
(放火されて燃える自宅をみつめるロヒンギャの若者 “flickr”より By Rohingya Zahid Hossain http://www.flickr.com/photos/rohingya/7662230636/
ただ、写真下のコメントにあるような、イスラム国家としての分離独立を求めるという話になると、なかなか事態の収束は困難になるように思えます。)
【治安部隊が暴力行為を終結させるのではなく、イスラム教徒を標的にしている】
ミャンマー西部ラカイン州での仏教徒とイスラム教徒の衝突が起きたこと、そして、このイスラム教徒というのがミャンマー国内では市民権が与えられていない“存在を否定された民族”ロヒンギャ族であることは、
6月10日ブログ「ミャンマー 民主化の試金石 “存在を否定された民族” ロヒンギャ族への対応」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120610)
6月14日ブログ「ミャンマー ロヒンギャ問題への、スー・チーさんら民主化運動関係者の積極的関与を望む」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120614)
で取り上げたところです。
ラカイン州には非常事態宣言が出されましたが、衝突のその後の状況はよくわかりません。ただ、少なくとも好転はしていないようです。
下記記事はロヒンギャ族の難民キャンプの悲惨な状況を伝えています。ただし、イラン国営メディアの報道ということで、イスラム教徒のロヒンギャ族側に立っている可能性には留意する必要があります
****ミャンマー北西部難民キャンプでのイスラム教徒の人道上の悲劇*****
イラン国営衛星通信プレスTVは最近、ミャンマー北西部・ラカイン州にある、イスラム教徒の難民キャンプの悲惨な実態を明らかにした。
プレスTV記者が11日土曜、ミャンマー・ラカイン州(旧称アラカン州)から伝えたところによると、イスラム教徒であるロヒンギャ族の難民キャンプでは、深刻な食料・医薬品不足が指摘される上、設置されて40日にしかならないにもかかわらず、子ども数名を含めた18名が、既に死亡している、ということである。プレスTV記者は、ロヒンギャ族のイスラム教徒が収容されている難民キャンプの実態を間近に見ており、そうした実例として、重病と極度の衰弱により自分の力では動けない子どもの存在を挙げている。
さらに、この記者はミャンマー北西部のイスラム教徒居住区である、複数の村落が灰燼に帰したと伝えており、この地区のイスラム教徒の話として、ラカイン州の仏教徒が警察と共に、イスラム教徒の村落に放火し、彼らの住み処を奪ったとしている。この地区のイスラム教徒によれば、ミャンマー政府の支援を受けた仏教徒が、複数のモスクに放火したとされている。
この報告によれば、視察の対象となるキャンプは、ミャンマーのイスラム教徒が収容されている、最も状態のよいキャンプとされ、ミャンマー政府がその視察許可を出している。10日金曜には、駐ミャンマー・トルコ大使やインドネシアの副大統領が、さらに11日には国連代表がこのキャンプを視察に訪れている。
プレスTV記者はさらに、これらのキャンプ訪問がミャンマーの治安部隊による厳重な警備・監視の下に行われたとし、「このキャンプに収容されている人々は、他のキャンプの状態はこのキャンプよりはるかに劣悪だと語っている」と述べている。
この記者が、ロヒンギャ族のイスラム教徒の話として伝えたところによると、ミャンマーでは少数派の宗教であるイスラム教徒に対する民族浄化作戦が行われているとされ、同国ラカイン州の州都シットウェに住んでいたイスラム教徒7万人のうち、この町に残留したのはわずか6000人だということである。
現在、ミャンマーでは多数派である仏教徒が政権を握っており、この政権は同国のイスラム教徒を正式に認めず、彼らを違法な移民であるとさえ主張している。
ロヒンギャ族のイスラム教徒は、8世紀初頭にミャンマーに移住してきた。
国連人権委員会当局は、ミャンマーにおける暴力行為の責任は、同国の治安部隊にあるとし、この治安部隊が暴力行為を終結させるのではなく、イスラム教徒を標的にしているとみている。
