキュリティークリアランス」(適性評価)の導入の検討を始める。14日に開いた経済安全保障推進会議で、岸田文雄首相が高市早苗・経済安全保障担当相に検討のための有識者会議設置を指示した。
首相は「情報保全強化は同盟国や同志国などとの円滑な協力のために重要なほか、制度を整備することは産業界の国際的なビジネスの機会の確保や拡充にもつながることが期待できる」と述べた。有識者会議では1年ほどかけて調査の対象や内容などを議論する。
適性評価は2014年施行の特定秘密保護法に基づく制度で、防衛、外交などの特定秘密を扱う人を対象とする。借金の有無や家族情報について政府の調査をクリアした人だけが情報を扱えるようになる。
適性評価は多くの欧米主要国で実施されているが、日本ではプライバシー保護の点から慎重論もあり、昨年成立した経済安保推進法では先端技術を扱う民間人について導入が見送られた。中国への技術流出を防ぐ必要性が指摘される中、国際ビジネス取引を円滑にするため産業界から導入を求める声が上がっていた。』

首相、機密扱う資格の創設検討を指示 「同盟国との協力に重要」
2023年2月14日 日経
『岸田文雄首相は14日、安全保障に関わる機密情報を扱える人を認定する「セキュリティー・クリアランス(適格性評価)」の創設に向けた検討を指示した。高市早苗経済安全保障相のもとに有識者会議を設け、制度設計の議論に入る。2024年の通常国会への法案提出を視野に入れる。』
『セキュリティー・クリアランスは機密情報を扱える資格者を認定する制度を指す。安全保障上の重要な情報を扱う前提とすることで先端技術や機密の漏洩を防ぐ狙いがある。米国や英国といった主要国が導入している。』
『情報の保護を巡っては14年に施行した特定機密保護法に基づく「適性評価」もある。これは公務員が主な対象で、民間人材にも広く適用できる資格制度をつくるべきだとの指摘があった。』

セキュリティー・クリアランスについて、朝日新聞の上記記事はねじ曲げた解釈になっていますね。
「セキュリティー・クリアランス」と特定秘密保護法の「適性評価」をごっちゃにしています。その上、「民間人の身辺調査をする」との解釈です。『朝日新聞は、プライバシー保護の点から「民間人の身辺調査をする」ような「セキュリティー・クリアランス」導入に反対である』との意思表示のようです。

「セキュリティー・クリアランス」について、私は最近以下の書籍で飯柴智亮さんの意見を読んだところです。
米中激戦! いまの「自衛隊」で日本を守れるか

この本は、飯柴智亮さんと藤井厳喜さんの対談本です。この本で飯柴さんはあまり主張をしていません。唯一、日本でのセキュリティー・クリアランスの必要性について強く主張しています。
『セキュリティ・クリアランス(国家の機密情報にアクセスするための資格)のシステムを構築しなければ絶対に駄目。何も始まりません。』
『国際的に日本が軍事の核心に関われない決定的な理由はここにあるんです。』
情報のレベルが、アメリカの場合、「アンクラスィファイド(非機密)」「シークレット」「トップシークレット」に分類され、それぞれにアクセスできるクリアランスが設けられています。
申請した人間の「バックグラウンド・チェック」をするなど、かなり手間が掛かるので費用が掛かります。
『このシステムをつくらないと、国際的に、特にアメリカには相手にされません。機密情報にアクセスできませんからね。このシステムのつくり方をこそ、アメリカに倣わなければなりません。』
『アメリカではクリアランスのシステムは民間にも統一されています。民間防衛産業のエンジニアもクリアランスを取らなければ働けません。』

上記新聞記事では、セキュリティー・クリアランスが必要なのは民間人であって、公務員は特定秘密保護法の「適性評価」を受けているから必要ない、と述べているようです。
しかし、飯柴さんによると、セキュリティー・クリアランス制度がない日本では、公務員といえども米国の機密情報にアクセスすることはできません。
アメリカ流のセキュリティー・クリアランスと、日本の特定秘密保護法の「適性評価」とは、全く別物である、と理解する必要があります。

《セキュリティー・クリアランスの審査で重視されること》
一番重視されるのは借金をきちんと返済しているかどうかと言うこと。
次にチェックされるのが渡航歴。
配偶者の国籍・出身地
自分のことを知っている人間を最低二人書く。抜き打ちでインタビューを受ける。

