孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ルワンダ大統領選挙  カガメ大統領は英雄か独裁者か?

2010-08-09 21:16:31 | 国際情勢

(7月24日 カガメ大統領を支持する選挙集会の様子 “flickr”より By Paul Kagame 2010 http://www.flickr.com/photos/paulkagame2010/4827481943/)

【「国民の意思を問うふりをしているだけ」】
アフリカ中部・ルワンダと言えば、94年のフツ系住民によるツチ系住民に対する大虐殺(ジェノサイド)がすぐに連想されます。フツ系ハビャリマナ大統領らの航空機が撃墜されたのを機に、政府軍やフツ系過激派民兵らによるツチ系住民やフツ系穏健派の襲撃が始まり、80万~100万人が虐殺されたと言われています。
この悲劇は、カガメ現大統領率いるツチ系反政府勢力「ルワンダ愛国戦線(RPF)」が全土を掌握することで収束しました。

それまで隣人として暮らしていた住民が山刀(マチューテ)や釘を打ち付けた棍棒を手に襲いかかる恐怖、その背景にある感情・歴史、“無力な”と言うより虐殺を“見捨てた”国際社会の対応、きっかけとなったハビャリマナ大統領搭乗機撃墜はどちら側によるものなのか・・・等々、これまでも何度か取り上げた問題があります。
また、住民間の対立を乗り越えた、その後のルワンダの経済復興も驚異的とも言えます。

そのルワンダで、9日、大統領選挙の投票が行われました。11日までに暫定結果が発表される見込みですが、経済成長を実現した現職のカガメ大統領の再選が確実視されています。
結果よりも、今ルワンダでカガメ大統領を取り巻く政治情勢がどうなっているのかに関心があります。

****9日に大統領選、現職優勢=反体制派弾圧の動きも―ルワンダ*****
アフリカ中部ルワンダで9日、大統領(任期7年)選挙が行われる。現職のカガメ氏のほか3人が立候補しているが、事前の予想ではカガメ氏が優勢。同国では選挙を控えて野党幹部が何者かに暗殺されるなど、反体制派への攻撃が相次いでおり、不穏な空気が漂う中での投票となる。
1994年の大虐殺後で初めて行われた2003年の前回選挙では、カガメ氏が9割以上を得票し当選。再選を目指す同氏は、アフリカでも群を抜く2けた台の経済成長(08年)をもたらした実績を掲げ、支持を訴えている。ただ、今回の選挙では主な野党候補が出馬登録を許可されず、「政権は(選挙を通じて)国民の意思を問うふりをしているだけ」(登録を拒否された野党指導者)と批判も強い。
選挙を前に、野党活動家やジャーナリストらの拘束や殺人などが立て続けに発生。7月中旬、野党・民主緑の党の副総裁が行方不明となった後に遺体で見つかったほか、6月にはカガメ政権に批判的な地元紙の記者が銃撃を受け死亡した。政府は関与を否定するが、人権団体は「政治目的の攻撃」と糾弾、国連も一連の事件に関する全面調査の実施を要求している。【8月7日 時事】
******************************

【高潔な英雄か?批判を許さぬ独裁者か?】
ルワンダの虐殺に関して以前読んだ「ジェノサイドの丘」(フィリップ・ゴーレイヴィッチ著)に描かれているカガメ大統領は、規律正しく清廉で公正な“理想的な”政治家です。
あまりにも“できすぎ”の感はありましたが、それでも高潔なイメージが強く残っています。

大統領になってからも、報道に取り上げられるカガメ大統領の姿は、そうしたイメージに沿った非常に好意的なものがありました。
****ルワンダのきらめき:虐殺を超えて/上 「心を一つに」 大統領も清掃活動*****
朝もやに煙る緑の丘が美しい。空気がきらめいているようだ。このすがすがしさは、車の排ガスや騒音がないせいでもある。
毎月末土曜日の午前、アフリカ中部ルワンダ全土で車が路上から姿を消す。「ウムガンダ」と呼ばれる政府主導の清掃などの奉仕活動が実施されるためだ。「大統領も掃除をする。今、ルワンダは心を一つにしなければならない」。首都キガリの石畳の道で、溝を丹念に掃除するボナバンチュール・ムバウェヨさん(30)は言う。
94年の大虐殺直後、街は遺体であふれた。野良犬がうろつき、異常な数の鳥が空を覆った。「虐殺の記憶を清算すると同時に、決して忘れないとのメッセージが奉仕活動に込められている」

キガリではビルの建設ラッシュが続く。03年に当選したカガメ大統領の指導下、年5%以上の経済成長を達成してきた。コーヒーや紅茶の輸出が主要産業だが、情報産業立国を目指す。実用的な電子政府を導入。小国を逆手にとり、周辺国の中継地としての可能性を見いだしつつある。04年以降、海外からの投資促進にも力を注ぐ。
「即」「15分」「30分」。政府の許認可書類には、役人が順守すべき「対応スピード」が記されている。営業免許や会社登録などは無料。官僚主義がはびこるアフリカでは異例だ。外務協力省幹部は「知恵を絞り、再建を模索してきた。それを農業生産で培われた勤勉な国民性が支えている」と胸を張る。
「大統領自ら車を運転する姿も珍しいことではない」とキガリのタクシー運転手は話す。清廉さもルワンダをきらめかせる。閣僚、次官級を除き公用車を原則廃止。援助国の車の供与も停止した。エレベーターのない省庁もあるが「(その整備より)他に優先すべき課題は山のようだ」と職員は階段を駆け上がった。07年には世銀が「世界ガバナンス指標」の汚職対策分野で中・東部アフリカでトップの評価をした。
今年2月、ブッシュ米大統領はアフリカ訪問国5カ国の一つにルワンダを選び、投資を進める2国間協定を締結した。ベルギーの信託統治領だった経緯から仏語圏諸国の影響が強かったが、キガリでは、米資本の飲食店なども目立ち始めた。
奉仕の日、郊外では植林も実施されていた。カラリサさん(40)は軽やかに語る。「この国には『規律』という美徳がある。大虐殺ではそれが間違った方向に働いた」
ジェノサイドから来年で15年を迎えるルワンダの今を報告する。【キガリで高尾具成】【08年12月26日】
***************************

しかし、このところカガメ大統領の強権的姿勢を批判する記事も目にするようになりました。
****欧米では高評価 カガメ大統領の実像*****
アフリカ中部に位置するルワンダが旧イギリス植民地などで構成される英連邦への加盟を認められたのは昨年12月。94年の大虐殺から同国を立ち直らせたカガメ大統領にとって、今年3月のロンドン訪問は勝利の瞬間だった。
だが国内の状況はそんな華々しさとは懸け離れている。カガメは強権的な姿勢を強めているとの批判も浴びており、極めて厳しい状況工直面している 今年8月に大統領選が行われるルワンダでは政治的な対立が激化。首都キガリでは手榴弾を使ったテロが発生し、野党勢力が攻勢を強めている。与党・ルワンダ愛国戦線は幹部の離脱に悩まされ始めた。
カガメ政権は混乱を力で抑え込もうとしている。人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは、野党の政治家らが弾圧の標的になっていると警告する。
しかし欧米ではルワンダは評判がいい。経済発展や環境保護政策、汚職摘発の試みなどが評価されている。カガメは国際的支援をてこに権力基盤の強化に努めている。
カガメは先日の記者会見で、キガリで起きるテロの背景には政府に批判的なジャーナリストがいると指摘。だが一方で、テロは弾圧を正当化するための自作自演だとの見方もある。【4月7日号 Newsweek日本版】
****************************

****ルワンダ 大統領再選狙うカガメは国の英雄か、独裁者か****
ルワンダの首都キガリで7月20目、8月9目に行われるルワンダ大統領選挙に向けた選挙戦が始まった。カガメ大統領の支持者たちは歌や踊り、ブブゼラでお祭り騒ぎを繰り広げた。94年の大虐殺から16年。大統領を10年問務めてきたカガメとその支持者には、祝うべきものが多い。
今のルワンダに、民族間の殺し合いが続いた当時の名残はほとんどない。キガリはアフリカの中でも最も清潔で安全な都心の1つになった。地方の貧困問題は広範囲で残っているが、全国的な医療保険制度や初等教育も整備されてきた。支持者にとって、カガメは強力な指導力で国を発展させてくれた英雄だ。
一方で批判者にとっては、彼は独裁者以外の何物でもない。ここ数カ月、政府に批判的な新聞各紙が発行停止処分を受け、野党勢力の指導者などカガメに批判的な人物が殺される事件が相次いだ。大統領選を前に、野党の支持者が逮捕され、有力候補3人の立候補届け出が妨害された。これでカガメが再選してさらに7年の任期を務めることがほぼ確実になった。
英雄と独裁者。2つの「顔」を併せ持つカガメが権力を握り続ければ、ルワンダの悲劇が繰り返されかねない。
【8月11日号 Newsweek日本版】
*******************************

「独裁者」として批判を浴びる人物も、権力につくまでは国民の大きな支持を得ていた事例は多数あります。
カガメ大統領も、そうした「権力の魔力」にからめとられたのでしょうか?
それとも、もともと強権的な側面を持ち合わせていただけなのでしょうか?
あるいは、政治の世界では批判は常であり、カガメ大統領に対する批判もそうした政治家につきまとう反対勢力からの大げさな批判にすぎないのでしょうか?

かつてのフツ対ツチという対立は和解解消されたのでしょうか?
それともタブーとして封印されているだけなのでしょうか?
経済成長に伴う格差が、かつての対立を呼びさますことなないのでしょうか?

恐らく、投票結果はカガメ大統領の圧勝でしょうが、その政治の中身が気になる政治家のひとりです。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« キューバ  カストロ前議長... | トップ | アメリカ・中国のパワーゲー... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

国際情勢」カテゴリの最新記事