国連人権理事会の見解でも、数十年にわたる差別により、ロヒンギャ族は難民となり、祖国を失ったとされている。さらに、ミャンマー政府はロヒンギャ族のイスラム教徒が居住する地域を軍事的に包囲することにより、同国のイスラム教徒の動向に制限を加え、彼らの居住権や、教育・公的サービスを受ける権利までをも剥奪しているのである。【8月12日 IRAN JAPANESE RADIO】
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なお、“今回のラカイン州でのムスリム(イスラム教徒)と仏教徒の衝突の裏には、イスラム教原理主義組織の存在も指摘されている”“州内の民族対立は、今に始まったことではない。ただ、今回は少し様相が異なる。普段は温厚なあるミャンマー人の友人が今回の事件について「これまでも女性が暴行される事件はあったが、今回のように殺されることはなかった。絶対に許せない」と憤る。これまで軍政下で制限されていた情報が、民主化の結果、多くのミャンマー人の耳に入り、反ロヒンギャ感情を増幅させている”【7月20日 SANKEI EXPRESS】との指摘もあります。
【「イスラム教徒弾圧」として国際問題化】
ロヒンギャ族がイスラム教徒であることから、イスラム諸国を中心として、海外からのミャンマー政府への圧力が強まっています。
****ミャンマー宗教対立、拡大 イスラム教国に飛び火 パキスタン「迫害」を非難****
ミャンマー西部ラカイン州における仏教徒のラカイン族と、イスラム教徒のロヒンギャ族との衝突事件は、イスラム教国パキスタンなどに飛び火した。民族問題という事の本質が、「イスラム教徒弾圧」として国際問題化する状況に、ミャンマー政府は苦しい立場に置かれている。
パキスタンでは7月29日、西部バルチスタン州の州都クエッタで、数百人が横断幕とプラカードを手に、ミャンマー政府によるイスラム教徒の「迫害」を非難した。参加者は国連の即時介入を求め、批判の矛先は、沈黙を守るパキスタン政府にも向けられた。
これに先立つ26日には、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動」(TTP)が声明を出し、「流血の報復をするだろう」と警告した。
約1億8千万人の人口を抱えるパキスタンでは、93%がイスラム教徒だ。一方、88%がイスラム教徒のインドネシアも事態を重視しており、「差別的な扱いには反対する」(マルティ外相)との声を上げている。過激派組織のイスラム擁護戦線(FPI)は、首都ジャカルタのミャンマー大使館に押しかけ、「虐殺の中止」を要求した。
もっともTTPに対しては、ロヒンギャ族や、ミャンマー国内のイスラム教団体などは「テロ組織の支援は受け入れない。原理主義者はラカイン情勢を利用しようとしているだけだ」と、一線を画している。
ロヒンギャ族の若者が6月、ラカイン族の少女を暴行したことに端を発する衝突では、少なくとも77人が死亡、109人が負傷し、家屋など約5千軒が放火された。逮捕者は858人にのぼり、仏教徒1万4千人以上、イスラム教徒3万人以上が、89カ所の臨時キャンプに収容されている。
ラカイン州がなお、非常事態宣言下にある中で、国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルは、治安部隊により、多くのロヒンギャ族が暴行、逮捕され、差別的に隔離されているとの報告を出した。国連のナビ・ピレー人権高等弁務官も、事態が「イスラム教徒・ロヒンギャ族に対する弾圧に変容する」ことへの懸念を表明した。
これに対し、ミャンマーのワン・マウン・ルウィン外相は「犠牲者はイスラム、仏教徒の双方であり、宗教的な迫害ではない。宗教問題として政治・国際問題化する動きは受け入れられない」と反論している。【8月2日 産経】
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もっとも、イスラム諸国でも国内事情から今回の問題への対応に苦慮している国もあります。
自国に多くの少数民族やキリスト教徒を抱えるインドネシアもそのひとつです。
****インドネシア大統領 内憂外患****
インドネシアのユドヨノ大統領が、ミャンマー西部ラカイン州でのロヒンギャ族をめぐる民族対立問題への対応で、苦しい立場に立たされている。インドネシアは世界最大のムスリム(イスラム教徒)人口を抱える国だけに、ムスリムであるロヒンギャを支援することを多くの国民は支持しているが、物事はそう単純ではない。
