孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

キューバ  21日からアメリカとの関係改善交渉  孤立感を強めるベネズエラの焦燥

2015-01-10 21:58:14 | ラテンアメリカ

(カストロ前議長(左)を師と仰ぐチャベス・ベネズエラ大統領(右) 良きにつけ悪しきにつけ、大国アメリカを向こうに回して活躍した二人ですが、チャベス氏はすでに亡く、カストロ前議長も健康不安が懸念されています。 “flickr”より By babak mozaffari https://www.flickr.com/photos/bobi/4691411/in/photolist-q3Ap-DpZte-5i31qP-RfwD-CUN1t-7yhJZ7-bpCHZH-bsqxDB-fGX4Jk-EAA3Z-4doYHK-bpZEn8-7RNFTt-6AV5oS-5Zu2qR-5Lw1cZ-foZTF-dZbHEX-5DTMqW-dYLk7U-ahySyB-fn7hKs-3oYoQo-ahbHCa-boAu2X-bqrcGt-eSKTqA-5DPCog-CKh8y-faeKam-inFuvF-7iUgK7-GyH5t-uy5Do-nmPXJ4-qLvGS-5zRDiE-9zWpjX-4ze9h4-dZB7Bw-mxu9Xc-5xxgQ5-5NBHnj-561bG1-oRy6LP-5NBFEL-gAdgSP-zZTkb-9VT2MV-dTLiiD)

アメリカ:賛否はあるものの「鉄拳で押さえこむ時代でない」】
議会を主導する共和党との対決も辞さずレガシーづくりに乗り出した感もあるアメリカ・オバマ大統領が、半世紀にもわたって続けてきたキューバ封鎖政策を「失敗だった」と認め、国交正常化・禁輸措置緩和に向けて大きく舵を切る方針を発表したことは、昨年12月18日ブログ「アメリカ・オバマ大統領  対キューバ政策の歴史的転換 中間選挙敗北で逆に強気姿勢へ豹変」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141218で取り上げました。

「カストロ政権との関係は、キューバ人たちが自由を得るまで正常化はおろか、検討もされるべきではない」(共和党のベイナー下院議長)「誤っており、キューバの政権の性格を十分に理解していない」(上院の外交委員長でキューバ系のメネンデス上院議員(民主党))といったように反対論もアメリカ議会内にはあります。

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オバマ氏はキューバへの制裁解除や国交正常化について「議会による健全な議論」を呼びかけたが、(共和党の上院院内総務)マコネル氏はオバマ氏の方針に反対する考えを示している。共和党は上院が持つ大使人事の承認権限で大統領による駐キューバ大使の指名を認めず、ハバナへの米大使館開設の予算措置も阻む構えを見せる。【1月2日 産経】
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上下両院で共和党が多数を占めることになった議会は1月6日に召集されたましたが、今後激しい議論が行われると思われます。

アメリカ経済界は歓迎ムードです。共和党の姿勢にも影響することも考えられます。
アメリカが経済制裁を解けば、両国間の貿易額は年間100億ドル(約1兆2000億円)規模に膨らむとの分析もあります。

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オバマ米政権とキューバが国交正常化交渉に乗り出すことを受け、米産業界は歓迎の意向を示している。キューバは米国から目と鼻の先といえるほど距離が近く、観光資源も多い有力市場。農産品の輸出増が期待されているほか、株式市場では旅行関連産業の株価も上昇している。【12月19日 産経】
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フロリダ州を中心としたキューバ系住民の間でも世代などで評価は分かれるところではあります。
カストロ体制で弾圧された経験を有する者には根強い反対もありますが、“世論調査では国交正常化を望むキューバ系米国人が68%、若者に限れば90%もいる。若手共和党支持者の中にも「鉄拳で押さえこむ時代でない」(32歳男性)と話す者もいた。”【12月21日 産経】とも

