孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ジンバブエ  ツァンギライ首相 続くか、宿敵ムガベ大統領との奇妙な二人三脚

2009-10-17 22:09:56 | 国際情勢

(今年6月 イギリス・ブラウン首相と会談するジンバブエ・ツァンギライ首相 “flickr”より By Downing Street
http://www.flickr.com/photos/downingstreet/3650534392/)

【経済成長率 3.7%】
戦後最悪とも言われるハイパー・インフレーションによる経済崩壊、昨年のムガベ大統領と野党「民主変革運動」(MDC)のツァンギライ議長が争った大統領選挙をめぐる政治的混乱で、殆ど国家破綻状態だったアフリカ・ジンバブエですが、とにもかくにも2月にムガベ大統領とツァンギライ首相という“大連立”がなんとか成立しました。

9月12日には、ジンバブエを訪問したEUの代表団がムガベ大統領、ツァンギライ首相と個別に相次いで会談しました。ジンバブエに対する制裁を行っているEUがムガベ大統領と会談したのは7年ぶりです。
このあたりの話は、9月14日ブログ「ジンバブエ 大連立後の状況」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090914)で取り上げたところです。

EUはジンバブエが変わらない限り制裁解除は行わないことを明らかにしています。
“ツァンギライが大きな経済発展を実現させたのは確かだが、医療や教育事情の改善、そして食糧生産を向上させるような政治的改革を伴わない限り国際社会は動かない、という意思表示だ”【10月21日号 Newsweek日本版】

ムガベ大統領の強引な黒人化政策などによって生産基盤が崩壊し、驚異的なハイパー・インフレーションで破綻状態にあった経済は、ツァンギライ首相によるジンバブエ・ドルに代わる米ドルの導入もあって、かなり改善したようです。今年の経済成長率はプラス3.7%を記録しています。
ただ、一般市民生活はまだまだ厳しい状況が続いているようです。

****ジンバブエ:物価高と外貨不足で生活厳しく*****
新体制ができ8カ月たった首都ハラレでは、かつての緊張状態は薄れ、市民に安堵(あんど)感が広がっていたものの、物価高や外貨不足により、市民生活は依然厳しい状況が続いていた。
現地語で「眠らぬ街」を意味するハラレ。24時間スーパーが開店するなど、街に活気は戻り、夜の酒場で楽しむ市民も増えた。ムガベ大統領が批判するオバマ米大統領をプリントしたTシャツ姿の若者も見られたが政治問題を語ろうとする者は少ない。
果物や野菜を販売するイエゼオさん(28)は「安心して商売をできるのがうれしい。でも、売り上げは今ひとつ」と笑顔を見せた。月末の給与支払時期は、客も増えるという。

インフレーションが拡大しデノミネーション(通貨呼称単位の切り下げ)を繰り返した後の今年1月末、政府は商取引の外貨使用を全面的に解禁。現在、街中でジンバブエ・ドル札は乗り合いバスに使用されるのみで、50米セントが3兆ジンバブエ・ドルで換算されている。米ドル札のほか南アフリカ・ランド、ボツワナ・プラなどが使用されている。
だが、多くの商店は古い紙幣を受け取らず、コインは不足し、釣り銭の代用にガムやアメなどのお菓子、クーポン券などが配られている。
一方、穀物類などは流通されるようになり、「連立政権発足後は隣国などから商品が入り、状況は改善している」(スーパー店員の40代女性)と言う。しかし、砂糖2キロが2米ドル、パン1斤が1米ドルと、市民の経済状況に照らせば厳しい現状だ。
地方公務員のファビアンさん(37)の月給は基本給の約160米ドルのみ。妻と子ども2人と親族の5人での生活は困難を極める。「家賃が400米ドルでパンク状態だ。仕入れた家畜を売りさばくこともある。海外に住む親族からの送金をあてにしてきたが世界的な金融危機以降、回数が減りつつある」と話す。

