孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ クリミア併合から3年 双方の苦しい現状 トランプ“取引”不発でロシアも強硬姿勢

2017-03-19 22:10:13 | 欧州情勢

(クリミアのシンフェロポリで16日、ロシア併合を決めた住民投票から3年を記念して行われたパレード 【3月18日 産経】)

新たな停戦化で迎えた“クリミア併合3年”】
月日が経つのは早いもので、ロシアがウクライナ南部クリミア半島を併合してから3年になるそうです。

****ロシアのクリミア編入から3年、記念行事の盛り上がりは控えめ****
ロシアがウクライナ南部クリミア半島を編入してから18日で3年を迎えたが、記念行事の盛り上がりは控えめだった。ウクライナ政府は、黒海に突き出した戦略拠点のクリミアをロシアが併合したのは「犯罪」だと非難している。
 
ロシア国営テレビは全国各地で行われた記念コンサートやパレードの様子を放送したものの、昨年までに比べると観客や参加者は少なめで、内容も大幅に質素だった。
 
昨年はこの日にクリミアを訪問したウラジーミル・プーチン大統領だが、今年は首都モスクワで行われるコンサートや花火の打ち上げを含め公式記念行事には一切出席しない予定だ。
 
ウクライナでは2014年、首都キエフでの大規模デモを受けて、ロシアが支援していた指導者が失脚。その後ロシアはクウクライナからクリミアを編入した。
 
一方、ウクライナ東部では親ロシア派が独立を宣言。3年近く続いている政府軍との戦闘で約1万人が死亡した。
 
ウクライナは18日、情勢不安が続く前線地域における戦闘で、過去24時間に兵士4人が死亡したと発表した。【3月19日 AFP】
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選挙期間中にロシアとの協調を前面に出し、クリミア併合も容認する姿勢を示していたアメリカ・トランプ大統領の就任に対するウクライナ政府・東部の親ロシア派双方の思惑もあってか、ウクライナ東部の戦闘は昨年末から2月初めにかけて激化し、紛争再燃の危険も指摘されるような状況となりました。

“ウクライナ東部で1月末以降、同国政府軍と親ロシア派武装勢力の本格的な衝突が起き、多数の死者が出ている。ウクライナ東部紛争をめぐっては、2015年2月に和平合意(ミンスク2)が締結され、大規模な戦闘は終息していた。米国のトランプ新大統領がウクライナ関与よりも対露関係の改善を優先する姿勢をみせる中、約1万人の死者を出した紛争が再燃しかねない情勢となっている。”【2月1日 産経】

その後は、事態を憂慮するアメリカ・ドイツ等の働きかけもあって、2月18日のミュンヘン会談で2月20日から新たな停戦に入っています。

****<米ウクライナ電話協議>「戦略関係強化を模索*****
トランプ米大統領は4日、ウクライナのポロシェンコ大統領と就任後初めて電話協議した。ウクライナ大統領府によると、両氏は「戦略パートナー関係の強化を模索する」意向を表明。また、ウクライナ東部の戦闘激化問題についても協議し、「即時停戦が必要」との認識で一致した。(攻略)【2月6日 毎日】
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****即時停戦要求で一致=ウクライナ情勢で独ロ首脳****
ロシア大統領府によると、プーチン大統領は7日、ドイツのメルケル首相と電話会談し、戦闘が激化するウクライナ東部情勢について、政府軍と親ロシア派に即時停戦を求めることで一致した。
 
両首脳は戦闘激化に「深刻な懸念」を表明。一方でプーチン大統領は「ウクライナ側に停戦合意の履行を妨害しようとする明確な意図がある」とも主張し、戦闘激化の原因はウクライナ側にあるという認識を示した。【2月7日 時事】 
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東部でも、クリミアでも“見えない未来”】
しかし、現地では砲声がやまず、不安定な情勢が続いているとも。

“ロシアの支えが頼りの親露派支配には展望が見えず、不満を持つ住民は増えている模様だ。タクシー運転手のアレクサンドルさん(66)は「戦闘は止まらないし、物価が上がって生活は苦しい。全てが紛争前に戻ってほしい」と窮状を訴えた。”【2月22日 毎日】

