孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  モディ政権のもとで強調されるヒンズー的価値観  インド社会に渦巻くカオス

2015-10-11 22:32:15 | 南アジア(インド)

(牛を殺して食べたと疑われ、集団暴行を受けて死亡したイスラム教徒の男性の遺族【10月6日 WSJ】) 

【“牛”をめぐる宗教的不寛容
宗教的不寛容と言えばテロを繰り返すイスラム原理主義が連想されますが、別にイスラム教に限った話でもなく、キリスト教徒にも原理主義は存在しますし、ミャンマーの仏教徒にもイスラムに対する不寛容差を強める動きがあります。

インド・ヒンズー教では神聖視する牛を食べないというのは良く知られた習慣ですが、牛を殺した・食べたということで人間が殺される・暴行される事件が相次いでいます。

****牛食べた」と疑われた男性、約100人から暴行受け死亡 インド****
インドの警察当局は30日、ヒンズー教で食べることが禁じられている牛肉を食べたという流言を流されたイスラム教徒の男性(50)を集団で殴って殺害した容疑で、6人を逮捕したと明らかにした。

警官幹部がAFPに語ったところによると、死亡したのは、ムハンマド・アクラクさん(50)。今月28日に首都ニューデリー郊外にある家から引きずり出され、約100人から暴行を受けた。

この警官幹部は「警官らが現場に到着した時、群衆がアクラクさんの家の前にいた。警官らはアクラクさんを何とか救出し病院に搬送したが、命を助けることはできなかった」と述べ、「6人を逮捕し、さらなる影響を食い止めるために追加の人員を配置した」と明らかにした。

アクラクさんの息子(22)も襲撃で重傷を負い、近隣の病院で集中治療を受けている。

インドにはイスラム教徒やキリスト教徒、少数の仏教徒も暮らしているが、人口の大半をヒンズー教徒が占めており、多くの州で牛を殺すことが禁止されている。【9月30日 AFP】
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****牛解体疑いイスラム教徒に集団暴行、21人逮捕 インド*****
インド北部ウッタルプラデシュ州でイスラム教徒の男性2人が、ヒンズー教国で神聖な動物とされる牛を解体したとの理由で暴徒に襲撃され、暴力に加担したとみられる男21人が逮捕された。

10日のインド紙タイムズ・オブ・インディアなどによると、9日に牛が解体されたという噂が広まると、約500人が竹槍やこん棒を持って集まり、イスラム教徒たちの店に放火した。

警察は催涙ガスなどを使ってこれを鎮圧した。暴徒に殴られるなどしたイスラム教徒男性2人は重傷を負い、病院で治療を受けている。

事件後の調査で、この牛は病気などの理由で死んでからしばらく経っており、暴徒に襲撃されたとき、男性2人は皮をはいでいただけだったという。

インドでは、ヒンズー至上主義のナレンドラ・モディ首相が就任して以来、イスラム教やその他の少数派宗教に対する不寛容が増しているとして、物議を醸している。

ウッタルプラデシュ州では最近も牛を食べたことを疑われたイスラム教徒の男性(50)が殺害されている。【10月10日 AFP】
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****牛肉めぐり宗教間に亀裂=議場で暴行、殺人や放火も―インド****
インド北部で牛肉消費の是非をめぐり、宗教間の亀裂が広がっている。

ジャム・カシミール州議会では、牛を神聖視するヒンズー教徒の議員らが「牛肉禁止」に反対するイスラム系議員を暴行。(中略)

「食べたいものを食べる権利がある」。イスラム教徒でジャム・カシミール州議会のラシード議員は8日、州高等裁判所が牛の食肉処理などの取り締まりを命じたことに反発し、「牛肉パーティーを開いた」と明らかにした。

BJPの議員数人がこれに激怒。議場内でラシード議員につかみかかる騒ぎとなった。(後略)【10月11日 時事】 
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ヒンズー保守派を煽る与党BJP
周知のように、インド及びパキスタンの分離独立以来、ヒンズー教徒とイスラム教徒の間では凄惨な衝突が繰り返されており、そうした宗教対立が根底にある話ですが、記事にもあるように、ヒンズー至上主義のモディ首相就任以来、ヒンズー教徒のイスラムに対する不寛容・攻撃的姿勢が増長しているようにも思われます。

