孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  ラッカの次の主戦場・東部デリゾール方面をめぐるクルド人勢力と政府軍の競合 衝突は?

2017-09-10 21:35:17 | 中東情勢

(イラクと接する点線で囲まれた地域がデリゾール県 ■は油田、黄色の線はパイプライン シリアの石油・天然ガス田の大部分は東部デリゾール県に集中しています。 アサド政権・政府軍にとっては、イラク・バグダッド、更にはレバノンのヒズボラとも陸路で通じるうえでの要衝でもあります。【9月8日 WSJより】)

【「10月末までにラッカは解放される」 住民犠牲も増大
シリアでは、アメリカの支援を受けるクルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)によるISが首都とするラッカ攻略が進められています。

****<シリア>ラッカ6割奪還 民主軍「旧市街制圧****
過激派組織「イスラム国」(IS)が「首都」と位置付けるシリア北部ラッカで、IS掃討作戦を続けるクルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)の報道官は今月に入り、「既にラッカの65%を奪還した」と発表した。SDFは1日の声明で旧市街も制圧したとしており、作戦の進展を強調した。
 
ロイター通信によると、シリア和平を仲介するデミストゥーラ国連特使は1日、「10月末までにラッカは解放される」との見通しを示した。
 
一方、現在もラッカ市内には市民約2万人が取り残されており、SDFを支援する米軍主導の有志国連合によるとみられる空爆で民間人の死亡も相次いでいる。国連は8月31日、「市民が受け入れがたい代償を支払っている」と犠牲者増加に懸念を示した。
 
隣国のイラクでもIS掃討作戦は進み、イラク軍などはIS重要拠点だった北部モスル、タルアファルを既に奪還。今後、残存勢力が立てこもるハウィジャへの進攻を計画している。【9月4日 毎日】
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完全奪還は時間の問題ですが、依然としてISによる住民を“人間の盾”とした抵抗がなされていること、また、戦闘激化に伴ってアメリカ等有志連合の空爆も強化されていることから、住民犠牲も非常に増大しています。

****IS「首都」ラッカ、市民167人死亡 有志連合の空爆****
在英NGO「シリア人権監視団」は22日、過激派組織「イスラム国」(IS)が「首都」と称するシリア北部ラッカで、米軍を中心とする有志連合の空爆によって過去8日間で市民167人が死亡したと発表した。このうち59人は子ども、37人は女性だといい、さらに死者が増える可能性もあるという。
 
ラッカでは、反体制派の少数民族クルド人の部隊を中心とする「シリア民主軍」(SDF)がISとの地上戦で拠点の制圧を進め、有志連合が空爆で支援している。

有志連合の公表資料によると、14〜21日のラッカ近郊での空爆は300回以上にのぼる。ターゲットはIS関連の施設だが、市民の巻き添え被害は後を絶たないとみられる。
 
SDFはすでにラッカ市内の半分以上を支配地域にしているが、IS側は約2千人の戦闘員が残り、市民を「人間の盾」として抵抗している。今後、さらに戦闘が激化することが予想され、空爆による被害の増加も懸念される。【8月23日 朝日】
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クルド・政府軍の戦略上の要衝・油田地帯のデリゾールをめぐる競合
クルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)は、ISのラッカ撤退後の主戦場となる東部デリゾール県方面への侵攻も開始しています。


****シリア東部でも新たな作戦 ISへの攻勢一段と強まる****
シリア北部で、アメリカ軍などの支援を受けて過激派組織IS=イスラミックステートに対する軍事作戦を続けるクルド人勢力主体の部隊が、シリア東部のデリゾール県でも新たな作戦を開始し、ISへの攻勢が一段と強まっています。