もっとも、本当に“不満を持つ住民は増えている模様だ”と言えるのか、情報も少ない新ロシア派支配地域の住民の実情はよくわかりません。

そうした状況にあっての冒頭に示した“クリミア併合から3年”ですが、ロシア側の記念行事が控え目だったのは、ひと頃の興奮も一段落したというだけの話でしょう。

プーチン大統領の極めて高い支持率が、クリミア併合で示された“強い指導力”が国民に評価されている状況は大きくは変化していないものと思われます。

ロシアは橋の建設など“一体化”を進めていますが、クリミアの経済事情は、今後について楽観を許さないものもあるようです。少数派のタタール系住民の反発も依然として続いています。

****クリミア併合3年】親露派は「平和」を強調するが・・・ロシアとの一体化に見えぬ未来 観光地は閑古鳥****
ロシアのプーチン大統領がウクライナ南部クリミア半島の併合を宣言してから、18日で3年となった。併合は国際社会の厳しい非難と孤立化を招いたが、露政府は巨額を投じてクリミアとロシアを結ぶ橋の建設を進めるなど、「一体化」への手綱を緩めていない。ウクライナ当局の許可を得て現地に入った。
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(中略)
クリミアで多数派を占めるのはロシア系住民で、中心都市シンフェロポリに向かう幹線道路脇には、プーチン氏の写真と住民へのメッセージが書かれた大型看板がいくつも並んでいた。
 
3年前の3月16日、クリミアではロシア編入の是非を問う住民投票が実施された。16日にはこれを記念する式典が開催された。
 
参加者の元教師、エレーナさん(69)は「プーチン氏は私たちのことを考えてくれる唯一の大統領。平和に暮らせて本当に幸せ」と笑顔で語った。
 
式典ではクリミアの“平和”が強調された。
紛争が続くウクライナ東部2州の親ロシア派武装勢力のトップらも登壇し、女性議員が「今もポロシェンコ(ウクライナ大統領)は東部で子供たちを殺している」と主張した。紛争が続く東部に比して、クリミアは恵まれていると印象付ける意図が感じられた。(中略)
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ロシアは巨額を投じてクリミアとの一体化を進めている。2019年末までに車道、鉄道でロシアとクリミアを結ぶため、総投資額約3000億ルーブル(約6000億円)ともいわれる橋の建設を強行。

昨年、クリミアへの投資は約1500億ルーブルあったとされるが、その大半はロシア政府の拠出だったとみられている。年金や警察官の給与などもロシアの水準に合わせて引き上げられ、これも住民の支持を集める一因となっている。
 
一方で、クリミア経済は先行きがまったく見えない状況に陥りつつある。
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クリミアでは、モスクワでよく見かける銀行や携帯電話会社、小売店などはまったくない。
欧米の制裁を背景に、外国企業だけでなく露国内の企業もクリミア投資を控えているためだといわれる。外国との流通網が遮断された結果、スーパーに並ぶ商品はモスクワ以上に高いものが少なくない。
 
併合で深刻な影響を受けているのが、クリミアの主力産業である観光だ。
旧ソ連時代、指折りの観光地だった半島南部ヤルタ。海岸沿いで軽食を売っていたセルゲイさん(24)は、閑散とした光景を見つめながら「夏に観光客が来るかどうかだな」と、うつろな表情で語った。
 
併合を受け、クリミアへの海外からの観光客は「皆無になった」(地元住民)。港を訪れていた若者は「夏場、港は海外からのクルーズ船であふれたものだが、もう一隻も来なくなったよ」と明かした。
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ロシアによる併合に反対した、イスラム教徒が主体のタタール系住民(クリミア・タタール人)の抑圧も依然として指摘される。
 
ウクライナのメディアによると、クリミアでは今年に入ってからもタタール系の社会活動家や弁護士などの拘束が相次いでいる。シンフェロポリ市内では、「過激主義団体」だと当局に認定された住民組織の建物が、閉鎖されたまま放置されていた。
 
市内に住むタタール系の男性(30)は、「(ソ連時代の抑圧で)多くのタタール人が命を落とした。なぜ今さらロシアを支持できるのか」と述べ、「ウクライナの時代の方がよかった。いつかロシアには出ていってほしい」と訴えた。【3月18日 産経】
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民族主義台頭に苦慮するウクライナ
一方のウクライナ側では、クリミアに続いて東部も・・・という“国難”にあって、当然のように“民族主義”が強まっています。

“ここにきて民族主義への傾斜はいっそう強まっている。ウクライナ議会には2月、全ての行政機関や教育施設でのウクライナ語使用を義務づける法案が提出され、ロシア語使用者の多いドンバス地方の反発を増幅した。
議会には、ソ連時代の農業集団化に伴う大飢饉(1932〜33年)や、ウクライナ独立闘争の歴史を否定してはならない−との法案も出されている。”

