孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

メキシコ「麻薬戦争」  紛争地並みの犠牲者 圧殺されるジャーナリズム 標的とされる活動家

2017-05-16 21:01:35 | ラテンアメリカ

(メキシコの首都メキシコ市の貧困地区で多くの若者に暴力とドラッグ漬けの生活から抜け出す道を提供するワークショップ「FARO」で学ぶ地元住民 【5月5日 AFP】)

紛争地の武力衝突と同レベルの犠牲者
イギリス際戦略研究所(IISS)が5月9日に発表した報告書によると、武力紛争・殺人等による2016年の死者は、世界で15万77000人とにのぼるとのことです。

当然ながら紛争による死者が大半で、シリアやイラク、アフガニスタンなど、世界10か所の紛争地帯での死者が全体の8割を占めています。

そうした中で“異彩を放つ”のが、紛争地でもないメキシコがシリアに次ぐ2番目の死者を出していることです。
これまでも再三取り上げてきた麻薬カルテル同士の争い、いわゆる「麻薬戦争」の結果です。

報告書は「大型兵器が使われていないメキシコでの大量の死者は争いの激しさを物語る」と指摘しています。【5月9日 読売より】

****メキシコの殺人事件、16年は2万3000件 内戦のシリアに次ぐ2位****
メキシコで昨年に発生した殺人事件の件数が、内戦が続くシリアに次いで世界で2番目に多かったことが、英シンクタンク「国際戦略研究所(IISS)」が9日に発表した報告書で明らかになった。麻薬カルテルによる暴力が蔓延しているためという。
 
メキシコで2016年に発生した殺人事件は2万3000件と、2011年に内戦が始まったシリアの6万件に次ぐ数字となっている。
 
IISSは「犯罪の暴力が武力衝突と同じ水準に達するのは非常にまれだ」と指摘している。
 
治安の悪さで知られるホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドルの3か国を指す中米の「北部三角地帯(Northern Triangle)」では、昨年の殺人事件の発生件数が計1万6000件で前年比で減少しているが、メキシコは同時期に11%増えている。
 
IISSは報告書で、2006年12月に当時のフェリペ・カルデロン大統領が麻薬カルテルを撲滅するため「麻薬戦争」を宣言したことに端を発して暴力が拡大したと指摘。「結果として衝突が起き、メキシコに悲惨な状況をもたらした。その月(2006年12月)から2012年11月までに意図的な殺人で10万5000人が死亡した」と述べている。
 
カルデロン氏は、後任のエンリケ・ペニャニエト現大統領が麻薬密売組織を武装解除させるという公約の実現に失敗したため、その後も殺人事件の件数が高止まりしていると主張している。【5月10日 AFP】
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殺人の頻度では中米の「北部三角地帯」がメキシコを大きく凌いでいますが、犠牲者の絶対数となると人口の多いメキシコが・・・・というところです。

麻薬組織と司法・警察との癒着
カルデロン前大統領が軍を動員して行った麻薬組織との戦いが結果的に多数の犠牲者を出し、治安が極度に悪化したことで、そうした国民不満を背景に当選したペニャニエト大統領は、前政権のような麻薬組織との力による正面対決は避けていますが、治安の改善には至っていないようです。

「麻薬戦争」がはびこる背景には、麻薬組織と司法・警察との癒着の構造もあります。(すべての司法・警察関係者が・・・という訳ではないでしょうが)

****メキシコの検事総長を米サンディアゴで拘束、麻薬取引に関与か****
メキシコの太平洋岸に位置するナヤリ州の検事総長(45)が27日、麻薬取引に関与した疑いがあるとして、米サンディエゴで拘束された。米連邦当局が29日、明らかにした。

ニューヨーク・ブルックリン区の連邦大陪審が27日、3件の罪で容疑者を起訴した。

サンディエゴの米連邦捜査局(FBI)報道官によると、FBIと麻薬取締局(DEA)、国土安全保障省の捜査局によって身柄を拘束され、28日にサンディエゴの連邦地方裁判所で審問された。

起訴状によると、2013年1月から2017年2月に、ヘロインやコカイン、大麻(マリフアナ)などを米国在住の知人らとともに製造、輸入、流通させた疑いがあるという。【3月30日 ロイター】
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検事総長が麻薬取引に関与していては、麻薬組織の摘発などは到底望めません。

力によるジャーナリズムの圧殺
また麻薬組織は、その犯罪を公にしようとするジャーナリストを殺害することで、社会的批判を封じ込めています。

*****麻薬組織取材の記者殺害=今年5人目-メキシコ****
メキシコで麻薬組織を取材する著名ジャーナリスト、ハビエル・バルデス氏(50)が15日、射殺された。同国での記者の犠牲者は今年5人目。

ペニャニエト大統領はツイッターで「表現の自由が侵されてはならない」と述べ、捜査を急ぐように指示した。
 
地元メディアなどによると、バルデス氏は組織犯罪が横行するシナロア州を拠点に活動。麻薬王ホアキン・グスマン受刑者の記事などを執筆した。約30年の記者経験があり、2011年には米民間団体「ジャーナリスト保護委員会」から表彰された。
 
