孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ドイツ  メルケル首相「多文化主義は失敗した」 移民の「社会適応」と「選別」重視へ

2010-10-21 20:03:23 | 世相

(10月3日 ベルリンで行われた右翼団体による小規模(50名程度)な「反イスラム」デモ
“flickr”より By Matthias Berg   http://www.flickr.com/photos/bergm13/5056372011/ )

【大統領:「イスラムもドイツの一部だ」】
欧州の移民問題、最近の移民排除の動き・右傾化については、これまでもたびたび取り上げてきました。
ドイツの場合、人口8200万のうち約1600万人が移民か外国出身で、イスラム系は約400万人とされています。

ドイツ連邦銀行のザラツィン理事は、「すべてのユダヤ人には特定の遺伝子がある」という発言の他、イスラム系移民増大についても「トルコ系住民は高い出生率を武器にドイツを征服しようとしている」「アラブ人とトルコ人はこの街(ベルリン)で、果物と野菜を売る以外の生産的な活動をしていない」などと発言して、9月2日解任されています。
「タブー」に踏み込んだこの発言には、メルケル首相も「断じて受け入れられない」と批判していますが、当時の世論調査では、51%がザラツィン氏の解任に反対していたように、ドイツ社会にはこうした発言を受け入れる素地が一定にあるようです。

一方、クリスチャン・ウルフ大統領は10月3日、北部ブレーメンで行われた東西ドイツ統一20周年の記念式典で「わが国はもはや多文化国家だ。イスラムもドイツの一部だ」と演説し、現在はイスラム教もドイツの一部だとの認識を示しました。
ウルフ大統領は、ドイツ国民にイスラム系の人びとに対する寛容さを求めると同時に、イスラム系移民に対してもドイツ社会に真に溶け込む努力が必要だと語り、イスラム系住民のドイツ社会への融合を目指す努力を訴えました。

【首相:「多文化社会を築こう、共存共栄しようという取り組みは失敗した。完全に失敗した」】
しかし、メルケル首相は「多文化主義は失敗した」と、今後の移民対策を厳しくしていく方針を打ち出しています。
****移民政策 独首相発言 「多文化主義は失敗」波紋*****
ドイツのメルケル首相が最近、「多文化主義は失敗した」と述べ、波紋を広げている。
各民族の文化を尊重する多文化主義は移民政策の理想モデルとされてきたが、移民を受け入れてきた国々で1990年代から文化摩擦が相次いで表面化。ドイツでも米中枢同時テロ後、イスラム原理主義への警戒心が強まり、金融危機やその後の財政危機で仕事や年金が移民に奪われるとの懸念が高まっていることが背景にある。

メルケル首相は16日、与党キリスト教民主同盟(CDU)の集会で、「ドイツは移民を歓迎する」と前置きした上で「多文化社会を築こう、共存共栄しようという取り組みは失敗した。完全に失敗した」と述べ、喝采(かっさい)を浴びた。
調整型の首相が慎重を要する移民問題にあえて踏み込んだのには事情がある。首相の後押しで選出されたウルフ大統領が3日、東西ドイツ統一20周年記念式典で「わが国はもはや多文化国家だ。イスラムもドイツの一部だ」と演説。これにCDU右派が反発し、姉妹政党・キリスト教社会同盟(CSU)のゼーホーファー党首が「ドイツは移民国家になるべきではない」と異文化国家からの移民受け入れ禁止を求めていた。

旧西独は労働力不足を補うため、1961年からトルコ、ギリシャなどの出稼ぎ労働者を大量に受け入れた。しかし、いずれは帰国するとして、99年に国籍取得条件を緩和するまで積極的な統合政策を怠った。
人口8200万のうち約1600万人が移民か外国出身で、イスラム系は約400万人とされる。しかし、「ドイツは移民国家」であることさえ認めたがらない空気が保守層に強く、最近の世論調査では3割以上が「ドイツは外国人に乗っ取られる」と回答した。

メルケル発言について、欧州の移民政策に詳しいアムステルダム大のエリナス・ペニンクス教授は「移民禁止という右派の主張や移民に寛容すぎる左派にクギを刺して、CDUを中道に誘導しようとした」と分析。
メルケル首相は今後、移民のドイツ語教育に力を注ぐ一方で、ドイツ基本法(憲法)に反するイスラム社会の強制結婚など、伝統的な習慣を規制していくとみられる。
欧州では、移民に寛容だったオランダやスウェーデンで極右政党が台頭。英紙フィナンシャル・タイムズは19日付の社説で「多文化主義は失敗ではない。もっと努力が必要なのだ」と述べ、極右勢力などに誤ったメッセージになりかねないメルケル発言に懸念を示した。【10月20日 産経】
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好調な経済情勢にもかかわらず、政治的にはメルケル首相は苦しい状況に追い込まれつつあり、右傾化の方針転換を図っているとの指摘もあります。
****「鈍牛」メルケルが右傾化の賭けに出た****
欧州最大の規模を誇るドイツ経済は絶好調。失業率も過去18年で最低水準に下がった。
だが経済の好調さは連立政権の中核を成すキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の助けにはなっていない。CDU・CSUと保守的な自由民主党の連立政権に、多くの国民は失望している。
メルケル首相率いる連立政権は医療保険や税金などの問題をめぐる論争に明け暮れている。直近の調査ではメルケルの支持率は7ポイント下がって41%になってしまった。
州レベルの6つの選挙が来年早々に控えている。メルケルは生来の用心深さを捨ててリスクを冒す政治家に変身。穏健な現実主義者だったのが、右派的な姿勢を強めている。
メルケルは原発17基の稼働期間を延長する方針を打ち出し、福祉制度も見直す考えを示した。シュツットガルトの駅改築計画をめぐって反対派と警察隊が衝突したときも、明確に改築計画を支持した。
右傾化しか取るべき道はなかったのかもしれない。最近の調査では、回答者の3分の2がメルケルの連立政権には確固たる方針がないと答えている。連立相手の自民党の主張どおりに振る舞えば、少なくとも「確固たる方針」はアピールできる。【10月27日号 Newsweek日本版】
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【不適応移民は排除、「有能な移民」を確保】
移民政策に関しては、“ドイツ社会に適応していないとみなした移民を締め出す一方、労働力不足を補うために「有能な移民」を新たに確保すべきだとの考えが出ている”とのことです。
****ドイツ:移民「選別」探る 独語話さぬ共同体や貧困層締め出し 「優秀な」労働力確保****
 ◇独語話さぬ共同体や貧困層締め出し、「優秀な」労働力は確保ドイツで移民政策の見直しに向けた議論が活発化している。少子高齢化社会に対応するため、移民の活力を利用しようとする動きだ。政府内では英仏の移民政策を参考に、ドイツ社会に適応していないとみなした移民を締め出す一方、労働力不足を補うために「有能な移民」を新たに確保すべきだとの考えが出ている。【ベルリン小谷守彦】

