孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イエメン  紛争、コレラ、飢饉の三重苦で増え続ける犠牲者

2017-09-15 22:18:31 | 中東情勢

イエメン・ハッジャ州で、国境なき医師団(MSF)の臨時医療施設で検査を受けるコレラ感染が疑われる子ども(2017年7月16日撮影)【8月29日 AFP】

内戦開始から市民の犠牲は1万人を超える
たいした資源もない中東最貧国の紛争ということもあってか、あまり国際的関心も高くないイエメン内戦。

イランが支援しているとされる「北部のイスラム教シーア派の一派ザイド派勢力であるフーシ派及びサレハ前大統領支持派」とアサウジアラビア等が支援して大規模な空爆介入を行っている「ハディ暫定大統領派」の激しい内戦状態となり、イラン・サウジアラビアの代理戦争とも言われる状況が続いていること、また、権力の空白に乗じる形で「アラビア半島のアルカイダ」などのアルカイダ勢力が拡大していることは、これまでも再三取り上げてきたところです。
(7月13日ブログ“イエメン 内戦を複雑化させる南部分離派の動向 サウジアラビアの思惑は? 「手に負えない」コレラ”)

国連の仲介で和平協議も実施されたましたが不調に終わっています。

サウジアラビアの大規模な軍事介入にもかかわらず、首都サヌアは依然としてフーシ派とサレハ前大統領派の連動が支配しており、戦局に大きな動きはないようです。(ほとんど報じられることもないので、詳しい状況はわかりませんが)

紛争が長引くにつれて状況が混迷するのはよくある話で、前回ブログではサウジアラビアが支援するハディ暫定大統領派の足元を南部分離主義者の反乱が揺るがしている・・・という件を取り上げましたが、ゴタゴタ・混迷はフーシ派・サレハ前大統領派の方も同じです。

このところ、フーシ派とサレハ前大統領派の対立・小競り合いなどがあったようですが、一応“手打ち”が行われたようです。

****hothy・サーレハのTV会談(イエメン****
イエメンでは8月以来、hothy連合内で、サーレハ元大統領とhothyグループの対立と緊張が続いてきましたが(この間アラビア語メディアでは、サーレハの自宅軟禁とか、攻撃とか、種々の報道がありましたが、どうも情宣的臭いもあり、目立ったもの以外は報告しませんでした)al qods al arabi net は2つの記事で、13日双方の指導者abdel malik al hothyとサーレハが、TV会談をしたと報じています。

イエメンでもTV会議などがおこなわれるのは驚きですが、サーレハに近い筋は、会談では、最近のサナアを巡る情勢とかのイエメン情勢が率直に話し合われ、これまでの連合の決定の実施、国家組織の再興等に合意し、両者の相違点を解決することとし、双方とも政党または政治勢力であって、国家組織ではないことを確認した由

(最後の点はhothyグループが、最高政治評議会等を通じて、体制=国家として、サーレハグループを抑えようとしていたとされることを念頭に置いてか?)

今後9月末にかけて、合意が順次実施される予定の由【9月14日 「中東の窓」】
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こうした紛争の泥沼が続くなかで、住民犠牲は着実に増加していきます。
2015年の内戦開始から市民の犠牲は1万人を超え、総人口の1割超の300万人が難民・避難民となっていると言われています。

****イエメン誤爆で12人死亡、サウジ主導軍認める****
イエメン南部の首都サヌアで25日、少なくとも子ども6人を含む市民12人が死亡する空爆があり、サウジアラビアの国営通信によると、サウジ主導の有志連合軍は翌26日、誤爆だったと認めた。
 
空爆は25日早朝で、反体制派のシーア派武装勢力フーシが支配するサヌアの住宅地が標的になった。有志連合の報道官は「技術的なミスが原因。フーシの司令部を狙ったものだった」との声明を出し、市民を標的にしたものではないと強調しつつ、「市民を『人間の盾』にしている」とフーシを批判した。
 
国連によると、今月17〜24日の約1週間で、有志連合による民家やホテルなどの爆撃で、少なくとも42人の市民が死亡した。

2015年の内戦開始から市民の犠牲は1万人を超えるとされている。【8月27日 読売】
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秘密主義のサウジアラビアも、最近は“誤爆”を認めるようになったようで、それはいいのですが、サウジアラビアの空爆はピンポイントとは言い難い、かなり荒っぽいもので、多大な住民犠牲が出ているとの指摘がかねてよりあります。

