孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スリランカ 期待されるシリセナ政権による少数派タミル人との国民和解

2015-12-05 22:23:23 | 南アジア(インド)

(内戦後の成長率は6〜8パーセント台、一人当たりのGDPも隣の大国インドの2倍以上になったスリランカ 独裁的なラジャパクサ前大統領に代ったシリセナ大統領のもとで「開かれた国」を目指します 写真は変化するコロンボ【11月21日 THE PAGE】)

8月議会選挙 シリセナ大統領支持派が勝利
年初1月8日に行われた大統領選挙で、主要野党が推すシリセナ前保健相(63)が現職のラジャパクサ大統領を破り、10年ぶりの政権交代が実現したスリランカのその後については、2月4日ブログ「スリランカ 新大統領に課された国民和解の推進、親中国路線の修正」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150204)において、敗れたラジャパクサ氏の動向、未だ癒えぬ内戦(1983年から2009年)の傷、新政権の脱中国依存方針などについて取り上げました。

8月には議会選挙が行われ、与党となったシリセナ大統領支持派にラジャパクサ前大統領が再度挑む形になりました。
もしラジャパクサ前大統領支持派が勝利すれば、ラジャパクサ前大統領が首相として復活するという選挙でしたが、与党側が勝利しシリセナ体制が維持されています。

****スリランカ議会選挙、与党陣営勝利 中国依存修正など継続へ *****
17日に実施されたスリランカの議会選挙(一院制、定数225)はシリセナ大統領を支持する統一国民党(UNP)など与党陣営が勝利した。

シリセナ氏が1月の大統領選で破ったラジャパクサ前大統領を擁する野党連合は思惑通りには議席を伸ばせなかった。過度の中国依存の修正などシリセナ政権が進めてきた政策は継続する見通しだ。

各党ごとの選挙区での獲得議席数は固まり、UNPなど与党陣営は93、野党連合である統一人民自由連合(UPFA)が83。これに比例区の議席を加え、全体の225議席のうち与党陣営は106、野党連合は95となったもようだ。

UNPを率いるウィクラマシンハ首相は「(これは)国民の勝利だ」と述べ、事実上の勝利宣言をした。今後、各党の当選者が順次、発表される予定だ。

議会の過半数を占めるには113議席以上が必要だが、与党陣営は友好関係にある少数派タミル人政党などの協力を得られれば過半数を確保できる情勢だ。選挙後の連立工作などで勢力を拡大するとの見通しが強まっている。現地の政治アナリストは「野党連合の一部議員が与党に協力する動きも出てきそうだ」と話す。

シリセナ氏は1月の大統領選で、UPFAの中核であるスリランカ自由党(SLFP)の党首だったラジャパクサ氏に造反し、UNPと組んで勝利した。

しかし、シリセナ氏は大統領就任後、「大統領に就いた党員を党首にする」というSLFPの規約に基づき同党党首に就いた。党内には自身の支持者も残っている。野党連合の多くはラジャパクサ氏支持とされるが、今回の選挙で当選する議員のなかにも「シリセナ派」が存在する見通しだ。

与党陣営の勝利は、野党連合が擁したラジャパクサ氏の汚職疑惑や行き過ぎた家族主義に対し、国民の間で根強い批判があることを浮き彫りにしたといえそうだ。選挙期間中には「今回の選挙は今までで一番クリーンで自由だ」と、シリセナ政権による選挙運営を評価する声も多かった。

ラジャパクサ氏は議員として当選する公算が大きい。だが、野党連合が大勝できなかったことで、目指していた首相就任の可能性は薄い。AFP通信によると、ラジャパクサ氏は18日朝の時点で「首相になる夢は消えつつある」と話し、事実上の敗北宣言をしたとされる。

シリセナ氏と与党陣営は、ラジャパクサ氏が推進してきた対外政策における過度の中国依存を修正し、インドや欧米、日本などとの関係強化も図る「全方位外交」を掲げている。今回の選挙結果を受け、この路線も継続するとみられる。【8月18日 日経】
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選挙結果を受けて、リベラル政党の与党・統一国民党(UNP)とジャパクサ前大統領が顧問を務める野党・スリランカ自由党が連立する形で、首相にはUNPのウィクラマシンハ氏が再任されています。

ジャパクサ前大統領には強権支配、家族を重用したネポティズムの問題があるだけでなく、少数派タミル人への柔軟な対応が期待できないシンハラ民族主義的なところがあって、内戦の傷を癒して国民和解を進めるうえでシリセナ体制が維持されたことはスリランカにとって好ましい選択であったと思います。

内戦時の人権侵害について政府主導で調査、国連も支持
内戦については、政府側・タミル人武装組織(タミルタイガー LTTE)双方に重大な人権侵害があったことが国際的にも問題とされていますが、スリランカ政府は、内戦当時の人権侵害について、スリランカ政府みずからが主導しながら外国とも協力して調査にあたることが国連人権理事会で決議されています。