米ギャラップ社が12月27~29日に実施した世論調査によると、オバマ大統領の支持率は48%に達し、2014年中では最高を記録したとのことですから、一般国民の間ではオバマ大統領の一連の強気姿勢は功を奏しているようにも思われます。

キューバ:「どれほど長くこの瞬間を待ちわびたことか」】
キューバ側はアメリカとの関係正常化に前のめりの間があります。

****米国との国交正常化支持=キューバ国会が満場一致で****
キューバの国会に相当する人民権力全国会議は19日、米国との国交正常化に向けたラウル・カストロ国家評議会議長の決断を満場一致で支持した。キューバの国営通信社が報じた。

会議には、米国が釈放した情報機関員3人も出席。キューバの長年の懸案だった情報機関員の帰国が実現したことに対し、執行部から感謝の意を表明する文書も読み上げられた。【12月20日 時事】 
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背景には、キューバの苦しい経済事情があります。

****経済改革へ現実路線 ラウル政権、「反米」転換に布石****
・・・・ラウル政権は、現社会主義体制を維持するため、人々の暮らしを改善し、政権への不満の高まりを防ぎたい。そのために、市場主義経済を取り入れ、経済改革を推し進めないといけない。海外投資を招くべく新たな外国投資法もできた。

だが、14年の経済成長率は対前年比1・4%にとどまる見込みで、改革は思うように進んでいない。庶民の給料はここ数年横ばいなのに、物価は値上がりを続けている。07年と14年の価格を比べると主食のコメは4割上がり、トイレットペーパーは2倍になった。

そこで、米国との国交正常化が改革を進めるエンジンになると期待する。米国がキューバの「テロ支援国家」指定を外すことも、イメージ向上につながる。「政権は現実的。米国との関係を改善させた方が改革を進めやすい」との指摘は多い。政権の「反米色」はその前提のように薄まっていた。

ただ、米国が求める複数政党制や言論の自由といった要求をそのまま受け入れる見込みは薄い。市民の間でも、それよりはまず、暮らしが良くなる方が先決、という声が多いようだ。(後略)【12月20日 朝日】
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友好国ベネズエラが自国経済の破綻に瀕しており、これまでのような支援を期待できないことも、キューバの判断に大きく影響していると思われます。

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キューバはこれまで反米路線で協調していたベネズエラから、破格の安さで原油を輸入してきた。

だが、同国は原油生産量の減少やばらまきに近い社会政策から、近年は経済状況が急激に悪化。最近の原油の国際価格の大幅下落を受け、今後はさらに厳しい局面に陥るとみられている。

キューバの対米姿勢の変化は、行き詰まるベネズエラ経済を背景に、ぎりぎりの生き残り策を探った結果との側面もある。【12月19日 朝日】
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キューバ国民は歓喜に沸いています。

****ハバナ、喜び爆発 カストロ兄弟支持を叫ぶ****
「フィデル万歳! ラウル万歳! 革命よ永遠なれ!」--。米キューバ両政府による国交正常化協議開始の発表を受け、キューバの首都ハバナでは教会の鐘が鳴り響いた。繁華街には約100人の学生が繰り出し、1959年のキューバ革命以来国を率いてきたカストロ兄弟への支持を叫び、喜びを爆発させた。

タクシー運転手の男性はロイター通信の取材に、「どれほど長くこの瞬間を待ちわびたことか」と感極まった様子。米国による制裁は貧困の拡大を生み、男性の家族も米国への移住を余儀なくされた。「分断された家族の苦しみは言葉では言い表せない」。男性は涙を拭った。

一方、50年以上にわたる国交断絶が解消するのかとの不信感を訴える人もいる。自動車整備士の男性は「本当に合意できるのか、にわかには信じがたい」と心情を吐露した。【12月18日 毎日】
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交渉を加速させたいキューバ政府はアメリカとの約束に沿う形で、テロ行為を計画したなどの理由で拘束していた政治犯の釈放を始めています。