この点は、経済手腕が期待されたモディ首相就任にあたって懸念されていたことですが、現実のものとなっているようです。

また、攻撃的なミャンマー仏教徒の場合もそうですが、イスラム教徒の人口増加への不安感もあるのかも。

****ヒンズー教徒人口8割切る 世界第2の人口のインドで****
ヒンズー教徒が多数派を占めるインドで、イスラム教徒が増え、ヒンズー教徒の人口比率が1951年の調査開始以来、初めて8割を切ったことが、インド政府が発表した国勢調査で明らかになった。

25日発表の2011年時点での調査結果によると、10年前と比較したヒンズー教徒の増加率は16.8%で、総人口約12億1千万人に占める割合は0.7ポイント低い79.8%になった。イスラム教徒の増加率は24.6%で人口比率は0.8ポイント増え14.2%になった。

26日付のインド各紙によれば、宗教別人口は昨年1月時点でまとまっていたが、当時の国民会議派政権が、同年5月に開票された総選挙への影響を考慮して発表を差し控えた。

今回は、ヒンズー至上主義のインド人民党(BJP)現政権が、秋以降の地方議会選を前に結果を発表したという。BJPには、ヒンズー保守派の危機感に訴え、議会選を有利に進める狙いがありそうだ。インドは中国に次ぐ世界第2の人口大国。【8月26日 産経】
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本来はこうした宗教間の緊張を和らげる対応が政府に期待されるのですが、ヒンズー至上主義のモディ首相の場合、ヒンズー至上主義者の活動を黙認しているとも言われています。

そうしたモディ政権のもとで、政治的・行政的にもヒンズーの価値観にそった施策が進められています。

****牛の「顔写真」提供を要請、殺害防止で インド西部の都市****
インド西部マハラシュトラ州のマレガオン市当局は4日までに、牛を飼う住民に対し牛の「顔写真」を撮影して、地元警察に届けることを要請した。

同州政府が最近施行した、州内で牛の売買や牛肉の消費を禁じる新たな法律を受けた措置。同州では、牛を神聖視するヒンドゥー教徒が最大の宗派となっている。(中略)

マハラシュトラ州の新たな法律は雄牛や去勢牛の殺害禁止も盛り込んでいる。肉の消費や販売を行った者は禁錮5年の罰則を受ける。ただ、水牛を殺すことは認められている。

同州内の牛関連業者などは今回の新法に反発、1カ月にわたるストも打ち出した。これら業者は水牛を殺すことも拒否し、牛の仲間の肉は全て州内から根絶することを目指していた。州の高等裁判所へ控訴する構えも見せている。

牛の殺害禁止を命じる法律はマハラシュトラ州だけでなく、ハリヤナ州でも施行されている。同州では違反者に対し最大で禁錮10年の判決も想定している。この種の量刑ではインドで最も重い罰則となっている。【4月4日 CNN】
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冒頭の9月30日の集団暴行事件に関しても、
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BJPの幹部、タルン・ビジェイ氏は前週、日刊紙インディアン・エクスプレスのコラムで、「疑念だけに基づいて集団暴行することは全くの誤りで、インドの国民が同意する考えやヒンズー教の教えに反する」と述べた。

これに対し、ニューデリーに拠点を置くシンクタンク、政策研究センターのプラタプ・バーヌ・メータ所長は翌日の同紙コラムで、ビジェイ氏の考えは「単なる疑いだけでなければ、集団暴行は問題ないと言っているように聞こえる」と反論した。【10月5日 WSJ】
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インド社会の様々なひずみ
一般論で言えば、宗教的不寛容さにのめり込む人々の背景には、社会に対する不満、甘い汁を吸っている者がいる一方で、自分たちは社会的に疎外されているという不満あり、反論・否定が難しい宗教的「正論」を掲げることで、そうした社会に対し自分たちの力を誇示する・・・といった側面もあるように思われます。

