孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  カレーの難民キャンプ「ジャングル」解体 イスラムフォビアが影響する次期大統領選挙

2016-10-24 23:09:10 | 欧州情勢

(仏南西部アレスで8日に開かれた難民・移民の受け入れに反対する集会。1週間前には同じ場所で受け入れ賛成派が集会を開いた=イザベル・コントレーラス撮影 【10月24日 朝日】)

【「ジャングル」解体 受入先には反対論も
EUを離脱してでも難民・移民流入を阻止しようというイギリス、英語が通用し、経済的に好調で、かつては社会保障面で移民らにメリットが大きいと思われていたイギリスに渡ろうとする難民・移民・・・・6000〜8000人とも言われるそうした難民らがイギリスを目前に滞留するフランス北部のカレーの難民キャンプ、通称「ジャングル」は、行き場を失った難民らと、彼らへの対応に苦慮する欧州の象徴ともなっていました。

フランスは「ジャングル」の解体、難民らの他施設への分散移送に着手しています。

****仏、移民キャンプ「ジャングル」の解体開始****
フランス当局は24日、同国北部の港町カレーで英国を目指す移民や難民が集まるキャンプの解体を開始した。6000〜8000人に上るとされる移民らを国内各地の一時収容施設に移送。1週間程度で作業を完了させる計画としている。
 
移民らは「家族連れ」などのグループに選別された後、各地の収容施設に搬送され、仏国内で保護申請を行うかを決める。

英国に親類を持つ未成年者はカレー付近に残り、英側の受け入れ可否の判断を待つ。現場には移民らの抵抗など混乱回避のため、警官約1200人が動員された。
 
「ジャングル」と称されるキャンプでは、移民らがテントで暮らすなど劣悪な環境が問題視される一方、移民らが英国に密航するためにフェリーやトラックに潜り込むなどしてトラブルが続出。オランド仏大統領は年内に解体する意向を示していた。
 
移民らには寒い季節を控え、移送を歓迎する声も上がる一方、一部が移送を免れるためキャンプを抜け出したとも伝えられる。

解体後に再びキャンプができる可能性があるほか、移送先の一部自治体では受け入れへの不安も強い。【10月24日 産経】
*******************

移送を拒む一部の難民・移民らと当局の間のトラブルもあるようですが、大方は当局の移送計画に従っているように見えます。

“バスを待っていた難民の一人は地元メディアに「フランスのどこであっても、ここよりひどいところはない」と政府の対応を歓迎した”【10月24日 時事】というように、不衛生・劣悪な「ジャングル」での生活、何よりも明日への希望が持てない「ジャングル」での生活は、難民・移民らにとっても厳しいものだったようです。

作業は3日間行われ、難民がすべて移動した後にキャンプは解体されます。退去した人々は移設先で正式に難民申請を届け出ることができます。

そうは言っても、フランス語ができない多くはフランスでの生活に馴染むのは大変です。帰国できない事情がある者(いわゆる難民)も多数います。

“難民らの多くはフランスを理想の地とは考えていない。仏紙ルモンドは「ドイツやスウェーデン、英国がより豊かだと信じる移民らにとってフランスは『通過国』だ」と報じている。「フランスでは難民申請はせず、英国がだめならドイツを目指す」。今年7月、「ジャングル」で毎日新聞の取材に応じたパキスタン人のモハメド・カーンさん(35)のように、他国への渡航希望者が、再び仏北部などの国境を目指す可能性もある。”【10月24日 毎日】

もちろん、社会に受け入れる意思・用意があれば社会に馴染むことも可能ですが、国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン氏が大きな支持を得るようなフランス社会、この夏の“ブルキニ騒動”に見られるようなイスラム嫌悪・拒否症(イスラムフォビア)が顕在化しているフランス社会にあっては、困難も予想されます。

疎外された者の一部は犯罪に走り、社会の憎悪が更に高まる、そして一部はテロに走り、排斥運動を刺激する・・・・そうしたこれまでも繰り返してきた悪循環に陥ることがなければいいのですが・・・

“パリ市は、イダルゴ市長の肝煎りで進めてきた一時収容施設を月内に開所する。パリでは路上生活する難民らが問題化。イダルゴ市長は「人道的な観点」から迎え入れる義務があるとして設置に踏み切った。フランスへの難民申請希望者を対象としており、受け入れ期間は最大10日程度と短い。”【10月24日 毎日】

しかし、フランス国内の受入側には、「人道的な観点」よりは不安・拒否感の方が先立つところも少なくないでしょう。

****難民キャンプ解体、きしむ仏 受け入れ予定地、住民対立****
フランス政府は24日、英仏海峡に臨むカレーに広がった難民キャンプの解体に乗り出す。「スラム街」「ジャングル」などと呼ばれた劣悪な環境に住む数千人を家族単位など少人数のグループに分け、仏各地で一時滞在してもらう「人道的対応」という。受け入れ予定の自治体では賛否が割れる。(中略)
 