というのもインドネシア自身が多民族・多宗教国家だからだ。他のイスラム諸国からロヒンギャ支援で同調を求められる一方で、インドネシア国内のキリスト教徒などからは、まず自国の少数民族の保護を優先すべきだとの声があがっている。
宗教紛争を否定
「ラカイン州の問題は異なる集団の間の紛争であって、宗教紛争ではない。たまたまラカインとロヒンギャが仏教徒とイスラム教徒だったに過ぎない」
これまでラカイン州での問題に沈黙を守ってきたユドヨノ大統領は8月4日の記者会見で、初めてこの問題に言及した。会見で大統領は、ラカイン族とロヒンギャ族の対立は宗教問題ではないと繰り返し強調。双方が少数民族として十分な支援を受けられないことが原因と指摘した。
大統領は、ロヒンギャへの人道支援をムスリムの兄弟として行うよう呼び掛けたものの、同時にミャンマーのテイン・セイン大統領の立場を支持する姿勢も示し、どちらかに偏ることなく、問題解決を図りたいとの姿勢をにじませた。【8月10日 SANKEI EXPRESS】
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イスラム協力機構(OIC)は16日、サウジアラビアのメッカで開かれた首脳会議で、ミャンマー政府の対応を非難し、国連総会への提起を決定しています。
こうした国外からの圧力に対し、テイン・セイン政権は独自の調査委員会を設置することで内政への干渉を阻む姿勢を見せています。
****ミャンマー、異例の調査委 宗教衝突 イスラム・国連干渉拒む*****
ミャンマー西部ラカイン州における仏教徒のラカイン族と、イスラム教徒のロヒンギャ族との衝突をめぐり、イスラム諸国と国連がミャンマー政府に対する圧力を強めている。これを受け、テイン・セイン大統領は、衝突の原因などを究明するため異例の調査委員会を設置した。自助努力の姿勢を示し、内政干渉を阻止することを狙っている。
57カ国・地域が加盟するイスラム協力機構(OIC)は16日、サウジアラビアのメッカで開かれた首脳会議で、ミャンマー当局はロヒンギャ族への「暴力」を継続しており、市民権を付与することも拒否していると、非難した。そのうえで、この問題を国連総会に提起することを決定した。
これに先立ち、OICはラカイン州へのOIC調査団受け入れをミャンマー政府に要請していた。国連人権理事会のキンタナ特別報告者も、ロヒンギャ族への「治安部隊による過度の武力行使や逮捕、勾留、殺害、拷問」など、事実関係を調査するよう要請した。
これに対し、テイン・セイン大統領は「国内問題であり、外国による調査は必要ない」との立場だ。主要政党からは「キンタナ氏はロヒンギャ族寄りで、不公平であり偏っている。彼を交代させるべきだ」(民主党幹部)と、辞任を求める声が噴出していた。
こうした経緯の末に、大統領が調査委員会の設置を発表したのが17日。委員会は27人で構成され、宗教指導者や民主活動家らも含まれる。目的は、犠牲者などの実態を調査し、緊張緩和と平和的共存の道を探ることにあるとしている。
大統領にとり、衝突を「イスラム教徒弾圧」「人権侵害」とみる第三者による調査は、到底受け入れ難く、独自の調査委員会設置は苦肉の策でもある。【8月19日 産経】
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【民主化運動の試金石】
ミャンマーの民主化運動のリーダーとして議会活動を開始しているスー・チーさんは衝突発生直後に長期の外遊に出ており、そのことを批判する向きもあります。
帰国後のインタビューで次のように語っています。
****少数民族問題は「市民権確立で対処を」****
スー・チー氏の欧州歴訪中、ミャンマーでは西部ラカイン州で仏教徒とイスラム教徒の少数民族ロヒンギャ人との衝突が起き、80人以上が死亡した。この問題についてスー・チー氏は、法の支配を強化し市民権法を整備することによって、市民権のあるロヒンギャ人と不法移民を区別することが大事だと述べた。
スー・チー氏は、「地域社会の対立は文化や宗教の違いに根ざしていることが多い」と指摘。こうした違いは乗り越えるのに時間がかかるが、法の支配さえ確立すれば衝突は減少するはずだとの考えを示した。
