孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州経済  国内外をまとめられるか難しい局面のギリシャ 「欧州の手本」ポルトガル、目標達成は困難

2012-08-30 23:23:07 | 欧州情勢

(24日、ドイツ・メルケル首相とギリシャ・サマラス首相 “flickr”より By fotostelefonorojo http://www.flickr.com/photos/45757401@N08/7853144132/

【「息継ぎの時間が必要だ」】
債務危機に陥っているギリシャのサマラス首相は8月24日にドイツのメルケル首相とベルリンで、更に翌25日はフランスのオランド大統領とパリ・エリゼ宮で会談し、ギリシャが欧州連合(EU)などに約束した財政再建目標の達成時期を2014年から2年先送りし2016年とすることを提案しています。
ギリシャはEUからの追加支援を受けられないと、資金が枯渇し、財政破綻します。

ドイツ・メルケル首相は期限延長案には明言を避け、「約束を順守することが重要だ。ギリシャにはユーロ圏にとどまってほしい」と述べ、緊縮策の達成に向けて自助努力を続けるよう促しています。
“最大支援国のドイツでは「底の抜けたたるにカネを注ぎ込むようなもの」(ショイブレ財務相)と警戒感が強く、世論調査でも約7割が期限延長に反対している”【8月24日 毎日】というドイツ国内事情もあります。

****信頼の赤字、取り払う」 ギリシャ首相、独首相と会談****
ドイツのメルケル首相とギリシャのサマラス首相は24日、ギリシャに対する欧州連合(EU)などの支援継続をめぐり、ベルリンで会談した。会談後の記者会見で、サマラス首相は支援条件の財政緊縮策の緩和の必要性を主張。メルケル首相は支援継続や緊縮緩和の可否の判断は時期尚早としながらも、サマラス政権の取り組みを評価した。

両首脳の会談は6月のサマラス首相就任後初めて。サマラス首相は財政赤字だけでなく「信頼の赤字も取り払う」と緊縮路線継続の決意を表明。ギリシャの財政状況を監視するEUなどの代表団が9月にまとめる報告については、「新政権が成果を出すことを示すだろう」と自信を示した。
サマラス首相はまた、メルケル首相と「経済成長の優先度」についても協議したと説明。緊縮策などで経済が疲弊する中、「息継ぎの時間が必要だ」として、緊縮策の緩和の必要性を強調した。

これに対し、メルケル首相はギリシャのユーロ圏残留を求めたが、緊縮策緩和の是非には言及せず、EUなどの代表団による報告をまずは待つべきだとの立場を堅持した。ただ、「新政権が問題解決のため、あらゆることをすると深く確信している」と、サマラス首相の決意を評価。新政権が始めた取り組みについても「納得している」とした。

ギリシャは支援継続の条件である追加緊縮策をまとめ切れず、次回支援が受けられるかはまだ決まっていない。支援がなければ、資金が枯渇し、再びユーロ離脱の懸念が強まる恐れがある。同時に緊縮策への国民の不満が高まる中、早期の景気回復のため、財政再建目標の達成時期を2014年から16年に先送りすることを模索している。(後略)【8月25日 産経】
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事前にメルケル独首相と会談して対応を協議していたフランス・オランド大統領のギリシャへの反応も基本的には同じです。
オランド大統領はサマラス首相との会談後、記者団に「ギリシャはユーロ圏にとどまらなければならない」と改めて表明しながらも、「(構造改革の)計画の信用性を証明しなければならない」と注文をつけています。

ただ、ギリシャが求める財政再建期限先送りに関しては、ドイツ・メルケル首相よりは柔軟な感触も伝えられています。

****緊縮策緩和に柔軟姿勢 仏大統領、ギリシャ首相と会談****
フランスのオランド大統領は25日、ギリシャのサマラス首相とパリで会談した。大統領は会談後、欧州連合(EU)などの支援条件である緊縮策の実行を求める一方、「国民が耐えられるやり方でなければならない」とも語り、ギリシャが求める緊縮策緩和に柔軟な姿勢を示唆した。

オランド大統領はギリシャへの対応について、EUなどが同国の財政状況に関して9月にまとめる報告を待つ考えを表明。
ただ、状況確認後は、「欧州はなすべきことをなさねばならない」と語り、すみやかに必要な判断を下すため、10月のEU首脳会議で協議する考えを示した。財政緊縮策の緩和を念頭にした発言とみられる。(後略)【8月26日 産経】
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ギリシャのサマラス首相は独仏などEUの同意を取り付けられるか・・・という問題と同時に、国内的に財政緊縮策を実行できるか・・・という問題もあります。ギリシャ国内には、先の2回の総選挙で示されたように、緊縮策への強い不満があります。
連立与党内の取りまとめにも苦労しているようです。