 ■反対デモに300人 施設で放火騒ぎ
受け入れ先に名前が挙がった自治体は揺れた。
 
ワインの産地ボルドーの西、大西洋の入り江に面した人口6千人足らずの町アレスで8日、約300人がデモ行進した。男性50人ほどを迎える計画を阻むためだ。

年金暮らしの男性(72)は「ドイツみたいに難民のはずが刃物で襲ってきたり、テロ集団に関わったりしないか」。参加者は「節約して暮らしているのに、難民1人に毎日25ユーロ(約2900円)かかると聞いた」などと口々に語った。
 
デモに先立ち、町長は「住民は静かな暮らしを望んでいる。子どもの遊び場も近い」と指摘。議会は反対決議を賛成多数で可決した。ふだんは静かな傍聴席に30人ほどが集まった。
 
受け入れ賛成派で左派のクロディーヌ・セシー議員(55)は「多様な人がいるのがフランス。戦火を逃れた人に手を差し出すのは当然だ」と考える。だが議会では「やじられ、侮辱された」。髪を引っ張られた同僚もいたという。
 
受け入れ派は「アレスの別の顔を示したい」として2千人超の署名を集め、集会も開いた。
 
町は二つに割れ、しこりも生まれた。「反対派の人とは、ほおを寄せる親しいあいさつをしなくなった。遠くから最低限、ボンジュールだけ」(セシーさん)。受け入れ先とされる電力公社(EDF)系の保養施設で放火騒ぎも起きた。
 
アレスに限らない。地中海のリゾート地サントロペ近郊のピエールフー・デュ・バールでは、町議会が全会一致で「ノン」を表明。AFP通信によると、アレスと同じ8日、反対、賛成、反対と三つのデモがあった。右翼・国民戦線(FN)系の人たちは「送り返せ」と気勢をあげた。
 
南部モンペリエでは反対と賛成との集会が同じ広場で向き合った。「難民や移民が侵入してくる」「ファシストめ。俺たちもみんな移民の子孫じゃないか」。非難の声もとびかった。
 
フランスは連帯や人権を重んじる国だが、難民・移民の歴史に詳しいニース大のイバン・ガストー教授(51)は「相次ぐテロもあって、『よそもの』への恐怖感が募っている。国境の管理を強めて治安を保とうとするような政治家の発言が、国民の寛容さを損なわせてもいる」と指摘する。【10月24日 朝日】
********************

中道・右派の候補者指名争いの勝者次第の次期大統領選挙
その政治家の話ですが、フランスでは来年4〜5月に行われる大統領選に向けて、各陣営、各候補が動き出しています。

フランスの近代史上、最も人気のない大統領と言われる社会党・オランド大統領ですが、世論調査によれば、自身が所属する社会党を含む左派の予備選すら勝てない見通しだととも。【10月4日 ロイターより】

社会党は、たとえオランド大統領以外を候補として立てても、第1回投票をクリアするのは難しい情勢です。

****仏大統領選、現時点で社会党候補が勝利する見込み薄い=第1書記****
フランスの与党・社会党のカンバデリ第1書記は、現在の情勢では、同党のどの候補も2017年5月の大統領選挙で勝利することはおろか、第2回投票に進むこともできないとの見通しを示した。

週刊紙ジュルナル・デュ・ディマンシュによると、社会党出身のオランド現大統領の支持率は10月時点で1ポイント低下し、14%と6月以来の低水準。最近出版された書籍に掲載された大統領の発言が物議を醸す中、オランド氏が再選を果たす可能性はますます低くなっている。

社会党は分裂状態にあり、オランド大統領は二期目を目指すかどうかまだ表明していない。10月初めの世論調査では、有権者が選ぶ大統領候補のリストでオランド氏は12位だった。

カンバデリ第1書記は仏紙ヌーベル・レピュブリックに対し、「現段階では右派を打ち負かせる候補はいない。第1回目の投票を通過することもできないだろう」と語った。

第1書記は党員に対し、予備選で選ぶ1人の候補を支持するよう呼び掛けた。【10月24日 ロイター】
*********************

一方、右派・共和党サイドでは、穏健派と目されるジュペ元首相と復活を目指すサルコジ前大統領を中心としたレースになっています。

サルコジ前大統領は、先述のような国民に広がるイスラム嫌悪・拒否症(イスラムフォビア)を刺激する形で、支持を集めようとしています。

****フランス大統領返り咲き狙うサルコジ氏 全身覆う女性水着ブルキニ禁止訴える****
来年4〜5月に行われるフランス大統領選で、中道・右派は13日、統一候補を決定する11月の予備選を控え、候補者7人による初の討論会を開いた。
 
返り咲きを狙うサルコジ前大統領(61)は全身を覆う女性水着「ブルキニ」の全国的な着用禁止など、イスラム教徒への対応やテロ対策で厳しい措置を訴えたのに対し、世論調査で優勢なジュペ元首相(71)は穏健姿勢を強調。両有力候補の違いが鮮明になった。
 
