孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベルギー  新政権発足で1年半の政治空白に終止符 今後は、言語圏対立に加え、原発閉鎖問題も

2011-12-06 21:40:41 | 欧州情勢

(左がベルギー新首相となったエリオ・ディルポ氏、右は09年に首相を辞しEU大統領へ転出したファン・ロンパイ氏 “flickr”より By President of the European Council http://www.flickr.com/photos/europeancouncil/6458577783/

世界最長期間の政治空白
ベルギーでは、南部フランス語圏と経済的に優位な北部オランダ語圏の政治対立によって1年半ほど新内閣が決まらない“政治空白”が続いていました。
ベルギーのこうした政治対立・混乱は今回に限った話ではありませんが、今回の政治空白がスタートした総選挙直後の状況については、10年6月14日ブログ「ベルギー総選挙  国家分裂の危機をはらみつつ、連邦政府の権限弱体化に向かう」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100614)でも取り上げたところです。

その後、今年3月には、政治空白期間がイラクを抜いて世界最長になったことなども話題になりました。
国民の間では、早く政治空白を解消するようにとの批判も高まり、今年1月には首都ブリュッセルで4万人デモが、また3月にも学生ら約5000人が参加しての抗議デモが行われています。

そしてようやく、オランダ語圏独立を求める最大政党を除いた第2党以下の6党連立という形で、政治空白に終止符が打たれました。

****ベルギー、新政権発足へ 政治空白は世界最長の540日に****
昨年6月の総選挙以来、540日間も政治空白が続いていたベルギーで5日、国王アルベール2世がワロン系社会党のエリオ・ディルポ党首(60)を新首相に任命した。水曜午後に王宮で行われる就任宣誓をもって、ようやく新政権が発足する。
世界最長期間の政治空白という不名誉な記録をもたらす事態となった、際限なく続く政治対立に業を煮やしていた1050万のベルギー国民にも、ようやく安堵(あんど)の時が訪れる。

ディルポ氏は、イタリア移民の炭鉱作業員の家庭に生まれた貧困層の出身。フランス語圏からベルギーの首相が選ばれるのは、ほぼ30年ぶりのことで、社会党の首相誕生は1974年以来。
近年、南部フランス語圏と富裕層の多い北部オランダ語圏の対立が深まるなか、連立政権には中道左派、中道右派の双方の政党が参加する見通しだ。閣僚も両言語圏から選ばれ、財務相には現外相のステフェン・ファンアケレ氏(47)、外相には現財務相のディディエ・レインデルス氏(53)の就任が決まっている。

ベルギーでは昨年6月の総選挙後、対立する政党間での新政権の樹立が難航し、政権が発足できない事態が1年半も続いていた。【12月6日 AFP】
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【「奇妙だが機能している」】
もっとも、内閣・首相不在の“政治空白”とは言っても、この間何も重要決定を行ってこなかった訳ではなく、3月にはリビア軍事介入への参加を、また、7月にはフランスに次いで欧州2番目の「ブルカ禁止法」をスタートさせています。もちろん予算も成立しています。
こうした決定・施策は新政権発足までは、前政権が暫定政府として行政を遂行する仕組みによって行われてきました。

****ベルギー 政治空白1年 続く言語圏対立 進まぬ連立交渉****
ベルギーで昨年6月13日の総選挙後、1年近くも正式政権ができない状態が続いている。北部のオランダ語圏と南部のフランス語圏の政党間で連立交渉が進まないためだが、この間、選挙前の首相が暫定政府を率いてきた。それでも経済や社会に大きな混乱はなく、首相自身が「奇妙だが機能している」と話す、世界でもまれな政治空白となっている。
(中略)
ベルギーでは総選挙後、組閣をする期限が法で決められていない。新政権ができるまで、前政権が日常業務や継続案件を担う。さらに「回復不可能な損害が出る緊急事態」には、暫定政府が新たな政策を決められるという司法判断がある。これに基づき、現政権は国家予算やリビア軍事介入など重要事項を決めた。このため、政府機能が止まっていない。一般の生活にも大きな支障は出ていない。地方分権が進み、教育などの住民に密着した施策は地域政府が担っているためだ・・・・【6月9日 朝日】
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“地方分権が進み、教育などの住民に密着した施策は地域政府が担っている”一方で、外交・安全保障については国家を越えたEUという枠組みが存在します。
そういう地方分権と超国家的なEUの枠組みのなかでは、内閣という中間的な存在は暫定政府でも大きな支障なく機能できた・・・といったところでしょうか。

