孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  軍事政権による戒厳令のもとでくすぶる不満 不透明な先行き

2014-11-23 21:01:49 | 東南アジア

タイ・コンケンで、プラユット首相の演説中に抗議する学生ら=19日(AP=共同)【11月22日 産経ニュース】

【“見せかけの平和”】
タイの軍によるクーデターから半年が経過しました。
軍事政権の体質的とも言える問題については、10月22日ブログ「タイ “国民に幸せを取り戻す”という軍事政権の家父長・エリート主義」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141022)でも取り上げました。

これまでのタクシン・反タクシン派の対立と混乱に国民もうんざりしていたことに加え、軍が力でタクシン派を抑え込んでいることもあって、タイの現状は表面的には平穏に見えます。

しかし、国民和解が成立した訳でも、そこへの道筋が見えた訳でもなく、軍による支配への不満もくすぶっており、今後の民政移管がスムーズに進むかは不透明です。

****くすぶる火種、先行き不透明=民政復帰16年以降の公算―クーデターから半年・タイ*****
タイで軍がクーデターでタクシン元首相派政権を打倒し、権力を掌握してから22日で半年を迎える。

戒厳令下でタクシン派など反クーデター勢力の動きが封じ込められ、平穏が保たれているが、プラユット暫定首相(前陸軍司令官)率いる軍事政権が目指す国民和解や包括的な政治・経済改革は道半ばで、民政復帰は2016年以降にずれ込む公算が大きい。政情の不安定化につながる火種がくすぶっており、先行きは不透明だ。

各種世論調査では、軍政に対する国民の支持は依然高い。長期間続いたタクシン派と反タクシン派の対立による混乱を収束させ、ひとまず政情を安定させたことがおおむね評価されているようだ。

しかし、水面下ではプラユット政権に対する厳しい見方がタクシン派だけでなく、クーデターを支持した保守派の間でも広がり始めている。

保守派重鎮は取材に対し、「問題の根本原因を取り除くのではなく、『見せ掛けの平和』を取り繕おうとしている」と政権を批判。政権による国民和解や改革への取り組みは「無駄に終わるだろう」と言い切った。

保守派重鎮は「プラユット政権は沸点に達するのを待つ湯のようなものだ」とも指摘。クーデター後、陸軍ではプラユット氏の後任の陸軍司令官に同じ派閥に属する側近のウドムデート副司令官が昇格する一方、他派閥の幹部を冷遇する人事が行われたことなどで、軍内部でも不満が高まっているという。【11月20日 時事】
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軍事クーデターを支持した(と言うか、クーデターを起こすように軍に仕向けた)反タクシン派は、インラック前首相などのタクシン派追及が進まないことへの不満があります。
また、反タクシン派の民主党にも、軍部の政党制を軽んじる動きへの警戒感が出ています。

****政党を弱体化」募る危機感****
暫定政権は10月以降、国家改革評議会や憲法起草委員会を設置。1年後とされる民政復帰に向け、制度改革や新憲法起草に乗り出した。

これに異論を唱えているのは、むしろ軍を支持してきた反タクシン派だ。

クーデター前に反政府デモを続けた「人民民主改革委員会」(PDRC)指導者の1人、タウォーン・セニアム氏は「軍人と官僚は権力を独占したがる。国民が求めているのは前政権の腐敗の追及だが、インラック氏を含むタクシン派政治家の弾劾(だんがい)に取り組もうとしない」と、一時は抗議デモも辞さない考えを示した。

タクシン政権を崩壊させた2006年のクーデター前後に反タクシン運動をした別団体の元幹部で今回、憲法起草委員に選ばれたカムヌーン・シッティサマーン氏も「軍が強い措置をすぐにとると期待していたが、軍はタクシン派の反撃を招けば治安を崩壊させると案じている」と話す。

PDRC関係者らは、国王を頂点とするタイの伝統的な支配体制を覆しかねないタクシン派に対抗するうえで、軍は仲間だと考えているとされる。だが、暫定政権や改革評議会などのメンバーは軍関係者や官僚らが中心で「自分たちがタクシン派排除の改革を主導できると思っていたのに、という不満がある」(国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチのスナイ・パスック上級研究員)。

野党だった民主党のアピシット・ウェチャチワ党首も今月初め、報道陣に「憲法案起草に関与させないなど、政党や政治家を弱体化させようという力が働いている」と軍を牽制(けんせい)した。

暫定政権が示した改革の指針には、政党や選挙で選ばれる政治家の権限を制限しようとする意向が透ける。タクシン派政党を再び台頭させない狙いとみられているが、影響は民主党にも及ぶ。伝統的な統治観のなかでは、政党は格下扱いのようで、民主党にも危機感が見え始めている。

ほぼ全権が集中するプラユット氏は改革の方向性について多くを語らず、「軍の真意が見えない」(反タクシン派)という疑念を生んでいる。【11月23日 朝日】
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もっとも、タクシン派政治家弾劾の動きがない訳ではなく、今後への影響が注目されています。

