孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  新興ISと競合するタリバン 和平交渉促進に動く中国

2015-04-25 22:28:07 | アフガン・パキスタン

【4月18日 AFP】

タリバン「春の大攻勢」開始で、更なる治安悪化の懸念
****タリバン「春の攻勢」開始は24日、アフガニスタン****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバン(Taliban)は22日、毎年この時期に始める「春の攻勢」を24日に開始すると発表し、米軍主導の駐留軍が撤退を進める中、アフガニスタン全土で攻撃を仕掛けると宣言した。

タリバンは声明で「一連の作戦の主な目標は外国の占領軍、とりわけ彼らの恒久基地、さらに、かいらい政権の高官と彼らの軍事集団、特に情報機関、内務省、国防省の高官らだ」と述べている。【4月22日 AFP】
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アフガニスタンのイスラム武装組織タリバンが厳しい冬が終わり春になれば攻勢をかけるというのは周知のことですが、スーパーのセール期間のように開始日を公にするものとは知りませんでした。

アメリカなどの国際部隊が撤退スケジュールに入っているアフガニスタンですが、治安状況は芳しくありません。
「春の攻勢」によって、更に悪化することが懸念されています。

****アフガン治安、ISAF撤収後も最悪レベル****
国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)は12日、今年1~3月にアフガンの民間人の死傷者数を発表し、地上戦での犠牲が前年同期比で8%増えたことがわかった。全死傷者数は2%減とほぼ横ばいだった。

国際治安支援部隊(ISAF)撤収後も、過去最悪だった昨年と同じ治安状況が続いている。

発表によれば、3カ月間の地上戦による死者と負傷者はそれぞれ136人と385人だった。地上戦以外を含めた死傷者は1810人(死者655人、負傷者1155人)で、このうち73%が反政府武装勢力、14%が政府側、7%が両者の攻撃によるものだった。

自爆テロによる死傷者は268人に上った。国際部隊の空中作戦による死傷者は15人で、42%減った。

昨年1年間のアフガンでの民間人の死傷者数は統計のある過去6年間で初めて1万人を超え、最悪となっていた。UNAMAは反政府、政府側の双方に市民に犠牲者を出さないよう求めている。

米国主導の北大西洋条約機構(NATO)は昨年末、ISAF撤収で戦闘任務を終えた。今年から規模縮小して、支援や訓練中心の「確固たる支援」任務を行っている。

イスラム原理主義勢力タリバンは毎年、この時期から「春の大攻勢」を始めるため、民間人の犠牲者増が懸念される。【4月13日 産経】
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撤退計画修正を余儀なくされているアメリカ・オバマ大統領 和平交渉も進まず
アメリカ・オバマ大統領のアフガニスタン撤退計画及は変更を余儀なくされており、またタリバンとの和平交渉も表立った進展は見せていません。

****タリバンが嘲笑するオバマの焦り****
終わりなきアメリカのアフガン介入と戦略なき変節は、テロリストとの和平交渉として歴史に残る汚点となる

アメリカがアフガニスタンのタリバン政権を倒してから13年以上。アメリカは反政府武装勢力となったタリバンと泥沼の戦闘を続け、戦費は約1兆ドルに上っている。

この数年アメリカは軍事介入から「宿敵」との和平交渉へと舵を切っているが、うまくいくはずがない。
オバマ米大統領は昨年末、アフガニスタンでの戦闘任務終了を宣言した。その後はアフガン軍が治安を担うはずだったが、今なお米軍とNATOから成る国際部隊は完全撤退できずにいる。アフガン軍の支援に徹すると口では言いながらも、国際部隊はタリバンの拠点を空爆し、米軍特殊部隊は奇襲作戦をやめられずにいる。

オバマの焦りはイラク戦争でのブッシュ前大統領を彷彿とさせる。(中略)

露呈したオバマの本音
アフガニスタンでも、オバマがかねて撤退期限と約束していた14年末は既に過ぎた。期限を16年末まで延長して今年中に駐留米軍約1万人を半減すると約束していたものの、アフガン政府の慰留を受けてほごにした。

今やアフガニスタンでの軍事介入は泥沼化し、戦闘が収まる気配はない。最近はタリバンが攻勢に転じてきた。雨期が終わるこれから夏にかけて、戦闘は激しさを増すことだろう。 