****緊縮策の最終調整が難航=低所得者負担で一致せず―ギリシャ****
ギリシャのサマラス首相は29日、欧州連合(EU)などと合意した緊縮財政策の具体策をめぐり、政権に協力する左派2党の党首と会談した。だが低所得者の年金削減などで調整が難航、最終決定に至らなかった。同国への支援を判断するEUなどの財政監視団との協議を来月に控え、首相はぎりぎりの調整を続ける。

ギリシャからの報道によると、ストゥルナラス財務相は会合後、「細かい技術的な問題」が残っているとしながらも、緊縮策の大枠は政治合意に達したと語った。
しかし、全ギリシャ社会主義運動(PASOK)のベニゼロス党首は、緊縮策の詰めの協議を続けると指摘。民主左派のクベリス党首は「低所得者がこれ以上負担を負うべきではない」とし、最終合意はできていないとの認識を示した。【8月30日 時事】 
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国民の理解を得ることを更に難しくしそうな政治家の不祥事も発覚しています。

****ギリシャ議会で「身内雇用」続々…禁止法策定へ****
ギリシャ議会で、議員の身内が職員に採用されるケースが次々に発覚し、財政危機による失業増に苦しむ国民の猛反発に遭っている。
サマラス首相は23日、法務省に対し、議会の「身内雇用」を禁じる法案を来週中に策定するよう指示した。

同国では8月上旬、与党・新民主主義党(ND)議員の娘が議会職員に採用されていたことが報道で判明。この議員は、5月議会選後に再選挙が決まり、1日だけ招集された暫定議会で議長に就いた権限を使い、自身の娘を雇っていた。その後も、野党「独立ギリシャ人」のカメノス党首や、別のND議員の親類が、それぞれ職員に採用されていたことが発覚した。

同国の失業率は約23%、若年層では約55%に達し、財政再建のため公務員数削減も求められている。【8月26日 読売】
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【「改革はいつでも短期的に経済の縮小をもたらすが、将来的にはより良い足場を築く」】
一方、財政再建に関し、緊縮政策に取り組み支援を受けたときの約束をきちんと果たしたとして“欧州の手本”とも評されているのがポルトガルです。

****緊縮財政を乗り切る欧州の手本ポルトガル****
欧州債務危機の救済劇の結果は国によってさまざまだ。ギリシャは度重なる支援を受けながら、緊縮条件は拒否している。
スペインは、失業率24%の国が緊縮財政で繁栄を取り戻せるかどうかの試金石になるだろう。

そして忘れられがちなのがポルトガル。地中海諸国より小さく大ニュースも少ない欧州辺境の国。それが緊縮政策に取り組み支援を受けたときの約束をきちんと果たした。
昨年5月、巨額の財政赤字と市場の不信に直面したポルトガルは、EUとIMFから総額780債ユーロの金融支援を受けることで合意した。

以降、ポルトガル政府は公務員の給与を削減し、高額年金受給者の手当を減らし、所得からガソリンまであらゆる 税を増税した。
効果はあった。対GDP比の財政赤字は09年の10.2%から11年の4.2%に激減した。今年1~6月期の財政赤字は41億ユーロで、金融支援の条件をはるかに下回った。

副作用も強かった。
今年のGDPは年マイナス3%の勢いで収縮し、6月の失業率は15・4%に上昇した。
それでもポルトガルが何とか持っているのは、暴動やEUなどへの反発がないおかげだ。スベインより単一民族に近く、ギリシャのように先鋭的な政治対立がないのも幸いだった。

そして何より、外国の資本を引き付け、国外市場に輸出をする能力があった。ポルトガルは再び大航海時代に突入したかのようだ。最大の貿易相手国のスベインが不況に苦しむ間、急成長中の旧植民地、アンゴラやブラジルなどに工業製品や農産物を輸出している。今年6月の輸出は前年同月より9.2%増加。13年には貿易黒字も夢ではない。

サービス産業は逆に、先進国の経済不振のおかげで潤っている。バカンス客はヨーロッパ人もアメリカ人もポルトガルを目指してやって来る。南東部の町エボラの修道院を改築した高級ホテルでも、一泊たったの250ドルと安いからだ。

