(コンゴ 国連装甲車両のパトロールを見つめる住民 【3月29日 ISLAM Times】
【政府軍・民兵組織による暴力が横行】
アフリカ中央部に位置する資源大国コンゴ民主共和国(旧ザイール)における、豊富な資源の利権をめぐる紛争が絶えない“資源の呪い”とも言うべき状況については、2月21日ブログ“コンゴ 東部で続く混乱 映画「ランボー」のような政府軍による民間人虐殺?”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170221でも取り上げました。
そのときは、絶えない非人道的暴力・殺戮の一例として、ナンデ人の民兵組織がフツ人の村を襲撃し住民25人を殺害したとされる事件、政府軍兵士らが非武装の民間人50~100人を射殺している様子を映したとする動画が公開されたこと・・・・などを紹介しました。
そしてコンゴでは、カビラ大統領が任期切れを過ぎても“居座り”を続けています。
武装組織・政府軍入り乱れての悲惨な暴力に関する報道は、その後も続いています。被害者は国連関係者にも及んでいます。
****コンゴで警察官42人殺害、国連専門家も遺体で発見****
<在任期間を過ぎても大統領の座に居座り続けるカビラと反対勢力の対立は、国連専門家も巻き込む最悪の事態に>
コンゴ(旧ザイール)中部の中央カサイ州で24日、警察官と地方武装勢力が衝突し、警察官42人が斬首された。与野党勢力の衝突が続く現地でも、最悪のケースと見られる。
当局によると、殺された警察官たちは同州の中心都市ツィカパからカサイ州カナンガへ移動していた。今は亡き部族長カムウィナ・ンサプに忠誠を誓う民兵組織が襲撃したとき、命が助かったのは、地元の言語であるツィルバ語を話した6人だけだった。同日、フランソワ・カランバ同州知事の話としてAP通信が伝えた。
コンゴでは、ジョゼフ・カビラ大統領が任期切れを無視して権力の座に居座った昨年末以来、与野党の紛争が激化している。
ンサプは昨年6月に、自らを公式に国家元首として認知させる運動を開始。これに呼応する蜂起が相次ぎ、政府はこの地域から撤退を余儀なくされた。
2カ月後、ンサプが治安部隊に殺害されると、その支持者が警察や対立する組織と衝突。BBCニュースによれば、両組織とも民間人を残虐したと相手を非難している。
国際機関は、今月初めに国連人権理事会のチームが発見した集団墓地から推測し、コンゴ治安部隊によって民間人が約99人殺害されたと報告した。
また、ンサプの民兵組織が、近隣に位置する南東部ロマミ州で子どもを含む、少なくとも30人を処刑したことを非難した。
さらに今月21日、国連の専門家組織のメンバーのアメリカ人とスウェーデン人が現地人通訳とともに拉致され、27日に全員が遺体で見つかった。スウェーデン人のメンバーは首が切断されていたという。【3月30日 Newsweek】
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政府軍と地方武装勢力が、ともに住民を殺しまくっているような状況のように思えますが、混乱が拡大しているカサイ州だけでも100万人以上の住民が避難を余儀なくされています。
****紛争下のコンゴ、中央カサイの避難民100万人以上に 国連****
アフリカ中部コンゴ民主共和国の中央カサイ州で、政府側のコンゴ民主共和国軍(FARDC)と部族勢力側の民兵組織の激しい衝突により、これまでの8か月間で住民100万人以上が避難を余儀なくされている。国連(UN)関係者が21日、明らかにした。
同州では昨年8月、ジョゼフ・カビラ大統領に対する武力闘争を続ける部族勢力のカムウィナ・ンサプ首長(別名ジャンピエール・ムパンデ)が政府軍に殺害されたことを機に衝突が始まった。
国連人道問題調整室(OCHA)のイボン・エドモウ氏がAFPに語ったところによると、OCHAに登録された中央カサイの避難民数は4月1日時点で109万人に上る。
この他にも北キブ州や南キブ州などの紛争地域でも200万人が避難を強いられているという。
国連の報告によれば、カサイ地域では40か所から埋められた多数の遺体が見つかったほか、現地情勢を調査していた外国人の国連専門家2人が拉致されてから16日後に土中から遺体となって発見されている。【4月23日 AFP】
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簡単に“100万人以上”と言いますが、とんでもない数字です。アフリカだから誰も注目しませんが・・・・。
【ICCで裁かれる武装組織幹部 背後の国家・政府高官の責任は?】
コンゴでは、上記のカサイ州の武装勢力だけでなく、多くの武装勢力が活動しています。
やや古い記録にはなりますが、イギリス内務省イギリス国境局が2012年3月に公表している文書(http://www.moj.go.jp/content/000123638.pdf)では、以下のような組織があげられています。
