孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ  対アメリカ関係悪化 国民の不満を国外に向け、支持者の結束強化を図る思惑も

2015-03-17 23:00:06 | ラテンアメリカ

(2月24日 反政府デモの混乱に巻き込まれて14歳の少年が警官に撃たれて死亡しました。少年は現場近くの学校から下校途中にたまたま通りかかって衝突に巻き込まれたと見られています。
写真は、少年の流血を象徴して赤く塗ったノートを掲げて抗議する人々  “flickr”より By Canal Seis Noticias de Honduras  https://www.flickr.com/photos/canal6hn/16726798652/in/photolist-ru6dud-r97fub-rxyHT4-qxeVKA-riSbze-ru2vQT-rhwkyd-rrdAjT-qGiS8J-ricbS7-rk1uw4-roEeMN-qwSc2b-rEg8Jv-rkWDnx-qHqyVX-rCKs9y-rDEAnp-qEbjBH-rjpgPw-rARQic-rkGKmd-qH4HTD-ryF6HQ-rCbnKE-rBPmWg-rjomdm-rCgShH-rC2ZgB-rnreDB-rkwUFA-rjrfM4-riY4Ys-riELDP-ru1Xq2-qET9oW-rD3rZp-rAiuYq-qDBWea-rANVre-rBTAA3-qCzGdf-rjFnBv-rdf3bv-rf7rzF-qzLZLr-rwsRRU-qzyR9G-qzM2dV-qzySWE

アメリカ・キューバの関係正常化にも影落とすアメリカ・ベネズエラ関係悪化
アメリカとキューバの国交正常化交渉は、互いの綱引きもありますので“一気に”とはいきませんが、それなりに進展してきました。

****米国との国際電話再開=国交正常化に弾み―キューバ****
キューバ電気通信公社(ETECSA)は11日、第三国を経由せず、米国と直接通話できる国際電話サービスを再開したと発表した。両国間の通信環境整備が進み、1月以降続く米国との国交正常化交渉に弾みがつくとみられる。(後略)【3月12日 時事】
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16日には第3回国交正常化交渉が急きょハバナで行われることになったということで、“キューバのメディア関係者は、大使館開設に向けキューバが求めていた(1)テロ支援国家の指定解除(2)在ワシントンのキューバ利益代表部の銀行口座への制裁解除のいずれかで進展があったと見ている。”【3月17日 朝日】とも報じられていました。

交渉結果についてはよくわかりませんが、キューバ関係とは反対に、ますます険悪な状況になっているアメリカ・ベネズエラ関係が障害となったとの情報もあります。

****オバーマ政権のキューバ・ベネズエラ分断工作が失敗*****
玖米両国は3月16日ハバナで第3回国交正常化交渉を実施した。大使館開設が中心議題だったが、前2回と異なり、終了後の記者発表はなかった。ベネスエラ問題をめぐり対立したのが理由と見られている。
オバーマ政権によるクーバとベネスエラを分断させる工作は失敗した、と言える。(後略)【3月17日 伊高浩昭氏 「現代ラテンアメリカ情勢 」http://vagpress-salvador.blogspot.jp/2015/03/blog-post_17.html
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ただ、“同時に、ベネスエラ問題は米玖交渉を左右するほどには影響しないとの判断も聞かれる。月末にも次回交渉がワシントンで開かれる見込み”【同上】とも。

これまで格安原油提供でキューバ経済を支えてきた盟友ベネズエラを支持することをあきらかにしているキューバですから、今この時期にアメリカとの関係を大きく前進させるのは都合が悪いのかも。

****ベネズエラへの支援表明=米国による制裁に反発―キューバ****
キューバ政府は9日、米国が野党議員への弾圧を理由にベネズエラ政府高官に制裁を科したことに対し、「ベネズエラへの内政干渉だ」との声明を出し、ベネズエラへの無条件の支援を表明した。共産党機関紙グランマが10日報じた。

キューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長もベネズエラのマドゥロ大統領に宛てた手紙を公表。マドゥロ氏が制裁に激しく反発する演説を行ったことに「祝福したい」とコメントし、連帯の意を示した。【3月11日 時事】
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強権的な対応で野党・国民の・不満を封じ込めようとするマドゥロ政権
そのベネズエラですが、“チャベスなきチャベス体制”のもとでの市場経済を無視した経済運営に加えて、昨年後半以来の急激な原油安で、“デフォルト”候補一番手をギリシャと争うような状態に追い詰められていることは12月5日ブログ「ベネズエラ 原油価格下落で経済悪化が加速 迫るデフォルト・社会不安の危機」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141205でも取り上げたところです。

“正念場は、90億ドル相当の債務が返済期限を迎え、ベネズエラが中間選挙に向けて準備に乗り出す年末にやって来るだろう。”【1月23日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】とも言われています。

そうした経済の悪化で高まる国民の不満に対し、マドゥロ大統領は強引な手法で政権批判封じ込めを図っています。

****首都カラカス市長を逮捕=「国家転覆図る」―ベネズエラ****
ベネズエラのマドゥロ大統領は19日、野党に所属する首都カラカスのレデスマ市長を逮捕したと発表した。政府高官は逮捕理由として「市長は米国の支援を受け、国家転覆を図った」と説明している。

地元メディアによると、マドゥロ氏は2014年2月以降計43人の死者を出した一連の反政府デモをレデスマ氏が先導していたと指摘。「ファシストから国を守るために団結する」と述べ、緊急会議を開催すると表明した。

マドゥロ氏は、レデスマ氏が空軍の一部と共謀し、クーデターを計画した疑いがあるとも述べた。

AFP通信によると、米政府は、レデスマ氏を支援したとするマドゥロ氏の主張を「根拠のないデマだ」と否定。経済の低迷による国民の不満をそらそうとしていると非難した。【2月20日 時事】 
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今年争われる中間選挙で与党のベネズエラ統一社会党(PSUV)が敗北すれば、リコール投票への扉が開く可能性もあるということで、政治的にも追い詰められてきています。

****支持率低下に苦しむ大統領、中間選挙を前に野党有力者を相次ぎ逮捕****
・・・・世論調査によれば、貧しい生活を送っている、政府の権力基盤の大部分は、まだ忠誠を尽くす可能性が高い。

しかし、故ウゴ・チャベス氏の後を継いだが、同氏の政治手腕と大衆へのアピールを欠くニコラス・マドゥロ大統領は、ベネズエラ経済が縮小し、物資不足が深刻化する中で国民の不満に直面している。

カラカスの政治アナリストで世論調査も手掛けるルイス・ビセンテ・レオン氏は、レデスマ氏――強硬な野党政治家で、ここ数年、中央政府によって市長としての権力を奪われてきた――の逮捕は、より抑圧的な局面の到来を告げる可能性があると見ている。

「政府は政治の急進化に向けて新たな境界を突破し、抑圧的な権力の強力なメッセージを送ろうとしている」。レオン氏はこう語り、マドゥロ氏がほぼ2年前に大統領に就任してから、政府に対する支持は半減したと付け加えた。

世論調査会社インテルラセスのオスカル・シェメル氏は、今ではベネズエラ人の7割がマドゥロ氏の国家運営を評価していないと述べている。(後略)【2月24日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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そうしたマドゥロ政権の抑圧的対応への抗議行動も続いています。

****14歳少年が警官に撃たれ死亡、抗議デモ再燃 ベネズエラ****
反政府デモが続く南米ベネズエラで、デモ隊と警官隊の衝突に巻き込まれた14歳の少年が警官に撃たれて死亡した。警官は殺人容疑で逮捕されたが、首都カラカスなど全土で25日、抗議デモが再燃している。(中略)