タリバンとの戦闘による国際部隊の死傷者数は、国際テロ組織アルカイダと、ISISとの戦闘による死傷者の合計をはるかに上回る。01年のアフガニスタン戦争以来、これまでに同国で米兵2215人が死亡し、約2万人が負傷。巻き添えになった市民の死傷者も昨年、過去最悪の1万548人に達した。

それでもオバマ政権はタリバンをテロ組織に指定することを拒み、和平交渉の当事者にすることをもくろんでき
た。13年にはカタールの首都ドーハに、タリバンが対外交渉の窓口となる「大使館」に相当する事務所を開設す
ることを容認した。

さらに昨年、キューバのグアンタナモ米海軍基地からタリバン幹部5人を釈放した。アフガニスタンで少数民族虐殺に手を染めた連中を野に放ってまでオバマが得たかったのは、タリバンに拘束された米脱走兵の身柄だけではあるまい。

真の目的がタリバンとの和平交渉なのは明らかだ。「テロリストと交渉せず」という大原則を捨ててまで譲歩したにもかかわらず、タリバンを交渉の席に着かせることさえできなかった。

しかも、アフガニスタンの泥沼からこっそり抜け出したいというアメリカの本音が見透かされてしまった。幹部の釈放に際して、普段は影も見せないタリバンの最高指導者オマル師が「偉大な勝利」と異例の声明を出したのも当然だ。

アメリカのアフガニスタン介入の成否は、タリバンによる首都カブール陥落を阻むことができるかどうかに懸かっている。だがタリバンとしてはもはや米軍撤退を待てばいいだけの状況になっている。(後略)【4月28日号 Newsweek日本版】
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上記記事の筆者はインド系の方のようですが、パキスタンの影響が強いタリバンとの和平を狙うオバマ大統領が気にいらないようです。
オバマ大統領は、16年末の撤退完了の日程は変更しないと明言しています。

タリバン、新興ISと競合
タリバンの方も、長い戦闘で組織的には弱体化している言われています。
その一方で、タリバンに失望した若い戦闘員が、新興勢力ISへ向かう流れもあるようです。

最近も、政府軍兵士を狙った大規模テロがありましたが、ISの傘下を名乗るグループが犯行声明を出したと報じられています。

****アフガンの銀行前でテロ、33人死亡 軍の給料日狙いか****
アフガニスタンの報道によると、東部ジャララバード中心部の銀行前で18日、何者かが爆弾を爆発させ、客ら少なくとも33人が死亡、100人以上が負傷した。

この銀行は政府が軍兵士ら公務員の給与振り込みに使っており、アフガンの暦で週明け初日の支給日に当たる18日は、多数の兵士らが引き出しのため、店内に入るのを待っていた。犯人の男はオートバイで乗り付け、身につけていた爆弾を爆発させたという。

ガニ大統領は声明で「市民を狙った卑劣なテロだ」と批判した。

爆弾テロを繰り返している反政府勢力タリバーンは関与を否定。中東の過激派「イスラム国」(IS)の傘下を名乗るグループが犯行声明を出したと報じられている。

ジャララバード周辺では同日、ほかにも複数の爆発事件があり、死傷者が出ている。【4月18日 朝日】
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ただ、「イスラム国が攻撃を指揮したり支持したりした証拠は見つかっていない」(NATOの現地報道官)、「政府としてイスラム国の犯行と確認していない」(アフガニスタン国防省副報道官)と、ISがどこまで関与したのかは不透明です。【4月23日 産経】

ただでさえ順調とは言い難い状況で、更にISが台頭するような事態となれば、アメリカの撤退計画はいよいよ怪しくなってきますので、アメリカとしてはISの存在感をあまりアピールしたくないところもあるでしょう。

タリバンも新興勢力ISと競合関係にあり、ISの旗を掲げた戦闘員がタリバンに殺害されるケースも報告されています。

互いにジハード(聖戦)を宣言したとの地元情報もあるようです。

****ISとタリバンが互いにジハードを宣言****
Mashaal Radio がDaesh(IS)とタリバンが互いにジハード(聖戦)を宣言したことを報じている。

アフガニスタン南部ヘルマンド州の警察署長Nabi Jan Mullahkhilは、ISとタリバンが互いに向けてジハードを宣言したとする文書を受け取ったと、地元ラジオ局Mashaal Radioのインタビューで語った。

Mashaal Radio(パキスタン/アフガニスタン国境地域向けの放送)はAzadi Radio(欧州自由放送/ラジオ・リバティーのアフガニスタン向けサービス)の関連組織で、政府とタリバンの間の和平会談の問題が議論され始めるとき、一部の情報機関 が戦争 をアフガニスタンで進行中に しておくために新しいグループ を作るとのMullahkhil氏の発言を報じている。