シリアではアメリカ主導の有志連合の支援を受けるクルド人勢力を主体とする部隊が、ISが首都と位置づける北部のラッカの攻略作戦を続け、旧市街などを制圧しています。

この部隊は、9日、ラッカと並んでISの重要拠点となっているシリア東部のデリゾール県に対し北側から新たな軍事作戦を開始したことを明らかにしました。

デリゾール県ではアサド政権の軍が中心都市の制圧に向けてすでに西側から部隊を進めていて9日には、ISが資金源としてきた油田の1つを奪還したということです。

アサド政権の軍に続いて、アメリカなどの支援を受けるクルド人勢力主体の部隊がデリゾール県で軍事作戦を始めたことで、ISに対する攻勢は一段と強まっていますが、両者は対立関係にあるだけに、今後それぞれが進軍する中、衝突が起きることも懸念されています。【9月10日 NHK】
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しかし上記記事にもあるように、戦略上の要衝であり、かつ、油田地帯でもある東部デリゾール県方面には、ロシアの支援を受けるシリア政府軍がアメリカ・クルド人勢力に先んじる形で侵攻しており、成果をあげています。

****シリア政府軍、東部の要衝デリゾールのIS包囲網を突破****
シリア政府軍は9日、同軍がイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」による同国東部デリゾール(Deir Ezzor)軍用空港の包囲網を破ったと述べた。デリゾール県内で米国が支援する戦闘組織からの攻撃も受けるISにとって新たな打撃となった。
 
石油資源が豊富なデリゾール県はイラク国境に接しており、米国が支援するシリア民主軍(SDF)とロシアが支援するシリア政府軍のいずれにとっても戦略上の重要拠点。

ISは2014年より同県の一部地域と県都デリゾール市の約6割を掌握しており、同市西側にある政府側の支配地2か所を包囲していた。
 
シリア政府軍は今月5日にIS包囲網の一部を破り、8日に軍用空港の周囲にあったISの陣地に対する新たな攻撃を開始。

国営シリア・アラブ通信(SANA)の報道によると、9日に入り「市の南西部にある墓地から進軍した部隊と、空軍基地(軍用空港)を保持していた部隊が合流した後、同空港周囲のISの包囲網を破った」という。
 
シリア政府を支援するロシアは、同国軍の戦闘機がISに対する「大規模な空爆」を行って、空港包囲網を突破するシリア政府の地上軍を支援したと述べた。
 
英国に拠点を置くNGO「シリア人権監視団」によると、空港のIS包囲網突破によりシリア政府軍は「デリゾール市西部で政府軍が掌握する地域全部をつなぐことができた」という。
 
ISは最近シリアとイラクで数々の敗北を喫しており、シリア政府軍のデリゾール包囲網突破は同組織にとって大きな打撃となる。
 
ISは今年7月、イラク政府軍に同国第2の都市モスルを奪還され、同組織が「首都」と位置づけるシリアの都市ラッカもすでに半分以上を失っている。デリゾール県は現在もその大半がISの掌握下にあるシリア国内最後の県。【9月10日 AFP】
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アメリカ・クルド人勢力が首都ラッカ攻略にくぎ付けされている間に、ロシア・政府軍は要衝デリゾール制圧を進める、この動きを警戒したクルド人勢力はラッカ攻略と並行してデリゾール侵攻も開始・・・といったところでしょうか。

優勢の流れに乗る政府軍 クルド人勢力との衝突は?】
これまでのところ、アサド政権・政府軍とクルド人勢力の両者は、各勢力・関係国入り乱れるシリア内戦における“勝ち組”といっていいでしょう。一方、“負け組”はISと反体制派。

“勝ち組”同士のアサド政権・政府軍とクルド人勢力は、これまで本格的な衝突は避けて、それぞれの思惑で動いてきましたが、シリア内戦最終局面が近づく中で、要衝の東部デリゾールをめぐって両者が争う状況にもなりつつあります。

今後の展開は、アメリカがどこまでクルド人勢力を後押しするかにもよりますが、8月19日ブログ“シリア アメリカはクルド人勢力を“使い捨て”にするのか?”でも取り上げたように、あまりアメリカ・トランプ政権の支援は期待できないのでは・・・といったところ。

そういう事情もあって、先んじた政府軍が主体となった今後の展開が予想されます。両者が衝突する状態になるかは、アメリカ・ロシアの思惑にもよりますが、クルド人勢力がアメリカに大きな期待ができないのは先述のとおり。

