孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカの無人機攻撃  アウラキ師殺害で改めて問われる合法性

2011-10-06 21:07:10 | アメリカ

(無人機は世界中で引っ張りだこ。日本の防衛省も今年8月、日本独自の無人機開発を本格化する方針を固めています。福島第一原発事故の際、米軍の無人偵察機グローバルホークで原発の状況を把握した経緯を踏まえ、菅直人首相が指示しました。 写真はバグダッド近郊の米軍基地での無人機操縦の様子 “flickr”より By megalan14 http://www.flickr.com/photos/22428625@N05/2191676577/

正式起訴もされず、証拠も公表されていない米国市民の殺害は許されるのか?】
アメリカ中央情報局(CIA)が、戦争状態にない国で、テロリストと認定した者を無人機を用いて殺害する行為については、以前よりその合法性、道義的問題が議論されています。

9月30日にCIAが無人機でイエメンを拠点とするテロ組織「アラビア半島のアルカイダ」の指導者のアンワル・アウラキ師を殺害したことを受けて、同師がアメリカ国籍を有するアメリカ市民であったことから、推定無罪の原則を守るべき国が裁判所の許可を得ずに市民の生命を奪うことができるのかどうか・・・という点を中心に改めて議論されています。

****アルカイダ系指導者アウラキ師殺害、米国で合法性めぐり論争*****
・・・アウラキ師は、オバマ大統領によって米国の安全保障にとって危険な人物として「殺害標的リスト」に加えられた最初の米国民とみられているが、米政府は同師を正式起訴しておらず、同師の罪状を証明する具体的な証拠も明らかにしていない。同師はここ数年、インターネットなどを通じた反米演説でアルカイダへの勧誘に成果をあげ影響力を強めている。

アウラキ師の父親は、同師が殺害標的リストに載せられたといわれる件について違法として裁判を起こしたが、連邦地裁は海外在住の米国市民の殺害を認めるとの大統領決定は「法的に検討を加えられないもの」として訴えを退けている。

外国情報監視法(FISA)によれば、米政府は海外在住の米国民を盗聴するには裁判所の秘密許可を求める必要がある。連邦捜査局(FBI)は同法に従って裁判所の許可を得た上で、2009年にアウラキ師の電子メールを盗聴した。
米司法省は、今回のアウラキ師殺害でFISAに基づく裁判所令があるかどうかだけでなく、殺害標的リストが存在するのか、アウラキ師が同リストに載っているのかも明らかにしていない。しかしオバマ政権は、戦争関連法により政府にはテロリスト集団に加わり米国に差し迫った脅威を与えている米国民を殺害する権利が与えられていると主張している。

米議員の多くは、今回のアウラキ師の殺害を歓迎しているが、共和党大統領候補の一人であるロン・ポール下院議員(テキサス州)は、超法規的に米国民を殺害したことに困惑していると、不快感を示した。
テキサス大学のロバート・チェスネー法学部教授は、米政府にはアウラキ師を逮捕する手段がなかったことを理由に、同師の殺害は憲法違反とは思わないとの見解を表明している。一方で、米人権自由協会(ACLU)の弁護士ジャミール・ジャファー氏は、「大統領が法的に検討を加えられない権限を行使して米国民を殺害するのは間違いだ」と批判する。【10月3日 JST】
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9.11を受けて、米議会が採択した国際テロ組織アルカイダに対する武力行使容認決議によって、大統領には武力行使に関するあらゆる権限が付与されているというのが、政権側の主張です。
しかし、大統領権限で作成していると言われる殺害リストは諜報機関の分析に基づく極秘事項で、オバマ政権は存在そのものを公には認めていません。

こうしたことから、議会や司法にも検証する権限がなく、権力の暴走を招きかねないとの懸念もあり、米人権自由協会(ACLU)は、「戦場から遠く離れた米国民」を政府が殺害し、「その根拠や証拠は公衆だけでなく裁判所にさえ秘匿されている」と違法性を指摘しています。
また、上記記事で“合法”との立場をとっているロバート・チェスネー法学部教授も、「誤って別人を殺害した場合にはどうなるのか」と第三者の検証を踏まない極秘の殺害に懸念を示しています。【10月3日 産経より】

戦闘員ではないCIAによる武力行使は?】
アメリカの無人機攻撃については、昨年4月、連邦議会の公聴会で、法的には戦闘員ではないCIAがその作戦遂行を担っていること、戦闘地域外での破壊的な武器使用などの問題点が指摘されています。