しかし、ウクライナ経済は親ロシア派が実効支配する東部と密接につながっており、そうしたつながりを否定する民族主義は、ただでさえ苦しいウクライナ経済を更に困難な状況に追い込むことにもなります。

ウクライナ本体と親ロシア派支配地域を結ぶ鉄道を民族主義的な一部野党議員らが封鎖したという話は、1月31日ブログ“ウクライナ東部情勢 完全には止まない戦闘 財政逼迫のウクライナ事情 親ロシア・トランプ政権誕生で?”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170131でも取り上げました。

そうした行動への報復も実行されています。

****鉄道封鎖への報復、ウクライナ東部の企業接収へ 親ロ派****
ウクライナ東部を占拠する親ロシア派勢力は1日、支配地域内で活動するウクライナ企業を強制管理に移すと発表した。事実上の接収で、支配地域と外部を結ぶ鉄道を一部野党議員らが封鎖したことへの報復という。
封鎖はすでに1カ月を超え、ウクライナ全土の経済に影響。ポロシェンコ政権は対応に苦慮している。
 
親ロシア派の発表後、ウクライナの大手電話会社「ウクルテレコム」は、東部ドネツク州の同派支配地域で全サービスが止まったことを明らかにした。現地の事務所が武装勢力におさえられ、域内の設備を制御できなくなったという。
 
2014年春からの紛争で、親ロシア派支配地域では行政などあらゆる公共部門を武装勢力が管理する一方、鉱工業を中心にウクライナの財閥系企業も活動を続け、全土の発電所や金属精製工場に石炭、原料を送り出していた。現地では住民の数少ない雇用の場だ。
 
しかし、トランプ米大統領が就任した直後の1月26日から、北側の政府支配地域で野党議員と政府軍の元兵士の活動家らが線路を封鎖。貨物列車の運行が止まり、出荷先を失った炭鉱、工場が活動不能に陥った。【3月2日 朝日】
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首都キエフでは、民族主義団体のメンバーがロシアの大手銀行の現地法人の本店を襲撃するといった事件も起きており、新たな火種ともなっています。

****ウクライナでロシアの銀行襲撃 対立の新たな火だねに****
ウクライナで、民族主義団体のメンバーが対立するロシアの大手銀行の現地法人の本店を襲撃してブロックを積み上げて閉鎖し、これに対してロシア外務省がウクライナ政府に強く抗議するなど、両国の対立の新たな火だねになっています。

ウクライナの首都キエフで13日、民族主義団体のメンバーが対立するロシアの大手銀行「ズベルバンク」の現地法人の本店を襲撃して正面にブロックを積み上げて封鎖し、ほかの支店でもATMなどを破壊しました。

ウクライナの民族主義団体は、ロシアの「ズベルバンク」が東部で戦闘を続ける親ロシア派に対して、取り引きの際に親ロシア派が独自に発行する証明書を有効と認めるなど便宜を図っていると反発していて、ウクライナの現地法人の営業許可を取り消すよう求めています。

これに対して、ロシア外務省は14日、コメントを発表し、「いつもの敵探しだ」と非難したうえで、地元の警察が銀行への襲撃を取り締まらなかったとして、ウクライナ政府に抗議しました。

ウクライナでは、ことし1月末から2月にかけて、政府軍とロシアが支援する親ロシア派の間で再び戦闘が激しくなって30人以上が死亡するなど緊張が続いていて、銀行への襲撃が両国の対立の新たな火だねになっています。【3月14日 NHK】
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対ロシア強硬姿勢を余儀なくされているアメリカ・トランプ大統領
ウクライナ東部の情勢に大きな影響力を持つアメリカ・トランプ大統領は、アメリカ国内におけるロシア協調路線への厳しい批判もあってか、あるいは国際関係の現実を認識したせいか、選挙期間中のロシアとの協調、クリミア併合容認路線をひっこめたような言動を示しています。今のところは・・・ですが。

****トランプ大統領、「ロシアはクリミア半島をウクライナに返還すべきだ****
アメリカのトランプ大統領が、ロシアに対し、クリミア半島をウクライナに返還するよう求めました。

プレスTVによりますと、ホワイトハウスのスパイサー報道官は、14日火曜、「トランプ大統領は、ロシアがクリミア半島をウクライナに返還し、この国の危機の緩和を促すことを期待している」と語りました。
スパイサー報道官は同時に、「トランプ大統領は、ロシアとの協調を望んでいる」と主張しました。

