孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  “女性の安全”が確保できず、“ガス室”改善計画を断念

2017-11-15 22:35:33 | 南アジア(インド)

(スモッグが立ち込めたインドの首都ニューデリーでハンカチで口元を覆う女子学生(2017年11月8日撮影)【11月8日 AFP】)

呼吸器への影響は1日に50本のたばこを吸うのと同等
ときどき触れているように、大気汚染というと北京などの中国が想起されますが、実際のところは中国よりインドがひどい状態にあります。

今年も大気汚染が深刻化する“季節”を迎え、インド・ニューデリーでは小学校が休校となりました。

****印ニューデリー、厚いスモッグで全小学校休校 公衆衛生緊急事態****
世界で最も大気汚染が深刻なインドの首都ニューデリーで7日、市内を厚いスモッグが覆う中、当局などが公衆衛生緊急事態を宣言し、全小学校の一時休校を命じた。
 
米大使館のウェブサイトによれば、ニューデリー市内における人体に有害な微小粒子状物質「PM2.5」の指数は703。この数値は、健康に害があると定められている指数300をはるかに上回る。地元当局は、今後数日間は状況が悪化すると警告している。

インド医師会は衆衛生緊急事態を宣言し、ニューデリーの自治体に「全力を挙げてこの脅威を食い止めるよう」促している。

ニューデリーの大気汚染問題は国民からも激しい怒りを招いており、マニッシュ・シソディアデリー首都圏副首相は8日、ニューデリーの全小学校の休校を命じた。
 
2015年の政府統計によれば、デリー首都圏の小学校の児童数は200万人近い。ニューデリーの6000校で屋外活動が中止されたが、大気汚染のレベルはまだ深刻だとシソディア副首相は述べている。
 
世界保健機関(WHO)は2014年にニューデリーの大気汚染は世界で最も深刻で、中国・北京を上回るとしていた。以来、インド当局は火力発電所を一時的に封鎖し、車の通行量も封鎖するなどの措置を講じてきたが、多くの住民は、対策がほとんど追い付いていないと不満を漏らしている。
 
デリー首都圏の大気汚染は通常、冬が訪れる前に悪化する。空気が冷たくなると対流が抑えられ、汚染物質が地上近くにたまりやすくなるためだ。【11月8日 AFP】
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世界保健機関(WHO)が2016年に公表した報告書によると、ニューデリーのPM2.5の年平均濃度は北京の約1.4倍で、世界約3000都市のうち11番目に高い数値でした。(ということは、ニューデリーよりひどい都市がまだ10カ所あるということでもあります。)

原因は、冬になると風がやみ、野焼きの煙や車の排ガスなどが滞留するためと見られていますが、その両方とも対策は十分ではなく、市民からが「ガス室」との批判も。

****インド首都、自動車を規制へ=大気汚染深刻、「ガス室」と批判****
大気汚染が深刻化するインドの首都ニューデリーの行政当局は9日、自家用車の通行を13〜17日の間、規制すると発表した。一部例外を除き、ナンバープレート末尾の数字が奇数なら奇数日、偶数なら偶数日に走行が認められる。車の排ガスは大気汚染の主因の一つとされる。在留邦人の生活にも影響が出そうだ。
 
主要紙タイムズ・オブ・インディアは「本物のガス室だ。住民は息ができない」と首都の惨状を報道。首都高官は9日、「確かにひどい。少しでもましになるなら、何だってやる」と語った。
 
近郊の農家の野焼きや、火力発電の排ガスなども原因で、微小粒子状物質PM2.5の濃度が日本の基準値の約28.5倍に達した地域もある。

地元紙によると、視界が悪化し幹線道で多重衝突事故も発生。当局は12日まで全小学校を休校とし、粉じんが発生する建設・解体工事も禁止した。【11月9日 時事】 
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「呼吸器への影響は1日に50本のたばこを吸うのと同等」とのことで、“インドでは15年だけで50万人以上が大気汚染により死亡したとする研究もあるという”【11月7日 毎日】とのこと。
(もっとも、“〇〇の影響で何万人が死亡している”という類の表現はよく見ますが、個人的には“本当だろうか?”といった疑問も。いろいろ前提条件があると思われますので、評価の仕方は簡単ではないのでは)