****内戦で人権侵害 スリランカ政府の調査を国連が支持決議****
国連人権理事会は1日、6年前に終結したスリランカの内戦で政府軍と反政府武装勢力によるとみられる人権侵害を、スリランカ政府みずから調査することを支持する決議を採択し、真相究明が進むのか注目されます。

スリランカで2009年まで20年余りにわたって続いた内戦を巡っては、国連人権高等弁務官事務所が、先月中旬、政府軍と少数派のタミル人の武装勢力の双方が、非武装地帯への砲撃や、子どもを前線に送るなど戦争犯罪を行った可能性が高いとする報告書を公表しました。

これを受け、スイスのジュネーブにある国連人権理事会では1日、スリランカ政府が真相究明を行うことを支持する決議が全会一致で採択されました。

内戦の真相究明を巡っては、スリランカの前大統領が、国際的な調査を求めるアメリカなどと対立する一方、中国との関係を強化してきましたが、ことし1月の選挙で当選したシリセナ大統領は、外交政策の見直しを進めています。

決議案はスリランカとアメリカが共同で提出したもので、スリランカ政府が委員会を作り、真相究明の主導権を握りながら外国の支援も排除しないとして、関係改善を目指す双方が歩み寄ったかたちとなりました。

決議の採択を受け、国際的な人権団体は声明を出し「完璧ではないが、被害者が待ち望んでいた真実を手に入れる機会となる」と評価していて、真相究明が進むのか注目されます。【10月2日 NHK】
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現在のタミル人の状況を伝える情報はあまり目にしませんが、LTTE元メンバーに関する下記記事がありましたので紹介します。

****元ゲリラ、生活再建中=内戦後のLTTE―スリランカ****
2009年のスリランカ内戦終結から6年以上が経過し、北部バブニヤでは今、少数派タミル人の国家樹立を目指した武装勢力「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE)の元ゲリラたちが生活再建に取り組んでいる。赤十字国際委員会(ICRC)の案内で現場を見た。

 ◇元女性兵、裁縫の訓練
LTTEには多くの子供兵士や女性兵士がいた。その1人だったカンダサミ・ムットゥクマリさん(33)は、まだ12歳だった94年、LTTEに加わった。兄がやはり12歳でLTTEに合流しており「自分もそうなのかな」と漠然と考え、リクルーターについていった。3年間の戦闘で負傷、視力が弱くなり後方部隊に移り、17歳で結婚して一度は引退した。

しかし、しばらくして夫と息子は戦闘地域のムライティブ、自分と娘は比較的安全なバブニヤに別れて暮らすことになった。夫と息子をバブニヤに戻そうとしたが、LTTEの許可が下りない。許可を得るため、仕方なく05年から再びLTTEに入って活動を始めた。

08年に警官に捕まり、ひどい暴力を受けた。今もその傷に苦しんでいる。当時の夫とも別れ、現在はICRCの支援を得て裁縫の訓練を受けながら15歳の娘と暮らしている。

 ◇陶芸の修行
陶芸家になったゲリラもいる。ヨガナダン・サディサンさん(28)は今、陶芸の修業中だ。両親が陶芸家で、子供の頃からろくろを使って作品を製作できた。

05年、「特に理由もなく」ふらりとLTTEに加わった。銃弾を受けた傷痕は今も腹に残っている。内戦末期の09年、気付けば「周囲がどんどん投降していくようになっていた」。これを見て仲間3人と投降した。収容施設からは13年に解放されたが、両親の家には戻らず、親族の家に居候し、焼き物の修行を続けている。

内戦を振り返り「今の方がよほどいい」と平和な暮らしを満喫している。良質の粘土をどう手に入れるかが、目下の悩みだ。

 ◇自動車修理店を経営
ムットゥ・クマル・デバラジャさん(42)は現在、小さいながらも自動車修理店を開業している。従業員も3人雇っている。

妹と義理の弟を政府軍に殺害され、憤りから18歳でLTTEに加わった。その後、約20年間、人生の半分をLTTEにささげたことになる。住民の中にスパイ網をつくり、政府軍の動向を探る情報部員として活動してきた。07年から2年ほど、カタールに逃げていた。帰国後、内戦終結の09年、バブニヤの家にいて逮捕された。「人生は終わった」と観念した。

しかし、もともと自動車修理の技術を持っていたこともあって、ICRCの支援を得て社会復帰。現在は借家の工場を、自前のものにすることが目標だ。「過去のことは全て忘れることにした」と決意は固い。多数派シンハラ人とも「うまくやっていく」と語り、武装闘争に戻る考えはない。【12月5日 時事】
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内戦を戦ったシンハラ・タミルの間には根深い不信感が存在しますが、少数派タミル人を社会から疎外された形で残せば、将来のスリランカにとって必ずや足枷となるでしょう。

今後の経済成長が期待されるスリランカにとって、多数派シンハラ人と少数派タミル人の間の国民和解を進め、内戦の傷を克服することが避けて通れない道でもあります。

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