****前両院議長の弾劾審議決定=政治対立再燃も―タイ議会****
タイ立法議会(国会に相当)は6日、国家汚職追放委員会(NACC)の請求を受け、タクシン元首相派のニコム前上院議長とソムサク前下院議長に対する弾劾審議を開始することを決めた。

立法議会はコメ担保融資制度をめぐる職務怠慢でインラック前首相についても12日に弾劾審議入りするかどうか判断する方針で、政治対立が再燃する可能性もある。【11月6日 時事】 
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この件がその後どうなったのかは、情報を目にしていません。少なくとも、インラック前首相の弾劾審議開始とはなっていないようです。

立法議会の構成は、軍政トップのプラユット陸軍司令官率いる国家平和秩序評議会(NCPO)が議員に選んだ200人のうち、現役・退役軍人が100人以上を占めるというものですから、基本的には軍事政権の意を受けた結論を出すものと思われます。

タクシン派は、今のところは様子見の姿勢ですが、選挙が行われれば結局自分たちに支持が集まる・・・との考えもあるようです。

“タクシン派は組織的な運動を今は考えていない模様だ。タクシン氏実妹のインラック前首相が率いていたタイ貢献党の幹部は「軍人に経済運営はできない。景気が悪くなれば国民は軍が居座ることを認めなくなり、早く選挙をという機運が生まれる」と話す。”【同上】

軍事政権への批判は挙動や服装も含めて一切許されていませんが、それでもプラユット暫定首相が19日、国内視察の最初の地として東北部の中心都市コンケンを訪れた際に、抗議の意思を示す学生が拘束されたことも報じられています。

****タイで学生拘束、首相演説に映画まねた独裁抗議の指サイン****
タイで人権擁護活動に当たる弁護士組織は20日、同国東北部コーンケン県で19日、演説するプラユット首相の面前で、独裁国家との戦いを描いた米人気映画で抵抗のジェスチャーとなっている「3本指」を突き付けた地元の大学生5人が拘束されたと発表した。

戒厳令に違反した罪で訴追される見通し。5人は首相による公務員向けの演説会場で列をつくりながら、「軍のクーデターは不要」の文字が書かれたシャツを着用していたという。

タイ政府の報道官はコメントを求めたCNNの要求に応じていない。

拘束後、軍施設に連行された5人は、政治活動に今後関与しないとの合意事項への署名を拒否。拘束から約8時間後に釈放されたが、戒厳令違反の訴追手続きで後日の出頭を命じられたという。

軍クーデターで実権を握った首相は陸軍司令官当時の今年5月、戒厳令を布告。軍政はこれ以降、公共秩序の回復を名目にメディア規制、外出禁止や公の場での集会禁止などの措置を打ち出している。

ただ、軍政批判派の活動は消えておらず、ツイッターで流行するポップ文化を取り入れた抗議などが続いている。

3本指の抵抗サインは、独裁国家が仕掛ける殺人ゲームを描いた米映画「ハンガー・ゲーム」で10代少女の主人公が突き付ける表現となっている。女優ジェニファー・ローレンスさんが主役を演じた映画は、スーザン・コリンズ作の小説が土台となっている。

同映画のシリーズ3本目となる新作はタイ内で20日に公開予定。ただ、首都バンコク中心部にある1カ所の映画館は民主派の学生グループがチケットを買い、館内で集会を予定しているとして全ての上映を中止したという。【11月20日 CNN】
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【「報道の自由の概念を際限なく用いると、国に悪影響を与える」】
軍事政権のプラユット暫定首相は、政権批判を許さない報道規制を更に強化する姿勢を示しており、戒厳令についても解除する意思のないことを表明しています。

****タイ暫定首相、報道規制強化か****
5月にクーデターを起こしたタイ暫定政権のプラユット首相は21日夜、定例のテレビ演説で「報道の自由の概念を際限なく用いると、国に悪影響を与える」と述べ、政権を批判するメディアへの規制強化を示唆した。 

プラユット氏はメディアに対し政権批判を控えるよう求めることはあったが、「報道の自由」にまで踏み込んだ発言は初めてとみられる。 

テレビ司会者が番組で政権批判と受け取れる発言をして降板させられたことが14日判明し、地元記者らがソーシャルメディアなどで非難している。こうした動きをけん制する狙いがあるとみられるが、さらなる反発を招くのは必至。【11月21日 共同】
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****プラユット首相、戒厳令解除の可能性を否定****
戒厳令の継続に批判的意見があることについて、プラユット首相は11月20日、「メディアは戒厳令に関しわたしに質問するのをやめるべきだ。(戒厳令が敷かれていることで)誰が迷惑しているのか教えてほしい。今最優先に考えなくてはならないのは国の将来のこと。対立や不和があってはならない」と述べ、戒厳令が治安維持や国家改革遂行に不可欠との考えを改めて強調した。

また、首相は、「特別法(戒厳令)の施行はわたしにとってうれしいことではない。戒厳令で付与された権限を行使すればするほどわたしは不幸せになる」と述べ、戒厳令を施行せざるを得ないような状況を作り出さないよう呼びかけた。【11月21日 バンコク週報】
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プラユット暫定首相は10月15日、民政移管に向けて2015年中に実施する意向を示していた総選挙が16年にずれ込む可能性を示唆していますが、それに先立つ新憲法などの政治枠組みについて、“一院制で全議員を任命制とする選挙のない制度”まで含んだ可能性が検討されていることは、前回ブログでも取り上げました。

そのあたりがもう少し見えてくれば、現在くすぶっている火種が更に大きくなることも予想されます。
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