また、ラカイン州がバングラデシュと国境を接し不法移民が出入りしやすい地域特性に加え、移民当局に汚職がはびこっている点も挙げ、ミャンマーとバングラデシュ両国が移民の押し付け合いをしていると批判。国際的に理解を得られる公正で強力な市民権法の確立が必要だと訴えた。【7月2日 AFP】
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ロヒンギャ族に関しては、政権側・野党側を問わず、ミャンマー仏教徒全般に嫌悪感が強く存在しており、スー・チーさんらの民主化運動がこの問題にどのように対処できるのかも注目されています。
****スー・チーを苦しめる新たなジレンマ****
・・・・スー・チーがヨーロッパにたつ直前には、西部のラカイン州に非常事態宣言が発令された。圧倒的多数派の仏教徒とイスラム系少数民族ロヒンギャ族の間で衝突が激化しているためだ。民族問題が激化する最中に外遊することについても疑問の声が湧き起こった。
さらにスー・チーが外遊中の演説でこの件に言及し、長年迫害されてきた少数派のロヒンギャ族の権利擁護を主張すれば、仏教徒の反発を買いかねない。その半面、何も発言しなければ、少数派抑圧を容認していると批判を浴びる恐れがある。これも、自宅軟禁の日々には経験することのなかったジレンマだ。【6月27日号 Newsweek】
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【少数民族和平協議:政権の目指す和解の早期実現は難しい情勢】
なお、ロヒンギャ族の問題を離れて少数民族問題全般についてみると、テイン・セイン政権の和平協議がこのところ停滞している・・・との報道があります。
****ミャンマー、少数民族との和平協議停滞 改革路線に陰り****
ミャンマーのテインセイン政権による少数民族との和平協議が停滞している。停戦協定を結んだ各派との政治対話は進まず、戦闘状態にあるカチン族とは正式交渉に入れていない。政権の目指す和解の早期実現は難しい情勢だ。
政権で少数民族との交渉責任者を務めるアウンミン鉄道相は、2月末の朝日新聞との会見で(1)国軍と戦闘状態にある主要11民族の武装勢力と3~4カ月以内の停戦協定合意(2)停戦合意した各派との政治対話と難民帰還の開始(3)恒久和平に向けた国民会議の開催の3段階のシナリオを示し、実現に自信を見せていた。
うち10民族は停戦で合意。唯一、戦闘状態にあるカチン独立軍を率いるカチン独立機構(KIO)のラジャ書記長は先月下旬、バンコクで朝日新聞の取材に応じ、「政治解決の道筋が見えない限り、停戦協定は結ばない」と明言した。
書記長によると、アウンミン氏をトップとする政府交渉団と、タイ国内とミャンマー国内の自派支配地域で6月下旬まで3回、非公式な交渉を重ねた。アウンミン氏は停戦協定の受け入れを求めたのに対し、KIOは政府軍部隊の撤退を主張し、議論は平行線をたどったという。正式交渉の日程や場所でも合意に達していない。
書記長は「我々は(最大民族の)ビルマ族と同じ権利を求め、昨年まで17年間、停戦に応じてきた。しかし軍事政権は政治的な努力をせず、昨年6月には一方的に停戦を破った。政府側は口だけの停戦を言うのではなく、政治的な解決策を示し、信頼回復を図るべきだ」と主張する。
一方、停戦合意した各派と政府側の政治対話も進んでいない。60年以上独立闘争を続け、今年初めに停戦を受け入れたカレン民族同盟(KNU)は今月28日、アウンミン氏ら政府交渉団と協議する予定。ただ議題は、停戦をめぐる行動規範などにとどまる見通しだ。
少数民族勢力の動向に詳しい民主活動家のキンオマー氏は「住民に和平の期待が広がる一方で、政府軍部隊は撤退せず、不安定な治安状態が続いている」と指摘する。実際、カレン(カイン)州やシャン州で先月末以降、政府軍や政府側民兵と少数民族武装勢力との小競り合いや衝突が散発的に起き、死傷者も出た。
民主化や経済自由化とともに、少数民族との和解を改革の柱にすえるテインセイン大統領は4日、少数民族政党の代表と会談し、和解実現への協力をよびかけた。しかし具体的な提案や日程などには言及しなかった。【8月9日 朝日】
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