議論の引き金は、デメジエール内相が9月上旬に発表した「社会適合プログラム」と称する政策案だ。
内相は「社会に適応する意思のない移民が移民全体の15%に及ぶ」と指摘したうえで、ドイツ語を母国語としない移民の若者が増えていることについて「対処が必要だ」と訴えた。
保守系の与党議員からは、内相の政策案公表を機に、ドイツ語を学ぶ意欲のない移民に対する生活保護費支給の打ち切りや滞在許可延長申請の拒否など「制裁」を加えるべきだとの意見が噴出した。
移民への強硬策が主張される背景には、移民の一部が都市部を中心に閉鎖的な共同体を形成し、貧困問題が顕在化していることなどがある。
ドイツは70年代に産業振興策の一環として、トルコなどから「ガストアルバイター」と呼ばれる移民を工場労働者として受け入れた。移民らは親族をドイツに呼び寄せて受け入れ政策停止後もドイツにとどまり、現在に至る。
 ◇ポイント制を検討
こうしたことから、移民希望者の技能を点数化して選別の基準とする「ポイント制」を導入すべきだとの意見が出ている。ポイント制は既に英仏両国で実施されている制度だ。移民問題に詳しいマインツ大学のハンブルガー教授は「ドイツは(少子高齢化の)人口動態の変化に対応するために、英仏の政策と近い方向を目指している」と、ドイツ政府が目指す政策の方向性を解説する。

 ◇英では常識テスト
英政府は、移民希望者に政治に関する知識などを問う「常識テスト」を課し、移民に一定の英語力も要求。フランス政府は中長期滞在の移民に国との「社会契約」を結ばせ、仏社会に適応する努力を義務付けている。
ドイツのブリューデレ経済技術相は、「人材を集めるためには謝礼金を払ってもよい」と、優秀な労働力としての移民を確保する姿勢を鮮明にしている。英仏を先例に「移民の社会適応」と「選別」を重視した意見が勢いを得つつある。

 ◇文化めぐる摩擦に悩む教師、制裁より補習を
移民人口の比率が高い都市部の学校では、教師たちが移民の子供たちの教育を巡って苦悩している。
ベルリン中心部のハインリッヒ・ザイデル小学校(児童540人)は、移民の子供が全校児童の97%と圧倒的多数を占める。半分はトルコ系の子供で、パレスチナなどアラブ系の子供が約4分の1を占める。

 ◇「負担大きい」
フラーダー校長(46)は「(移民の家庭では)森を見たことがなく、『森』という基本的なドイツ語の意味がわからないことがある」と指摘。スカーフ、水泳、断食などイスラム文化を巡る親と教師の摩擦も絶えず、「教師の負担は大きい」と嘆く。校長は「両親は積極的に学校行事に参加してほしい」と親が子供の教育に積極的にかかわるよう呼びかける。
別の地域にあるヘルベルト・フーバー実科学校(中等学校)は移民の生徒が95%を占める。
シューマン校長(60)は、ドイツ社会に適応しない移民に生活保護費の減額など事実上の制裁を加えようとする風潮について「制裁も役立つかもしれないが、重要なのは移民の子供たちが将来、生活保護を受けなくてもよいようにすることだ」と述べ、学校で行われている無料のドイツ語補習授業を拡充するよう訴えた。【10月21日 毎日】
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“ドイツ社会に適応していないとみなした移民を締め出す一方、労働力不足を補うために「有能な移民」を新たに確保する”というのは、受入れ側に都合のいい話ではありますが、現実に移民増加が社会にもたらす影響の大きさを考えると一概に否定できるものではありません。

多くの社会問題の責任を移民に負わせるような移民排斥的風潮に賛同はしませんが、一旦受け入れた移民は家族を呼び寄せ、次世代は母国語も話せず移民先でしか暮らせない状況になります。
そうした点を踏まえて、受け入れる以上は単なる便利な労働力としてではなく、移民の社会適応について腹をくくった対応が必要になります。

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