それにしてもインド社会は、宗教対立だけでなく、様々なひずみ・問題を抱えています。
ここ2か月ほどの間に印象に残った記事をアトランダムに並べると、その深刻さが浮かび上がってきます。

****魔女狩りで家族6人を殺された少年、心の傷癒えず インド****
インド東部にある子供たちを保護するシェルターで暮らすガニタ・ムンダ)さん(17)は、家族が魔女狩りのギャングたちに殺された時に上げた悲鳴に取りつかれている。(中略)

「私はここにいるべきではない。今でもどうやって(生き延びたか)分からない」と、7月に起きた襲撃について語った。この襲撃では、両親と3歳の幼児を含む4人のきょうだいが殺された。

ナイフを持った村人たちがガニタさんの家族を狙ったのは、彼の母親が「魔女」の烙印(らくいん)を押され、村の子供たちの間で流行していた病の責任を負わされたからだ。

このような「魔女狩り」は、インドの迷信深い田舎の地域で年に何回も起きており、当局はこの問題に対処していないとして非難されている。

政府の最新の統計によれば、魔術と関連した殺人事件が2014年、インドの13州で約160件発生し、うち32件がオディシャ州で起きた。近年、この数字に大きな増減はなく、2000年以降、約2300人が殺され、その大半が女性だという。

同州に昨年導入された、魔術関連の犯罪対策を目的とした特別法の実施に当たっている地元警察の幹部は、「これからも続くだろう。人里離れた地域では、病気や凶作、動物の死、個人的な災難などはなぜか、魔術あるいは黒魔術といった超自然的な力と関連づけられるからだ」との見方を示した。

■法整備だけでは不十分、迷信と闘うための教育を
一方、専門家らは法整備だけでは十分ではないと指摘し、暴力につながるような迷信と闘うための教育を行うべきだとしている。

「健康、司法、農業などに関する無知が、犠牲者を生む根本的な問題だ」と、人権活動家のSashiprava Bindhani氏は同州の州都ブバネシュワルで語った。

急速に現代化が進むインドでは、主に部族や先住民族が暮らす多くの貧しい地域は無視されてきたが、魔術関連の犯罪が起きているのはこうした地域だ。近代的な病院など基本的な社会サービスが不足していることから、不運や病気を黒魔術のせいにする偽医者に通い続ける村人もいる。

「情報や基本的サービスの不足を解消しないと問題は解決しない」と、Bindhani氏は語った。
 
魔女狩りはまた、家庭内のいざこざや土地をめぐる争いを解決するための言い訳としても使われている。家父長的な村では、不当に非難され標的にされるのは、ほとんどの場合、女性だ。(後略)【10月2日 AFP】
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****デング熱感染、首都で急増=病床不足で男児死亡、両親自殺―インド****
インドの首都ニューデリーでデング熱の感染患者が急増している。16日までに確認された患者数は1800人を超え、過去5年間で最悪の水準。病床不足も深刻化しており、病院をたらい回しにされた男児(7)が死亡した後、両親が自殺する悲劇も起きている。

「患者の受け入れ拒否は許さない」。デリー首都圏政府のジェイン保健相は14日、急増するデング熱患者に対応するため、市内の病院に新たにベッド1000床を発注するよう指示した。

ニューデリーでは8日、デング熱感染の疑いがあった7歳の男児が、5カ所の病院に受け入れを拒否された末に死亡。一人息子を亡くした両親は翌日、4階建ての建物から飛び降りた。地元メディアによると、2人は互いの腕を縛っており、遺書とみられるメモには「誰の責任でもない。自分たちで決めたことだ」と記されていた。

市内の病院では待合室の床にも患者があふれる。13日にも男児(6)が数カ所の病院をたらい回しにされた揚げ句、病状を悪化させて死亡した。

首都圏政府は患者の受け入れを拒否した場合は厳しく対処すると強調。公立病院の医師や看護師に対し、休暇を返上して職場に戻るよう命じた。【9月16日 時事】 
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社会資本整備の遅れという問題以外にも、職業倫理の問題、貧困者の命の軽視といった問題もありそうです。