上記は、「中東の窓」で紹介されていた“Al Quds Al Arabi”(ロンドンに本部を置く、アラブ系日刊紙)に掲載された風刺画です。

ウイリアム・テルよろしく弓を射たのが“サウジアラビア”、“イエメン”と書かれた子供の頭の上には“フーシ”と書かれたリンゴ フーシを狙ったサウジアラビアの射た矢は残念ながらイエメンの体に・・・というもの。

紛争、コレラ、飢饉のリスクという三重の脅威
イエメンを苦しめているのは紛争被害だけでないこと、大規模な飢餓、更にコレラの流行が追い打ちをかけるようにイエメン住民の上に襲い掛かっていることは、前回ブログでも取り上げました。

コレラに関しては、8月末に“患者を治療し、上下水道のシステムを改善する「地元の隠れた英雄たち」のかつてない活躍により、縮小している(新たにコレラの感染が疑われる人々の数が6月末以降、3分の1減少)”という発表が国連からなされ【8月29日 AFPより】、少し安心もしていたのですが、まだ楽観できない状況が続いているようです。

****イエメンのコレラ感染者、年内に85万人まで増加の恐れ 赤十字****
赤十字国際委員会(ICRC)は13日、内戦で悲惨な人道的状況下にあるイエメンでコレラの感染者数が年末までに85万人に達する恐れがあると警告した。
 
イエメンではサウジアラビアが支援する政府と、首都サヌアを掌握するイスラム教シーア派の反政府勢力との間で紛争が2年以上続いてインフラが崩壊。世界最悪レベルのコレラのまん延を招いている。【9月14日 AFP】
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イエメン人口は紛争前で2750万人ほどとされていますので、85万人という数字は全人口の3%にあたります。
ユニセフによると、感染が疑われるケースの半数以上が子どもたちのものだったとのことですから、子供だけで見れば、もっと大きな数字になるでしょう。

なお、感染者50万人ほどの現時点で、死者は2000人近いとされています。

国連「この苦難に終止符を打つため、あらゆる手を尽くすことは、私たち全員にとっての道徳的責務」】
飢饉にしても、コレラの蔓延にしても、紛争による混乱・インフラ破壊などがもたらしたものです。

国連広報センターは、スティーブン・オブライアン 前人道問題担当国連事務次長、マルゴット・ヴァルストローム スウェーデン外務大臣、ディディエ・ブルカルテール スイス連邦外務大臣の連名で、対応強化を訴える下記のメッセージを発表しています。

****イエメン危機への対応強化は道徳的責務****
原因は人為的なものです。

生後4カ月のサレハちゃんは重症の急性栄養失調に陥り、フダイダの病院で生死の境をさまよっています。
国内全土で紛争が激化する中で、22歳の母親ノラさんは、6人の子どもたちの健康を守るために十分な食料もきれいな水も手に入れることができません。

現在、イエメンでは紛争、コレラ、飢饉のリスクという三重の脅威が、2,100万人の生活を破壊しています。イエメンは、世界最大の飢餓の危機に直面しているだけでなく、最悪のコレラ流行にも見舞われ、感染の疑いがある人々は50万人を超えています。

イエメン危機は人為的なものです。この紛争では、民間人に苦痛を強いた上、生活に不可欠な組織を破壊するという戦術が用いられています。

コレラは現在までに、国内の全県に蔓延し、すでに2,000人の命を奪っていますが、少なくともその40%が子どもです。

医療システムが機能不全に陥っているためコレラ蔓延に十分対応できず、診療所や病院では人員、医薬品、設備がいずれも不足しています。

多くの紛争と同じく、イエメンでも暴力の矢面に立たされているのは民間人です。

国連人権高等弁務官事務所は2015年3月以来、1万3,829人の民間人死傷者を把握していますが、その内訳は死者が5,110人、負傷者が8,719人となっています。実際の数はおそらく、これよりはるかに多いはずです。

数百万人が爆撃によって家や学校、市場、町全体を破壊され、多くの家族が命からがら、まったく将来の見通しが立たない中で避難を強いられているのです。

イエメンでは、病院と診療所の半数が破壊または閉鎖されています。

様々な商品や人道援助物資の国内への搬入が不当な制約を受けていることで、イエメンの経済には甚大な被害が及んでいます。

物資の輸送に欠かせないインフラが損傷を受け、企業の7割は操業停止に追い込まれています。中央銀行から資金が供給されているにもかかわらず、100万人の公務員は10カ月以上も給与の支払いを受けていません。

200万人の子どもが学校に通えなくなり、失われた世代となるおそれが出てきました。性的暴力やジェンダーに基づく暴力も劇的に増大しています。

こうした計り知れない課題に直面しながら、122の人道援助団体(その3分の2は国内NGO)は、その活動をイエメン全県に拡大し、毎月430万人に食料援助を届けるなどしています。

しかし、それだけでは不十分です。私たちはイエメンに対する支援を強化し、必要な人々が支援を受けられるようにし、その苦痛に終止符を打つために、4つの優先的対策を求めます。

第1に、人命を守り、救い、尊厳を取り戻すためには、人道団体が支障なく、脆弱な立場にある人々に手を差し伸べられるようにする必要があります。

国連安全保障理事会は2017年6月15日の議長声明で、イエメン紛争の全当事者に対し改めて、安全かつ持続的な人道アクセスを提供し、国際人道法を守るよう呼びかけました。

7月12日にも安全保障理事会の全理事国が強調しているとおり、すべての当事者がいま、この言葉を実行に移す義務を負っています。

暴力が横行する中で援助を届け、人命を救い、人々を守ろうと努める勇敢なボランティアや援助・医療要員を、戦闘当事者による攻撃の対象としてはなりません。

戦争にもルールがあり、戦闘当事者のリーダーやその利益代弁者たちは、このルールを守らせるよう、もっと真剣に取り組まねばなりません。

第2に、国際ドナーは、その資金拠出の約束を果たさなければなりません。

2017年4月、スイスとスウェーデンの政府が国連人道問題調整事務所(UNOCHA)とともに開催したイエメン危機人道支援会合では、アントニオ・グテーレス国連事務総長が開会の辞を述べ、ドナーが11億米ドルという、寛大な資金拠出を誓約しました。

そのうち4分の3はすでに拠出されていますが、コレラの流行を受け、対応所要資金が23億米ドルに跳ね上がってしまったため、ほぼ60%の資金が未だ不足している計算になります。

この資金不足は人々の生死を左右します。さらなる資金供与が得られなければ、飢餓に苦しむ700万人への食料配給を目指す世界食糧計画(国連WFP)は、あと1カ月で食料を届けられなくなってしまいます。

援助機関は現在、貴重な資金をコレラ危機への対処に充てることを余儀なくされているため、飢饉予防への取り組みに支障を来たすおそれもあります。

そこには人の命がかかっているのです。待つ余裕はありません。

第3に、すべての紛争当事者は、救命のための食料や栄養治療、医薬品など、必要不可欠な物資のイエメンへの搬入に制約を設けないようにせねばなりません。

フダイダ港の治安を確保しその機能を維持することは特に重要です。イエメンの輸入品と人道援助物資の大半が、主としてこの港から搬入されているからです。

また、サヌア国際空港とイエメンの空域を直ちに開放するなどして、援助を求める民間人の自由な移動に対する制限も解除しなければなりません。空港閉鎖により、必要な援助がイエメン国内で得られないというだけの理由で、命を失う人々が出ているからです。

最後に、当然のことですが、紛争が止まない限り、イエメンの苦難が終わることはありません。国連事務総長も安全保障理事会の全理事国も、和平の必要性を繰り返し強調しています。

私たちはすべての利害関係者に対し、包摂的かつ平和的な解決に向けた歩みを進めるよう、強く訴えます。その際、女性が和平プロセス全体に参加できるようにしなければなりません。

イエメンの人々の苦痛はすでに限界に達しています。

私たちは、イエメン国民の4分の3を超える2,100万人の生命を救い、こうした人々を保護するための努力を惜しんではなりません。

この苦難に終止符を打つため、あらゆる手を尽くすことは、私たち全員にとっての道徳的責務だからです。【9月9日 ハフィントンポストJapan】
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しかし、“何とか第一”といった利己主義が声高に叫ばれ、“道徳的責務”などは嘲笑の対象にしかならないのが昨今の政治・社会の雰囲気です。

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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2017-09-16 19:44:56
非アラブのイランがこれだけアラブ諸国に介入する理由は、かつてイラクに攻め込まれた経験からだそうです。
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