孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ:中国に対する「為替操作」批判 中国:保有米国債売却の可能性

2010-03-18 22:49:33 | 国際情勢

(94年までは、中国では外国人が外貨を両替すると渡される外貨兌換券(FEC)と、一般の中国人が使用する人民幣(RMB)の2種類の通貨が流通していました。外貨兌換券は人民幣で買えない外国製品が買える等の理由で、中国人が外貨兌換券を入手しようと、闇両替が盛んに行われていました。一方、外貨兌換券で払おうとすると、「これは何だ!お金じゃない」と受け取りを拒否されたり・・・そんな時代もありました。その頃に比べれば為替制度も単純化されましたが、アメリカは不満を募らせています。
“flickr”より By IamTAS
http://www.flickr.com/photos/aikseng/3542714232/)

【米:超党派130議員が公開書簡】
アメリカにおいては、“中国が人民元を不当に低く抑えているため、アメリカの輸出品は中国製品と競争できず、アメリカ産業が被害を受けている”という「為替操作」に関する批判が以前から根強くありますが、オバマ政権になってからは、中国への配慮もあってか、ひところほどは強く言われなくなっていたようにも見えます。

しかし、ここにきてこの人民元問題が再び表面化しています。
アメリカ下院のミシュー議員とライアン議員ら超党派の130議員が15日、「中国政府による人民元相場の操作で、米産業が被害を受けている」として、ガイトナー財務長官とロック商務長官に、中国を「為替操作国」と認定して強い態度で直ちに行動するよう求める公開書簡を送りました。当然、中国は反発を強めています。

****「米国債売却」で報復も 「日本の二の舞い」避けたい中国*****
超党派の米議員130人がオバマ政権に人民元の「為替操作」に関する書簡を送ったことに対し、中国が「米国債の売却」を切り札に、対米報復措置に動く懸念が広がっている。中国は1月末段階で8890億ドル(約80兆円)の米国債を保有するなど世界最大の米財政スポンサー国で、政治的に発言力を高めているからだ。

14日の記者会見で温家宝首相は、米国の財政状況について「心配している」と述べ、財政赤字やドル安などによって米国債の安定性が損なわれることに懸念を表明した。輸出拡大に向けて人民元相場を維持したい中国として、米国が対中強硬手段に出ないよう牽制(けんせい)した発言と受け止められている。
このため関係者は、「為替操作国の認定などに米国が動けば中国は政治的対抗措置を取らざるを得ず、米国債の売却の有無が焦点になる」とみている。1997年に当時の橋本龍太郎首相が訪米時に「米国債売却の誘惑にかられたことがある」と発言、市場で米国債が下落(金利は上昇)した過去の“実績”もある。
温首相は会見で、「金融危機で中国が人民元相場の安定を保ったことが世界経済の回復を促進した」と相場固定を正当化し、政治的に元高圧力に屈しない姿勢を改めて強調した。

上海対外貿易学院の陳子雷副教授によると、中国当局は、日本が85年に欧米の圧力に屈して「プラザ合意」による円高を受け入れ、日本経済のその後の成長路線を狂わせた経緯を克明に分析しているという。このため「日本の二の舞いを避ける政策に全力を挙げる」(陳副教授)可能性が高い。
米議員130人の書簡について、中国政府は明確な対応を示していないが、人民元をめぐる米中摩擦は今後、米国債の扱いなどで政治問題に飛び火する危険性をはらんでいる。【3月17日 産経】
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中国にとっては、円高を容認して失速した日本経済が反面教師になっているようです。

【“特殊な相場形成メカニズム”】
6日には、中国人民銀行総裁が、今後の機動的な元相場の切り上げに含みをもたせた発言をしています。
****元の切り上げに含み 中国人民銀総裁*****
中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は6日、北京市内で開催中の全国人民代表大会(全人代、国会)に合わせて記者会見し、一昨年から米ドルに事実上、固定されている人民元の為替相場について、「金融危機の発生で特殊な相場形成メカニズムを採用したが、遅かれ早かれこの政策には出口戦略がでてくる」と述べ、今後の機動的な元相場の切り上げに含みをもたせた。
温家宝首相は5日の政府活動報告で「元相場の基本的な安定を保つ」と、当面は固定相場を維持する方針を表明していた。ただ、輸出産業保護を目的に元安誘導しているとの欧米からの批判に加え、国内でも元売りドル買い介入がカネ余りを生み、不動産バブルの温床になったとの声が高まっている。【3月7日 産経】
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一方、14日の記者会見では、温家宝首相は、元相場の安定が金融危機で失速した世界経済の回復に貢献したと指摘。さらに「(他国の)為替相場を強制的に切り上げようとすることに反対する。元相場の改革に役立たない」と述べ、切り上げを求める米国などを批判しています。
今後、中国政府はどのような政策をとるのでしょうか?社会不安増大を恐れる中国政府が、国内世論に抗して、輸出産業に打撃を与える元切り上げができるのでしょうか?

