弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

日本国憲法前文(1)

2006-02-27 00:11:02 | 歴史・社会
加藤典洋著「敗戦後論」を読んでいます。まずは日本国憲法について論じ、とてもおもしろそうなのですが一方で難しいので、もう少し頭の整理をしてからここで論じたいと思います。
本日は日本国憲法の前文について、私が考えていることを整理してみます。
憲法前文は、美しい言葉がちりばめられ、すばらしい文章のようでありながら、一体何が言いたいのかよくわからない文章でもあります。

日本国憲法には英語文があり、それも2種類あります。第1は占領軍が日本政府に提示した草案であり、この草案をもとに日本国憲法が作成されました。第2は、作成された日本語憲法の英語版です。
娘が法学部に通っているものですから、日本国憲法の英語版について書いてある本を借りてきてもらいました。それで確認したところでは、少なくとも前文については、第1と第2の英語文が同一だったと記憶しています。つまり、あの前文は、占領軍に提示された草案をそっくりそのまま翻訳したものらしいのです。
その結果として、意味不明なあの前文は、英文を見た方が理解しやすいという特質を持つこととなりました。前文は4段落から構成されますが、ここでは、3回に分けて、日本国憲法の前文を英語文と対比して眺めてみることとします。

第1回は第3段落です。
「 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。」
一見すると支離滅裂です。ところが、英語原文を見ると一目瞭然で意味がわかります。
"We believe that no nation is responsible to itself alone, but that laws of political morality are universal; and that obedience to such laws is incumbent upon all nations who would sustain their own sovereignty and justify their sovereign relationship with other nations."

英文は複文で構成されています。「日本語は複文が苦手である」という事情を無視し、英文をそのまま日本語に直訳した結果、わかりづらい日本語になってしまったと思われます。日本語を
「われらは信ずる that いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない, but that 政治道徳の法則は、普遍的なものである; and that この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務である。」
と並べ替えれば、理解可能になります。

以上のように第3段落について日本語と英語を並べてみただけでも、日本国憲法が英文の直訳であることが理解できます。
なお、この点については、野口悠紀雄著「超」文章法(中公新書)190-191ページの論述をそのまま借りてきたものでもあります。

次回に続く。
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