孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  カースト制がからむ「名誉殺人」と「不妊治療」の話題

2010-10-07 23:39:26 | 世相

(カースト制度の更に外側に排除されるダリット(不可触賎民)の村 “flickr”より By Sean Hawkey
http://www.flickr.com/photos/hawkey/4365053600/ 
彼らを「神の子」とも呼んだ“「インド独立の父」と讃えられるマハトマ・ガンディーは、かれ自身ヴァイシャ出身であり、カースト・ヒンドゥー社会を守るために、不可触制の廃止には同意したものの、カースト制度の廃止そのものには反対した。つまり、ガンディーは、アウト・カーストを5番目のカーストに引き上げようとはしたものの、決して、アウト・カーストに属する人びとを解放しようとしたのではなかった”【ウィキペディア】

【消えた4万人】
インドの首都ニューデリーを舞台に、英連邦に属する71カ国・地域のスポーツ選手が参加する「コモンウェルスゲーム」(英連邦競技大会)の開催準備についていろいろなトラブルがあり、インドの思惑とは反対に、インドの抱える問題が露呈してしまったことは、10月1日ブログ「インド 英連邦競技大会準備不足で傷つく評価 相変わらずの宗教対立も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101001)で取り上げました。

大会は何とか開催されたようですが、こんな話題も。
****インド:物ごい4万人「美化」で排除 英連邦大会開幕前に****
英連邦競技大会が3日開幕したニューデリーで、普段は町のあちこちで見かける物ごいや路上生活者約4万人が開幕直前に一斉に姿を消した。インドの国の威信を懸けた初の同大会主催だが、過剰な「美化」政策に批判が高まっている。
4日付のヒンドゥスタン・タイムズ紙によると、物ごいや路上生活者がいなくなったのは開幕前の1週間。ニューデリーの路上や高架下などで暮らす人々を警察が市内の空き地に集め、そこからトラックでどこかへ連れ去ったという。
また、デリー駅に到着した乗客の中で、身分証明書を持たず、路上生活者になりそうな者はそのまま同じ列車で強制的に送り返された。
ニューデリーのいくつかのスラム前には大会関連の巨大な看板が並べられ、景観を意識した「目隠し」も施されている。(ニューデリー共同)【10月4日 毎日】
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国際的イベントを前に「美化」が行われることはそう珍しくないことですが、連れ去られた4万人がどこで、どうしているのか気になるところです。
“普段は町のあちこちで見かける物ごいや路上生活者約4万人”はインドの抱える大問題、貧困の問題の一形態でもあります。

【後を絶たない「名誉殺人」】
また、インドの抱えるより根本的な問題のひとつ、宗教対立については、このブログでもインド北部アヨディヤのモスク跡地に関する問題を取り上げましたが、今日はもう一つの重大な問題、カースト制に関する最近の話題です。

****インド、伝統の犠牲「名誉殺人」 家族が阻む異なる身分の恋愛****
 インド北部ではカーストが異なる、あるいは同じ村出身の男女の交際や結婚を認めない伝統が強く残り、このしきたりに背く若い恋人たちが、両親や兄弟に殺害される事件が後を絶たない。家族が伝統を守るためのものとして、「名誉殺人」と呼ばれるこうした殺人は、保守的な大人の世代と、自由恋愛など現代的な価値観をもつ子供の世代とのあつれきによって招かれ、急速な発展を遂げるインドの苦悩となっている。(インド北部ハリヤナ州 田北真樹子)
 首都ニューデリーに隣接するハリヤナ州の西部ジンド地区。大量のハエが舞う家の中で、ラメシュ・ダンダ氏(48)は長男、ビカスさん(20)の死を悼んでいた。
 ビカスさんは9月12日早朝、別の地区の路上で遺体で発見された。殺人容疑で逮捕されたのは、彼と交際していたリトゥさん(20)の両親。交際に反対していた両親は前日夜、自宅でビカスさんを殺し、続いて自分の娘をも殺害した。
 「リトゥの両親は異カースト間の結婚に反対していた」とラメシュさんは証言する。リトゥさんは、上位カーストのバラモン出身で、ラメシュさん家族はジャート族。「ビカスの命が危ないかもと頭をよぎったこともあったが、本人が交際を否定していた。まさかこうなるとは…」と、ラメシュさんは後悔の念をにじませる。
 ジンド地区のある女性は「交際を禁止されていたのにビカスが大胆にリトゥの家に現れたものだから、両親の堪忍袋の緒が切れたのだろう」と語り、リトゥさんの両親に同情する。