****キューバ 対米交渉本格化前に政治犯を釈放****
キューバ政府は、アメリカと国交正常化に向けた交渉を本格化させるのを前に、反体制活動家の政治犯36人を釈放し、交渉を円滑に進めるねらいがあるものとみられます。

50年以上にわたって対立を続けてきたアメリカとキューバは先月、国交正常化に向けた交渉を始めることで合意し、アメリカ国務省は今月21日から2日間の日程でキューバの首都ハバナに政府高官を派遣して交渉を本格化させることにしています。

これに先立って、キューバの反体制派グループ、UNPACU=キューバ愛国同盟は、キューバ政府が8日までに反体制活動家の政治犯36人を釈放したことを明らかにしました。

交渉開始の合意にあたってキューバはアメリカに対し、53人の政治犯を釈放すると約束しています。今回の釈放はその一部とみられ、キューバ政府は交渉の本格化を前に約束どおり政治犯を釈放することでアメリカとの交渉を円滑に進めるねらいがあるとみられます。

ただ、アメリカの野党・共和党からは、53人全員の釈放が確認され、キューバの人権状況が改善されるまでは交渉を始めるべきではないなどと反発の声が上がっていて、キューバ政府が合意に基づいて残る政治犯全員を釈放するかどうかが、交渉の行方を左右することになりそうです。【1月10日 NHK】
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上記記事にもあるように、21日にはアメリカ政府高官がハバナを訪れ交渉がスタートします。

****米高官、21日にキューバ訪問…外交樹立も議題****
米国務省のサキ報道官は8日の記者会見で、ジェイコブソン国務次官補(西半球担当)が21、22日にキューバを訪問すると発表した。

キューバから米国への移民問題に関する定期協議が主目的だが、サキ氏は「外交関係の樹立も当然、議題となる」と語った。

米国とキューバが先月、国交正常化交渉の開始で合意して以来、初の公式協議となる。両国は1961年から断交しており、米次官補のキューバ訪問は長く行われていなかった。

相互の首都への大使館開設やビザ発給など、国交正常化に向けた実務面の懸案が協議されるとみられる。【1月9日 読売】
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姿が見えないカストロ前議長
キューバ側で気になるのは、フィデル・カストロ前国家評議会議長(88)の姿が最近見えないことです。

すでに第一線を退いているカストロ前議長ですから、その安否は政策に直接には影響しませんが、なんといっても“カストロあってのキューバ”でしたから、アメリカとの関係改善交渉と併せて時代の変化しつつあることを感じます。

****カストロ前議長、公の場から姿消して1年 困惑するキューバ国民****
50年以上にわたり国交を断絶していたキューバと米国が、近く国交正常化に向けた交渉を始める──しかし、キューバ革命の指導者、フィデル・カストロ前国家評議会議長(88)は公の場から姿を消したまま沈黙を守っており、支持者の間からは困惑の声が上がり始めている。

カストロ氏が公の場から姿を消してから8日でちょうど1年が経過した。長引く不在により、体調不良の憶測も出ている。

国交正常化交渉の開始を控え、米国は拘束していたキューバの工作員3人を解放した。3人は「英雄」扱いされ、帰還の歓迎式典も開かれたが、ここにもカストロ氏は姿を見せなかった。

キューバ国民の間には困惑が広がっている。ダンサーのドレイリス・ヒメネスさん(20)は「フィデルは英雄がキューバに戻っても姿を見せなかったし、米国との国交正常化についても何もコメントしていない。これには正直驚いている。健康状態がとても悪く、自宅に引きこもっていると噂されているよ」と述べ、政府は国民に何らかの説明をすべきと訴えた。

カストロ氏は2006年7月、健康上の理由から弟のラウル・カストロ氏に、国家評議会議長および閣僚評議会議長などの権限を暫定的に委譲したが、08年に正式に退任を発表している。