アメリカ議会では、中国が人民元の切り上げに応じない場合、厳しい罰則を科す法案が予定されています。
****人民元、是正なければ報復措置=米上院議員、超党派法案提出へ*****
米上院のシューマー(民主)、グラム(共和)両議員が、中国政府が人民元の切り上げに応じない場合、厳しい罰則を科す法案を議会に提出することが16日分かった。両議員が同日午後に記者会見し正式発表する。人民元をめぐる米中間の対立に拍車を掛けそうだ。
ロイター通信によると、法案では米財務省に対し、中国の人民元など為替相場の是正が必要な通貨を持つ国を特定し、半年ごとに議会への報告を要求。是正されなければ、対象国製品に反ダンピング税を課すなどの報復措置を講じるとともに、世界貿易機関(WTO)への提訴を求める。
両議員は2月下旬、ロック米商務長官に対し、人民元相場が最大40%過小評価されているとして調査を求める書簡を送っており、法制化により高率の報復関税措置を求めるとみられる。
法案は、両議員を含む超党派の上院議員5人による共同提出となる見通し。【3月17日 時事】 
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【中国:米国債の売却の有無が焦点】
中国側は、前出産経記事に「為替操作国の認定などに米国が動けば中国は政治的対抗措置を取らざるを得ず、米国債の売却の有無が焦点になる」とあるように、こうしたアメリカ側の攻勢に対し、米国債売却も視野にいれているとの揺さぶりをかけています。

国際関係について、米中間にある様々な問題にも関わらず、「G2」とか「米中新時代」というような安定した関係が大枠としては維持されるのでは・・・という見方は、米中間の相互依存的な経済的関係がベースにあります。
財政赤字に苦しむアメリカは中国に債権を買ってもらう形で資金調達することが必要であり、中国は巨額の米国債資産を守るためにも、輸出市場を守るためにもアメリカ経済を支えざるを得ない、その関係を揺るがすような米国債売却を行うことはなかろう・・・という見方です。

ただ、もし中国が相当の犠牲覚悟で米国債売却に踏み込めば、その世界経済に及ぼす影響は大きく、中国と並ぶ米国債保有国である日本もその大波にのみ込まれます。

【公式統計を上回る中国の米国債保有】
米国債については、先月中旬、“米財務省が16日発表した国際資本収支統計によると、昨年12月末時点の各国別の米国債保有高は、日本が7688億ドル(11月末は7573億ドル)となり、2008年8月以来、1年4カ月ぶりに首位となった。中国は7554億ドル(同7896億ドル)で2位。”【2月17日 時事】という報道がありました。
中国がアメリカの財政赤字を懸念して「米国債離れ」の姿勢を強めているとの見方も出ていました。

その後、“米財務省が2月26日発表した国別の米国債保有高の改定値によると、昨年末の時点で中国を抜いて首位になったとされた日本は2位で、中国が首位のままだったことが分かった。”【2月27日 共同】と、中国が依然首位で、日中逆転していなかったことが報じられています。

日中逆転はなかったものの、対中ダンピング(不当廉売)調査など通商政策をめぐりアメリカ側の厳しい対応が目立ち始めた昨秋以降、米国債の保有高削減が一段と加速しています。
ただ、中国の実際の米国債保有残高は、公式統計よりかなり多いのではないかということも指摘されています。

****中国、第三国で米国債購入か 専門家*****
大量の米国債を保有する中国が第三国で米国債を購入している可能性が25日、米議会の討論会で指摘された。主要な米国債保有国としての重要性を隠すことが狙いだという。
討論会に参加した専門家らは、中国の米国債保有残高が公式統計より多いのはほぼ間違いないとして、ロンドン、香港などで中国関連団体が米国債を購入している可能性を指摘した。
中国が大量の米国債を保有することは米国の安全保障に影響を与え、米政府が中国と対立した状態では政策を実行しづらくなるとの声も上がった。

国際通貨基金(IMF)のチーフ・エコノミストを務めた経歴を持つマサチューセッツ工科大学のサイモン・ジョンソン教授は、英国の米国債保有高が08年の1309億ドル(約11兆7000億円)から09年には3000億ドル(約26兆7000億円)に急増した背景には中国の存在があると指摘する。英国が09年に大幅な財政赤字にあることから、同教授はこの数値には当惑したとし、中国が英国以外のルートからも米国債を購入している可能性を指摘した。【2月26日 AFP】
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“主要な米国債保有国としての重要性を隠すことが狙い”とはどういうことでしょうか?
いささか不気味な感じがします。
いずれにしても、“為替操作国の認定”、“反ダンピング税の課税”、“保有米国債売却”という“米中経済戦争”は日本にとって憂慮すべき事態です。


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