****米国無人機の空爆は戦争犯罪か:議会公聴会の議論****
米国は、正式な宣戦布告を行なわないまま無人機でパキスタンへの空爆を行ない、「テロリストをターゲットにした攻撃」を行なっている。

この種の攻撃は、ブッシュ政権後期から激化し、オバマ政権下でもその傾向は増大している。
かつては攻撃対象となるテロリストの名前が必要だったが、現在では名前も必要とされていない。
(民間人の犠牲も多いとされ、2008年以降、パキスタンでは121回の空爆で1000人近くが死亡していると推測されている。2004年から今年までの死者は1314人、うち3割が民間人で、民間人の約半数がオバマ政権下で犠牲になったという推測もある)

米国政府はこれまで、この攻撃は合法的な自己防衛だとして擁護している。ただし、この空爆に関する詳細は説明していない。
一方、4月28日(米国時間)に開催された米国連邦議会の公聴会では、著名な法学教授であるDavid Glazier氏が、この行為は「戦争犯罪」の罪で刑事告発される可能性があると述べた。
Glazier氏は、現在はロヨラ法科大学の教授で、以前は海軍で水上戦の指揮官を務めていた人物だ。Glazier氏によると、遠方から無人機を操作する操縦士たちやそれを指示した人物たちは、理論上は、その攻撃が行なわれている国の法廷に引っ張り出される可能性があるという。米中央情報局(CIA)に属する無人機の操縦士は、法的には戦闘員ではないからだ。

また、アメリカン大学の法学教授であるKenneth Anderson氏は、米国政府が空爆について詳細な説明を行なっていないこと、およびCIAに多くを依存していることを問題視した。
準備した意見書の中で、「米国政府の公式見解では、CIAによる無人機の使用を肯定も否定もしていない。この段階で、法の専門家たちが、CIAの行動を合法だと断言することにためらいを感じるのは当然だ」と述べている。

その上、議会が話したがらないもっと重要な問題があるとAnderson氏は主張する。それは、そもそもなぜこれがCIAのミッションなのかという問題だ。「自己防衛が合法であると仮に認めるとしても、なぜ、制服を着た軍人以外の者が武力を行使しているのだろうか」(ただし、米空軍も無人機攻撃を行なっている。また、パキスタンでは米軍の陸上部隊も展開している)

ノートルダム大学の法学部教授であるMary Ellen O’Connell氏は、自身の意見書の中で、さらに辛らつな意見を述べている。「戦闘用無人機は戦場の武器だ」と、O’Connell氏は委員会で述べた。「この無人機が発射するミサイルや投下する爆弾には、非常に深刻な被害を与える能力がある。戦闘地域の外で無人機を使用することは非合法だ。戦闘地域の外では、警察が正当な法執行機関であり、警察は破壊的な武器を使用する前に、警告することが必要とされるのが一般的だ」

シラキュース大学のWilliam Banks教授のように、違法ではないと主張する専門家もいたが、Anderson氏は米国は国際団体、国連機関などの「国際的な法コミュニティ」によって合法性が問われる可能性があると述べた。(2009年10月には、国連の特別調査官がこの件について報告書を提出したと報道された)

前述したように、政府は、無人機による攻撃を許可したのが正確には誰で、攻撃対象をどのように選択しているのか、そして空爆に巻き込まれて死亡した市民の数について、これまで一切公表していない。
一方で、パキスタンにおける無人機攻撃は、米国の安全性を揺るがしている。5月上旬にタイムズ・スクウェアで起こった爆破未遂事件に関して、パキスタンのタリバンは声明を出し、無人機攻撃への復讐だと述べている。
【10年5月10日 WTRED VISION】
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英王立国際問題研究所がロンドン(London)で10年10月21日に開いた法律専門家による討論会でも、上記O’Connell教授はその違法性を指摘していますが、米空軍で20年過ごした経験がある英ダラム大学のマイケル・シュミット教授(法学)は、無人機による攻撃は「完全に、正当防衛の法の枠内にある」と述べています。
“シュミット教授は、無人機による攻撃は国境を越えて活動する新しいタイプの戦闘員に対する正当な手段であり、攻撃対象となる戦闘員が拠点を置いている国が武装勢力への対応を拒否したり、あるいは対応ができない場合には、無人機による攻撃も正当化され得ると主張した。”【10年10月24日 AFP】
法律の専門家の間でも意見は分かれています。

多くの識者が指摘するのは、CIAにそうした権限があるのか?という点です。
無人機攻撃だけでなく、テロ容疑者を追跡する中で、CIAの指揮する軍事作戦が増えており、ウサマ・ビンラディン容疑者を殺害した作戦も、米海軍特殊部隊SEALsがCIAの指揮の下に実行しています。
人権団体などは、軍事と情報活動の境界が曖昧になることによって、公の目から隠れて展開される法的根拠の薄い作戦への道が開ける恐れがあると警告しています。【10月5日 AFPより】

