孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

バングラデシュ  1年前の総選挙を巡る政争で広がる混乱

2015-02-06 22:08:21 | 南アジア(インド)

(与党・アワミ連盟(AL)のハシナ首相(右)と最大野党バングラデシュ民族主義党(BNP)のジア党首(元首相)(左) バングラデシュ政界の二人の女帝ですが、顔を合わせることはほとんどない宿敵同士です。 写真は随分昔の若い頃のもののようです。 “flickr”より By sykat17212 https://www.flickr.com/photos/89436756@N06/8268887970/in/photolist-dAGdiY-aCnYts-ikJupY-92nMkm-92nM63-92jFhX-92jFBT-qCNGLf-e7HLnH-e7vbad-e7vdC1-e7pxGk-4bvu2r-p1TzGn-p3UqpS-4bzw6w-aCka5R-aCnjto-aCjQWM-4bvtxT-fzLQma-5P1zUW-aCnYB3-e7vcoh-e7pxq8-e7vdLu-e7pykV-ajNiiT-aCjHWv-e7pybK-go1Ruz-demUsa-e7pyCp-e7pwyK-e7pxw2-e7vc87-e7vbqJ-e7pxGz-e7vbG1-e7py5c-e7pwop-e7pxaH-e7pyfR-e7vdeb-e7vd2E-e7pyaR-e7pwSe-e7pyra-e7pyBM-e7pwFT)

暴力的抵抗運動の風土 1年前の総選挙を巡る政争で、死者はおよそ50人
バングラデシュの政治が、ハシナ首相率いる与党・アワミ連盟(AL)と、ジア党首(元首相)率いるバングラデシュ民族主義党(BNP)の対立・抗争の歴史であることは、これまでも取り上げてきました。

ALとBNP、この二大政党の党首はいずれも女性で、似たような経歴で、かつ非常に仲が悪いという特徴があることも紹介してきました。

(2008年12月18日ブログ「バングラデシュ 総選挙がもたらすものは民主主義か混乱か?」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20081218など)

07年1月に選挙管理内閣としてスタートした暫定政府は、非常事態宣言のもとで軍部の力を背景に、このバングラデシュ政治停滞の原因ともなってきた二大政党党首を政界から追放しようという荒療治を試みましたが、結果的には失敗に終わっています。

ハシナ首相とジア党首はともに復活して、現在は昨年1月総選挙での圧勝を受けて、ハシナ首相が政権を担っています。

バングラデシュでは政治の争いが、社会混乱に直結する風土・風習が存在します。

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バングラデシュに限った話ではないでしょうが、政権=利権であり、汚職と腐敗が蔓延しているとも言われます。

与党が独占するこの甘い汁を求めて、野党はハルタル(ホッタール)と呼ばれる一種のゼネストを仕掛けて政権を揺さぶります。

ハルタルには一部野党熱烈支持者のほか、日雇いで動員された群集、特に日頃の鬱憤を晴らそうと暴れる若者が参加し、人々はシャッターを閉めて家で息をひそめます。

このハルタル、元来はインド独立の指導者ガンジーの提唱した非暴力抵抗運動だったようですが、バングラデシュでは政争の具となっているようです。
【2007年7月18日ブログ「バングラデシュ 選挙によらない内閣によって進む政治改革」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070718
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そうした政治風土もあって、またバングラデシュの政治・社会が混乱しています。
原因は、1年前の昨年1月に行われた総選挙の正当性です。

****バングラデシュ 抗議行動で死者も****
バングラデシュでは、野党がボイコットして行われた総選挙から1年となる5日、各地で与党を批判する抗議行動に集まった人たちが警官隊などと衝突してこれまでに3人が死亡し、今後さらに混乱が深まることが懸念されています。

バングラデシュでは去年1月5日、最大野党のバングラデシュ民族主義党などがボイコットするなか総選挙が行われ、今のハシナ首相率いる与党が勝利しました。

バングラデシュ民族主義党は選挙は正当性がないと批判を続けていて、選挙からちょうど1年に当たる5日、首都ダッカなど各地で抗議行動を呼びかけていました。

そして、集まってきた人たちが与党の支持者や警戒していた警官隊と衝突し、現地からの報道によりますと、北西部のラジシャヒなどで合わせて3人が死亡し、多数のけが人が出ています。

ダッカでは数日前から元首相でバングラデシュ民族主義党の党首のジア氏が警官隊に事務所を取り囲まれ事実上の軟禁状態に置かれていましたが、5日はジア氏を連れ出そうとした支持者に警官隊が催涙スプレーを使って制止する騒ぎに発展しました。

ジア氏は政府の対応を強く非難し、支持者に各地の道路や鉄道を封鎖するよう呼びかけ、さらに混乱が深まることが懸念されています。(後略)【1月6日 NHK】
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事実上に軟禁状態に置かれた野党BNPのジア党首が“ハルタル”のような徹底抗戦を呼びかけるのに対し、当局側は事務所の電気を切断し、通信を遮断するという強硬姿勢で臨んでいます。

****野党党首の事務所、電線切られる 政権の圧力 バングラデシュ****
バングラデシュの野党党首で、シェイク・ハシナ・ワゼド首相の30年来の政敵であるカレダ・ジア元首相の自宅兼事務所の電気が1月31日の未明から約20時間にわたって止められた。反政府デモを呼び掛けているジア氏に対する政権の圧力だ。

ジア氏が率いるバングラデシュ民族主義党(BNP)によれば、国営電力会社の技術者がはしごを使ってジア氏宅前の電線を切断した。

技術者は集まった報道陣を前に「警察から電線を切る許可が出ている」と述べた。民放テレビのチャンネル24によると、インターネットと衛星テレビの配線も切断されたという。

BNPによれば電気はその日の深夜に復旧したが、その後も事務所のインターネットやファクス、ケーブルテレビ、携帯電話は使えない状態が続いた。

ジア氏は、自身の支持者を1月5日にハシナ首相に抗議するデモに動員すると表明し、首都ダッカ市内の上流階層の地区グルシャンにある自宅兼事務所に閉じこもった。

1月5日はBNPがボイコットして与党が圧勝した前年の総選挙からちょうど1年目に当たる。ジア氏が閉じこもりを続ける中、同氏の1番下の息子がマレーシアで死亡。1月27日に行われた葬儀には数万人が参列し、ジア氏への支持を示した。

ジア氏は事務所から全国の道路や鉄道を封鎖するよう呼びかけて混乱を招き、少なくとも42人が死亡、800台近い車両が火炎瓶などで壊される事態になっている。

同氏はまた、150万人の学生が受験する高校入試が全国で行われるにもかかわらず、今月1日から72時間のストライキを呼びかけていた。

現地の英字紙デーリー・スターによると、シャージャハン・カーン船舶相は1月30日夜の集会で、ジア氏が交通網の封鎖をやめさせなければ、自宅の電気を止めて飢え死にさせてやると述べていた。ジア氏宅前の電線が切断されたのはその数時間後だった。

ジア氏はハシナ首相に、昨年の総選挙のやり直しを求めている。不正があるとして野党がボイコットした結果300議席のほとんどを与党が占め、ハシナ氏は任期5年の首相の座についた。【2月2日 AFP】
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今回の政治混乱で、すでにおよそ50人が死亡しています。

****バングラデシュ 総選挙巡り50人死亡****
バングラデシュでは、先月から総選挙のやり直しを求める野党支持者が抗議行動を激化させ、警官隊との衝突などが相次いでいて、この1か月間でおよそ50人が死亡し、治安の一層の悪化が懸念されています。

バングラデシュでは、去年1月に総選挙が行われ、ハシナ首相率いる与党が勝利しましたが、野党側は選挙が公正に行われていないとしてボイコットしました。

総選挙のやり直しを求める野党側は、選挙から1年となった先月5日以降、全国的な交通封鎖やゼネストなどの抗議行動を激化させていて、野党の支持者が警官隊と衝突して死者が出る事態となっています。

また、車両を狙った放火事件も相次ぎ、地元の警察によりますと、3日は東部のコミラで、何者かが長距離バスに火炎びんを投げ込み乗客7人が死亡しました。

一連の衝突や事件での死者は、この1か月でおよそ50人に上っています。また、治安の悪化で物流が途絶え、食料品の値上がりなどの影響も出ているということです。

政権側は、最大野党の幹部を相次いで逮捕するなど締めつけを強めていますが、野党側は対決姿勢を強めていて、治安の一層の悪化が懸念されています。(後略)【2月3日 NHK】
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徹底弾圧 「いかなる手段も取れる裁量を与える」】
犠牲者が増大している背景には、野党側の激しい抵抗のほか、治安当局の強硬な姿勢もあるようです。
カーン船舶相は「(ジア党首を)飢え死にさせてやる」と語ったそうですが、ハシナ首相も治安当局に対し「いかなる手段も取れる裁量を与える」としています。

****バングラデシュ:暴徒鎮圧に警察の権限拡大****
バングラデシュでは政権に反発する暴力的な抗議活動が続き、火炎瓶攻撃が多発している。

この事態に対し、政府は警察当局に過剰な武力を使用する自由裁量権を与えている。しかし、これではすでに激化している暴力の火に油を注ぐ恐れがある。

報道によると、シェイク・ハシナ首相は1月23日、次のように述べた。
「火炎瓶攻撃ですでに20人以上の死者が出た。警察当局に、暴徒鎮圧のために時と状況によりいかなる手段も取れる裁量を与える」

このような発言は、デモ参加者に対して警察が不必要で過剰な力を行使する事態を招きかねない。過去にも頻発した超法規的処刑を煽る可能性もある。

警察の作戦で最近、10人以上が殺害された。この作戦には過去に多くの人権侵害を犯したとされる精鋭特殊部隊も加わっている。

犠牲者のほとんどは1月の「銃撃戦作戦」(当局がそう呼んでいる)で亡くなっている。超法規的に処刑された人もいる。真相究明と関係者の処罰のために、徹底的に警察を調査する必要がある。

国際法および国際基準では、警察の武力行使は、その状況で必要不可欠であり見合った規模の範囲でのみ許容されている。

また、人命を尊重し、死傷者が出る危険性を最小限にするよう措置を講じる義務があるとしている。致死となる銃火器を故意に使用することは、身の安全に不可避な場合以外は、許されない。【2月4日 アムネスティ国際事務局発表ニュース】
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もともと人権意識がさほど高いとは言い難いバングラデシュですから、“いかなる手段も取れる裁量”を与えられた治安当局と、暴力的な政争を風土としてきた野党勢力の間で犠牲者が増大するのは必定です。

独立戦時の戦争犯罪者処刑 野党潰しとの反発
今回騒動の原因は先述のように、1年前に行われた総選挙ですが、このとき野党BNPは選挙をボイコットし、与党ALが圧勝しました。

何故BNPが選挙をボイコットしたかについては、選挙の1年前から行われた独立戦時の戦争犯罪者処刑にさかのぼりますし、その背景を探れば、バングラデシュがパキスタンから多大な犠牲を払いながら独立したときの問題にまでさかのぼります。

****バングラデシュ:議会選挙は与党圧勝へ 野党ボイコットで****
与野党対立による政情不安が続くバングラデシュで、任期満了に伴う議会(1院制、350議席)選挙の投票が(2014年1月)5日行われた。

与党・アワミ連盟を率いるハシナ首相への反発から、バングラデシュ民族主義党(BNP)など主要野党がボイコットしており、投票締め切りとともに、改選議席300の半数以上でアワミ連盟の候補が当選することが確実になった。

だが、4日から5日にかけて、野党支持者らが国内130カ所以上の投票所に放火するなど混乱が広がった。
野党不在の選挙には国際的にも正当性に疑問の声が上がるのは必至で、2008年の前回選挙に勝利したハシナ政権は、続投を決めた場合でも、野党の反発に伴う暴動の可能性に直面するなど、厳しい立場に立たされそうだ。(中略)

与野党間の対立は昨年(2013年)1月以降、先鋭化した。
原因は、ハシナ首相の主導で10年に設置された戦犯法廷で、野党指導者らが次々と死刑判決を受けたことだ。

内戦状態となったバングラデシュ独立戦争(1971年)の際の住民虐殺などの罪を裁く法廷だが、野党側は「野党つぶしの政治裁判」と批判し、ゼネストや暴動が広がった。

AP通信によると、与野党支持者間の衝突などで昨年1年間で少なくとも275人が死亡した。【2014年1月5日 毎日】
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1971年、東パキスタン地域(今のバングラデシュ)のベンガル人独立派に対し、西パキスタンの中央政府は軍を空輸して武力鎮圧を試み、死亡者は9ヶ月で300万人に達しました。これは第二次大戦全期間の日本の死者数に匹敵します。【ウィキペディアより】

この西パキスタンの中央政府による鎮圧に呼応して、反独立派のイスラム過激派組織がベンガル人の大量殺戮を行ったことも、膨大な犠牲者を生む原因となりました。

****バングラデシュ、イスラム政党幹部を処刑 独立戦争時の戦争犯罪で****
バングラデシュは(2013年12月)12日、1971年の独立戦争時に集団虐殺などを主導したとして、同国最大のイスラム政党「イスラム協会(JI)」の幹部の一人、アブドゥル・カデル・モッラ死刑囚(65)を絞首刑に処した。同戦争での戦争犯罪で死刑が執行されたのはこれが初めて。

クアムルル・イスラム法務副大臣は(中略)AFPに対し、「歴史的瞬間だ。1971年の解放戦争から40年を経て、集団虐殺の犠牲者はようやくある程度の正義を実現することができた」と語った。

さらに、パキスタンからバングラデシュの独立を勝ち取った戦勝記念日が間近であることに触れ、「12月16日の戦勝記念日を祝うに当たり、国民には最高の贈り物となった」と述べた。

独立戦争時の戦犯を裁くバングラデシュ国内の特別法廷「国際犯罪法廷」は、モッラ死刑囚を含むイスラム主義者5人とその他の複数の政治家に死刑判決を出している。

この法廷で最初の判決が出た(2013年)1月以降、バングラデシュでは独立後最悪の暴力行為が相次いで230人以上が死亡しており、死刑が執行されたことでさらに緊張が高まる恐れもある。

すでに死刑執行の発表直後に、数都市で新たな衝突が発生したという報告もある。野党は、この法廷はイスラム主義勢力指導者の根絶を目指しているとして強く批判している。

モッラ死刑囚は、バングラデシュの独立に反対する親パキスタンの民兵を率い、同国の高名な学者や医師、作家やジャーナリストを殺害したとして、今年2月に死刑判決を受けていた。

同死刑囚の罪状には、レイプや350人以上の非武装の民間人の集団虐殺なども含まれていた。同死刑囚はその残虐行為の大半が行われた地名から「ミルプールの虐殺者」の異名を取っていた。(後略)【2013年12月13日 AFP】
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300万人もの国民の血であがなった独立戦争を指揮したのが、バングラデシュの初代大統領ムジブル・ラーマンであり、ハシナ現首相の父でした。

ジア党首率いる最大野党BNPはイスラム政党JIと共闘しており、ハシナ政権による戦争犯罪者処刑は野党潰しであると反発しています。

このように、今回の政治混乱の背景には、独立戦以来のバングラデシュの歴史もありますが、一方で、暴力的抵抗運動を是とする政治風土、現政権の強硬姿勢、更に言えば、ハシナ首相とジア党首(元首相)という二人の女性政治家の個人的とも思えるような確執・怨念もあるように思われます。

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