孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  スコットランド独立って本当にあるのか・・・

2007-12-17 17:45:03 | 世相

(スコットランド伝統のハイランドダンスを披露して観客におじぎ。 “flickr”より By Randy Son Of Robert)

スコットランドがイギリスから独立するというのは・・・と言う話。

周知のように、イギリスの正式名称は「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」。
グレートブリテンはさらに、イングランド、スコットランド、ウェールズという三つの地域にわかれます。
歴史を遡るとそれだけで万巻の書があるところですが、ゲルマン系のアングロ・サクソン人がイングランドを中心にブリテン島に進出する以前からこの地に住んでいたケルト系の民族の文化がイングランド以外の地域に残存しています。
スコットランドはウェールズと異なりローマ帝国の支配も受けていません。

スコットランドはイングランドから文化的影響をうけながらも、独自の王国として緊張・対立関係が長く続きましたが、イングランドと共通の国王をいただく同君連合を経て、産業革命で圧倒的経済力を獲得したイングランドの圧力に屈する形で、1707年スコットランド議会は自らを解散して完全にイングランドと一体化することになりました。
現在でも形式的には、イギリスは共通の国王をいただく4王国の連合体です。

また、イギリス国歌「ゴッド・セーブ・ザ・クイーン」の第6節には「反体制的なスコットランド人」を粉砕するため神の助けを懇願する部分があるそうです。
国歌が様々な歴史的経緯によって、現在の価値観に照らしたとき“いかがなものか・・・”という表現を含んでいるのはイギリスに限った話でありません。
伝統・文化として受け入れるかどうか・・・ということになりますが、“「反体制的なスコットランド人」を粉砕する”とまで言われるとどうでしょうか?
イングランドとスコットランドの間にある溝をうかがわせる話でもあります。

そういった文化的・歴史的事情があって、スコットランドには今もイギリスからの“独立志向”が強く存在しているそうです。

***スコットランド独立支持が急増=3カ月で5%上昇*****
英国からのスコットランド独立を支持する者が過去3カ月で5%増えていたことが、世論調査で明らかになった。日曜紙サンデー・ヘラルドが16日報じた。
世論調査会社TNSシステム・スリーによると、スコットランド人のうち約40%が英国との300年にわたる連合を解消することに賛意を示した。これは8月時点の35%を上回る。
一方で、英国との関係継続を支持する者は44%に上るが、8月時点の50%から低下。
独立支持が多い年齢層は25-34歳で、53%。逆に65歳以上のグループは57%が独立に反対した。【12月16日 時事】
********************************

97年ブレア政権のもとで、地方分権化の流れもあって、スコットランド・ウェールス・北アイルランドに独自の議会(従来からある地方議会とは別物で、スコットランドであればスコットランド王国の議会という位置づけ)を置くことになりました。
議会は独自の行政府を選出し、イギリス中央政府から地域の教育、福祉、医療などに関する、立法や徴税、予算配分について決める権限が委譲されました。

スコットランド議会には、スコットランドのイギリスからの独立を主張するスコットランド国民党(SNP)が存在しています。
「独立したほうがいいか?」という世論調査と、現実の政治選択としてのSNPの議席数は必ずしも一致しません。
98年当時世論調査では独立支持が50%を超えていましたが、99年選挙ではSNP得票は30%にとどまり、統一維持を主張する全国政党である労働党が42%で第一党になりました。
それは、ブレア政権の引止め政策の効果もありますし、「精神的アイデンティティーはスコットランドに感じるが、現実に独立した場合のもろもろのことを考えると・・・」という住民の常識的な判断でもあるでしょう。

その後、03年選挙では129議席中SNPは29議席(第一党は50議席の労働党)でしたが、今年5月の選挙では47議席を獲得、46議席の労働党を抑えて第一党になりました。
これにより、スコットランド政府の首相もSNP党首が就任しています。

日本でも琉球王国の伝統・独自の文化を、あるいは基地問題という独自の問題を持つ沖縄にあっては、“独立志向”があっても不思議ではありませんし、実際に沖縄独立を主張する地方政党もありますし、戦後米軍も当初は“独立”の方向だったとも聞きます。
現在でも日本とは区別した沖縄という存在に精神的アイデンティティーを感じる沖縄人は多いでしょうが、昔も今も“独立”は現実的な選択肢としては大きくなっていません。

スコットランドの場合は、“独立”は沖縄よりはるかに現実味を帯びています。
歴史・文化の問題もありますが、独立派の現実的・財政的裏づけとなっているのが北海油田の存在です。
今は中央政府に吸い上げられている石油からの利益をスコットランドが使えるようになれば・・・という思惑です。
一方、“独立”を思いとどまらせているのは、中央政府のスコットランドへの手厚い予算配分のようです。
独立してしまうとこの恩恵をうけられない・・・。

しかし、中央政府の予算にすがっているだけでは将来への展望がひらけないのは日本の地方自治体もスコットランドも同じです。
独自財源で独自の地域密着の政策をおこなってこそ、経済浮揚のきっかけもつかめるのでは・・・という発想がスコットランドでも次第に広まってきているとも聞きます。
最近の“独立志向”の高まりにもそのような背景があるのでは。

“独立”については、ヨーロッパの場合、もうひとつ別の要素が加わります。
EUの存在です。
現実に“独立”を考えると、「独立して果たして経済的にどうなるのか?」「外交はどうするのか?」という“面倒な問題”がありますが、EUという大枠を利用すれば、グローバル市場に参加でき、また、外交等の国際関係も一定にフォローされます。
EUの大枠のなかで、スコットランド独自の政策に専念する・・・それなら敢えて“イギリス”という中途半端な存在はなくても・・・という考えも出てきます。

もちろん、EUの基本条約改正を行うリスボン条約の批准に関して、国民投票を各国が嫌がり議会決議で済まそうとするように、EUという理念が広くヨーロッパ国民に受け入れられている訳ではないですし、今後の方向も不確実なところがあるのは事実です。
しかし、ヨーロッパ社会においてEUというものが一定のプレゼンスを持ってきているのも、また事実ではないでしょうか。

ベルギーでは相変わらずオランダ系のフラマン語圏とフランス語圏の政治対立が根強く、いまだ組閣ができないようです。
将来的にスコットランド独立、イギリス解体ということもあるのでしょうか? 
“国家”の意義が問われる時代になってきています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする