(モスクワの孤児院 この子供たちの両親は亡くなったのではなくアルコール中毒です。 “flickr”より By Sally Van Natta http://www.flickr.com/photos/salvan/388002060/)
【「感情的だが、適切な措置」】
ロシアがアメリカに対し、人権問題を巡りいささか感情的とも言える反応を示しています。
****ロシア:米向け養子縁組「禁止」 人権巡り対抗*****
米政府が人権問題で新たにロシアへの制裁を発動し、対抗措置としてロシアで、人権問題を理由に自国の子供を米国へ養子に出すことを禁止する法律が来年1月にも成立する可能性が出てきた。だが外交上の駆け引きに子供の問題を持ち出す事態にロシア国内でも批判の声が上がっている。
ロシア議会が審議している法案は、米国に養子として引き取られたロシアの幼児が放置されて死亡した過去の事件を引き合いに、人権擁護の立場から米国民との養子縁組を禁じるもの。死亡した幼児の名前から「ジーマ・ヤコブレフ法案」と呼ばれている。下院は21日、賛成420、反対7で可決し、上院も26日に採決する見通し。プーチン大統領が年内に署名すれば来年1月1日から施行される。
この法案が急浮上した大きな理由が米国側の対露制裁措置だ。ロシアの動きに先立ち、オバマ米大統領は今月14日、74年から続けてきた対露通商規制条項(通称ジャクソン・バニク条項)を撤廃する法案に署名。
ロシアが8月に世界貿易機関(WTO)に加盟したことを受け、米企業の対露進出を促す措置だったが、同時にロシア人弁護士のセルゲイ・マグニツキー氏が09年に獄中死した事件をめぐり、虐待に関与した疑いのあるロシア政府当局者の米国入国を禁じる条項も法案に盛り込んだ。
米議会の指導部が国内の対露批判に配慮したためだ。マグニツキー氏は当時、脱税に関与した容疑でロシア当局に逮捕され調べを受けていたが、逆にロシア政府当局の汚職も告発していた。
これに反発するロシア政府は今月、米国産食肉に対する事実上の輸入制限を始めた。養子縁組禁止の法案についても、プーチン大統領は「感情的だが、適切な措置」と理解を示し、署名へ含みを残している。
米国は99年から昨年までに約4万5000人のロシア人を養子として引き取り、最大の引受先となってきた。そのため養子縁組が禁止されれば、約70万人といわれるロシアの孤児にとって大きな打撃となる。
ロシアでは法案の見直しを求める署名活動も行われ、約10万人が反対を表明。「米国との養子縁組協定を破棄すれば、海外に(恵まれない)子供を引き取ってもらう道を閉ざしてしまう」とラブロフ外相が指摘するなど、政府内の意見も割れる事態となっている。【12月26日 毎日】
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「ジーマ・ヤコブレフ法案」はロシア上院でも26日に全会一致で承認され、後はプーチン大統領の署名を待つだけの状態となっています。
なお、法案の名称になったのは、2009年にアメリカで真夏の炎天下に車内に置かれ熱中症で死亡したロシア人養子だそうです。
プーチン大統領は20日、4時間32分に及ぶ恒例長時間記者会見を行いましたが、その中でアメリカ人がロシア人の子どもを養子にすることを禁じる「ジーマ・ヤコブレフ法案」について「感情的対応ではあるが、適切だと考えている」と述べ、支持を表明しています。
****米国人による養子縁組を禁止、露新法案は「適切」とプーチン大統領****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は20日、同国議会で審議中の米国人がロシア人の子どもを養子にすることを禁じる法案について「適切だと考えている」と述べ、支持を表明した。(中略)
プーチン大統領は会見で、「ロシア議会による感情的な対応であることは理解しているが、(法案は)適切だと考えている」とコメント。これまでにロシア人の子どもたちが養子として米国人にひきとられた後で死亡した複数の事件の裁判で、米国人の里親たちが無罪となっていることに不快感を示した。
ロシア側の動きに先立ち米国では前週、人権侵害に関与したロシア人に対する制裁的な措置を盛り込んだ法案が、バラク・オバマ大統領の署名で成立した。この法律は、露当局者の不正を告発しながら逮捕され、拘束中だった2009年に死亡したロシア人弁護士セルゲイ・マグニツキー氏にちなんで「マグニツキー法」と呼ばれる。マグニツキー氏は「拷問に近い状況」に置かれていたとされる。
だが、プーチン大統領は「米国こそ問題だらけだ。これまでも指摘してきた(米兵によるイラク人収容者虐待があった)旧アブグレイブ刑務所や(キューバの)グアンタナモ米海軍基地がいい例だ」と述べ、ロシアの司法制度に口出しする倫理的な権利を米国は持たないとはねつけた。【12月20日 AFP】
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旧ソ連圏を再統合し、「ユーラシア連合」創設、“強いロシア”の復活を目指すプーチン大統領としては、人権問題というロシア政治の暗部をことさらにつつくアメリカに苛立っているのでしょう。
法案が成立すれば、“約70万人といわれるロシアの孤児にとって大きな打撃となる”訳ですが、そもそも何故アフリカの途上国でもないロシアからアメリカへ、“99年から昨年までに約4万5000人”という多数の海外養子が行われているのかよくわかりません。
【連邦崩壊後20年で初めて人口増加に転じる可能性】
これらの孤児が今後ロシア国内できちんと養育されれば、人口減少に悩むロシアにとって一助となる・・・かどうかはともかく、ロシアの人口問題にやや明るい話題も報じられています。
****ロシア、人口増? ソ連崩壊後初 ベビーブーム世代が出産****
ソ連崩壊後、年間約100万人が減少する人口動態危機に見舞われてきたロシアで、今年、連邦崩壊後20年で初めて人口増加に転じる可能性が出てきた。人口減少は高い死亡率と低い出生率に起因していたが、1月から10月までの統計で、出生数が死亡数を上回ったからだ。
少子化対策を進めてきたプーチン政権はその成果を強調するが、専門家は、1980年代後半のベビーブーム世代の出産が増えただけで、減少傾向は変わらないとも指摘している。
露国家統計局によると、10月までの出生数は前年比7%増の158万6900人。死亡数を差し引くと800人の自然増で、これに中央アジア方面などからの移民数を加味した総人口は1億4330万人となり、同24万6000人増えている。
ロシアは91年のソ連崩壊による経済の悪化と社会不安の増大に伴い、深刻な人口減少に見舞われた。過剰なストレスやアルコール被害から男性の平均寿命は50代後半にまで落ち込み、総人口は93年の1億4856万人をピークに減少幅は年間70万~100万人までに達した。国連は2050年までに1億783万人まで減少すると予測した。
しかし、ロシアはここ10年で高度経済成長を続け、プーチン前政権時代の06年に本格的な少子化対策を開始。2人以上の子供を持つ母親に対して、25万ルーブル(約70万円)を補助する「母親資本」制度の実施や育児手当を拡充したことから、出生率が向上しだした。一方、医療保険制度の改革も進め、死亡率も危機的な状況から改善されつつある。
今月の年次教書演説で、プーチン大統領は、人口対策の成果を強調。「3人の子供を持つ家族を増やすことはロシアのノルマだ」と追加政策の方針も示した。
だが、今年の人口増は、ソ連ペレストロイカ時代のベビーブームの子供たちが出産適齢期に達しただけだとの指摘がある。専門家は「長期的に見れば人口減少には歯止めがかからず、最も楽観的なシナリオでも年間40万人の自然減が予測される。この分を移民が穴埋めする」と話している。【12月27日 産経】
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【出生率はヨーロッパ並みに低く、死亡率はアフリカ並みに高い】
「母親資本」制度などの少子化対策が下支えにはなっているようですが、基本的減少傾向はいまだ続いているようです。
人口減少がこのペースで進むと、プーチン大統領の目指す“強いロシア”も根底から崩れてきます。
****ロシアを阻む人口減少の罠****
旧ソ連圏諸国を糾合して超大国の復活を期すプーチンの野望の前に立ちはだかる人口急減の厳しい現実
ロシアのウラジーミル・プーチン首相が、自国の壮大な未来ビジョンを描いてみせた。実現すれば世界の経済・軍事バランスが一変しかねない。
旧ソ連圏の諸国を糾合して「ユーラシア連合」を結成し、「現代世界の一極となり、かつまたヨーロッパとアジア太平洋地域の効果的な懸け橋となり得る強力な超国家的連合」に仕立てようというのだ。
だが、その夢の前には大いなる「不都合な真実」が立ちはだかっている。ロシアの人口が急激に減少しつつあり、今世紀半ば頃には兵士も労働者も足りなくなりそう、という現実だ。そんな状況は、まさしく国家存亡の危機。中国に対抗して超大国としての地位を取り戻すのは至難の業と言うしかない。
かつてのソ連は、中国との約4200キロにわたる国境沿いに新しい都市を築き、工場を建ててきた。独裁国家ゆえの強引さで、そうした辺境にロシア民族を送り込み、住まわせた。ロシア人が住む土地ならば主権を主張しやすかったからだ。
だがソ連崩壊後の20年でシベリアや極東に住むロシア民族の数は20%近く減少。若くて有能な人たちは、みんな成功の機会を求めて首都モスクワへ出て行った。
しかも、出生率はもう何十年も右肩下がりの状態にある。昨年の出生率は1.4人と、人口の維持に必要とされる2.1人に遠く及ばなかった。一方、過去20年で25〜45歳の男性の死亡率は急激に上昇し、新生児の数を上回る水準にある。結果、今のロシアは人口減と高齢化の二重苦に見舞われている。
ソ連崩壊の直後、ロシアの人口は1億5000万人弱だった。しかし米国勢調査局によれば、今では1億3900万人弱。25年頃には1億2800万人に、50年頃には1億900万人にまで減る見通しだ。
「ロシアの場合、出生率はヨーロッパ並みに低く、死亡率はアフリカ並みに高い」と、地域開発研究所(モスクワ)所長ユーリ・クルプノフは言う。「何しろ労働年齢の男性の死亡率はヨーロッパの5倍で、これがロシアの経済発展を阻害している」
過度な飲酒による早死に
若い男性の死亡率が異常に高いのは、ソ連崩壊後にさまざまな悪条件が重なったせいだ。環境汚染はひどくなり、医療制度は崩壊し、インフラの老朽化で事故が増え、社会不安ゆえの暴力も増えた。
しかし09年に国際的な医学誌ランセットに載った報告によれば、最大の原因はソ連崩壊後にアルコール依存症が急増したことらしい。もともと大酒飲みのロシア人の基準からしても過剰なアルコール摂取が原因で、毎年60万人が早死にしていると推定されている。
「このままだとロシア人は死に絶えてしまう」と危惧するのは、現状を憂える市民団体「国境なき善行」の代表スベトラーナ・ボシェロワだ。「このままでは20年までに学校が空っぽになり、次の10年で労働者や兵士が足りなくなる。50年までには『国』と呼べないくらいの人口になってしまう」【2011年12月16日 Newsweek】
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“過剰なアルコール摂取が原因”というのはいかにもロシア的ですが、プーチン大統領は来年から紙媒体と電子メディアのアルコール飲料広告を一切禁止する法律に署名しています。
【22世紀には日本の人口は現在の3分の1に減る】
人口減少・少子高齢化の問題を抱えているのは日本も同じであることは言うまでもありません。対策が遅れている点ではロシアより深刻かも。
22世紀には日本の人口は現在の1億2770万人の3分の1に減るとする調査報告もあります。
ここ数年、晩婚・高齢出産化した女性の出産する子供が数字に反映され始めた影響もあってやや持ち直し傾向も見られた日本の出生率は、2011年は前年と同じ1.39にとどまっています。
****出生率横ばい1.39 第1子出産30歳超え****
厚生労働省は5日、2011年の人口動態統計を公表した。将来の人口推計のもととなる合計特殊出生率(女性1人が生涯に産むと想定される子どもの数)は1.39で、前年と同じだった。出生数は記録が残る1899年以降で最少の105万698人、死亡数は震災の影響もあり戦後最多の125万3463人。この結果、人口の自然減は初めて20万人を超えた。
出生率は、05年に1.26と底を打ってから08年(1.37)まで急回復したが、ここに来て上昇ペースが鈍っている。30歳以上は引き続き上昇したが、30歳未満で下がった影響という。
また、女性人口が減っている影響で、出生数は前年から2万606人減った。女性が第1子を出産する平均年齢は今回30.1歳と、初めて30歳を超え、晩産化の傾向が進んでいる。(後略)【6月6日 朝日】
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一方で、最近いろんな調査で、女性の社会進出や結婚・家庭感に関して、回帰現象みたいなものがあります。
****「妻は家庭」5割が賛成=初の増加、反対上回る-内閣府調査****
内閣府は15日、男女共同参画社会に関する世論調査結果を発表した。「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」という考え方について、賛成は51.6%、反対は45.1%だった。この質問を始めた1992年から前回調査の2009年まで一貫して賛成が減り、反対は増える傾向が続いていたが、今回初めて反転。賛成が反対を上回るのは、97年の調査以来15年ぶりとなった。若者の就職難や、女性にとり仕事と育児の両立が難しい環境にあることなどが背景にあるとみられる。
調査は10月11~28日、全国の成人男女5000人を対象に個別面接方式で実施した。有効回収率は60.7%。【12月15日 時事】
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主に若い世代に見られるこうした回帰傾向が少子化などに歯止めをかける方向で影響するのか・・・どうでしょうか?
