大きな傘

2017年03月02日 07時12分56秒 | マーロックの雑記

                    ポチャ

                                           ザァァァァァァ   ・・・・・・・

        チャポ

水があふれる・・・

石のくぼみの水たまり。

屋根タープから落ちる水でいっぱい。

午後の9時、崖の見張りをしてる。

大倒木の根っこ側、屋根タープの端っこにいる。

通路タープは、崖をみてここから左側に置いてある。

たき火の準備もそこにしてあるけど、今は消してる。

折り畳みのイスとテーブルがあって、座ってる。

テーブル部分は木製で、何ものっていないプレートにフォーク。

食後のデザートに、メロンとキウイが出た。

「・・・」

横に置いてある空の木箱には、黒猫が入ってる。

すこし分けてあげた。

おいしかった。

              ―――

                                     ヮヮヮヮヮ   ・・・・・・

酸素には毒性がある。

だけど、私たちは酸素が無いと生きていけない。

多くの人は、数日なら純粋な酸素で呼吸しても耐えることができる。

ポール・ベールは動物実験で、高圧酸素に曝すと数分で死ぬことを139年前に発表した。

ジェームズ・ローレン-スミスが21年後、もう少し低濃度だと生存時間が長くなることを示した――通常の大気圧で75%以上の酸素に曝されると、肺が炎症を起こして数日で死んでしまう。

酸素の毒性は、初期のスキューバ・ダイバー達によって報告された――純粋な酸素を入れた装置が水圧で圧縮できるようになっていて、8mより深く潜ると癲癇の発作のような痙攣を起こす。

ダイバーは深く潜らないように注意できるけど、兵士は様々な状況に対処する必要がある。

それで連合王国海軍は、J・B・S・ホールデンに酸素の毒性についての研究を依頼する。

ホールデンと共同研究者は、自らを高圧の酸素に曝して実験した。

7気圧…通常大気の7倍の純粋な酸素だと、5分で痙攣が始まった――痙攣は2分ほど続き、ホールデン自身は背中に損傷を負って痛みは残ったらしい。

ホールデンの研究をもとに、連合王国はナイトロックスという混合気体を開発する。

第二次大戦でナイトロックスを使用した海軍特殊部隊は、他国のダイバーを海深くに引き付けて酸素中毒にすることが出来た――同盟国だった合衆国も、ナイトロックスには気付くことができなかった。

現在の大気には、約21%の酸素が含まれている。

純水な酸素が2気圧を超えると、痙攣が起こって死ぬ場合がある――通常大気の10倍近くの量になる。

大気圧で純粋な濃度…100%だと、痙攣は起こらないけど数日で肺が炎症を起こす――深刻な炎症で呼吸ができなくなり、大気に酸素が豊富にあるにも関わらず酸欠で死ぬことになる。

通常の2倍程度の濃度であれば、赤血球の数を減らして鼓動をゆっくりしたものにすることで対応する――その結果、各組織に届けられる酸素量は通常大気の濃度と同じ程度になる。

酸素の少ない高地では反対に赤血球の数を増やし、毛細血管の成長を促して対応する――高地でも酸素濃度は同じだけど、気圧が低いので呼吸で取り込める酸素の量は減る。

このため、高地トレーニングをしたアスリートは数週間以内に競技を行わないと再適応によってもとに戻る――海水面の高さに戻るとやがて赤血球の数はもとに戻って、トレーニングの効果が持続することはない。

―――酸素…Oは様々なものを酸化させる。

燃焼や爆発はそれが急激に起こる場合で、呼吸はそれがとてもゆっくり進む。

大気には豊富に酸素があるのに、私達は燃えない――紙も置いておくだけでは燃えない。

きっかけがなければ、多くの場合で酸素は反応しにくいのである。

酸素分子…O2は、基底状態では不対電子を2つ持っている――不対電子を持つ分子をラジカルといい、2つあるとビラジカルで酸素原子もそう。

電子の様な粒子は同じ量子状態をとることはできないので、同じエネルギー準位には2つの電子しか入れない――スピンと言う自由度があるためで、それぞれ反対向きになる。

回転している電荷は磁場を形成するので、対をなしていると互いに打ち消しあって全体としては磁性が消える――逆平行という。

だけどエネルギー状態の等しい軌道が複数ある場合、まずそれぞれに1つずつ電子が入る――軌道は電子がとる状態のことで、人工衛星みたいに原子核の周りをグルグル回っている訳ではない。

