孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

オーストラリアを目指すボート・ピープル  取締りを強化する豪、中継地インドネシアと協議

2013-10-05 23:07:22 | 難民・移民

(左上の円内がクリスマス島 その北に位置するのがインドネシア・ジャワ島 位置的にはオーストラリアというよりは、ほとんどインドネシアです。 【ウィキペディア】

難民締め出し政策に転じたオーストラリア
一昨日の10月3日ブログ「イタリア南部に押し寄せる中東・アフリカ難民」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131003)では、欧州の窓口的な位置にあるイタリアを目指す難民の問題を取り上げましたが、オーストラリアも中東や南アジアから多くの難民が目指す国です。
オーストラリア近海では、先日のイタリア・ランペドゥーサ島沖の事故と同じような密航船事故が多発しています。

オーストラリアでは保守政権時代、難民希望者を直接入国させず、近隣のナウルやパプアニューギニアの収容所に隔離する政策をとっていました。
07年の政権交代後、ラッド・労働党政権は難民審査をオーストラリア領内で行うことにしましたが、これによって難民希望者のオーストラリア国内定住への期待が高まり、世界中の紛争地域などから多数が押し寄せることにもなりました。

もちろん、遠く離れた中東や南アジアから一気にオーストラリアに渡ることはできません。
オーストラリアへの中継地となっているのがインドネシアです。ジャワ島南部から400キロ弱で豪州領クリスマス島へ渡ることができます。
難民たちはまずインドネシアに入り、あっせん業者の手引きで密航船に乗ってオーストラリアを目指します。

オーストラリアでは難民の増加、密航船の事故多発が社会問題化し、ギラード首相を追い落として返り咲いたラッド首相は、難民審査を国外のパプアニューギニアで行うよう変更することになりました。
また、9月総選挙で労働党から政権を奪取した保守党・アボット首相は密航船取締り強化を打ち出しています。

****密航難民」受け入れ拒否=定住先はパプア-粗末な船で次々、今年既に200隻・豪****
オーストラリアのラッド首相は、正規の手続きを踏まずに密航船で豪州に渡ってきた難民認定希望者に対し豪州定住を一切認めず、パプアニューギニアに移送し、難民と認定されれば同地に定住させると発表した。ラッド首相とパプアのオニール首相が19日、合意文書を交わした。
豪政府は増加する密航船対策をめぐり野党から批判を浴びてきた。年内の総選挙を前に、新たな解決策を示した格好だ。

密航者の多くは経由地のインドネシアで、あっせん業者が用意した粗末な船に乗ってくる。航海中に沈没する悲劇が後を絶たない。

豪州は4人に1人が海外生まれの移民国家。市民にとって比較的身近な問題で、同情を寄せる声がある一方、通常なら数年かかる海外での正規の難民認定手続きの「列を飛び越える行為」と批判も強い。
ラッド政権は、最近急増するイランからの密航者の多くは、迫害などで追われた政治難民ではなく、より良い生活を求める「経済移民」と判断している。業者に数十万円を支払って密航船に乗っても「定住先はパプア」と強調し密航抑制を狙う。
パプアも難民条約加盟国であり「移送に法的な問題はない」というのが豪政府の見解。ただ、パプアにとって豪州は最大の開発支援国という背景もある。
豪州への密航船の数は、2007年の総選挙で政権交代を果たしたラッド第1次労働党政権が翌08年、保守連合(自由党、国民党)政権時代の政策を緩和した結果、急増した経緯がある。
12年には278隻を数え、今年も既に200隻を超えた。

野党保守連合は、6月に首相に返り咲いたラッド氏こそが「問題を引き起こした張本人だ」と攻撃している。【7月21日 時事】
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【「全てを捨てて国を離れ、多額の借金もある」「他に選択肢はない」】
オーストラリアが方針を変えても密航船は後を絶ちません。
祖国を出た難民にとっては、オーストラリアを目指すしかないという事情もありますし、オーストラリアの政策がそのうちまた変わるのでは・・・という期待もあるようです。
正規の難民認定手続きを待てない経済的な事情もあります。

