孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イエメン  内戦を複雑化させる南部分離派の動向 サウジアラビアの思惑は? 「手に負えない」コレラ

2017-07-13 22:17:27 | 中東情勢

(急増するコレラの患者を治療するため、国境なき医師団がイエメン北部ハッジャ州に設けたコレラ治療センター(国境なき医師団提供)【7月13日 朝日】)

前アデン知事らの南部分離派、イエメン政府を批判し公然と分離の意向を表明
アラビア半島先端に位置する中東最貧国イエメンは従来より、南部の分離独立派、北部のイスラム教シーア派の一派ザイド派勢力、そして「アラビア半島のアルカイダ」などのアルカイダ勢力という3つの内紛を抱えています。

かつて「アラブの春」のひとつの動きとして権限を奪われたサレハ前大統領は、イエメン統治の難しさに関して「蛇の頭の上でダンスを踊ることに等しい」といった類の発言をしていたような記憶もあります。(6年ぐらい前の話で、記憶もあやふやですが)

実際、その後のイエメンが、イランが支援しているとされる「北部のイスラム教シーア派の一派ザイド派勢力であるフーシ派及びサレハ前大統領支持派」とアサウジアラビア等が支援して大規模な空爆介入を行っている「ハディ暫定大統領派」の激しい内戦状態となり、イラン・サウジアラビアの代理戦争とも言われる状況が続いていること、また、権力の空白に乗じる形で「アラビア半島のアルカイダ」などのアルカイダ勢力が拡大していることは、これまでも再三取り上げてきたところです。

現在、南部港湾都市アデンを中心とする南部地域はサウジアラビアに支援されたハディ暫定大統領派が支配する形になってはいますが、先月末あたりからその南部において、南部分離独立派の動きとも言えるような内紛が伝えられています。

このあたりを伝える「中東の窓」によれば、概略は以下のようなものになっています。

****南部イエメン問題****
イエメン問題は益々複雑になってきました。

hadi 大統領は29日、ハドラマウト、スコトラ、シャブワの南部の3県の知事を更迭しましたが、これに対して南部の「移行評議会」が30日早々に、南部の人民の意向を受けない、このような移動は受け入れられないとして、元に戻すように要求したとのことです。

これはal qods al arabi net の報じるところですが、記事は、この「移行評議会」はこの3月hadiが解任した、前アデン知事を議長として、南イエメン運動がhothy連合から解放された南部の地域を統治するためとして設立した組織とのことです。(中略)

さらに、記事はこの南イエメン運動というのは、2007年に前大統領によって軍を追われた元軍人(おそらくは南出身の軍人と思われる)が復職を要求して組織したものだが、その後すぐ南イエメンの独立を求める組織になったとしています。(後略)【6月30日 「中東の窓」】
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そして、この南部移行評議会をUAEが支援しているとも。
“al qods al arabi net が「イエメン政府はUAEに支援された南部分離主義者の反乱に直面している」との記事を載せて、南部イエメンにおけるUAEの動き(策謀?)をかなり詳しく解説しています。”【7月2日 「中東の窓」】

UAEはサウジアラビアとともに「ハディ暫定大統領派」を支援してきましたが、そのこととハディ暫定大統領の足元を揺るがす南部移行評議会を支援することが、どのように結びつくのか、支援勢力のリーダーであるサウジアラビアがこの問題をどのようにとらえているのか(UAEがサウジの承諾なしに独自に動いているとも思われませんので)、サウジアラビア・UAEとカタールの対立が関係しているのか・・・等々、不透明なとろが多々あります。

****イエメン情勢****
(イエメン政府)首相のほうは、UAEに支援された移行評議会が正統政府に反対し、分離主義的傾向をあらわにすることは、アデンをはじめ、南部イエメンにおける正統政府の力を弱め、hothy連合(フーシ派)の復帰を助けるだけだと非難し、hothy連合の勢力はアデンから150㎞地点まで迫りつつあると警告した由。

これに対して、移行評議会のほうでも、イエメン首相は南部イエメン、特にアデンの諸問題をないがしろにしてきたと非難し、hothy勢力の力を誇張するのは宣伝であると非難した由。

さらに移行評議会議長(前アデン知事)はその支持者に対して、7日にアデンで大衆集会を開くことを呼び掛けたよし。(後略)【7月5日 中東の窓」】
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上記の「7日のアデンでの大衆集会」には、数万人が参加したとのことです。
7月7日は1994年のイエメン内戦でアデンが陥落した日にあたるそうで、旧南イエメンの分離独立派が集まったとも推察されています。

“集会で、(南部移行評議会)議長の前アデン知事は、hadi政権がアデンを回復した後も、その治安維持の能力もなく、住民の必要とする行政サービスを提供しないことを厳しく非難し、このままでいけば移行評議会が、行政等の責任を担う必要があるとして、公然と分離の意向を表明した由。”【7月8日 「中東の窓」】

ただ、“もっとも、その点(分離の意向)に関しては、連邦国家内での独立という言い方をして、必ずしも分離独立とまでは明言していない模様”【同上】とも

サウジアラビア:イエメンに強力な権力が成立しないことを望む?】
最大の影響力を有するサウジアラビアは相変わらず沈黙していますが、「中東の窓」では、サウジアラビアとしてはイランに支援されたフーシ派がイエメンを支配するのは許容できないが、同時にイエメンに強力な国家が生まれるのも望んでいないのでは・・・サウジアラビアにとってイエメンが“混乱状態”にあって、強力な権力が生まれないのが一番望ましいのでは・・・とも憶測しています。