タリバンと新興勢力Daesh(IS)の間では過去にも小規模な戦闘があったと報告されており、両者は互いに対立している。
ISの指導者バグダディは、タリバン最高指導者オマル師を「馬鹿で読み書きもできない司令官 」呼んでいる。
バグダディは、オマール師が精神的・政治的信頼 に値しないとも語っている。

一方、タリバン戦闘員は、アフガニスタンでDaesh(IS)の旗を立てることを許すなとリーダーに命じられている。【4月20日 Khaama Press】
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タリバン側は最高指導者オマル師の伝記を公表するという異例の対応で、組織引き締めをはかっています。
ISの指導者バグダディ容疑者の上記のオマル師批判への反論ともなっています。

****<タリバン>最高指導者オマル師の伝記公表 引き締め図る****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバンは4日、ウェブサイトなどで最高指導者オマル師の伝記を公表した。

オマル師は2001年のタリバン政権崩壊以来、消息不明で、現場の司令官には不安が広がっているとされる。

アフガンでイスラム過激派組織「イスラム国」(IS)の影響も拡大する中、オマル師の存在感をアピールし、引き締めを図る狙いがあるとみられる。(後略)【4月6日 毎日】
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伝記ではオマル師は「自らを誇示することを好まず、必要のないときは話したがらない」とされていますが、ビデオのようなもっと目に見える形でオマル師が姿を見せれば、タリバンの組織問題は大きく改善するはずです。
それができないということは、やはりオマル師はもう生存していないのでは・・・とも考えてしまいます。

もし、オマル師の死亡が明るみにでると、タリバン組織の動揺は甚大です。

アフガニスタン安定という共通課題を有する中国の動き
アメリカの和平工作が難航しているなかで、アフガニスタンでの和平交渉を推進する方向の動きが中国から出ています。

****中国、パキスタンに5兆円 投融資合意、アラビア海へ輸送路****
中国の習近平(シーチンピン)国家主席が20日、就任後初めてパキスタンを訪問した。中国とアラビア海を結ぶ輸送路の整備など5兆円規模のパキスタンへの巨額投資・融資案件の文書に両政府が署名した。

中国は経済支援をテコに南アジアへの関与を強化。米国の影響力低下をにらみ、同地域での主導権をうかがう狙いもあるようだ。

中国の最高指導者がパキスタンを訪問したのは9年ぶり。(中略)

パキスタンは治安悪化と経済不振に悩み、過去5年間の外国投資の総額が1兆円にも満たなかった。今回の桁違いの巨額投資を「国の運命を変える計画」(イクバル計画相)と手放しで歓迎する。

中国は見返りとして、治安面の協力を求めたようだ。習氏は訪問に先立つ19日、パキスタン紙などに署名入りの文書を寄せ「安全保障協力と経済協力は補完関係にある」と強調した。

重視するのは、中国が深刻な民族対立の背後にいるとみるウイグル族の独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」への対応だ。劉建超外務次官補は17日の会見で、ETIMが「パキスタンに相当数存在する」と指摘した。

ETIMはイスラム過激派に紛れて、パキスタンとアフガニスタンとの国境地域に潜伏しているとされる。アフガンでは、13年間駐留した米軍が16年末までに完全撤退する。力の空白を突いてタリバーンなどの反政府勢力が勢いを増し、ETIMと連携することを中国は警戒する。

習氏は、アフガン側のタリバーンに影響力を持つとされるパキスタン軍のトップ、ラヒル・シャリフ陸軍参謀長とも会談。

パキスタン領内での過激派対策とともに、タリバーンをアフガン政府との和平交渉の場に着かせるために働きかけを求めた可能性がある。

習主席のパキスタン訪問は昨年9月に予定されていたが、首都イスラマバードで反政府デモが暴徒化し、治安上の問題から延期になった。

テロの懸念がくすぶる中でパキスタンへの訪問に踏み切ったのは、中国が今回のパキスタン訪問を「高度に重視している」(劉氏)からだ。【4月21日 朝日】
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アメリカと中国が主導権を争いつつも、アフガニスタンの安定という共通課題に向けて手を組むという事態もあるのかも。
両国の要請・圧力で、タリバンに影響力を持つパキスタンが和平に動けば結果も出せる可能性が高まります。
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