****豪州:生きるため密航で 難民締め出し政策でも目指す****
オーストラリアのラッド政権が打ち出した密航者を完全に締め出す政策に、中継地インドネシアで密航の機会をうかがう難民希望者が反発している。

それぞれが母国に戻れない事情を抱えているうえ、経済的にも困窮。オーストラリアの難民政策が再び変わることへの期待感もあって、多くが「他に選択肢はない」と語り、今も危険な航海に希望を託している。(中略)

ラッド首相は先月19日、無許可で漂着した難民希望者を全て隣国パプアニューギニアに移送し、難民認定後も豪州への移住を認めないと発表。豪州移住の可能性をゼロにすることで密航の根絶を目指す強硬策に着手した。すでに密航者約120人が空路でパプアに移されている。

だが、密航にブレーキはかからず、変更後も密航船16隻で1260人が漂着。少なくとも2隻が沈没、76人が死亡した。密航が続く背景には、豪政府の度重なる政策変更と難民希望者の経済的困窮がある。

豪州では政権や首相が交代するたび、難民政策が変わり、強硬策が見直された。難民希望者たちは「また変わる可能性がある」と期待を口にする。その1人であるメヘディさんも先月末、密航業者に4000ドル(約39万円)を支払い、ジャワ島南岸の港に向かったが、悪天候で出港が中止となり、次の機会を待っている。

難民申請の手続きを経る場合、認定には最短で半年、平均約2年かかる。メヘディさんは「(インドネシアでの生活で)家賃や食費で月最低150ドル。認定まで待つ余裕はない」と語った。

アフガニスタン出身のアリさん(22)も先月末、密航船で豪州を目指した。老朽化した小型漁船は女性や子供を含む約100人で満杯。出港から約5時間後、浸水が始まり、まもなく船は沈没した。
警察の船に救助され、収容された宿舎から逃亡し、再度の密航を計画中だ。
「全てを捨てて国を離れ、多額の借金もある。決して希望は捨てない」と語る。【8月9日 毎日】
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あっせん業者が暗躍するインドネシア
“中継地”となるインドネシアも対応に苦慮しています。

****避難民流入、インドネシア悲鳴 豪州への中継地に****
紛争が続く中東やアジアからオーストラリアを目指す避難民たちが、「中継地」のインドネシアに流れ込んでいる。不法滞在を含めると1万人以上いるとみられ、領海内で沈没する難民船も相次ぐ。

シンガポールにほど近いインドネシア西部ビンタン島の主要都市タンジュンピナン。入管当局の許可を受け、3年前にできた「入国管理収容センター」を訪ねた。

3階建ての同センターには男性341人が収容されている(8月15日現在)。出身国はアフガニスタンが140人で一番多く、次いでミャンマー100人、スリランカ60人、パキスタン11人など。イラン、イラク人もおり、多くがイスラム教徒だ。

入り口から鉄柵扉を四つ抜けた1階では、ミャンマーから避難してきたイスラム教徒の少数派ロヒンギャ族の男性たちがひしめき合って暮らしていた。(中略)

ユヌス・ジュナイド所長によると、同センターは国内に13カ所ある収容所のうち最大で、唯一オーストラリアの支援で建てられた。食費や診療所運営費などは国際移住機関(IOM)の協力で国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が負担している。

約50人のセンター職員は法務・人権省管轄の入管職員で、うち警備担当は30人で3交代制。同所長は「たった10人で収容者300~400人を見張るのは限界があるのに、ボートピープルはどんどん入国してくる。なんとかならないかというのが本音だ」と話す。

建物には鉄条網が張られているが、塀はそれほど高くない。脱走事件も頻繁に起きる。7月16日の未明には55人が扉を壊し、塀を飛び越えて逃げた。うち27人が地元警察などに捕まって戻されたが、残りは今も行方不明だ。アフガン人たちが「何年待てば難民認定されるのか」と騒いだ末、抗議のハンガーストライキをしたこともあるという。

「避難民は犯罪者ではないが、自由の身でもないので難しい」と同所長。収容者は国連へ難民申請をしているが、難民認定が出るのに何年もかかる。認定されなければ本国へ任意帰国か強制送還される。「避難民の気持ちも理解できる。精神分析医も常駐しているが、精神的に参ってしまう人が多い」という。

(中略)政府は今年4月、避難民問題の専門部署を政治・治安調整省内に設置した。責任者のジョニ・ウタウル氏によると、「紛争国からインドネシア経由豪州行き」のルートが密入国請負業者間でできている。「海軍などの巡視船がどこにいるか、どの地域の国境警備が手薄かなども業者は把握しているようだ」という。

アフガニスタン人やスリランカ人などの業者はまず、密航船を手配したうえでジャワ島の貧しい漁村へ行く。数人の漁師に1人50万円ほどの報酬を与え、「豪州領海へ人を運べ。もし豪州当局に捕まったら2年間ほど刑務所に入るが、所内労働で多額の報酬ももらえるから問題ない」と指示。難民希望者をバスなどで漁村に運び、夜、ひそかに出航させるという。(後略)【2012年8月19日 朝日】
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【「両国の効果的な協力が必要だ」】
オーストラリア側が密航船取締りを強化し始めた最近は、難民がインドネシアへ追い返されること、オーストラリアの取締りがインドネシア領海・領土にも及んでいることなどで、インドネシアとオーストラリアの間で対立も起きています。

****豪州目指すボート・ピープル 難民船転覆も後を絶たず****
オーストラリアが、インドネシアを経由した海路からの上陸を目指す「ボート・ピープル」への対応に苦慮している。

政情が悪化している中東や南アジアからの難民がほとんどで、老朽化した木造の漁船に多くの人を乗せて外洋に出るため、遭難事故も多発している。

オーストラリア側は海軍を投入した取り締まりなど水際作戦を強化する方針だ。
ただ、出港地となっているインドネシア側からの協力がどれだけ得られるかは不透明で、効果的な解決策は見いだせない状況だ。

9月27日、約100人の難民を乗せた漁船が、インドネシア西ジャワ州から、約340キロ離れたオーストラリアのクリスマス島を目指した。しかし、沖合で4~6メートルの高波にさらわれて転覆。インドネシア当局が行方不明者の捜索を続けたが、AP通信によると救助された難民は35人にとどまった。

これらの難民について地元メディアは、レバノンやパキスタン、イラクからの亡命希望者と伝えたが、詳細は不明だ。

ただ、救助された難民からは「救援申請を送ったのにオーストラリアが助けに来てくれなかった」と批判が噴出し人道問題に発展。
オーストラリア側が、事故海域はインドネシアの管轄内で適切な支援は行ったと反論するなど、ボート・ピープルを巡る対応への関心が一気に高まった。

政治情勢が不安定な中東諸国などからは大勢の難民希望者がオーストラリアを目指しており、“密航ビジネス”の温床になっている。マレーシアなどを経由して空路インドネシア入りし、漁村で老朽化した木造の漁船と操船役を調達するのが典型的なパターンとされる。
満足な食糧や水も積み込まず、海のかなたに平和と富を求めて出港する、まさに決死の航海だ。

ある人権団体は、オーストラリアを目指しながら遭難して死亡した難民の数は、今年1~7月に確認されただけで77人、可能性も含めれば496人に上るとの統計を発表している。

オースラリア議会の資料によると、難民として流入するボート・ピープルの人数は、2008年の161人から09年には2726人に急増し、12年は1万7202人に急拡大した。
イラクやアフガニスタンなどの政治情勢が不安定化し、移民希望者が急増していることに加え、オーストラリア政府が密航する難民に対して寛大な姿勢を見せたことなどが要因とみられる。

