孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  強まるスラブ系ロシア人とイスラム系住民の対立

2010-12-17 21:33:17 | 世相

(12月11日 暴徒化して機動隊と衝突するスラブ系ロシア人の民族主義者やサッカーファン “flickr”より By sergeybashtiryov  http://www.flickr.com/photos/52825380@N03/5251523649/

【「ロシアはロシア人のものだ」】
欧州各国で移民増加に対し、外国人排斥的な動きや文化的摩擦が高まっていることはしばしば取り上げてきましたが、ロシアでもサッカーファンの射殺事件を契機に、ロシア系の民族主義者とカフカス出身者など少数民族の若者との間で民族対立の緊張が高まっていることが連日報じられています。

****ロシアで民族対立が激化、若者グループ1000人以上を拘束****
2010年12月16日 15:20 発信地:モスクワ/ロシア
ロシアで15日、首都モスクワやサンクトペテルブルクなど数都市で、スタンガンやナイフなどを手に集結した民族主義者の若者ら1000人以上が、警戒にあたっていた機動隊員に身柄を拘束された。
ロシアでは4日、モスクワのサッカーチーム、スパルタク・モスクワのファンの男性が、北カフカス出身のイスラム系の若者グループに射殺される事件が発生。これをきっかけに、ロシア系の民族主義者とカフカス出身者など少数民族の若者との間で民族対立の緊張が高まっていた。

11日にも、この事件の捜査を不服とする民族主義者やサッカーファンら5000人が、クレムリン近くで抗議集会を開き、これが暴動に発展している。 
15日にはイスラム系の若者グループと民族主義系のグループの双方が、モスクワ中心部のキエフスキ駅に武装して集結するようインターネット上で呼びかけているとの報道があり、警察は赤の広場を一部封鎖するなどして厳戒態勢を敷いていた。
現地のAFP記者も、黒服に身を包んで「ロシアはロシア人のものだ」と叫び、ナチス・ドイツ式の敬礼をしながらキエフスキ駅付近を行進する若者グループを目撃している。 
モスクワのほか、第2の都市サンクトペテルブルクや南部サマラなどでも、武装して集まった若者グループらが身柄を拘束されている。

モスクワでは近年、市場や建設現場で働くロシア南部や中央アジアからの出稼ぎ労働者が増加していることから、市当局に対し、移民の数を制限しロシア系住民に職を与えるよう求める声が高まっている。【12月16日 AFP】
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内務省によると、モスクワ以外も含め全国で拘束者は計1700人にのぼるとのことです。

ソ連崩壊後のイデオロギー消失で、ロシア民族主義が台頭
ロシアにおけるスラブ系ロシア人のイスラム系住民への反発は、モスク(イスラム教礼拝所)建設計画でも問題化していました。
****モスク反対 高まる民族主義 モスクワ5カ所目建設計画*****
 ■「非スラブの象徴」敵視 反対署名2万人も
ロシアの首都モスクワで5つめのモスク(イスラム教礼拝所)を建設する計画に住民が猛反発し、メドベージェフ大統領にまで介入を求める異例の事態となっている。モスクワでは旧ソ連諸国などから流入する労働者を敵視するスラブ系ロシア人の民族主義が高まっており、労働者の多くを占めるイスラム教徒は非スラブ系の象徴と、とらえられているからだ。
一方、イスラム教指導者らは国内多数派のロシア正教会に比べてモスクが大幅に不足しており、現状が続けば社会的緊張につながると警告している。

建設計画があるのはモスクワ南東部のベッドタウン。モスクワ市は、高層住宅と道路に挟まれた4千平方メートルの緑地帯に、約3千人を収容できるモスクを建設する計画を許可した。
現地住民らは米中枢同時テロから9年にあたった9月11日に800人規模の集会を開催。クレムリン(大統領府)に計画中止を求める書簡を出したほか、10月末にはクレムリンに目標2万人分の署名を提出し、「全ロシアのスキャンダルにする」という。
モスクワ市内のイスラム教徒は200万人で、大半が旧ソ連の中央アジアや露南部のカフカス地方などから流入する労働者と推定されている。モスク建設推進派は、ロシア正教会では信徒4万人に1教会の割合なのに対し、イスラム教は信徒50万人に1つのモスクしかないと訴える。
実際、近年のモスクワではラマダン(イスラム教の断食月)明けなどの祝日に何万人もの信者がモスクへと押しかけ、周辺を埋め尽くして路上で祈る光景が現れている。
露ムフティー(イスラム法学の権威者)評議会議長のガイヌトジン師は同国メディアに「人々が雪や雨の歩道で祈ることを余儀なくされれば社会的爆発をもたらしうる」と発言。モスクワの主任イマーム(指導者)、アリャウトジノフ師も「イスラム教徒は正教の教会で礼拝を行うことも許される」と述べて物議を醸した。
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他方、反対運動を組織する団体のブトゥリモフ代表は「市内には礼拝部屋などが100カ所ほどあり、中心部のモスクに信者が大挙して集まるのはイスラム側の示威行動だ。不法移民(労働者)が流入する以前にこんな現象はなかったのだから、本来、礼拝場所は足りている」と語る。