ムガベ大統領は今月6日、欧米諸国と協力関係を築く準備があると発言。先月は7年ぶりに欧州連合(EU)代表団と会談し制裁解除を訴えた。欧米は02年以降、ムガベ氏の強権政治を受け経済制裁を発動させ、経済状況悪化にもつながっている。【10月16日 毎日】
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【「不誠実で信頼できない」】
厳しさは続いているものの、ハイパー・インフレーションが改善し、改善の機運も見えることにほっとしたのですが、そうした改善をふいにしかねない政治対立が伝えられています。

****ツァンギライ首相、ムガベ大統領陣営との連立を一時停止 ジンバブエ*****
ジンバブエのモーガン・ツァンギライ首相は16日、連立を組むロバート・ムガベ大統領率いるジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線(ZANU-PF)を「不誠実で信頼できない」として、協力関係を一時的に停止すると発表した。2月に発足した連立政権に最大の危機が訪れた。
事の発端は今週、今年2月13日の新政権発のわずか1時間前に拘束されていたツァンギライ首相の側近のロイ・ベネット氏の拘束期間が延長されたことだ。べネット氏はムガベ大統領の殺害を計画していたなどの容疑がかけられていた。
ベネット氏は16日に保釈されたが、19日に出廷する。ベネット氏が所属する民主変革運動(MDC)は、容疑はでっちあげだと主張している。
ツァンギライ首相は、この一件は連立政権の「信頼性と誠実さが作り物」だったことを明らかにしたと指摘し、政府にはとどまるものの「われわれの間に信用と尊敬が戻るまで、ZANU-PFとの連立を即時停止する」と述べた。【10月17日 AFP】
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権力をどうしても手放さないムガベ大統領の居座りと暴力への妥協の産物である大連立は、その出発時から権力分配で大変な難産でした。
いつ瓦解しても不思議ではない関係ですが、今後が懸念されます。

【「ゆっくりとだが、車輪は回り始めている」】
宿敵ムガベ大統領を担ぐ政権の応援団長という困難な立場にあるツァンギライ首相(00年議会選挙勝利を無視され、04年には反逆罪で起訴されます。07年3月にはムガベ派の暴漢に襲われ危うく殺されそうになったこともあります。
今年3月にはツァンギライも同乗する車の事故で妻を亡くしましたが、この事故に対する疑惑もあります。)の最近の情勢については、「ジンバブエ首相 終わらぬ戦い」【10月21日号 Newsweek日本版】で報じられています。

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“「自分の命を狙ってきた男と一緒に仕事をするなんて、考えられるかい?」とツァンギライは言う。想像し難いが、それが今の2人の関係だ。”

“ムガベとの協力関係も、ツァンギライはなんとか維持している。「過去数年間にムガベがしたことは決して許されないが、私たちは協力して仕事にあたることを決めた」「ゆっくりとだが、車輪は回り始めている」
2人は現在、毎週月曜日に会談を持っている。ツァンギライは少しずつ、ムガベの汚職や虐待の過去を含めたデリケートな問題にも触れ始めているが、ムガベは事実を認めたがらないという。
「私が正面から問題を突きつけても、彼は否定する。証拠を示そうとしても、ムガベは否定する」”

“長年敵対してきた独裁者に対して、ツァンギライが寛大すぎるという批判もある。カネや権力と引き換えに、彼は買収されたという噂も流れている。指導者ツァンギライへの幻滅を口にするMDC支持者もいる。”

“一方のムガベにとって、首相との共存関係は好都合のようだ。さすがのムガベも、これがおそらく自分の歴史的評価を変える最後のチャンスと承知している。国の再建を遅らせているのがムガベ派ZANU-PF内の強硬派であることも自覚しているらしい。
だが、独裁者が軟化したとしても、ZANU-PFに染み付いた汚職と縁故主義の悪弊は容易に消えるものではない。
ツァンギライと同僚たちは今も、ムガベ派の政府高官による不正を目の当たりにしている。それでもツァンギライは前向きな姿勢を保ち、「罰を与えることより、進展に報いることのほうが大事だ」と言う。”
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いささかツァンギライへの肩入れに過ぎる面もある記事ですが、ツァンギライ首相の置かれている状況がわかる記事です。
ツァンギライ首相の素っ気無い執務室には、ムガベ大統領の肖像画が飾ってあるそうです。


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