弁理士の日々

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先使用権制度ガイドライン

2006-06-23 09:05:38 | 知的財産権
特許庁は6月16日、264ページからなる先使用権制度ガイドラインを発表しました。

もともと、昨年度の産業構造審議会特許制度小委員会において、先使用権制度の在り方について審議がなされました。
この審議会では、先発明権(いわゆるソロー封筒)の創設も提案されましたが、反対が多く取り上げられませんでした。また先使用権制度の明確化等のために法改正を行うことも議論されましたが、特許権者と先使用権者とのバランスを変える可能性があることから、法改正ではなく、ガイドライン(事例集)を作成することになりました。
今回のガイドラインは、上記答申に基づき、判例、通説や企業の実態等を参考に、委員会での議論の結果を踏まえて特許庁が作成したものです。

内容は膨大です。
33ページまでで、過去の判例に基づいて先使用権制度の内容を説明しています。
次の83ページまでは先使用権を立証するためのガイドラインです。
113ページまでは付録として事実実験公正証書の例が挙げられています。
そしてその後の261ページまでが、判例と関連条文のページです。

特許庁は、先使用権を広く使ってもらうことにより、特許出願の件数を減らすことを狙ったものと思われます。そして、ガイドラインさえできれば広く多くの人が先使用権の利用を開始し、特許出願が減るものと期待したのでしょう。

しかし、そもそも先使用権は非常に使いづらい制度であり、将来発生するかしないか全くわからない紛争に備えて証拠を収集しておく必要がありますから、とても手軽に利用できるものではありません。この点はガイドラインを作成する委員会の委員もよく心得ていますから、このような大部の文書になってしまったわけです。

ところで、去年行われた議論の中で、公証人による事実実験公正証書の話が良く出てきました。この制度を使うと、先使用権の立証が容易になるような雰囲気で議論されていました。

しかし、事実実験公正証書とは、公証人の五感で知得した結果を記載するものですから、公証人が五感で知得し得ないことはそもそも記載できません。「実験」とは「実際の体験」という程度の意味だと思います。

先使用権の立証のためには、将来他人が特許出願するかもしれない発明の、すべての構成要件が明確に記載された証拠を集めておく必要があります。他人の特許発明を予測して、その予測した発明のすべての構成要件の資料を集めるのですから、これはそのつもりで資料収集を行わない限り漏れが出ます。「公証人が見たままを記載してもらう」のでは何の役にも立ちません。
結局、十分な資料を集めた上で、その資料の存在日を立証するために確定日付を得ておく、というのが正しい公証人の使い方だと思います。

ガイドラインの中で、確定日付と事実実験公正証書とをどのように使い分けるのか、それぞれがどのような得失を持っているのか、についての解説を探したのですが、見つかりませんでした。

ガイドラインの中に書かれた「企業の実例」においても、公証人が登場するのは確定日付だけであり、事実実験公正証書を使っている企業は皆無でした。
コメント (5)
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