電子同士の静電反発があるので、その方が安定する。

そして逆平行のスピンよりも、平行スピンの方が互いに離れようとするので安定する。

なのでエネルギーの等しい軌道2つにひとつずつ電子が入る場合、互いに同じ向きのスピンで入った方がわずかにエネルギーが低くて安定する――電子と核の引き合いを最大にし、電子同士の反発を最小にするような電子配置の経験則をフントの規則という。

O2は最後の2つの電子が平行スピンなので、常に磁性を示す――常磁性と呼び、ラジカルはすべて常磁性。

この様な配置だと、分子全体のスピン量指数が1となって三重項状態という――電子はスピンが1/2。

原子軌道よりもエネルギーが下がる…安定する分子軌道を結合性軌道と呼び、エネルギーが高まる分子軌道を反結合性軌道という――酸素分子は結合電子6個から反結合電子2個を引いて、4を2で割って結合は2つになる。

熱や光によってO2にエネルギーが与えられると、平行だったスピンが逆転して電子対をつくる――全体のスピンが0の状態で一重項状態と呼び、多くの分子はこの状態が基底状態になる。

電子対をつくった軌道はエネルギーが高く、空になった軌道はエネルギーが低い。

このため一重項酸素は反応性が高い。

O2は基底状態では三重項状態なので、私たちは燃えない――O2はラジカルだけど、反応性は低い。

基底状態のO2は反応性が低いけど、電子を1つずつ供給すれば反応できる。

鉄は不対電子を持ち、異なる酸化状態で安定する。

電子をひとつずつ酸素に渡すことができるので、酸素と反応しやすい――銅など別の金属も、同じような性質を持っている。

鉄がさびやすいのはそのため。

私たちは酸素を呼吸するけど、この呼吸鎖でも電子を1つずつ渡す必要がある――シトクロムc オキシダーゼがそれを行う―――

               ポタ

酸素は電子を引き付ける力が強いので、様々なものを酸化させ得る――生体分子にとっては、脅威になる。

酸素発生型光合成生物が現れるまで、地球の大気には痕跡量…おそらく0.001%程度の遊離酸素しか含まれていなかったと思われる――存在量が極少量である場合を痕跡…traceといい、その量は分析技術によっても変わるので厳密に定義できず、この言葉は定性的に使われる。

真性嫌気性と呼ばれるタイプの細菌は、痕跡量の酸素でも死んでしまう――なので、大きな細胞の中に隠れたりする。

自由生活性の嫌気性細菌は、ある程度酸素に対する防御能力を備えている。

地質学者や生物学者が好気的と呼ぶ場合、酸素濃度は現在の大気圧で18%を超えている――通常大気の半分以下のレベルで呼吸速度が制限される場合、低酸素と呼ぶ。

それ以下は好気的とは呼ばず、1%以下なら嫌気的だと考える――ある種の微生物が好気代謝から発酵に切り替える濃度で、パスツール点と呼ばれる。

オゾン層のない太古の地球では、表面に届く紫外線は現在の30倍以上だったと推定される――紫外線が水を直接分解するので、浅い海には痕跡量の酸素はあっただろう。

痕跡量の酸素でも利用できる微生物もいる。

プロテオバクテリアの何種かは、マメ科の植物がつくる根粒に共生する――根粒に共生する微生物をまとめて根粒菌という。

居心地のいい住処を提供してもらう代わりに、植物のために大気中の窒素を固定してアンモニアにする――根粒菌によるものが生物による窒素固定で、最も割合が多い。

このための酵素はニトロゲナーゼで、この酵素は酸素に弱く土壌ではあまり窒素固定できない。

根粒菌は厚い粘液で覆って、酸素の浸透を制限する――酸素がそれでも浸透した場合、エネルギー利用に寄与しない酵素で、酸素を消費する。

マメ科の植物も、レグヘモグロビンという酸素親和性の高いタンパク質をつくる――私たちの血液で酸素を運ぶヘモグロビンによく似た分子。

これらの適応で、根粒内の酸素濃度は痕跡量に維持されている。

だけど根粒菌は好気的で、これらの細菌はFixNオキシダーゼという酸素親和性の極端に高い酵素を持っている――ミトコンドリアの複合体IV…シトクロムc オキシダーゼに似ており、おそらく同じ祖先から進化したもの。