【「現場から遠ざかるほど、人は現実感を失う」】
無人機攻撃に話を戻すと、上記のような合法性の議論もさることながら、戦闘が行われている現地から遠く離れた本国などで、現地事情に詳しくないオペレーターが、血しぶきを浴びることも、叫び声を聞くこともなく、自ら危険にさらすことなく、さながらゲーム感覚で殺害を実行していく・・・そうしたことへの違和感が拭えません。

無人機攻撃はCIAだけでなく軍部も行っていますが、米陸軍によると、無人機操縦者の7人に1人は民間人だそうです。
“無人機の急増に、兵士の訓練が追いつかない状況だ。米軍交戦規則で民間人の戦闘行為は禁じられているため、ミサイルボタンを押す瞬間は「兵士と交代する」(陸軍)。一方、民間人SOの大半は、20代の若者。戦場を歩いた経験もない。映像から不審な動きを報告するSOの役割は大きく、攻撃態勢を一気にエスカレートさせることもある。「現場から遠ざかるほど、人は現実感を失う」。カバレロさんは、そう感じている。【10年5月2日 毎日】

世論の反発を嫌うオバマ政権は「米兵の死なない」無人機への依存をさらに強めていますが、戦争のロボット化による兵士被害の減少が、国内における戦争についての関心や議論を低下させる可能性もあります。メアリー・ダジアック南カリフォルニア大教授は「民主主義国家としてのチェック機能を低下させるだろう」と指摘しています。【10年4月30日 毎日より】

巻き添えになった一般市民は? 「無実の人を殺せば、それは殺人だ」】
また、今回は米国籍を有するテロリスト殺害が問題にされていますが、本来、問題とすべきは、無人機攻撃に巻き込まれて犠牲になる一般市民の存在でしょう。
米軍の無人攻撃機の犠牲になったパキスタン人の遺族たちが、攻撃中止を求めてアメリカ相手に訴訟を起こし始めています。

****アメリカの無人機殺人を告訴する****
彼らには、他の選択肢はほとんどなかった。パキスタンの北ワジリスタンおよび南ワジリスタン地域で米軍が展開する無人機攻撃の犠牲になった人々の遺族が、アメリカ政府を相手取って法廷で戦おうと立ち上がり始めた。

遺族らはこれまで大規模な抗議デモを行ってきたが、効果はなかった。パキスタン政府は同盟国であるアメリカに無人機攻撃の中止を求めることもできるが、遺族たちの働きかけも空しく何の進展も見られない。
それもそのはず、パキスタン政府は表向きは無人機攻撃を繰り返し非難しているが、裏では青信号を出し続けている。

もううんざりだ、と投げやりになった遺族は、過激派勢力に加わることすら考えるようになる。もちろん、それで何かが変わるわけではない。
そんな行き詰った状況の中、遺族の一部は法廷という場に目を向け始めた。

カリーム・カーンは、アメリカ政府を告訴した初のパキスタン人だ。09年に兄弟と息子を無人機攻撃で亡くしたジャーナリストのカーンは、弁護士を雇い、CIA(米連邦捜査局)の元イスラマバード支部長であるジョナサン・バンクスに対して5億ドルの損害賠償を請求。無人戦闘機は正確に標的を狙う力があり、一般市民を巻き添えにはしないというアメリカ政府の主張に、カーンは断固として挑む構えだ。

オバマ政権になってから攻撃が急増
もっと最近の例では、無人機攻撃が承認された当初、CIAの顧問弁護士を務めていたジョン・リッツォに対する訴訟がある。イスラマバードの弁護士チームは先ごろ、一般市民が殺害されたことが分かっている最近の無人機攻撃20件以上から証拠を集めていると発表した。リッツォは罪のない一般市民の殺害に加担したと、アクバルは訴えている。弁護士チームを率いるミルザ・シャーザッド・アクバルは、リッツォが罪なき一般市民の殺害に加担したと訴えている。

アメリカの無人機攻撃は04年、ジョージ・W・ブッシュ前大統領の下で開始された。しかし攻撃が本格化したのはオバマ政権になってからで、とりわけ08年からパキスタンの部族地域で急増。今ではイエメンやソマリアにも拡大している。
アメリカがこうした国々と戦争状態にあるわけではないことからも、無人機攻撃の合法性は非常に曖昧だ。「これはニュルンベルク裁判のようなもの。違法な命令に従った者は、罪に問われるべきだ。無実の人を殺せば、それは殺人だ」と、アクバルはメディアに語っている。【7月19日 Newsweek】
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