市場の圧力を受ける形で連立交渉が加速
もっとも、それはこれまでの経済的好調があっての話だ・・・との指摘があります。
“財政赤字も減り、失業率は下がったが、ブリュッセル自由大学のパスカル・デルウィット教授(政治学)は「好調なドイツやフランスの経済に支えられている」と指摘。ベルギーは貿易依存度が高く、特に独仏向けの輸出は総額の約35%を占めており、「棚ぼた」で何とかなっているとの見方だ”【同上】

今回、連立合意が成立したのも、欧州信用不安のなかで、ベルギー経済への不安が高まったことが背景にあります。
****ベルギー:5日に政権樹立…1年半ぶり****
・・・・今年10月のベルギー、仏系金融大手デクシアの破綻を受け、11月25日に米格付け会社大手がベルギー国債の長期信用格付けを引き下げるなど、ベルギー経済への不安が高まった。市場の圧力を受ける形で交渉が加速し、6党が連立に合意した。

6党は、連邦政府から仏語、オランダ語の言語圏地方政府に社会保障などの権限を移譲する改革を行う。しかし、オランダ語圏はさらなる独立性を求めており、言語圏対立が新政権を揺さぶることになりそうだ。
仏語を母語とする首相は、78年から79年にかけての4カ月余りの短期政権以来、32年ぶり。オランダ語圏人口は約6割と多く、議会でもオランダ語圏政党が多数派だ。仏語圏の首相に対するオランダ語圏からの反発も予想される。

ベルギーの財政赤字の対国内総生産(GDP)比は欧州連合(EU)の財政安定成長協定が定める3%を上回る3.6%。6党は3%以下に引き下げるための歳出削減策で合意したが、これに反対する労働組合などが2日、5万人以上の大規模ストを決行した。【12月4日 毎日】
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【「かなり困難な作業になる」】
不安定な経済情勢における舵取りには、やはり正式な内閣・首相が必要ということですが、オランダ語圏とフランス語圏の対立は解消されないままで、エリオ・ディルポ新首相は困難な政権運営を強いられそうです。
しかも、今回6党連立合意では2025年までに国内原発を閉鎖することが決められています。
しかし、代替エネルギーは確保されておらず、“困難な作業”が予想されています。

****ベルギー:新政権 2025年までに国内の原発閉鎖へ****
ベルギーの新政権は5日、国内に7基ある原発を2025年までに閉鎖する方針を確認した。新政権を構成する6党が合意した。福島第1原発事故以後、欧州で脱原発政策を決めるのはドイツ、イタリア、スイスに続き4カ国目。ベルギーは電力の原発への依存度が55%と高く、代替エネルギーの確保が急務になる。
6党の連立合意文書によると、新政権発足から6カ月以内に閉鎖計画を決める。

ベルギーは03年に原発の運転期間を40年に制限する法律を施行している。だが09年当時のファンロンパウ首相(現欧州理事会常任議長=EU大統領)がさらに10年間、運転延長を認めることで電力会社側と合意していた。
新政権はこの合意を事実上破棄し「03年の法律が求める通り、原発を閉鎖する」と合意した。15年までに古い3基(1975年稼働)を閉鎖、残る4基(82~85年稼働)も25年までに順次閉鎖する。
原発運転延長で電力会社と合意した党も新政権に参加しており、脱原発政策の実行は確定的といえそうだ。

ただ、6党は、原発以外の電力源を確保し、電力価格が高騰しないことを脱原発の前提としている。風力など再生可能エネルギーは電力の数%程度しか供給できておらず、ガスなど別のエネルギーの導入が課題になる。電力供給を担当する経済省は「かなり困難な作業になる」としている。【12月6日 毎日】
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原発問題はさておき、ファン・ロンパイEU大統領は、自分が首相を辞し、その後自国の政治空白が続く中でEU大統領として活動するというのも、日本的な感覚では奇妙にも思えます.

もっとも、首相が1年未満でころころ変わる日本は、実質的にはベルギーよりはるかに長い“政治空白”を続けている・・・とも言えなくはありません。
しかも、重要決定がなされないという点では、ベルギーよりたちが悪いかも。

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