メレンデス内相は国営テレビを通じて、法に基づき警官を訴追すると約束。国民に平静を呼びかけ、昨年の衝突で死亡した43人のことを思い出してほしいと訴えた。

さらに、昨年の衝突を受けて警察改革を断行したと述べ、国家警察は人権を守るためにあると強調している。

一方、マドゥロ大統領は少年が死亡した経緯について、若者の集団が暴徒化し、警官を殴ったりロケット弾を投げたりなどしたため、警官が武力で応じたと説明した。【2月26日 CNN】
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人権侵害に対しアメリカが制裁措置 反発を強めるベネズエラ
一方、昨年来の反政府行動への強硬な姿勢を続けるマドゥロ政権に対し、アメリカは制裁措置を含む厳しい姿勢をとっています。
それに対しベネズエラ側が反発するという形で、チャベス時代から悪かったアメリカとベネズエラの関係は更に悪化しています。

アメリカ側は2月、人権侵害に関与したとされるベネズエラ当局者のビザを取り消し、米国内の資産を凍結する措置を承認しました。

これに対しベネズエラ側は、アメリカ人をスパイ容疑で拘束、また、アメリカ大使館規模の縮小を求めています。

****米国人数人を「スパイ容疑」で拘束 ベネズエラ****
ベネズエラのマドゥロ大統領は2月28日、複数の米国人をスパイ行為や勧誘活動の疑いで数日前に拘束したと述べた。

拘束者の中には中南米出身の米国人パイロットも含まれているという。大統領によると、パイロットは「さまざまな文書」を所持していたとされ、西部タチラ州で拘束された。身元は公表されていない。
ベネズエラ政府は近年、同様の発表を何度も繰り返しているが、裏付けを示したことはない。

反帝国主義」を掲げる集会で演説したマドゥロ大統領は同時に、米国からの渡航者全員に今後ビザ取得を義務付けると発表。

また、首都カラカスの米大使館の規模を在米ベネズエラ大使館に近い水準まで縮小するよう要請した。
米大使館には現在100人以上の職員がいるとされる。一方で米ワシントンのベネズエラ大使館は外交官17人の体制と、大きな開きがある。

大統領はさらに、米国のブッシュ前大統領、チェイニー前副大統領、テネット元中央情報局(CIA)長官や現役議員数人に対し、「イラク、シリア、ベトナムに対する爆撃」などの「テロ行為」に関与したとして入国禁止を言い渡した。(後略)【3月1日 CNN】
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一方、アメリカは9日、治安当局者ら7人を対象にした制裁措置を発動しました。

****米、人権弾圧に関与の7人制裁 ベネズエラとの関係悪化の一途「反政府勢力に対する威嚇増大****
米国とベネズエラとの関係がいっそう悪化している。オバマ米大統領は9日、人権弾圧に関与しているとして、ベネズエラの治安当局者ら7人を対象にした制裁措置の発動を命じた。ベネズエラがこれに反発して報復措置を取ることは必至だ。(中略)

米側が制裁法を整え発動に踏み切ったのは、ベネズエラの反米路線をとるマドゥロ大統領の下で、反政府デモの弾圧など人権侵害が続いているためだ。先月に各地で発生したデモでは、カラカスの市長で野党系のレデスマ氏が逮捕され、14歳の少年が警官に撃たれ死亡した。(中略)

ベネズエラと同じく反米左派であるキューバのカストロ政権は、米国との国交正常化交渉を進めており、対照的な動向ぶりが際立っている。【3月10日 産経】
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ベネズエラは更に反発を強め、同じ3月9日には、政府高官に対するアメリカの制裁への報復として、駐米臨時大使らを召還すると発表、アメリカとの対決姿勢を鮮明にしています。

【「仮想の敵をでっち上げ、経済政策の失敗から国民の目をそらさせようとしている」】
国内経済がうまくいかないときは、外敵を強調して国民の不満をそらすというのが古今東西の権力側の常套手段ですが、マドゥロ政権もアメリカとの解決姿勢を鮮明にすることで国内危機乗り切りを図っていると思えます。

****ベネズエラ、反米が激化 「脅威に対抗」 大統領に法律制定権****
米国との緊張状態が続く南米ベネズエラの国会は15日、マドゥロ大統領が国会審議を経ずに法律を制定できる「大統領授権法」を賛成多数で可決した。

オバマ米大統領によるベネズエラ政府高官への制裁発動に対抗し、「(米国の)帝国主義から平和と主権を守るため」としている。反米姿勢は強まる一方で、両国関係は急速に悪化している。

地元メディアによると、授権法の期限は今年12月末まで。法案はマドゥロ氏が10日、政権支持者が過半数を占める国会に提出した。

深刻な経済危機で政権が急速に支持を失うなか、野党側は、年内の議会選挙を有利に進めようとしていると批判。反政府派や米国関係者への弾圧につながる危険性もあると警戒している。(中略)

ベネズエラではチャベス前大統領が死去した2年ほど前から経済状況が悪化し、物不足が深刻化。政府は野党政治家やデモ参加者への弾圧を強化する一方、米国人にビザ取得を義務づけたり、首都カラカスの米国大使館の規模縮小を通告したりして反米姿勢を強めている。

野党指導者らは「仮想の敵をでっち上げ、経済政策の失敗から国民の目をそらさせようとしている」と非難している。【3月17日 朝日】
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中南米諸国は、先述のキューバのように、アメリカのベネズエラへの圧力に対して批判も生じていますが、それも今後のマドゥロ政権の国内対応次第というところもあります。

****中南米、同調の動き*****
米州地域では、米国とキューバが半世紀ぶりに国交回復に向けた対話を始めたことで、反米色が強かった中南米諸国と米国との関係改善が進むとみられていた。

だが、米国によるベネズエラへの制裁を巡っては、キューバを含む中南米諸国が「主権国家への介入だ」と批判している。

米国の制裁に対し、キューバ政府は「内政干渉は許されない」とベネズエラへの支援を表明。共産党機関紙は10日、フィデル・カストロ前国家評議会議長がマドゥロ氏に宛て、「米国の乱暴な意図に対抗した勇敢な演説をたたえる」と書いた手紙を公表した。

ボリビアのモラレス大統領も「侵略の意図が隠れている」と米国を批判。「ベネズエラだけでなく、中南米全体に対する脅威だ」と語り、4月にパナマで開かれる米州サミットまでにベネズエラに謝罪するよう米国に求めた。

エクアドルのコレア大統領も「グロテスクで違法な介入」と非難した。

14日には南米諸国連合(UNASUR)に加盟する12カ国の外相らがエクアドルの首都キトで協議。米国に、ベネズエラを「脅威」とした発言を取り消すよう求めた。

ただ、各国の足並みがそろっているわけではない。地元メディアによると、ブラジルやコロンビア、ウルグアイなど米国と良好な関係を保っている国々は、米国の制裁に対し、それほど強硬な姿勢を示していないとされる。

ブラジルの有力紙は、チャベス前大統領の死去後の混乱などを理由に、「ブラジルが無条件にベネズエラの味方をする時代は終わった」とも指摘している。

ブラジルやコロンビアは、マドゥロ政権と反政府派の対話に向けた協力を表明している。ただ、ベネズエラがこれ以上、過激さを増せば、理解を示してきた各国の態度に変化が出る可能性もありそうだ。(サンパウロ=田村剛)
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ブラジルのルセフ政権などは、低迷するブラジル経済や国営石油会社ペトロブラスをめぐる大規模な収賄疑惑で、150万人とも200万人とも言われる大規模抗議行動が起きており、ベネズエラどころではない・・・のが実態ではないでしょうか。

今回のアメリカの制裁は、政府高官個人を対象にしたもので「政権を根幹から揺るがす効果はない」(外交筋)とみられています。【3月10日 時事より】

しかし、石油収入をもとにしたバラマキというチャベス流の経済運営のツケが表面化しており、チャベス前大統領のようなカリスマもないマドゥロ大統領がこの状況をコントロールするのはかなり難しいように思えまず。

今後、原油価格の急反発といったことでもなければ、デフォルトに向けていよいよ追い込まれ、それと同時に政治的に危機を迎える・・・という事態も想定されます。

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