レグヘモグロビンは酸素親和性が高く、根粒内の酸素濃度を下げる。

痕跡量以下の濃度であれば、レグヘモグロビンは酸素を手放してFixNオキシダーゼに渡す――それを利用して、ATPを生産する。

レグヘモグロビンとFixNは、連結して酸素濃度を制御している。

私たちは酸素がないと生きていけないけど、体内の個々の細胞は酸素に適応している訳ではない。

多細胞になることで、内側の細胞は酸素から守られる。

循環系によって内側の細胞にも酸素が送られるのだけど、これは根粒内のように酸素量を制御する手段でもある。

通常大気では酸素圧は0.21気圧で、肺の毛細血管でヘモグロビンは95%酸素飽和の状態になる――酸素は水に溶けにくいので、ヘモグロビンが酸素を運ぶ。

この酸素による圧力は0.13気圧ほどで、血液が徐々に酸素を手放すので分圧は下がる――心臓を離れるときは0.11気圧程度になり、大動脈では0.09気圧以下に下がる。

ヘモグロビンを離れた酸素は、血管から細胞内へ濃度の低い方へ拡散していく――呼吸で酸素が消費されるので、この濃度勾配は維持される。

各器官の毛細血管では0.07気圧以下で、ヘモグロビンの酸素飽和度は60~70%になっている。

細胞内では0.01気圧以下で、ミトコンドリアが活発に消費するのでミトコンドリア内では0.0006気圧以下になる――痕跡量よりもわずかに多い程度。

持久力の高い遅筋は赤い――瞬発力の高い速筋は白い。

この色は、ミオグロビンというタンパク質による。

ヘモグロビンのサブユニットに似た構造の分子で、ヘモグロビンよりも酸素親和性が高い。

このため血液中から酸素を集めて、筋肉中に蓄えておくことができる――運動で酸素濃度が下がれば、ミオグロビンは酸素を放出する。

クジラのような潜水する哺乳類は、大量のミオグロビンを持っている――それで、長い場合1時間も水の中で呼吸を続けられる。

根粒でレグヘモグロビンとFixNが行っているのと同じように、ヘモグロビンとミオグロビンが酸素濃度を制御することで、筋肉中の遊離酸素濃度は低く保たれる――個々の細胞内でも、ヘモグロビン様タンパク質が同様の働きをしている。

組織によって酸素の需要は異なる。

だけど酸素の最大需要にも対応する必要があるため、赤血球やヘモグロビンの濃度を変えることができない――体をよく動かす動物なら、赤血球やヘモグロビンの数が増える。

だけど毛細血管の密度は変えることができ、酸素の需要が少ない場所であれば毛細血管の密度を減らして、酸素分圧を抑えてその毒性から守れる。

骨格筋の様に安静時と運動時で需要が大きく変動する組織の場合、血流を迂回させて供給を変動させる――その分の血流は肝臓などほかの臓器に向かうけど、激しい運動をすると骨格筋への供給を増やすために血液循環を一時的に停止させる臓器も出てくる。

このため、安静時代謝率に骨格筋はほとんど寄与しない。

酸素濃度が高くなると逃げる細菌もいる。

こうした細菌は、ヘモグロビンの様にヘムを含むタンパク質を酸素濃度のセンサーに使う――そして鞭毛で移動する。

生物は、真核生物と古細菌と細菌の3つのドメインに分けられる。

3つのドメインすべてでヘムタンパクのセンサーが見られるので、おそらく最後の共通祖先…LUCAも持っていたと思われる。

大腸には様々な細菌が住んでいて、ほぼ無酸素状態になっている。

このため、バクテロイデスの様な嫌気性細菌も暮らせる。

自由生活細菌には、硫酸還元菌の様に酸素濃度を緩和させるものもいる。

硫酸還元菌は硫酸を硫化水素に還元し、酸素はこれを硫酸に再生する。

これを繰り返すことで、溶存の遊離酸素を使い果たして無酸素状態をつくる――現在の海でも、部分的に無酸素状態を作り出す。

好気性の微生物は、粘膜で細胞を守る。

粘膜は負の電荷を持っていて、鉄やマンガンと結合する。

これらの金属はフェントン反応で、危険なヒドロキシラジカルをつくる――フェントン反応は後で考える。

金属の膜を持つ微生物は、細胞の外でフェントン反応を起こさせることで身を守っている――自分の細胞内で起こさせないためで、さらにファージや免疫細胞の様な外敵にもダメージを与える。