****サウディの対イエメン政策(全くの仮説*****
・・・・要するに、イランの勢力を排除した後のイエメンが南と北に分裂し(独立よりは連邦国家のほうが好ましいかもしれない)双方ともに、弱小な政体であることは、サウディとして歓迎すべきことではないかと思われる。

しかし、現時点で正統政府を支持するというのが、唯一に近いサウディのイエメン介入の論拠である以上、自ら南の分離主義運動を支援するわけにもいかず、その点でUAEというジュニア・パートナーにそのような仕事をやらせた。

UAEがこのような役割を引き受ける真意は不明だが、その軍事力が陸海空合わせて2万以下の、UAEが本気で南イエメンを併合しようと考えているとは思われない。

UAEはペルシャ湾の島3つをイランに占拠されていて、その意味ではサウディと協力するインセンティブがあり、かつ自らの影響力を広める方途と考えたかもしれない

要するにサウディとしては、一方ではhothy連合やこれを支援するイランに対して大規模空爆をやって、その弱体化を図りつつ、他方その結果イエメンが軍事大国的になるのも好まず、南と北という対立的要素を抱えた弱小国家であることが、最も望ましいとみているのではないか?(後略)【7月8日 「中東の窓」】
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上記はあくまでも“憶測”であって、秘密主義サウジアラビアの意図はわかりません。

コレラ感染拡大 「手に負えない状況に陥っている」(赤十字国際委員会)】
確かなことは、イエメンで混乱が長期間続いていること、今後の出口が定かでないこと、そして混乱状態のなかで今、イエメンにとってフーシ派、イスラム過激派、南部分離独立派に続く4匹目の蛇ともいえる「コレラ」が猛威を振るっていることです。

****イエメン、コレラ感染さらに悪化 32万人以上に拡大****
内戦下の中東イエメンで、コレラの感染拡大が止まらず、危機的状況がさらに悪化している。

国連のオブライエン事務次長(人道問題担当)は12日、イエメン全土で32万人以上に感染の疑いがあり、少なくとも1740人が死亡したと発表した。国連児童基金(ユニセフ)と世界保健機関(WHO)によると、死者の約4分の1が子どもだという。
 
イエメンでは政権側と、イランが支援する反政府武装組織「フーシ」が対立。隣国サウジアラビアが2015年3月から政権側に立って軍事介入し、首都サヌアなどで空爆を続けている。

WHOは上下水道や医療・保健・衛生施設などのインフラが空爆で破壊され、感染拡大に拍車をかけたと指摘する。
 
現地で医療活動にあたる国際NGO「国境なき医師団」(MSF)で、6月までイエメンの活動責任者を務めた村田慎二郎さん(40)は12日、東京都内で会見し、「一刻も早く手を打たなければ、彼らの命が失われていく。紛争当事者と国際社会は安全かつスムーズに人道支援を実施させる責任がある」と訴えた。【7月13日 朝日】
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これまでの報道では、
“国連のイエメン人道調整官を務めるジェイミー・マクゴールドリック氏は15日、内戦が続く同国で流行しているコレラによる死者が1000人に近づいていると明らかにしさらに、援助が思うように集まらない現状について、「人道が政治に負けようとしている」と強く非難した。”【6月16日 AFP】、

“国連児童基金(ユニセフ)によると、今年4月以降の感染者は20万人を超え、約1300人が死亡した。死者の4分の1にあたる約350人は子どもだ。”【6月30日 朝日】

と報じられていましたから、“32万人以上に感染の疑いがあり、少なくとも1740人が死亡”という現状は、感染拡大が急激に進んでいることがを示しています。

“赤十字国際委員会(ICRC)は現状についてツイッターで「手に負えない状況に陥っている」という認識を示した。”【7月10日 時事】という、“絶望的”な声も出ています。

イエメンでは深刻な飢饉も懸念されています。
“アラビア半島南西端の国イエメンで続く内戦で、人道危機が深刻化している。人口の3分の1にあたる約900万人が緊急の食糧を必要としているとして国連世界食糧計画(WFP)は「前例のない水準」の大規模な飢饉(ききん)が迫ると警告している。”【4月16日 毎日】

内戦の混乱で満足な治療を受けられずに多くの人々がなす術もなく死んでいく、今後もどこまで感染が拡大するのかわからない“手に負えない状況に陥っている”、多くの住民が「前例のない水準」の大規模な飢饉の脅威にさらされている・・・・そうした状況で、紛争当事者、サウジアラビア、UAE、イランなどの関係国は住民犠牲にお構いなくパワーゲームにのめりこんでいる、更に、良くも悪くもかつては“世界の警察官”として機能したアメリカも、今ではそうしたことへの関心を失っている、国連には何ら実際的な力がない・・・・救いようのない状況です。

自国のテロなどで数人が犠牲になっても大騒ぎする欧米・日本なども、イエメンの戦闘・コレラ・飢饉で何千人が犠牲になっても沈黙・無関心です。

更にコレラ感染が拡大すれば、戦闘どころではなくなり内戦も鎮静化する事態もありえますが、そのときまでにどれだけの犠牲者が出るのか・・・・。
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