 ◆同じ村も結婚認めず
 「祖先が異なっても、同じ村に住んでいれば、同じ血縁関係にある『ゴートラ』とみなされる。ゴートラでは全員が兄弟、姉妹。だから、同一ゴートラの結婚は認められない」
 ジンド地区から車で1時間半ほど。ダンカール村の「カップ」と呼ばれる長老グループのリーダー、ジラ・シン氏(79)は、こう説明する。そして「私の娘がそんな結婚をすれば、伝統を守るために娘を殺す」と言い切る。
 カーストが異なっていなくても、ゴートラが同じであれば恋愛や結婚は認められない。ビカスさんのケースは、出身の村が同じであることから、ゴートラの問題も絡んでいた。
 カップが、伝統を守ることを恋愛中のカップルの家族に強要しているとの指摘もある。カップ側は「名誉殺人を指示することは絶対にない」と否定しつつも、「古代叙事詩のマハーバーラタの中でも名誉殺人はあり、同一ゴートラの結婚は医学的にも問題があると証明されている」と、カップルの殺害を正当化する。
 同州で、性的被害や人身売買にあった女性を保護する非政府組織(NGO)「アプナ・ガル」の創設者、ジャスワンティさんは「人々の考え方は、『村は一つの家族』。村全体のエゴとプライドが個人の命よりも優先されてしまう」と説明する。

 ◆死者は年間1000人?
 インド刑法は、名誉殺人を一般の殺人罪と同様に扱う。このため名誉殺人による死者数は不明だが、犠牲者は年間1千人にのぼるとの調査もある。報道によると、9月は7件の名誉殺人で9人が命を落とした。
 名誉殺人の問題に取り組む弁護士のラビ・カント氏によると、「名誉殺人の7割は異カースト間で起こっており、うち9割は女性の家族によるもの」という。自分の娘に手をかける家族が多いのは「家族の名誉を引き継ぐのは娘」(カップのシン氏)であり、名誉を汚す娘が殺されるのは当然だとの考えがあるからだ。
 だが、男性の親の方は、ハリヤナ州やパンジャブ州などでは、若年層の男性人口が女性を上回っていることから、「結婚相手を見つけられただけでも十分だと思い、大目にみる傾向がある」(ジャスワンティさん)という。
 インドでは、親が選んだ相手との結婚が主流だが、若年層の教育レベルの向上や社会の変化に伴い、恋愛する若者が増えている。カント氏によると「結婚をめぐる世代間ギャップも存在する」といい、子供が親の言うことをきかなくなったことも背景にある。
 名誉殺人をめぐっては、犯行に及んだ家族だけでなく、カップのように殺人を教唆した地域住民も罪に問えるよう、殺人罪に名誉殺人罪を加えることを求める動きもある。だが、政治の動きは、大票田であるカップへの配慮から、鈍い。【10月3日 産経】
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遺族の名誉を守るための「名誉殺人」もインドだけの問題ではありませんが、これからの世界経済の牽引車になろうかという国にあっては、やはり捨て置けない問題です。

【「カーストが遺伝子に組み込まれている」】
カースト制がらみの話は限りなくありますが、最近目にしたものでこんな話題も。
****インド 不妊治療ではいまだにカーストがまかり通る*****
 人口11偉人を上回るインドでも不妊治療ビジネスが大繁盛中。同国の不妊治療協会によれば、加盟するクリニックが09年に実施した体外受精は1万8000件。実際には、それをはるかに上回る件数が実施されているはずだ。
 
インドの不妊治療を特徴付けているのは、何と言ってもカースト制度。子供を望むカップルの多くが、卵子提供者や代理母に自分と同じ階級の女性を指定する。
 卵子提供者の健康状態を最重要視する欧米諸国とは対照的に、インドではまずカーストの確認ありきで、病歴チエックは二の次だ。
現在カーストに基づく差別は憲法で禁止され、都市部の若者の間では階級の意識も薄れている。にもかかわらず、不妊治療ではいまだに身分制度がまかり通っている。カーストの階級が高く、容姿端麗な卵子提供者が手にする報酬は、大都市ムンバイなら20万ルピー(約4500ドル)に上る可能性があるが、階級が低くなると報酬は2万ルピー(約450ドル)にまで下がることもある。
 社会学者キャロル・ウパディヤは、カーストは人種の純血を守るものとしてインド人の意識に染み付いていると言う。「彼らはカーストが遺伝子に組み込まれていると考えている」【10月13日号 Newsweek日本版】
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遺伝子云々はともかく、身分制度、差別意識というものは人間の心の奥底に染みついているもので、日本においても同和問題などもなかなか解消されていません。
インドのカースト制のように、社会の隅々まで縛るような状態となると、解消ははるかに困難でしょうし、そもそも解消に向かうのかさえ定かではありません。

「世界最大の民主主義国」インドも、相当に特異な社会です。


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