最後に公の場に姿を見せたのは14年1月8日だ。7月には首都ハバナの自宅で中国の習近平国家主席およびロシアのウラジーミル・プーチン大統領とそれぞれ会談し、国営メディアにも時折寄稿していたが、それも10月を最後に途絶えている。

美容師のパトリシア・リゴンドウさん(42)は「みんな司令官に会いたいと思っている。元気なのか病気なのか、それとも亡くなっているのか…誰にも分からない」とコメントした。【1月9日 AFP】
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ベネズエラ:デフォルトに陥る確率は97% 「中国の援助なしに生き残れない」】
一方、キューバの方針転換で取り残された形の友好国ベネズエラも慌てているようです。

****孤立焦るベネズエラ キューバ正常化交渉で一転躍起 米に秋波、中露にすり寄り****
米国と長らく対峙(たいじ)してきたキューバが国交正常化交渉に乗り出したことで、キューバと盟友関係にある南米ベネズエラのマドゥロ政権が焦燥感を強めている。

マドゥロ大統領は今年に入り、敵対関係にあった米国との関係改善を模索する一方、5日から友好国のロシアや中国を訪問するなど、“孤立回避”に躍起となっている。

「彼の勇気ある歴史的な取り組みを認めないわけにはいかない」
マドゥロ氏は昨年末、オバマ大統領が対キューバ政策を転換したことを高く評価した。

マドゥロ氏は今月1日にブラジルでバイデン米副大統領とも接触するなど、対米関係改善を本格的に模索し始めている。

ベネズエラは、反米左翼のチャベス前政権時代に米国と激しく対立した。また、米国で昨年、ベネズエラの反政府デモ弾圧をめぐり、関係者へのビザ発給拒否を規定した法律が成立した後、マドゥロ氏は米国を「ヤンキー帝国」などと呼んで激しく批判した。

今回、関係改善へと動く背景には、日量で10万バレルもの石油を提供し、中南米の“反米国家”として共闘してきた盟友キューバが突如、対米政策を転換し、「かつてない孤立」(米紙マイアミ・ヘラルド)にベネズエラが危機感を抱いたことがある。

マドゥロ氏は一方、ロシアを5日に訪問し、露政府高官と会談した。駐カラカス外交筋によれば、マドゥロ氏は露政府と対米関係をめぐり連帯していくことを確認し合ったという。

マドゥロ氏は続く中国への訪問で習近平国家主席と会談し、多額の支援を得ることに成功した。「(両国間の)協力は今年加速することになる」と、中国を持ち上げている。【1月9日 産経】
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キューバの方針転換については、“向きは称賛の姿勢を見せたが、実際はキューバから突然、はしごを外された格好になった。”【12月22日 朝日】とのこと。

かねてよりの経済破綻に加え、昨年後半からの急速な原油価格下落は、外貨準備高に占める石油収入の割合は実に96%に上るベネズエラ財政に致命的な影響を与えつつあり、デフォルト(債務不履行)も言及される状態にあります。

“12月には格付け会社フィッチレーティングスがベネズエラ国債の格付けをBからCCCに引き下げ、ブルームバーグは同国が15年末までにデフォルトに陥る確率は97%だと報道した。”【1月6日 Newsweek】

ベネズエラもアメリカとの関係の改善に遅まきながら乗り出した形ではありますが、喫緊の問題としては「中国の援助なしに生き残れない」(マドゥロ大統領)と、中国の支援をあてにしているようです。

中国と中南米諸国が協力関係の推進について話し合う「中国・中南米カリブ海諸国共同体(CELAC)フォーラム」に併せた今回の訪中では、“200億ドル(約2兆4千億円)の新規投資”【1月9日 産経】が約束されたようです。

もちろん、中国の狙いは“「米国の裏庭」と呼ばれる中南米諸国に照準を合わせ、2015年の外交を始動させた”【1月9日 産経】ということですが、瀕死状態のベネズエラにどこまで肩入れするのか・・・やや疑問でもあります。
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