****シリア、IS退却後に迫る新たな紛争とは****
アサド政権は米国が支援するクルド人勢力と衝突するのか

シリアのアサド政権軍は今週、東部デリゾールでの攻撃に成功した。この結果、政権軍は、過激派組織「イスラム国(IS)」の支配してきた残存地域を誰が受け継ぐかの競争で、米国が支援するクルド人主体の部隊よりも優位に立った。
 
ISが急速に支配地域を失っていることを受け、バッシャール・アサド大統領は2011年にシリア内戦が始まって以降、最も強い立場に浮上した。だが、依然として同国の大半の地域は掌握していない。米国の支援を受けてクルド人が支配する北東部の地域や、その近くのトルコ軍の占領地域などだ。
 
ここで問題となるのは、IS敗北後にアサド政権とクルド人の支配地域の境界線をどこに引くのか、そして、その線引きが同国の半永久的な分割につながるのか、それとも、新たな紛争のきっかけになるのかだ。後者の場合には、米国に難しい選択を迫る恐れがある。
 
米軍が立案している計画によれば、クルド人主体のシリア民主軍(SDF)は、シリア北部の中枢都市ラッカをISから奪取する戦いの最終段階にあるが、ラッカ奪還後にはユーフラテス川に沿ってさらに南方に進み、ISがなお支配し続けるマヤディーンを掌握、次いでイラクとの国境に近いアブカマルを奪還する段取りになっている。シリアのこうした紛争地域には、同国の石油・天然ガスの大部分が埋蔵されている。
 
アサド政権軍とその同盟部隊のシーア派民兵組織が今週、デリゾールの包囲網突破のために行った猛攻は、上述のようなSDF進撃の予定経路を数日後に遮断する恐れがある。デリゾールの大半は、依然としてIS支配下にある。
 
アラブ人主体の反政府勢力タヤール・アルガドの幹部モンゼル・アクビク氏は、「これまでは競争だったが、政権軍がデリゾールを掌握すれば、その時点で米国主導の同盟軍にとってゲームオーバーだ。(SDFは)進撃をやめなくてはならなくなる」と述べた。

タヤール・アルガドはクルド人主体のSDFと緩やかな同盟関係にある。同氏は「政権軍はデリゾール掌握後、アブカマルに進軍できる。アブカマルを掌握すれば、イランはテヘランからバグダッド、ダマスカスを経て、ベイルート市内のヒズボラ(レバノンのシーア派組織ヒズボラ本部)に至る陸路を邪魔されずに行き来する権利を手に入れることになる」と述べた。

これまでのところ、アサド政権軍とクルド人主体のSDFは敵同士ではない。政権軍とSDFはいずれもトルコおよびトルコのシリア代理勢力(アレッポの北東方面の地域を占領)に対する敵意を共有している。

過去1年間にかけて孤立した小競り合いがあったものの、北東部の都市ハサカとカーミシュリーのクルド人支配地域内には政権軍が保有する飛び地がある。

一方、シリア西部アフリーンにあるクルド人の大きな飛び地は、ロシアの保護を受けてトルコによる攻撃から守られており、政権軍の支配地域を通じて他の世界とつながっている。
 
ワシントン近東政策研究所のシリア専門家、アンドリュー・タブラー氏は、「これまでSDFとアサド政権軍が交戦することはなかった。今後もそれが続くかどうかは、じきに分かるだろう」と話す。
 
タブラ―氏は言う。「米国の政策サークルが抱いているアイデアは、ユーフラテス川に沿ってシリアの『ソフトな分割』を行うというものだ。それは、第2次世界大戦終了時に(ドイツの)エルベ川に沿って行われたものと似ている。違うのは、今日、米国が東方からやって来て、ロシアが西方からやって来ることぐらいだ。しかし(アサド)政権とイランは『ソフトな分割』には一切興味を抱いておらず、追求しているのは軍事的な勝利だ」
 