・ルワンダ解放民主軍(FDLR)
・神の抵抗軍 (LRA)
・マイ・マイ・シェカのような市民グループの集団をベースとしたマイ・マイ軍(地域ベースの民兵グループ)
・コンゴの自由と独立のための愛国者同盟 (APCLS)
・コンゴ愛国抵抗連合 (PARECO)
・Allied Democratic Forces/National Army for the Liberation of Uganga (ADF/NALU)
・Forces Réublicaines Fééalistes (FRF)
・Front de Réistance Patriotique d’Ituri (FRPI)
・Front Populaire pour la Justice au Congo (FPJC)
・Mouvement de libéation indéendante des allié (MLIA)
比較的よく名前を目にする“悪名高い”組織もありますが、個人的には知らない組織もたくさんあります。
その後も多くの組織が生まれていると思われます。
上記リストにあげられているFRPI(コンゴ愛国的抵抗戦線 名前だけはりっぱです)の幹部の一人は、国際刑事裁判所(ICC)によって裁かれています。
****ICC、コンゴの武装勢力元幹部に賠償金支払い命令 各被害者に250ドル****
国際刑事裁判所(ICC)は24日、コンゴのイトゥリ地方の村を2003年に襲撃した武装勢力コンゴ愛国的抵抗戦線(FRPI)の元幹部ジェルマン・カタンガ被告に対し、被害者297人に「象徴的な意味合い」として1人につき250ドル(約2万8000円)を支払うよう命じる判決を言い渡した。
また同裁判所は個人および集団双方に対する、推計370万ドル(約4億1000万円)に上る物的、および精神面、身体面での被害の推定額のうち、カタンガ被告に100万ドル(約1億1000万円)の賠償責任を認めた。
だが一方で裁判長は、別の裁判のためコンゴの首都キンシャサで収監されているカタンガ被告が、金もなく「困窮」しており、家や財産がないとし、「象徴的な意味合いでカタンガ被告の犠牲者に支払われる250ドルは、犯罪全体を埋め合わせるものではないと認めた。
イトゥリ地方にある村ボゴロで2003年2月に起きた襲撃事件により、ICCはカタンガ被告に戦争犯罪および人道に対する罪で有罪判決を下し、2014年に禁錮12年の刑を言い渡していた。
カタンガ被告は、約200人が射殺、あるいは鉈(なた)で殺された襲撃事件で、配下の民兵に武器を供給したとされる。【3月24日 AFP】
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細かい話にはなりますが、武器提供による犯罪への「寄与」が有罪とされましたが、FRPI兵士による強姦、性奴隷制、子ども兵士の使用については、カタンガ被告に刑事責任があるとの合理的疑いを超えることは示されていない(つまり、犯罪の「実行」については無罪)と判断されています。
国際刑事裁判所(ICC)については、訴追対象が上記事例のようなアフリカばかりに偏っているとのアフリカ諸国からの批判があります。
また、前出リストにもある「神の抵抗軍」などは、国連主導で指導者の投降寸前まで行きながらも、ICCの訴追があることが障害となって実現しなかった・・・ということもあります。
そうしたことを別にしても、組織指導者・幹部個々人の責任もさることながら、背後で組織に資金・武器を提供してきた国家・政府高官の責任はどうなるのか・・・という問題もあります。
*****国際刑事裁判所:コンゴの反政府勢力指導者に有罪判決*****
・・・・1999年から2005年のイトゥリ紛争では、すべての地元武装勢力が、コンゴ国内や隣国ルワンダ、ウガンダの軍と政府高官から大量の支援を受けていた。
紛争は州内にある金などの鉱山資源の支配権をめぐるものだった。これら軍・政府高官はコンゴの武装勢力に対し、国際人道法違反を広範に行っていることが十分示唆されていたにもかかわらず、支援を行っていた。
地元民兵組織に外部から支援が行われているとの懸念は、コンゴ東部に関し頻繁に持ちあがる。最近では2012年から13年の北キヴ州で、ルワンダ軍高官が反政府武装勢力M23(3月23日運動)への援助を行った事例がある。
ICC検察官事務所は現在までにコンゴでの犯罪について6人に逮捕状を出している。うち4人はイトゥリ州の武装勢力司令官だ。(中略)
「ICC検察官事務所は、コンゴでの捜査と容疑者選択の質を上げる必要がある」と、マティオリ=ゼルトゥネル・ディレクターは述べた。「法による正義が確実になされるために、検察官は、地元民兵に武器と資金を提供したコンゴ、ルワンダ、ウガンダの高官に焦点を絞るべきだ。」(後略)【2014年3月7日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】