スイスでは昨年、モスクのミナレット(尖塔)建設を禁止することが国民投票で決まった。フランスではイスラム教徒の女性が顔や全身を覆う衣服「ブルカ」や「ニカブ」を公共の場で着ることを禁じる法が成立し、欧州でも移民流入を背景とした「反イスラム」の潮流は強まっている。
これに対し、ロシアでは、無神論を建前として宗教を弾圧したソ連の崩壊後、ロシア正教も国内第2勢力のイスラム教もめざましく復興した。南部のカフカス地方ではモスクの数が革命前の水準に戻っている。こうした中、モスクワにカフカスや中央アジア諸国からイスラム教徒を中心とする労働者が流入し、摩擦が生じている状況だ。

民間調査団体「SOVA」のコジェブニコワ次長は「ロシアでは宗教的な排外主義があまり“発達”しておらず、多くは人種上のものだ。モスクワでのヒステリックなモスク反対運動は、極右(民族主義者)と一部マスコミにあおられている」と指摘。首都に流入する非スラブ系労働者に対する嫌悪が反イスラム教に転化していると分析する。
ソ連崩壊後のロシアでは「諸民族の平等」といったイデオロギーも消失し、ロシア民族主義が台頭している。SOVAによると、昨年のロシアでは民族主義者による襲撃で少なくとも71人が死亡、333人が負傷した。【10月23日 産経】
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ロシアにおけるスラブ系ロシア人とイスラム系住民の対立は、ロシアの大都市では、カフカス地域や中央アジアからの出稼ぎ労働者が清掃や建設作業に多数従事し、スラブ系の若者らとの間で職を巡る競合が生じている経済的な問題のほか、イスラム系のチェチェンを巡る紛争、チェチェン分離独立主義者による(とされている)大規模なテロが繰り返されてきたことも影響しているかと思われます。
なお、チェチェンを強権支配しているカディロフ氏は社会のイスラム化を強力に進めており、7月にはすべての公務員女性が職場でスカーフを着用するよう改めて命じています。こうした動きもスラブ系ロシア人を刺激するところとなっています。

また、人口的にも、スラブ系ロシア人が減少傾向にあるのに対し、イスラム系住民の急増しており、ロシア民族主義の根底には“民族的焦り”があるとも指摘されています。

****ロシア、イスラム系増加裏付けか 8年ぶり国勢調査****
ロシアで2002年以来となる国勢調査が行われている。25日までに各戸から聞き取りを行い、人口や民族構成、経済状況などを調べる。ロシア民族主義の根底にはイスラム系住民の急増に対するスラブ系の減少という“民族的焦り”があるとされ、そうした人口動態の解明が期待される。
ロシアの人口は1993年の1億4856万人から2008年の1億4200万人まで656万人減少した。しかし、国外からの人口流入がなければ、1240万人減少していたことになり、人口流入が急増していることが分かる。流入者の大半がイスラム教徒主体の近隣国出身で、ロシア国内でも南部のイスラム地域での出生率が高いとみられている。
02年の国勢調査では、モスクワのイスラム教徒は約40万人とされたものの、当時の調査は住民登録のある者だけを記録しており、その後に活発化した労働者の流入は反映されていなかった。【10月23日 産経】
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ソチ冬季五輪は大丈夫か?】
メドベージェフ大統領は暴動を「ポグロム(集団的な迫害)であり、罪を犯したものは罰せられる」と非難しています。“ロシアでの18年W杯開催が決まった直後にクレムリンのすぐ隣で起きた「不祥事」だけに政権は衝撃を受けている模様だ”【12月14日 毎日】とも。

こうした民族対立感情の高まりは、ただでさえ不安定なカフカス地方における分離独立主義のイスラム系武装勢力のテロの増加を誘発しそうで、その点が懸念されます。
その意味では、18年W杯よりも、14年の冬季オリンピックが決定しているカフカス地方に近いソチの方が問題でしょう。
チェチェン共和国自体は、プーチン首相に絶対的忠誠を示しながら、域内では中央政府の権威をしのぐ独自の強権政治・イスラム化を進めるカディロフ氏が力で抑え込んでいる状況ですが、その分、周辺の北オセチアやダゲスタン、イングーシなど北カフカス地方全体が不安定化、“チェチェン化”しています。
移民だけではなく、国内にイスラム系国民を多数抱えるロシアにとって、イスラム系住民との融和は、他の欧州諸国以上に強く求められる政治課題です。


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