麻薬組織の凶行が絶えないメキシコでは、00年以降、100人以上の記者が死亡している。国際ジャーナリスト団体「国境なき記者団」によると、16年はシリア、アフガニスタンに次いで、記者の犠牲者が多かった。【5月16日 時事】
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こうした麻薬組織の“力の誇示”“脅迫”によって、多くのジャーナリズムは麻薬犯罪から目をそらす形にもなっています。

****事件報道自粛、今は耐える マフィア圧力、メキシコの新聞社****
米国国境に接するメキシコ北東部ヌエボラレド市の新聞社。社屋はまるで要塞(ようさい)に見えた。

政府と麻薬密売組織との攻防が繰り広げられて治安が悪化。犯罪を伝える新聞社がマフィアによって銃撃された。1987年5月3日、記者2人が殺傷された朝日新聞阪神支局襲撃事件から30年になるのを前に、暴力によって事件報道が消えた街を訪ねた。
 
32年創立の地元新聞社エル・マニャーナ。受付は防弾ガラス、編集室に入る扉は厚さ約5センチの鋼鉄製、鍵は指紋認証だ。市民に開かれた新聞社はある日を境に頑丈な扉で閉ざされた。
 
2006年2月6日夜、メキシコの憲法記念日の祝日だった。約10人の記者がいた編集室に男数人が侵入。突然、銃を乱射して手投げ弾を炸裂(さくれつ)させた。1人が被弾し半身不随になった。
 
「次書けば殺す」。04年ごろから、マフィアの記事が載ると記者が脅迫され始めた。麻薬密売や殺人、発砲……。記事を書けば警察や軍が取り締まり強化に動く。マフィアにとっては都合が悪い。04年3月には論説委員が自宅前で殺された。
 
同社は襲撃事件後、「マフィア報道は縮小し、身の安全を最優先に」と記者たちに伝え、全員に生命保険もかけた。同社は12年にも2度銃撃され、朝刊1面で「マフィア関連の事件は一切報じない」と宣言した。

「記事が同僚を危険にさらすのなら」。ダニエル・ロサス編集長(45)は、そう自分に言い聞かせた。
 
最近はマフィア側が電話で紙面内容を指示するようになった。市内には新聞やテレビ、ラジオが計20以上あるが、マフィアが絡む事件報道は消えたという。
 
だが、ニンファ・カントゥー編集局長(53)は諦めていない。「ジャーナリズムの力を信じている。いつか書ける日が来る時のため報道の灯を絶やさないよう今は必死に耐えている」【4月27日 朝日】
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自分や家族・同僚の命が危険にさらされていますので、いたしかたないところではあります。

ただ、麻薬組織の実際の凶悪さ・卑劣さが明らかにされないことで、人々の間にある麻薬組織での“成功”を英雄視する風潮を助長し、組織の拡散にもつながっています。

果敢に戦い続ける人々も
そうした厳しい状況でも、ペンを折ることなく、命がけで麻薬組織の犯罪を追及するジャーナリストも存在します。

****死の脅迫」受けても・・・・ペン握り続けるジャーナリスト メキシコ****
殺害された同僚の死を悼むメキシコ人記者のノエ・サバレタさん(36)。自らも幾度となく殺人の脅迫を受けているが、記者の仕事をやめる気はない。
 
紛争地を除けば、メキシコはジャーナリストにとって最も危険な国だ。だがサバレタさんが記者をやめるには、腐敗や暴力など、報じるべきニュースがあまりにも多すぎる

「同僚の埋葬もしたし、他の仲間たちが国を去っていくのも見てきた。だが、それ(脅し)が自分に向けられるとやっぱりパニックになる」と、彼は出身地の東部ベラクルス州の州都ハラパで語った。
 
メキシコのその他大勢のジャーナリストと同様に、彼も組織犯罪について報じているため、これまでに何度も脅迫を受けてきた。

それでも、調査報道週刊誌「プロセソ」に、政治家と組織犯罪の関係、汚職、集団墓地について記事を書くことをやめることはない。
 
サバレタさんは2012年に殺害された記者の後任としてプロセソに入った。その時、以降に待ち受けるものへの覚悟はできていた。彼の前任者のレッジーナ・マルチネスさんは、ベラクルス州当局の汚職と権力乱用について報じ、その後に殺害された。事件はまだ解決に至っていない。
 
2015年には、一緒に働いていたフォトグラファーのルーベン・エスピノサさんが殺害された。エスピノサさんは当局者から脅迫を受け逃亡したが、首都メキシコ市で殺害された。
 
サバレタさんも昨年、汚職が指摘されていた元州知事について記事を書き、脅迫を受けた。事務所や自宅、恋人の家の周りをうろつく見知らぬ男たちの存在に気づき、パニックになったと話す。「何をどうしたらいいか分からなくなった」
 
彼はメキシコ市へと逃げ、脅迫されたことを連邦治安当局に通報した。彼には半年の間、警備員が2人ついた。身に危険が及んだ際、当局に知らせる非常ボタンは今でも持ち歩いている。