朝日新聞は、「先端技術扱う民間人の身辺調査、政府が検討 借金の有無や家族情報」としていますが、スタンスが違っています。政府が勝手に身辺調査を行うのではなく、クリアランスが欲しい人が申請し、申請があった人のみについて調査を行うのです。申請しなければクリアランスがなく、機密情報にアクセスできないだけの話です。

日本では、「国会議員に機密情報を伝えると外に漏れてしまう」ということで有名です。日本の国会議員こそ、秘密情報を入手したいのであれば、セキュリティー・クリアランスを取得することが必要でしょう。政府の役人も同様です。

飯柴氏は『こういうことを知っている日本人はほとんどいません。セキリティ・クリアランスを持っている人間で、こうしてしゃべっている日本人は今、おそらく自分1人だけですから。』と述べています。それが本当だとしたら、政府が設置する有識者会議に、飯柴氏を呼ばなければなりません。
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中国の気球をアメリカ領空で撃墜

2023-02-07 17:53:32 | 歴史・社会
米軍、中国気球を撃墜 大西洋上、戦闘機からミサイル―残骸分析へ、緊張再燃も
2023年02月05日 時事
『【ワシントン時事】米軍は4日午後(日本時間5日未明)、南部サウスカロライナ州沖合の大西洋上の領空内で戦闘機からミサイルを発射し、中国の偵察気球を撃墜した。米軍は残骸の回収作業に着手し、気球が収集していた情報などの分析を行う。米兵や市民、民間航空機などへの被害はなかったという。』
『米本土上空を飛行していた気球を巡っては、中国政府が「気象研究用」と主張する一方、米側は「偵察用」だと断定。ブリンケン国務長官は「無責任な行動だ」と批判し、5日から予定していた訪中を延期した。
 気球は高度1万8000~2万メートルの上空を飛行しており、F22は高度約1万7600メートルからミサイルを発射した。落下した残骸は水深約14メートルの位置に沈み、米海軍がサルベージ船に連邦捜査局(FBI)職員を乗せ、回収を進めている。具体的な日数は不明だが、作業は短期間で済むという。』

この気球は、高度を18~20kmに維持しながら、恐らく風を主動力として中国→アラスカ→カナダ→米国、と移動してきたのでしょう。
中国はこの気球について、「中国のものであることは間違いない」「気象研究用だ」とアナウンスしているようです。
観測気球としてはラジオゾンデが思い浮かびます。ウィキによると、『600gのゴム気球を用いた場合、約90分で上空30km程度に達すると気球の膨張が限界に達して破裂し、ラジオゾンデはパラシュートで地上に降下し、観測終了。』
とあります。自力で高度を調整できないので、気球の浮力によってどんどん上昇し、最後は高度30キロで破裂する、というわけです。
それに対して今回の気球は、高度20kmをずっと維持しています。浮力と重量の調整を常に行ってはじめて、一定高度の維持が可能となるはずです。「中国のもの」と自称するこの気球が他国の領空を侵犯してしまったのですから、気球の所有者としては、高度調整機能を働かせて気球を着地させれば良いはずです。なぜそれをしなかったのか。
「機構が故障し、高度一定維持の制御は可能だが、高度を下げる制御ができなかった」とでもいうのでしょうか。

今回、気球を撃墜したのは戦闘機F-22の空対空ミサイルだった、ということで、F-22の実用上昇限度を調べて見ました。
19812m(F-22A Raptor
>20,000m (65,000ft)(F-22 (戦闘機)
以上の通り、高度20kmに浮遊する気球の高度に到達可能なのですね。上記ニュースによると、気球より1~2km低い位置からミサイルを発射したことになります。対象がジェット機ではないので赤外線追尾もできない中、どのようにしてミサイルを的中させたのでしょうか。

ところで、同じような気球は、過去に日本の上空でも出現していました。
2020年6月17日に確認された白い飛行物体
このウィキペディアの記事によると、気球の正確な高度は(少なくとも一般には)把握されていなかったようです。三角測量を行えば簡単に高さは把握できるのにもかかわらず、政府はその測量を行わなかったのか、それとも把握したけれども国民に秘密にしているのか、どちらかでしょう。国防上の理由で秘密にすべきとはとうてい思えませんが。
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