また、オバマ前大統領がロシアのクリミア半島支配に目を瞑(つぶ)っていたことを非難しました。

アメリカの対ロシア政策は、ここ数日、大統領の選挙戦でのスローガンとは異なるものとなっています。
トランプ大統領は選挙戦の中で、ロシアとの関係の改善を強調していましたが、最近、イギリスのメイ首相とワシントンで行った共同記者会見では、「対ロシア制裁の解除は時期尚早だ」と語りました。

スパイサー報道官も、先週水曜、「クリミア問題を巡る対ロシア政策は続けられる」と語りました。(後略)【2月15日 Pars Today】
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当然ながら、ロシアは「われわれは自国領土を返還しない。クリミアはロシアの領土だ」(ロシア外務省のザハロワ報道官)と拒否しています。

あれほど対ロシア協調をアピールしていたトランプ大統領が“オバマ前大統領がロシアのクリミア半島支配に目を瞑(つぶ)っていたことを非難”というのも笑えますが、トランプ大統領は“取引”で、ウクライナ情勢・対ロシア制裁解除を実現したいというのが本心のようです。

ロシアとの協議で辞任に追い込まれたフリン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)のもとで、ロシアがウクライナ東部から部隊を撤収させることを前提に、米国による対ロシア制裁の解除につなげる、クリミアについては「ウクライナの有権者が、ロシアに50年ないし100年の期間で貸与するかどうかを国民投票で決める」といった案が検討されていたようです。【2月21日 AFPより】

ロシア・プーチン大統領も強硬策
トランプ大統領が対ロシア強硬姿勢を余儀なくされる状況で、当面トランプ大統領に期待できないプーチン大統領も強硬策を示しています。

プーチン大統領はウクライナ東部の親ロシア派が独自に発行する住民の身分証などについて、ロシアでも有効と認める大統領令に署名、また、親ロシア派住民のロシアへの査証(ビザ)なし往来も許可するといことで、ウクライナとの対立がさらに深まる恐れがあります。

****プーチン大統領、ウクライナ東部との自由往来認める 親露派地域との一体化加速、トランプ政権に強硬策****
ロシアのプーチン大統領は18日、ウクライナ東部の親露派武装勢力が支配下の住民に発行する身分証明書などを「有効」とし、ロシアとの自由な往来を認める大統領令に署名した。

人やモノの移動を通じ、親露派地域とロシアの一体化がさらに進むことになる。トランプ米政権が厳しい対露姿勢も見せ始めた中、プーチン政権は強硬策をとることで、ウクライナ東部紛争の和平プロセスを優位に進める思惑だと考えられる。
 
大統領令は、ウクライナ東部ドネツク、ルガンスク両州の主要地域で親露派が発行する身分証や学位、婚姻・出生証明書、自動車の登録番号などについて、ロシア国内での通用を認める内容。東部紛争の和平が実現するまでの臨時措置であり、人道上の国際法規に則ったものだとしている。
 
ウクライナ外務省は18日、「ロシアの統制下にある違法な政権を事実上承認するものだ」とし、2015年2月の和平合意(ミンスク2)に違反していると非難する声明を出した。
 
ミンスク2は、ウクライナが地方分権のための改憲を行うことや、同国による国境管理の回復を規定。しかし、ウクライナとロシアが互いを批判して履行は進まず、1月末以降は大規模な戦闘が再発している。
 
米国のペンス副大統領が18日、ロシアにも和平合意履行の責任があると言明するなど、トランプ米政権の対露姿勢は硬化の兆しを見せている。

プーチン政権の狙いは、親露派地域に「特別の地位」を認めさせる形での紛争決着だが、「独立承認」や「併合」もちらつかせてウクライナ政府や米欧に譲歩を迫る構えだ。【2月19日 産経】
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ウクライナ東部も、クリミアも、ウクライナも“苦しい状況”が続いており、アメリカとロシアも強気の姿勢を崩せない・・・ということで、いまだ出口は見つかっていません。

ただ、プーチン大統領としては、クリミアに加えて東部まで抱え込むのは財政的にも負担が大きすぎ、国際関係におけるロシアの立場も極端に悪化させます。現在のように衝突の危険がくすぶる“凍った紛争”を継続することでウクライナ政府に一定に圧力・影響力を行使できれば、ウクライナをロシアの影響下につなぎとめるという目的を達成しているとも言えます。あとは、トランプ政権が安定すれば制裁解除をなんとか・・・といったところでしょうか。

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