だけどやがて、集めすぎた金属で自分が死んでしまうだろう――縞状鉄鉱床には顕微鏡でないと見えないくぼみがあって、こうした細胞の残骸だと思われる。

私たちの体も、死んだ細胞である皮膚で守られている――ミトコンドリアも、細胞内で活発に呼吸することで酸素濃度を下げる。

そして私たちを含む多くの生物は、高い抗酸化力を備えることで酸素の毒性に対抗している。

―――酸素の発見は、ジョセフ・プリーストリーとカール・シェーレ、アントワーヌ・ラボワジェによるとされる。

シェーレの発見が速かったけど、発表しなかった――246年前。

プリーストリーはロウソクが燃え尽きた空気にハッカの小枝を置いて、10日後にその空気の中でロウソクが勢いよく燃えた事で酸素を発見する――243年前。

シェーレとプリーストリーは、燃焼は酸素の取り込みではなくフロギストンという物質が放出されるという考えで酸素をとらえていた――このため酸素は、フロギストンがない純粋な「脱フロギストン」空気だと考えた。

ラボワジェはフロギストンの考えは信じておらず、皇帝のダイアモンドが酸素のない環境では加熱しても損なわれないけど、酸素があると消えることを公開実験で示した――ダイヤモンドは炭素なので、酸素と反応して二酸化炭素になる。

さらに精度の高い秤を使って、呼吸と燃焼が基本的に同じものだと示した――炭素と水素と酸素の反応で、水と二酸化炭素ができる。

酸素という名前は、ラボワジェが与えた。

ラボワジェは呼吸の燃料は食物によって補給されるという所まで理解していたけど、それ以上は考えることはできなかった。

彼は呼吸と発汗によって出る気体を調べていた時、革命政府の兵士に捕まる――革命指導者のジャン・ポール・マラーを敵にしていた。

税の横領と兵士のタバコに水をかけたという罪で、223年前にラボワジェは断頭された。

後にその功績は理解され、およそ100年後にラボワジェの像が建てられるけど、参考にした顔が間違っていた――カツラの男はみんな同じに見えると割り切って、第二次大戦中に鋳つぶされるまでそのままにされた。

通常は酸素の発見はこの3人だとされる。

ただ、錬金術師たちはそれより前に発見していた。

少なくとも413年前までにはミカエル・センディウォギウスが酸素を発見しており、その重要性も理解していた。

彼は錬金術師で発明家のコーネリウス・ドゥレベルに説明した。

ドゥレベルは世界初の潜水艇をつくり、12人の漕ぎ手をのせて3時間ほど水面下を航行したという――おそらく、酸素の瓶をのせて。

そののち、化学者のロバート・ボイルとジョン・メイヨーは空気の中により活性の高い部分が燃焼のもとになると考えた――1世紀後のプリーストリーらよりも、ずっと酸素の理解に近づいていた―――

               チャプ

放射線を大量に浴びると、放射線症で死んでしまう。

そうでなくても、がんのリスクが高まることが分かっている。

私たちの体は、半分以上が水。

放射線はすべての分子と反応できるけど、水と反応する確率が一番高くなる――放射線で原子核を破壊された際に出る2次放射線も。

そしてγ線やX線は有機炭素よりも、水の結合に反応しやすい。

成人女性は男性よりも皮下脂肪が多く、水分含有量が平均55%ほどで少ない――成人男性は60%くらい。

なので女性の方がX線に対して強い――脂肪の多い人は特に。

子供は平均75%が水分なので、X線照射には弱い。

酸素の毒性は、放射線が水を分解した際の毒性と基本的に同じである。

水が放射線で分解されると酸素が発生する。

その反応過程で、ヒドロキシラジカル…HO、過酸化水素…H2O2、スーパーオキシドラジカル…O2・-という中間体を経る――別の中間体もある。

酸素中毒では、酸素から上の逆の順で反応して水ができる――酸素呼吸でも、中間体はつくられる。

3つの中間体はフリーラジカルと呼ばれ、これらが酸素中毒や放射線によるダメージの原因となる――生体損傷の大半は、これらの分子による。

放射線が水を分解するのは、ベクレルが最初に発見した――マリー・キュリーがラジウムの単離に成功すると、それを利用して実験を行い、貫通力によって放射線の種類を分けた。