ポルトガルの努力は、格付け会社も認めている。だが、最も重要な債券市場はまだ認めていない。財政を立て直せば、国債の利回りは下がってポルトガルも自力で利払いができるようになるはずだった。しかし、10年物国債の利回りは今も10%を上回ったまま。その理不尽さはまるで、公正に戦って勝ったのに、審判に負けを言い渡されたオリンピック選手のようだ。【8月29日号 Newsweek日本版】
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“最も重要な債券市場はまだ認めていない”とはありますが、市場もポルトガルの財政改革を評価しているようです。

****ポルトガル国債の保証コスト低下、投資家が財政改革を評価****
ポルトガル国債に対する投資家の信頼感が、この1年余りで最も高い水準に達している。同国経済は緊縮措置の下で苦しんでいるものの、市場は政府の財政改革を評価している。

15日のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場では、ポルトガル国債の保証コストが746ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)に低下。1月は1515bp、5月は1237bpだった。CDSスプレッドの年初来の低下幅は、世界の国債でポルトガルが最も大きく、この1カ月ではアイルランドに次いで縮小している。

経済縮小や失業者増にもかかわらず、支出削減や増税で財政は軌道に戻るとの楽観的な見方が広がる中、市場が織り込むポルトガルのデフォルト(債務不履行)率は73%から48%に低下した。同国政府は780億ユーロ(約7兆6000億円)規模の救済支援の条件を履行し、債券市場に来年復帰することを目指している。

アライアンス・バーンスタインの欧州債券担当ディレクター、アリフ・フセイン氏(ロンドン在勤)は「ポルトガルは欧州プログラムの成功例だ」と述べた上で、「極端に間違った方向に進まない限り、改革はいつでも短期的に経済の縮小をもたらすが、将来的にはより良い足場を築く」と語った。同社の運用資産は4070億ドル(約32兆2000億円)で、ポルトガル債も保有している。【8月16日 ブルームバーグ】
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ポルトガルのコエリョ首相は7月11日、施政方針演説において、財政再建に引き続き取り組む決意を語っています。

****ポルトガル、財政再建で引き続き欧州諸国の模範に=コエリョ首相****
ポルトガルのコエリョ首相は11日、緊縮財政履行には大きなリスクが伴うものの、同国は財政再建で引き続き、他の欧州諸国の模範とならなければならないと表明した。

首相は施政方針演説で「何よりも、われわれには、自国の問題が他国によって解決されるべきだとは考えられない。努力と関与を通じて、引き続き欧州諸国の模範となる必要がある。責任を果たし、難局を乗り越えられると言明できる」と述べた。

中道右派政権が進める緊縮財政により、過去1年間に金融状況は改善されたとし、依然として「前例のない危機」が続くなか、この路線を変更することはできないと語った。
政府として、今年と来年の赤字目標達成に向け、全ての措置を講じる方針を確認。憲法裁判所の判断により実施が阻まれた公務員の給与カットについて、代替策を模索する意向を示した。【7月12日 ロイター】
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もっとも、ポルトガルの改革が順調という訳ではなく、緊縮策による経済縮小で税収が落ち込み、財政赤字削減目標達成が困難となる事態も起きています。

****1─7月のポルトガル公的部門赤字は前年比39%減、税収減で財政目標達成困難に****
ポルトガル財務省が23日発表した1─7月の中核公的部門財政赤字は前年同期比39%減の39億8000万ユーロとなった。一方で、税収入が減少し、2012年の財政赤字削減目標の達成が難しくなった。

1―7月の税収は3.5%減の177億8000万ユーロ。歳入全体は、銀行の年金基金の国庫への移管が寄与し11.4%増の231億7000万ユーロとなった。

財務省報道官は「税収の不足分全てを埋めることは望めないが、一部は歳出削減によって相殺される。現行の計画を進め、年末までに赤字を対国内総生産(GDP)比4.5%とすることは難しくなっている」と述べた。
ポルトガルには来週、欧州連合(EU)、国際通貨基金(IMF)、欧州中央銀行(ECB)の調査団が訪れ財政改革の進ちょくを調査する。【8月24日 ロイター】
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緊縮策→経済縮小→税収減少→財政赤字という悪循環におちいると、国民生活は疲弊し、改革も続けられなくなります。財政再建のための努力と、ギリシャ・サマラス首相の言う“息継ぎの時間”や、オランド仏大統領が大統領選挙選で主張した成長戦略とのバランスが難しい判断です。

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