****インドでレイプ被害者の射殺相次ぐ、男2人を逮捕****
インド警察は14日、北部ウッタルプラデシュ州でレイプ被害者の女性らを射殺した疑いで、男2人を逮捕した。当局が発表した。

容疑者らは、同州のマウとシタプールの両地区で先週末に別々に起きた女性2人の射殺事件に関与したとみられる。両事件を受け、同国ではレイプ被害者の安全をめぐる懸念が生まれている。(中略)

レイプ容疑者が被害者を脅迫する事例はインドでは珍しくなく、多くの被害者が泣き寝入りを余儀なくされているが、殺人事件に発展するケースはまれだ。【9月15日 AFP】
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女性蔑視に根差す「レイプ大国」インドの問題は近年クローズアップされていますが、そこにカーストによる差別が加わると更に悲惨な状況となります。

ただ、カーストの問題は単純ではなく、低位カーストへの優遇策をうらやむ動きもあります。

****後進諸階級に入りたい!」インドのカースト集団が暴動 入学や雇用の優先枠持つ別階級組み入れ求め****
インド西部グジャラート州で26日、カースト制度の第3の階級「バイシャ」に属する集団数十万人が、大学への入学や公的機関での雇用で一定の優先枠を持つ「その他後進諸階級(OBC)」への組み入れを州政府に求めてデモを行い、一部が暴徒化して警察と軍の治安部隊と衝突、市民と警官計8人が死亡する事件が起きた。

この州はモディ首相のおひざ元で、モディ氏の支持基盤を揺るがしかねない事態になっている。

この集団は「パティダール」と呼ばれる商人や農民を中心とするバイシャ内の副次的な階級層で、州の人口の約4分1を占め、多くが同じ「パティル」姓を名乗っている。州政府の首相や閣僚が輩出し、強い政治的影響力を持つ。

支持政党は、かつては現野党の国民会議派だったが、現在はモディ氏与党のインド人民党(BJP)に変わっている。

BJP所属のパティル州首相は集団の要求を受け入れず、話し合いを求めたが、警察施設やBJP幹部の事務所、自宅が襲撃された。デモの指導者は、このままでは2年後の州議会選でBJPが勝つことはないと迫った。

グジャラート州はモディ氏の出身地で、氏が首相に就任するまで州政府首相を務めた地域だ。昨年5月開票の総選挙では、州内全26議席をBJPが独占した。

それだけに、モディ氏は今回の問題を深刻に受け止めており、テレビを通じ「暴力に訴えるべきではない」と平静を呼びかけている。【8月27日 産経】
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経済成長著しいとされるインドですが、雇用情勢には厳しいものがあるようです。
そうした厳しい雇用情勢にあって、特権的な待遇を享受しているのは「お役人」というのはインドだけではないでしょう。

****お茶くみ職に7万5千人殺到、公務員人気で インド****
インドの地方当局が、お茶くみなどを行う召使い30人を募集したところ、7万5000人もの応募が殺到したため、採用計画を中止する事態となった。応募者の中には資格を持つ技術者や経営を学んだ大卒者もいたという。

求人広告を出したのは中部チャッティスガル州の経済・統計局。募集されたのは「ピューン」と呼ばれる召使い職で、月給1万4000ルピー(約2万5000円)とされていた。

同局のアミターブ・パンダ局長によると、オンラインでの応募が7万人、直接持ち込みの応募が5000人に達したため、志願者向けに計画していた試験は中止された。

同局長は25日、AFPに対し「現実とは思えない」と語り、求人の全行程を見直していると述べた。志願者は2000~3000人を想定していたという。

英国の植民地支配の遺産であるインドの巨大な官僚組織は、民間企業と比べ特に安定した雇用の場とみられており、その人気は最も低いレベルの仕事であっても高い。

応募者らが職を得るために数千ルピーの賄賂を支払っているとの情報もたびたび伝えられている。【8月26日 AFP】
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「新興国」として、その経済成長が期待されるインドですが、その社会には深淵なカオスがいまだ存在しているようです。

そうしたカオスの中で生きる人生の苦しみが仏教のような宗教を生み出したのでしょうが。

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