人口減少・少子高齢化が社会にどのように影響するかについては、多くの深刻な指摘が巷に溢れているところですので、今回はパスします。
少子高齢化・人口減少で「強い日本」でなくなっても、そうした現実に対応順能して社会が安定しているなら、それはそれで構わないとも言えます。
単純素朴な発想で、子供が減れば競争も少なくなり、社会からも大切にされ、その子供たちはラッキーじゃないか・・・とも思えるのですが、減少した若者が就職難に苦しむという現実があります。
****企業の雇う力自体に陰り****
・・・・労働政策研究所では、所長の浅尾裕さん(59)が「日本企業の雇用吸収力自体が低下し、正社員を解雇できない分、新卒採用を抑制して調整している面があります」と指摘した。
かつては不況期でも新卒採用はあまり減らさなかったが、1990年代半ばから景気との連動性が強まった。日本で、長期雇用のメリットが大きい製造業の比率が下がり、パートなどが中心のサービス業の比率が高まったことも影響したとみる。
浅尾さんは「今後、4~5年間は団塊世代が65歳を迎えて大量退職するので採用はあまり減らないでしょう。ただ、その後は採用数の増減が大きくなるかもしれません」と警告する。労働政策研究・研修機構の推計ではゼロ成長が続くと、30年の20~24歳の就業率は63%にとどまる見通しだ。
次に話を聞いた一橋大学准教授、川口大司さんも「低成長が続くなか、日本の雇用構造が変化しつつあるとみるべきでしょう」と指摘する。正社員だけ見ると、過去と比べ離職率はあまり変わっていないが、非正規労働者の比率が増え、社会全体では勤続年数も短くなった。
しかも「原因が低成長自体にあるので、労働政策として打てる手はミスマッチの解消などに限られます。ただ、実証研究が進み、限界も明らかになってきました」と川口さんは明かす。
例えば国が失業者に職業訓練をすれば新産業にスムーズに転職でき、失業率が下がると期待されてきた。しかし、能力が同程度の人を対象に職業訓練の有無と就職の関係を調べると、大きな差がなかった、という研究もあるという。今後の対策として「企業に雇用確保を優先してもらい、低所得者には国が別途、減税と現金給付などで支援するような制度も検討課題になっています」と川口さん。(中略)
<外国ではもっと深刻? 一括採用、失業を押さえる面も>
実は若者の就職難は日本だけの現象ではない。国際労働機関(ILO)の推計では、15~24歳の失業率は世界全体で12.7%。先進国は欧州債務問題の影響もあり17.5%で、日本の約7%よりも高い。
海外に比べ日本の若年失業率が低いのは新卒者を一括採用しているためだ。最近は「既卒になると就職できない」と評判が悪いが、こうした仕組みがない国々では、新卒者でも経験を積んだ労働者と競いながら職を探さなければならず、なかなか職に就けない。(後略)【12月22日 日経プラスワン】
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低成長が続き、高度経済成長期に確立した日本の労働慣行が崩れていけば、若者の就職難は今後ますます厳しくなるのかも。
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