オーストラリアは、これまでも多くの移民を受け入れてきたが、近年流入する移民の急増は、雇用や財政へ悪影響を与えかねず、世論の反発も引き起こしている。特に、不法な難民船に乗ってやって来るボート・ピープルに対し、同情だけでは済まされなくなっている。

9月に政権奪還を果たしたアボット首相は、総選挙で「ストップ・ザ・ボート」をスローガンに移民船の取り締まり強化を掲げ、支持を広げた。海軍による周辺海域の取り締まりを強化し、安全が確保されれば船をインドネシアに送還するという政策だ。

インドネシア沿岸では老朽化した漁船を買い上げて難民船化を防ぐ対策を強化し、オーストラリアの警察当局がインドネシアの漁村を舞台に独自の情報収集活動を拡大する方針も示した。

一方、インドネシアのマルティ外相は、オーストラリアの難民船対策が自国の領海や領土にも及んでいることから、「主権を侵害するいかなる政策も受け入れられない」と反発を強めていた。

そうした中、アボット氏は9月30日、初めての外遊先として、インドネシアを訪問。経済関係の強化を確認するはずだったが、直前の27日に起きた遭難事故もあり、ユドヨノ大統領との会談では難民船対策が大きなテーマに浮上した。

会談後の会見でアボット氏は、問題解決への協調姿勢をアピールする一方、インドネシア側の主権尊重にも言及し配慮を見えた。だが、ユドヨノ氏は「(難民船問題では)双方が被害者だ」と主張、「両国の効果的な協力が必要だ」と述べて2国間協議の場を設置する方針を示すなど、温度差を見せた。

アボット氏の頭にあるのは、旧ハワード政権が実績をあげた難民船の取り締まり強化のようだ。保護した難民を周辺国に送り出すことで、2002年に上陸したボート・ピープルの数を前年の5516人から1人に押さえ込んだ。

ただ、これらの対策を実現させるには、周辺国の協力が不可欠。特に経由地として難民船の送り出し国になっているインドネシアもメリットを感じるような対策を取らなければならない。
取り締まり強化だけでは、難民船の“押し付けあい”という悪循環から抜け出せない。

ある人権団体関係者は、「祖国を捨て、命がけで難民の道を選ぶしかない人たちの境遇を改善しなければ、問題の根本解決にはつながらない」と警鐘を鳴らす。【10月5日 産経】
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【「私たちは博愛の義務を忘れ、他者の苦しみに慣れ、無関心が地球規模で広がっている」】
「祖国を捨て、命がけで難民の道を選ぶしかない人たちの境遇を改善しなければ、問題の根本解決にはつながらない」・・・それはそのとおりですが、オーストラリア・インドネシアだけではいかんともし難い問題でもあります。

また、国家を基本とした現在の枠組みからすれば、“厄介者”の難民を水際で追い返すというのも、現実的施策です。

ただ、「ここは俺たちの国だ。お前たちが来るところじゃない。」という論理は、現実的ではあっても、それほど声高に叫べるような崇高な理念ではないようにも思えます。
この難民の問題では、いつも芥川龍之介の「蜘蛛の糸」を連想してしまいます。

密航船事故が多発しているイタリア・ランペドゥーサ島を7月に訪れ、「私たちは博愛の義務を忘れ、他者の苦しみに慣れ、無関心が地球規模で広がっている」と語ったフランシスコ・ローマ法王は、今回のランペドゥーサ島沖の事故に、「多数の犠牲者に胸が痛む。脳裏に浮かぶ言葉は『恥』だ。惨劇を繰り返さぬよう力を合わせよう」と述べています。

そこらの感覚によって、現実の対応が単なる“押し付けあい”になるか、難民にも配慮された別物になるか違ってくるように思えます。
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