「私はまだ仕事をしている」と笑みを浮かべるサバレタさん。「もし私がまた脅迫を受け、また逃げる必要があり、そしてまたそれを公にする必要があるのであれば、それが私のやるべきことだ」

■殺害されるジャーナリストたち
国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」は、メキシコを世界で3番目に死亡リスクの高い国と位置付けている。その危険性は、シリアとアフガニスタンに次ぐものとされ、事実メキシコでは2000年以降、102人のジャーナリストが殺害されている。うち20人はベラクルスで殺されたという。
 
人権擁護団体「Article 19」によると、過去10年間にジャーナリストらが受けた脅迫のうち、確認されているものについては半数以上が当局者から送りつけられたものだという。また同団体は、ジャーナリスト殺害事件の99.75%が未解決であるとしている。
 
サバレタさんは自身の活動を後押ししたあるジャーナリストのことを語ってくれた。Zeta誌のディレクターとしてティフアナ州での麻薬取引を調べていたヘスース・ブランコルネラスさんだ。
 
ブランコルネラスさんは1997年、反社会勢力によるものとみられる襲撃で負傷した。その後、2006年にがんで亡くなるまで、軍の警護の下で家と職場とを往復した。
 
サバレタさんは、かつてブランコルネラスさんが敵に向けて言っていた言葉をよく覚えているという。「私は自分がやめたいときにやめる。君がそうしてほしいときではなくて」 【5月16日 AFP】
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こうしたジャーナリズムの他、貧困地区で多くの若者に暴力とドラッグ漬けの生活から抜け出す道を提供する活動を行う人々も存在します。

****ドラッグやギャングから若者救うメキシコの「灯台****
薬物依存症患者だったフェルナンド・リベラさん(24)は、メキシコ市の貧しく、暴力が絶えない郊外の街で地獄のような青春時代を過ごした──そんな状況から彼を救い出したのは「アート」だった。
 
過去に依存者のためのリハビリ施設に入所していたことがあるというリベラさん。その後、アートと工芸のネットワーク「FARO」にたどり着いた。

FAROは、市内にあるアート関連施設を結ぶネットワークで、薬物や暴力にまみれた生活から、リベラさんのような若者を数千人と救ってきた。FAROは、スペイン語で灯台を意味する。
 
スカル(どくろ)のデザインがあしらわれたマスクを笑顔で見せてくれたリベラさん。スプレー缶を使って絵を描く時に使うのだと説明した。FAROとの出会いは「難破した船がやっと避難場所を見つけたようなものだ」と語った。
 
FAROは、首都メキシコ市郊外のサンタ・マルタ・アカティトラ地区の倉庫街にある。以前は、犯罪に巻き込まれた犠牲者の遺体がしばしば発見されるような場所だった。
 
FAROが無償で提供するアートや工芸、演劇や文学のワークショップには、地元市民約2000人が参加している。リベラさんがここで初めて写真のコースを受講したのは6年前。以降、メキシコの地方の風習を撮影するため国内各地を旅している。
 
そして、その体験から社会人類学に興味を持つようになり、現在は大学レベルで学んでいる。FAROがなければまったく違う人生になっていたとAFPの取材にコメントした。【5月5日 AFP】
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厳しい現実
こうした人々の勇気・善意によって、麻薬犯罪もやがては・・・・と言いたいところではありますが、現実は厳しく、麻薬組織の銃弾はこうした人々へも躊躇なく向けらます。

****娘を殺害され犯罪被害者の会で活動の女性、射殺される メキシコ****
メキシコで、実娘を殺害した犯人らを刑務所に入れるために奔走し、その後、犯罪被害者たちを支援する運動を行っていた女性が、襲撃犯らに銃で撃たれ、死亡した。当局が明らかにした。
 
ミリアム・ロドリゲス・マルティネスさんは2012年に娘を殺された後、北東部タマウリパス州で犯罪者に法の裁きを受けさせるための運動などを行っていた。

ロドリゲスさんが参加していた団体によれば、ロドリゲスさんは10日夜、同州サンフェルナンドで複数の襲撃犯に数回にわたって銃で撃たれたという。
 
タマウリパス州の行方不明者の捜索活動を行う市民団体は11日、ロドリゲスさんは襲撃された後、病院に搬送される途中で死亡したと声明で発表した。
 
タマウリパス州の検察官は記者会見でロドリゲスさんが死亡したことを認めると共に、現在、当局が捜査を進めていることを明らかにした。
 
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは声明を発表し、ロドリゲスさんの死は「メキシコで行方不明になっている3万人以上を捜している人々が日常的に直面している危険を示している」と述べている。【5月13日 AFP】
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事態改善への道は険しいようです。
最大消費地アメリカにおける旺盛な麻薬需要がある限り、隣国メキシコにおける供給組織根絶は難しいようにも思われます。

おそらく「壁」の建設も、新たな抜け道を生むだけで、抜本的な解決にはならないでしょう。
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