****大気汚染、今年も深刻=呼吸器影響「1日50本喫煙と同等」―インド首都****
急速な経済成長に伴い、大気汚染に悩まされているインドの首都ニューデリーでは今月に入って、汚染が深刻化している。専門家は「呼吸器への影響は1日に50本のたばこを吸うのと同等」と警告。当局は13日から、排ガスが汚染原因とされる自家用車の通行規制を実施するが、地元紙は効果を疑問視している。(中略)
 
市内はスモッグでかすみ、交通事故が頻発。大学生アサルブ・シンさん(18)は10日、取材に対して「今年は昨年よりひどい」と顔をしかめた。(中略)
 
全インド医科大のグレリア理事長は地元紙に「ニューデリー首都圏では毎年、最大3万人が大気汚染による呼吸器障害で死亡している」と指摘した。その上で、公共交通の利用促進など抜本的対策の必要性も強調した。【11月11日 時事】 
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休校になっていた学校の方は、試験が近づいているとの懸念が出る中、13日から再開されています。
ただ、汚染が改善された訳でもなく、一部の親からは批判も出ています。

****深刻な大気汚染に見舞われる印首都、学校が再開に 一部の親は反発****
インドの首都ニューデリーでは13日、深刻な大気汚染により休校となっていた学校が再開された。ニューデリー市内の大気汚染レベルはいまだ高いままで、生徒の親らは当局を非難し、「子どもたちの健康をもてあそんでいる」と怒りをあらわにした。(中略)

だが当局は13日、試験が近づいているとの懸念が出る中、学校を再開。一部の親たちからは強い不満の声が出た。
 
全国保護者懇談会のアショク・アグラワル会長は、「大気汚染のレベルは悪いままだ。状況が変わらないならば、措置も同じであるべき。なぜ今学校を再開するのか」と疑問を呈し、「政府は一方で健康面での緊急事態と言いながら、一方では子どもの健康をもてあそんでいる」と指摘。「子どもたちがせきをし、苦しがりながら息をして学校に通うのを見ていると、とても不安だ」と述べた。(後略)【11月13日 AFP】
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【「女性の安全をないがしろにはできない」ので、自家用車の使用を規制する計画を断念
当局は、自家用車の使用を規制する計画でしたが、計画断念に追い込まれています。
その理由が、いかにもインドの現状を物語るものです。

****大気汚染深刻化のインド首都、車両規制を断念 例外認められず****
大気汚染が深刻なインドの首都ニューデリーの当局は、環境裁判所が女性や要人、バイクの使用者に汚染対策のための車両規制を免除することは認めないとする判断を下したことを受けて、自家用車の使用を規制する計画を断念した。

デリー首都圏は1週間近くにわたって有害な微小粒子状物質を含むスモッグに覆わており、当局はこの問題に対処すべく多くの対応策を打ち出している。
 
インド医師会が公衆衛生上の緊急事態と警告した状況を受け、デリー首都圏政府は9日、大気環境の改善を期待しニューデリーで13日から5日間にわたって車両規制を実施すると発表していた。
 
しかし環境裁判所が緊急車両と圧縮天然ガス(CNG)車、ニューデリーのほとんどの公共交通機関を除いて例外を認めないとの判断を下したことを受け、ニューデリー当局は車両規制計画を断念すると発表した。
 
ニューデリー交通当局のカイラシュ・ガーロット氏は記者会見で「今は(車両規制)計画を断念する」と述べ、裁判所にはバイク使用者と女性が例外として認められなければ車両規制の実施が困難になるため、これを認めるよう再考を求めていると補足した。
 
同氏は2つの例外をつくる理由として、公共交通機関への必要以上の負担に対応するのが難しくなるとした上で、最大の争点は「女性の安全」だと述べた。【11月12日 AFP】
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いまひとつわかりづらい内容ですが、要するに、女性が運転する車も含めて規制しないといけないとなると、バスなどの公共交通機関を利用する女性が増え、性的被害も増加する・・・という懸念があり、規制を実行できないという話です。

****性的被害増懸念で中止に=大気汚染の排ガス規制―インド首都****
大気汚染が深刻なインドの首都ニューデリーで、排ガスを抑えるため13日から実施予定だった自家用車の通行規制が中止された。

規制によりバスなどの公共交通機関を利用する女性が増えれば、性的被害も増加すると懸念したためで、インドでの排ガス規制の難しさが浮き彫りとなった。
 
行政当局の当初の計画では、女性が運転する車は規制対象から外されていた。国家機関から排ガス削減効果が下がるとして、女性の車も規制対象に加えるよう勧告を受けたが、最終的に「女性の安全をないがしろにはできない」(行政当局幹部)と判断し中止を決めた。
 
ニューデリーでは2012年、バスに乗っていた女子学生が集団暴行を受けて死亡。その後、取り締まりや啓発活動も強化されたが、性的被害は後を絶たない。【11月14日 時事】
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バス車内における女性への性的暴力と言えば、記事にもある2012年の事件が思い出されます。

****2012年インド集団強姦事件****
2012年12月16日、ニューデリーで被害者の女性医者実習生Jyoti Singh(当時23歳)[2]は友人男性と無認可のバスに乗った際、6人の男性からレイプされた上、さらに鉄パイプで女性器に激しい性的暴行を受け、友人男性とともに鉄パイプなどで殴られ、車外に放り出された。

女性は内臓に重傷を負い、市内の病院で腸の摘出手術などを受け後、シンガポールの病院で手当てを受けたが、同月29日に死亡した。友人男性は現地の病院を退院した。被害者の女性は、死亡する前に一度、意識が戻ったという。その時、「犯人たちが焼き殺されるのが見たい」と言い残した。【ウィキペディア】
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この事件を契機に、女性への性的暴力が注目されるようになりましたが、そうした性的暴力事件は後を絶たちません。

当局としては、“ガス室”状態も怖いが、女性の安全を保障できないので規制もできない・・・という“苦渋”の判断のようです。と言うか、女性の安全に関して状況が改善されていないことが大問題であり、責任が問われるべきところです。

女性への犯罪を取り締まるべき警官が・・・
状況が改善しない背景には、もちろん社会全体の女性に対する意識の問題がありますが、暴力を取り締まるべき立場の警官がこの種の問題を認識していないという実態があるようです。

****7歳少女を官舎でレイプか、インドで警官逮捕****
インド北部ウッタルプラデシュ州で、7歳少女をレイプした容疑で警察官の男が逮捕された。地元の警察高官が1日、AFPに明らかにした。逮捕された警察官は当時、酒に酔っていたとみられるという。(中略)

インドでは未成年に対する性的暴行事件が多発しており、政府の統計によると2015年には2万件が報告されている。同国は2012年に首都ニューデリーで起きた医学生に対する集団レイプ殺人事件が国際社会の批判を招いたことを受け、性的暴力を取り締まる法律を厳格化したが、性犯罪が後を絶たない。【10月2日 AFP】
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****集団レイプの被害女性を「あざ笑う」 警察官4人を懲戒処分 インド****
インドで3日、警察官4人が、集団性的暴行の被害に遭った女子学生(19)に対し、話をでっち上げていると疑いをかけて笑いものにした揚げ句、女性を救済することを拒んでいたことが明らかになり、懲戒処分を受けた。
 
女子学生は先月31日、中部ボパールの鉄道駅の外で男4人にレイプされた後、警察に行き被害を訴え出た。
 
ボパールの警察幹部によれば、女子学生の家族は警察で被害届を出そうとしたところ、警察官らに「あざ笑われて」追い払われたと主張しているという。
 
AFPの電話取材に応じたこの幹部は、警察官らは被害に遭った女性に対し、話を誇張してでっち上げていると非難したとして、警部補階級の3人が停職処分を受け、警視1人が職務怠慢と不正行為により役職を解任されたことを明らかにした。
 
警察は、警察官らの対応と家族の訴えについて調査を開始した。家族は3か所の警察署を回り、4か所目の警察署でようやく被害届を受理されていた。
 
警察幹部によれば、女子学生の両親は容疑者のうち2人の男を自分たちで捕まえて警察に連れて来たという。3人目は今月2日に逮捕され、4人目は現在も逃亡中だという。【11月4日 AFP】
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警官がこんな状況ですから、一般男性で見ると・・・・。
当局も女性に「安心してバスで通勤して」とは言い難い・・・・というところのようです。

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