実際、アサド大統領は、シリア北部でクルド人の自治を維持するという考え方を繰り返し拒否してきた。スンニ派アラブ人主体の穏健な反政府勢力の指導者の一人、サフワン・アカシュ氏は、アサド政権は最終的には米国が同盟を結んでいるクルド人たちを攻撃すると予測した。
 
同氏は「アサド政権はクルド人自治地域を容認しないだろう」と述べ、「ロシアと米国が影響力を共有する局面では、あらゆるものが一時的だ。現在の紛争には別の紛争が続くだろう」と予想した。
 
アサド政権軍によるクルド人攻撃は直ちに起こらないかもしれない。これは米国とロシアが、アサド政権とSDFの全面戦争を嫌悪していることが一因だ。

またアサド政権にはもっと喫緊の優先課題があるという事情もある。それはシリア北西部で反政府勢力が支配するイドリブ県をどうするかだ。そこでは国際テロ組織アルカイダと連携しているジハーディスト(聖戦主義者)らによる支配が強まっている。
 
しかし、この種の紛争、つまりアサド政権軍のクルド人勢力攻撃は、差し迫っているようにみえる。オバマ前政権で駐シリア米国大使を務めたロバート・フォード氏(現在、ワシントンの中東研究所のフェロー)は、もし攻撃が始まったら、ワシントンはクルド人との同盟関係を放棄するか、あるいはアサド政権に対する直接的な軍事行動にでるかという不快な選択に直面するだろうと述べた。
 
同氏は「遅かれ早かれ、ダマスカスのアサド政権はその権威を再び押しつけようと試みるだろう。彼らは6カ月後に動くのか、1年後か、あるいは1年半後になるのだろうか?」と問い掛け、「それはトランプ政権にとって大きな決断になるだろう。米軍を動員して、シリアのクルド人自治地域を保護しようとするのか? そうする場合は、国際法違反になるため、米軍介入を支持する国はこの地域にはないと思う」と語った。
 
この米軍介入シナリオはとりわけ、既に危うい米ロ関係を一段と緊張させるだろう。それを回避する唯一の希望は、ジュネーブで交渉されている国連支援の和平プロセスだ。
 
しかしジュネーブでは、アサド政権に次いで二番目に大きな領地を支配しているクルド人勢力は、トルコの反対により、交渉に招かれてもいない。

そしてスンニ派アラブ人の反政府勢力は、ロシアが介入して戦争の方向を逆転させる2年前までは大きく躍進していたのだが、現在では苦境にあって、ますます弱いカードしか持っていない。
 
それはアサド大統領にとって、現段階で和平プロセスに関して柔軟になる理由がほとんどないことを意味する、とロンドンの英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のカマル・アラム氏は言う。

アラム氏は「アサド政権は優位に立っているし、(戦争が始まって以降)これまでないほどに強くなっている」と述べ、「同政権は依然としてこの交渉に出席するだろうが、余りに多くを譲歩しなければならない圧力はもはや受けていない」と語った。【9月8日 WSJ】
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アサド政権にとっては、国家統治を回復するうえで、東部デリゾール制圧は欠かせないところでしょう。
しかし、クルド人勢力にとっては、確かに油田地帯は欲しいでしょうが、それより重要なのは現在支配している地域を内戦後も自治権を有する形で維持し続けることでしょう。

そのことからすれば、クルド人勢力が政府軍と本格的に衝突してまでデリゾールにこだわることもなさそうに思えます。

クルド人支配地域の自治については、今後阻止に向けてトルコが軍事介入も辞さないとも思われ、クルド人勢力にとっては政府軍とことを構える余裕はないのでは・・・とも思われます。

ただ、クルド人勢力は、デリゾール方面で政府軍と競争するなかで、支配地域の自治に向けた確約みたいなものをアサド政権から取り付けたいところでしょうが、上記記事にあるように勢いに乗ったアサド政権側が“容認しない”という姿勢を強めれば、両者が本格的に衝突して“力で白黒を決める”という展開もありえます。

そのときアメリカは?ロシアは? また、トルコは?・・・・どうでしょうか。わかりません。
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