予備選では11月20日に第1回投票を行い、上位2候補による同月27日の決選投票で統一候補を決める。【10月14日 産経】
**************

9月末段階では、サルコジ氏の支持には陰りが出ており、ジュペ元首相がリードしている・・・とも報じられています。

****仏大統領選、サルコジ前大統領への支持低下=世論調査****
2017年のフランス大統領選に向けた中道・右派の候補者指名争いで、サルコジ前大統領への支持がライバルのジュペ元首相よりも低いとする2つの世論調査結果が28日、公表された。選挙資金疑惑などが影響したとみられる。

07年から12年に大統領を務めたサルコジ氏は、移民に対してより厳しい、新たな欧州連合(EU)の条約を強く求め、イスラム過激派からフランスを守ると訴えている。

カンター・ソフレス・ワンポイントの調査によると、11月20日の予備選第1回投票におけるサルコジ氏への支持は1%ポイント減の33%、穏健派のジュペ元首相への支持は5%ポイント増の39%だった。

IFOPの調査では、ジュペ氏が35%で、サルコジ氏は2%ポイント減の31%だった。

両調査とも、11月27日に行われる決選投票では、少なくとも10%以上の差をつけてジュペ氏が勝つとの結果を示した。

中道・右派の候補者は、大統領選で勝つ確率が高いとみられている。【9月29日 ロイター】
******************

おそらく大統領選挙の第1回投票を勝ち抜くのは、中道・右派の候補者と極右・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン氏と思われています。

そして、中道・右派の候補者が穏健派のジュペ元首相であれば、決選投票では左派からの抵抗感が強いマリーヌ・ルペン氏の勝利は難しく、ジュペ元首相が勝利する・・・ということになるでしょう。(随分気の早い予想ですが)

ただ、中道・右派の候補者がサルコジ前大統領になって、サルコジ氏とマリーヌ・ルペン氏の決選投票になると、“サルコジ氏が微差で勝利するとの予測が多い。だが、サルコジ氏は大統領時代の係争事件などのマイナス要素を抱えているため、予断を許さない。”“ルペン氏は決戦投票の相手として、サルコジ氏が相手なら「十分に勝ち目がある」(FN幹部)と見ている。”【10月3日 山口 昌子 氏 JB Press】とのことです。

サルコジ前大統領とジュペ元首相の中道・右派の候補者指名争いが次期大統領を決めそうな展開ですが、イスラム教徒によるテロが再発するとか、今回の難民・移民移送計画で反発が各地に広がるとか・・・そうしたことが大きく左右しそうです。

【「フランス国への愛」を語るマリーヌ・ルペン氏ですが・・・
第1回投票の勝ち抜けが予想されている国民戦線(FN)・マリーヌ・ルペン氏については、以下のようにも。

****極右政党党首が初の女性仏大統領になる確率は****
・・・・三女のマリーヌ氏が2011年に党首に就任してから、FNは路線を変更する。テロや難民の増大を背景に、「シェンゲン協定」(ヨーロッパの国家間を国境検査なしで行き来することを許可する協定)や単一通貨「ユーロ」圏からの脱退を主張するなど、「反欧州」や「反移民」を全面的に打ち出すことで、人種差別的な“危険な政党”“悪魔の政党”のイメージから脱却した。

ただし、排外主義的な党の本質は変わっていない。

FNはバカンス明けの8月半ばに南仏フレジュス市で党のセミナー(一種の親睦大会)を開催した。ルペン氏は約5000人の支持者を前に、大統領選に向けての実質的なキャンペーン第一声を発した。

その演説の中でルペン氏は、「フランス人」とは「フランス国への愛、フランス語やフランス文化への愛着によって一致団結している何百万もの男女」であると定義。フランス国民でありながらフランス語の習得を嫌い、イスラム教徒の風俗習慣に固執するイスラム(アラブ)系フランス人を暗に非難した。(後略)【10月3日 山口 昌子 氏 JB Press】
******************

ルペン氏のフランスへのこだわりは、“フランス”を“日本”に置き換えれば、日本でも昨今多く見聞きする主張でもあります。

私も日本で生まれ、日本に暮らす日本人ですから、当然に日本社会・文化への愛着は持っています。
ただ、そうした自然発生的な感情はさりげなく心の中に持っていればいい話であり、努力も工夫も必要とされる他者との関係をいかに円滑にやっていけるかということに意を払うべきだと思っています。

ことさらに日本社会・文化への愛着を叫ぶような者は、現実問題としては“日本が一番”“日本以外は認めない”という排外主義、差別主義に堕していく者であり、かつて日本至上主義に反するものに‟非国民”“売国奴”といったレッテルを貼ったような偏狭さ・非寛容さに堕していく存在のように感じています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする