孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

キューバ・アメリカ 初交渉を終える 今後も交渉を継続 カストロ政権の“賭け”の行方は? 

2015-01-24 21:59:14 | ラテンアメリカ

(ハバナで行われた国交正常化交渉  右側がキューバ、左側がアメリカ 双方とも女性(白い服がキューバ外務省のビダル北米局長、オレンジの服がジェイコブソン米国務次官補)をリーダーとする交渉団です。 “flickr”より By Cubadebate https://www.flickr.com/photos/cubadebate/16154927487/in/photolist-qUxNKt-qUxNbn-qCh5sV-qC8eHY-qC8evo-qC9qEh-qUxGLp-qCfpaa-qUC9Gq-pXotTG-qCH6Hv-qCy84B-qCjrRL-qUDawP-qUGK8K-pXKmVk-qUnQhv-qBLDtB-qU5H8b-pY9edG-qCs9mY-qCeaQN-qCbh6N-pXYkpP-qUJQta-pXyNn5-pXu3Uv-qU4nAr-pXpNgR-qRU7j9-qBEJHB-pX7QgY-qTXXhX-qBGcg2-qBEJ6e-qU3r7Y-qBxt81-qU1NgL-qTPXW8-qTPXLD-pXcExP-qTYUaX-qBpvbL-qBye7x-qC9wFA-qUGKkP-qC8iVf-qC8izW-qSpJG1-qTG4T4)

50年以上の断絶状態に終止符を打つ第一歩を踏み出した両国
オバマ米大統領が昨年12月に打ち出したキューバとの半世紀ぶりの国交再開方針に沿って、キューバ政府は1月12日までに、アメリカ政府から釈放を求められていた政治犯53人全員の釈放を完了。

また、アメリカ政府は16日、キューバへの米国人の渡航や送金に関して科されていた制裁を緩和しました。

こうした順調な流れのなかで、アメリカとキューバの国交正常化交渉が21日ハバナで始まり、その成果も期待されましたが、大使館の再開にまでは至りませんでした。

****米国交正常化交渉、大使館再開合意できず キューバ、「内政不干渉」の原則論****
米国とキューバによる国交正常化交渉は最終日の22日、1961年の断交後閉鎖された双方の大使館の再開などを協議して終了した。だが、大使館再開は合意には至らず継続協議となった。

米側が言論・集会の自由を含む人権状況の改善を求めたのに対し、キューバ側は国交正常化の原則として「内政不干渉」などを挙げて出ばなをくじいた格好だ。交渉は入り口から思惑の相違が露呈し、条件闘争ともいえる展開となった。

両国政府は「数カ月以内の大使館開設」を目標としているが、具体的な時期などについて合意できず、ジェーコブソン米国務次官補は記者会見で「現時点で(時期)はわからない」と述べた。「国交回復には克服すべき課題が多くある。(双方には)複雑かつ深い相違がある」とも語った。

キューバ側が前面に押し出したのが、国交正常化への原則と前提だった。

原則については「外交関係は国際法と国連憲章を基礎とすべきだ」とし、具体的には(1)主権平等(2)平等の権利(3)民族自決(4)内政不干渉-などを主張した。

記者会見でもキューバ外務省のビダル米国担当局長は「両国が互いの主権を尊重し、内政干渉することなく、対等な立場で臨むことが原則だ」と強調した。

オバマ米大統領は国交正常化と経済制裁の段階的な緩和、解除により、キューバへのヒト、モノ、カネ、情報の流入を図ることによって、社会主義体制の内部からの変革を誘発させる青写真を描いている。

キューバ側の原則論は、こうした思惑を見透かして予防線を張るもので、人権改善要求などで「口出しするな」「社会主義体制を維持する」とのメッセージを送ったのに等しい。

また、キューバ側は、経済制裁とテロ支援国指定の解除を要求し、ビダル局長はそれが「国交正常化と関係改善に必要だ」と主張した。つまり、2つの要件を国交正常化の前提として米側に突きつけたわけだ。

一方、一部の制裁緩和措置を履行済みで、テロ支援国家指定の解除も視野に見直し作業を進めている米政府は次に、大使館の再開などによる国交正常化に持ち込むことを優先している。

初期段階の緩和措置でさえ、野党・共和党が「キューバを利するだけだ」と反発している現状では、オバマ氏としても要求の「丸のみ」はし難い。双方は今後、数週間で次回の協議日程や場所などを決めるが、紆余(うよ)曲折が予想される。【1月24日 産経】
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アメリカ国内の共和党などの慎重論・反対論はともかく、半世紀にわたって敵対関係を続けてきた両国ですから、当然に紆余曲折はあるでしょう。

内政不干渉を前提とし、経済制裁解除を求めるキューバ側、人権問題の改善を強く求めているアメリカ側、それぞれの立場があります。

ただ、関係正常化に向けて大きな1歩を踏み出したことも間違いありません。
協議を継続させることで、信頼関係を醸成していくことが重要でしょう。

****国交回復へ、パイプ作り優先 制裁解除や人権問題では隔たり 米・キューバ、初の交渉終える****
キューバの首都ハバナで開かれた米国とキューバの初の国交正常化交渉は22日、2日間の全日程を終えた。

米国による経済制裁やキューバ国内の人権問題といった障壁を乗り越えるため、両国は今後も交渉を継続することで合意。50年以上の断絶状態に終止符を打つ第一歩を踏み出した。

オバマ米大統領とキューバのラウル国家評議会議長が関係改善への意欲を明言してから1カ月余り。今回の交渉は、このテーマで公式に両国の代表が顔を合わせる初の協議で、38年ぶりに米国の次官補級高官がキューバを訪問した。

両国間には、米国による経済制裁やキューバ国内の人権問題をめぐる主張の対立が以前からあるが、今回の協議では、国交を回復させ、話し合いのパイプを作ることを優先した。

米国による対キューバ経済制裁の解除には米議会の承認が必要。キューバに強硬姿勢を取る共和党が多数を占める現状では、解除の可能性は低い。

一方のキューバは、米国からの「人権問題を改善し言論の自由を保障するべきだ」といった要求に対し、内政干渉は受け入れられないとの立場だ。

こうした問題の解決を待っていては協議が先に進まないため、国交の回復を優先した上で、両国関係の「正常化」に向けた課題を話し合う方法を取った。

ただ、国交回復のためにも、双方の最低限の主張を満たすには様々な手続きが必要となる。

中でもキューバ側は、経済制裁のために、在ワシントン利益代表部の銀行口座が使えず業務が出来ないと主張。大使館設置のためには、この措置の解除が不可欠だと求めており、さらにキューバを「テロ支援国家」のリストから外すことを訴えている。

国交回復と大使館の設置は、こうした条件が満たされた段階で実現する見通しだ。両国は22日、国交が回復するには長い時間がかかるとの認識で一致。当初は2月中にも大使館が設置されるとの見方もあったが、実現にはなお時間がかかりそうだ。

地元ジャーナリストは「2016年の大統領選をにらみ、対キューバ政策の成果を早期に示したいオバマ政権に対し、キューバ側に急ぐ理由はない。米国をじらしながら条件交渉をしている」とみる。

今回の協議では、麻薬取引やテロ、疫病対策などの分野での協力拡大も明らかにされた。特にエボラ出血熱対策では、どんな形で協力できるかの話し合いをキューバ側が申し出た。また、地震への対応や環境保護、防災分野などの分野でも協力をするという。【1月24日 朝日】
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キューバ側の期待と切実さ
“キューバ側に急ぐ理由はない”・・・・カストロ政権としてはそうかもしれませんが、キューバ国民の期待はアメリカ以上に高まっており、生活改善の要求は切実です。
カストロ政権としても、もはや後戻りもできませんし、早期に成果を示す必要もあるのではないでしょうか。

****キューバ、生活改善へ期待 米から医薬・食料品輸入、容易に****
米国との国交正常化に動き出したキューバで、対米関係修復は暮らしの改善につながるとの期待が高まっている。

米国の制裁緩和で、長年の生活物資不足が解消され、米国のキューバ系移民からの送金も増えると期待されるためだ。21日には、キューバと米国との交渉がハバナで始まる。

「ほっとして、これで死んでもいいとさえ思いました」。ハバナ市内の「国立がん専門病院」で、がんと闘う子どもたちを治療する医師のヘスス・デロスサントスさん(56)は、昨年12月半ばに米国との国交正常化交渉のニュースを聞いた時の気持ちを、こう振り返った。同僚の医師の中には、喜んで泣く人もいたという。

デロスサントスさんが勤める病棟には、様々ながんや白血病を治療する0歳から18歳までの患者が、毎年50人ほど新たに入院してくる。だが、米国の経済制裁の影響で、米国などの最新の治療薬や医療器具の入手が難しく、医師たちは治療に苦心してきた。

あるがん治療薬は、以前はメキシコの製薬会社から買っていたが、その会社が米国企業に買収され入手出来なくなった。別のインドの会社を探して買っていたが、その企業も米国企業に買収され、それ以来10年間、手に入っていない。欧州製の医療器具は購入できるが、米国製の部品が壊れたら、修理が難しい。

正常化交渉に伴って、米国の制裁緩和が進めば、米国から医療器具や最新の治療薬が輸入できるようになる見通しだ。15歳の娘に付き添っていた母親(39)は、「制裁をなくし、娘がより良い治療を受けられるようにしてほしい」と話した。

 ■経済改革に追い風
キューバ政府は、米国の制裁による損害額が、2014年の時点で累計1兆1120億ドル(約130兆1040億円)に上る、としている。

キューバは食料自給率が約3割にとどまる。米国からはいまでも一部の食料品は輸入できるが、制裁が緩和されればより安く大量に輸入できるようになり、物価が安定するという期待がキューバ側にはある。(中略)

米国からキューバへの送金額は3カ月で500ドルという制限があった。だが、米政府は15日、キューバが政治犯53人を釈放したことを受け、米国からの送金額の上限を従来の4倍の2千ドルに引き上げると発表。

送金額が大幅に増えることが予想される。米国人のキューバへの渡航制限も緩和されるため、米国人の訪問も増えると期待されている。

米国製のコンピューターや通信関連機器、民家の修理に必要な建設資材や農機具なども、米国からの輸入が可能になる。

キューバのラウル・カストロ現政権は、外国からの投資を呼び込むなどして経済改革を進めており、これらの措置はそうした政策を後押しする形になる。

米国は、キューバ国民の生活水準向上につながるこれらの措置で、国交正常化への支持をキューバ国民全体に広げる狙いもあるようだ。(後略)【1月19日 朝日】
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****<キューバ>平均月給20ドル 経済制裁解除はキューバの命****
21、22日の交渉で、キューバは米国に対し、国交正常化には「経済封鎖の解除が不可欠だ」と明確に条件化し、米国が1962年から続ける経済制裁を一刻も早く終わらせるよう強く求めた。背景にはキューバの深刻な台所事情がある。

長年の経済制裁でキューバが受けた損失は累計1兆ドル(約118兆円)に上ると推計される。国内総生産502億ドルという経済規模にとって影響は甚大で、キューバ政府は国民の生活困窮の原因の一つとして批判してきた。

「経済発展がなければ革命は崩壊する」。2008年に兄のフィデル・カストロ氏から国家評議会議長のポストを引き継いだラウル氏は市場原理の導入を加速し、国営企業の民営化と自営業の認可を増やした。

これにより全人口1100万人のうち民間労働者が10年の15万6000人から13年には44万人へ急増した。

しかし、現在でも労働者の約75%は公務員。最低月給は約9ドル、平均でも約20ドルだ。配給物資は年々少なくなり、収入の大部分が食費で消えてしまう。

一方、外国人観光客を相手にするタクシー運転手たちは1日で最低月給を上回る額を稼ぐ。
外国に住む親族から援助を受けることができる家族や、外国人向け高級レストランなど観光業を中心に富裕層も生まれている。格差は広がり、社会主義の平等原則は崩壊している。

かつて主要産業だった砂糖の生産量は90年の840万トンから14年は160万トンまで減少。ハバナ沖の海底油田の開発も進展していない。

現在、経済は、海外に移住したキューバ人からの送金▽観光収入▽ベネズエラから格安で輸入される石油--などに支えられている。

キューバは、経済封鎖が解除されれば、米国からの旅行者が増え、これまでキューバとの貿易や投資を控えていた第三国の政府や企業も動きだし、外貨収入が見込めるとみている。【1月23日 毎日】
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“キューバ側に急ぐ理由はない”とは言っていられないのではないでしょうか。

意外なところでは、交渉開始によって、キューバからアメリカへの「駆け込み亡命」が急増しているという話もあります。

****キューバ 米国への駆け込み亡命急増****
アメリカとキューバが国交正常化に向けた交渉を始めることで合意したことを受けて、キューバ人の亡命を認めたアメリカの優遇策が今後撤廃されるとの懸念から船でアメリカを目指すキューバ人難民が急増していることが分かりました。

半世紀以上にわたって対立してきたアメリカとキューバは、先月国交正常化に向けた交渉を始めることで合意し、アメリカの政府高官が今月21日からキューバの首都ハバナを訪れ、交渉を始めることにしています。

ところが、国交正常化交渉の発表以降、キューバから船でアメリカを目指す難民が急増し、アメリカの沿岸警備隊によりますと、先月12月の1か月間では481人と、前の年に比べて2倍以上に増えたということです。

これは、国交正常化交渉に伴って、現在アメリカが実施している、アメリカの国土にたどり着けば滞在を認めるという亡命受け入れの優遇策が撤廃されるといううわさが広がっていることなどが背景にあるとみられます。

アメリカの沿岸警備隊はキューバの首都ハバナと近いフロリダ周辺の監視を強める方針で、アメリカとキューバが関係改善へと向かうなか、急増するキューバ人の「駆け込み亡命」の取り扱いが新たな課題となっています。【1月17日 NHK】
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アメリカとの国交正常化は一世一代の大ばくち
アメリカにとってはキューバとの関係改善の具体的メリットは、経済取引の増大と観光でしょうか。

****<キューバ>近くて遠かった「最後の楽園」米国人旅行者急増****
米国との国交正常化に動き出したキューバで、昨年末から米国人旅行者が急増し、冷戦の雪解け効果が早くも表れ始めている。

米国人にとってキューバは目と鼻の先にあるカリブ海有数の避寒地でありながら、半世紀にわたって自由な往来が許されなかった最後の楽園。今後さらに押し寄せて来るであろう隣人に、キューバ観光業界の期待が集まる。(中略)

「米国人は気前よくチップを弾んでくれるし、この手のタクシーを好んでくれるからありがたい」。旧市街で客待ちをしていたバイクタクシーの運転手ヨニエスキ・プラセレスさん(36)も年末以降、米国人旅行者の急増で特需を実感している。しかし「マイ、イングリッシュ、イズ、バッド」。この商機を逃さないため、英会話教室に通うことを決めた。【1月21日 毎日】
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アメリカとの関係が深まるにつれ、フィデロ・カストロ前議長のもとで維持されてきた“平等な社会”は大きく変質していくことも想像されます。

経済事情が変われば、政治状況にも変化が及びます。
アメリカの狙いは、そうした“民主化促進”にあるのでしょうが、キューバ・カストロ政権にとっては体制維持ができるか、大きな“賭け”でもあります。

経済が活性化すれば、所得格差も拡大します。
これまでは、キューバでうまくいかないことはすべて、腐敗した資本主義帝国アメリカのせいにすることができましたが、これからはそうもいきません。

“キューバの現政権に、アメリカとの人的・経済的交流を一挙に増やしつつ、国民を怯えさせ、従順でいさせ続けるなどという芸当ができるだろうか。カストロ体制にとって、アメリカとの国交正常化は一世一代の大ばくちだ。”【1月14日 Newsweek】
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