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【“居座る”だけでなく、不正に私腹を肥やすカビラ大統領】
“地元民兵に武器と資金を提供したコンゴ、ルワンダ、ウガンダの高官”の責任という点では、このような事態を招いたコンゴのジョセフ・カビラ大統領の責任も問われるべきですが、任期切れを過ぎても“居座り”を続けていることは、従前ブログでも取り上げてきたところです。
“居座る”だけでなく、不正に私腹を肥やしているとも指摘されています。
****世界一高価で血に濡れたコンゴの「紛争パスポート」****
<先進国よりはるかに高額のパスポート発行手数料の一部は、任期が切れても大統領の座に居座るカビラ大統領の懐を肥やすために使われている可能性がある>
パスポート発行手数料が185ドル(約2万円)――一人当たりの年平均所得が456ドルのコンゴ(旧 ザイール)では手が出ない金額だ。アメリカやイギリスでも100ドル前後のものが、なぜこんなに高いのか。もちろん、そこにはウラがある。
ロイター通信の調査によると、パスポート発行料の大半は、アラブ首長国連邦(UAE)など海外に拠点を構える会社に流れていた。コンゴのジョセフ・カビラ大統領が所有する会社とみられている。
2015年11月、コンゴ政府はベルギーのセムレックス社に生体認証技術を使った新しいパスポートを発注。新しいパスポートの発行手数料は、それまでの100ドルから185ドルに跳ね上がった。世界でも有数の、高価なパスポートだ。
ロイターによれば、185ドルのうちコンゴ政府に納められたのはわずか65ドル。残り120ドルのうち12ドルは首都キンシャサにあるパスポートの管理会社に、48ドルはセムレックスに、60ドルはマキー・マコロ・ワンゴイという人物が所有し、湾岸諸国に拠点を置くLRPSという会社に支払われる。
セムレックス、LRPS、カビラ大統領のいずれも、ロイターの調査に回答せず、セムレックスからは本誌の電話にも返事がない。
企業記録によると、ワンゴイはカビラの親族と共にいくつかの会社の株主になっている。このうち2社でワンゴイはマコロ・ワンガイ・カビラの名前を使っており、2016年12月のブルームバーグの調査で、カビラ大統領の姉妹と判明した。
このことが発覚すると、コンゴの主要野党は、4月7日にカビラが指名したブルーノ・チバラ首相に対し、パスポート代金の使途を明らかにするよう要求した。「チバラはまず身の潔白を証明すべき。話はそれからだ」と、野党連合の指導者、フェリックス・チセケディは言った。
権力の座に居座る大統領
カビラは2016年、憲法が規定する2期の在任制限を迎えたが、予定されていた総選挙の実施を拒否し、政権の座に居座った。以来コンゴでは反政府武装勢力と政府軍の間で衝突や犠牲が相次いでいる。
4月初めにも、コンゴ中部の中央カサイ州で集団墓地が見つかっている。国連幹部の話によると、集団墓地の数は全部で23に及ぶ。中央カサイ州とその周辺では昨年、カビラ大統領に反発する武装勢力が政府軍と衝突し、国連によると400人以上が死亡した。
カビラ政権は有権者登録名簿の更新が終わる2017年末までには選挙を実施するとしているが、準備に進捗がないことから再び与野党の緊張が高まっている。【4月24日 Newsweek】
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【アメリカ・トランプ政権 コンゴPKO縮小要求】
政府軍・武装組織による暴力・レイプ・殺戮は絶えず、大統領は不法に居座っている、選挙も実施されるか怪しい・・・というコンゴの状況ですが、「アメリカ第一」を掲げるトランプ政権はコンゴへの国連の関与を“縮小”するように求めています。
****コンゴPKO縮小=米が規模見直し要求―国連安保理****
国連安全保障理事会は31日、この日任期切れを迎えるコンゴ(旧ザイール)の国連平和維持活動(PKO)部隊について、規模を縮小した上で来年3月末まで活動期間を延長する決議を全会一致で採択した。兵力の定数は1万9815人から1万6215人に削減される。
ロイター通信によると、米国は1万5000人に縮小するよう求めていたが、妥協した。コンゴのPKO部隊として現地に展開している兵力は1万7000人を下回っており、実際の削減数は500人程度にとどまる。【4月1日 時事】
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国連PKOが有効に機能していないというのは各地で見られることではありますが、「PKOを縮小して、かわりにどうするのか?」という代替案なしに、単に縮小というのでは、混乱のもとに置かれた現地住民(そういう紛争地では、往々にして政府軍も暴力の原因となっています)は何を頼ればいいのでしょうか?