放射線が電子を弾き飛ばして、電離させる――電子…e-とプロトン…H+を失い、水はヒドロキシラジカルになる。

ヒドロキシラジカルは、知られている分子の中でも最も高い反応性を持つ分子のひとつである。

反応速度が拡散速度にほぼ等しく、最初に出会った分子から電子を奪う――すると水になって、安定する。

電子を奪われた分子はラジカルになり、別の分子を攻撃するという連鎖反応が始まる――何を攻撃するかはランダムで、生成物の予測は難しい。

こうした連鎖反応でDNAが損傷すれば、突然変異の原因となる――放射線を浴びるとがんのリスクが高まるのは、このため。

抗酸化物質と呼ばれる分子は、この連鎖反応を止める――ヒドロキシラジカル自体の反応は速すぎて、止めることはできない。

ビタミンCやEの様な抗酸化物質は、電子を供給することで連鎖反応を止める――それによって自身がラジカルになるのだけど、反応性が低い。

ラジカル同士が反応して、不対電子同士が対をつくっても反応は止まる。

放射線がもう1つ電子を飛ばすと、過酸化水素ができる――過酸化水素は漂白作用や殺菌作用があるので、様々に利用されている。

過酸化水素は水と酸素の中間の位置にあるので、どちらにもなれる――過酸化水素同士が反応すると、水2つと酸素1つができる。

だけど溶存鉄があると、電子を1つだけ受け取ることができるのでヒドロキシラジカルになる――フェントン反応という。

過酸化水素自体は反応速度が遅いので、あまり危険はない。

溶存鉄がある場合、過酸化水素は毒性を示す――なので、生物は鉄をタンパク質などに閉じ込めておく。

そうでなければ反応性が低いため、過酸化水素はDNAのある核内にまで拡散する時間がある。

そこで鉄と出会うと、ヒドロキシラジカルが核内で連鎖反応を始めてしまう――健康な状態では、そのようなことは起こりにくい。

さらに電子を失うとスーパーオキシドラジカルになるけど、この分子も反応性は高くない――一酸化窒素などのラジカルとは反応しやすく、それが損傷の原因になる。

スーパーオキシドは中間体の中では酸素に近く、電子を1つ失うだけで酸素になる。

水になるには電子3つを獲得する必要があり、このため酸素になる可能性の方が高い。

電子を1つだけ受け取れる物質は少なく、鉄はそのひとつ。

フェントン反応で鉄は錆びるけど、スーパーオキシドはその錆に電子を渡して溶存鉄にしてしまう――生体が貯蔵している鉄を、溶かしだす。

鉄があると過酸化水素を危険なヒドロキシラジカルにしてしまうけど、スーパーオキシドは鉄を溶存態に戻す。

過酸化水素とスーパーオキシドは鉄などを介してヒドロキシラジカルを生成し、それが生体を損傷させる。

酸素の毒性もこの中間体の反応によるもので、半世紀前に理解された――反応が逆なので、まずスーパーオキシドが生成される。

―――150年前、ヨーロッパ中部の王国に5人兄弟の末っ子としてマリア・サロメー・スクウォドフスカは生まれた。

彼女の祖国は東の帝国の支配下にあり、多くの自由を抑圧されていた。

科学者の父は職を失い、貧しい家庭で育った。

幼い時に母と姉を亡くす。

マリアは幼いころから聡明だったようで、18歳の時に姉のブローニャと約束をする。

ブローニャが西ヨーロッパの共和国で医学を学ぶ間、マリアは働いて姉を助ける――ブローニャはセーヌ川の両岸に発達した大都市で学んだ。

そして、ブローニャがその後でマリアを助ける。

マリアは移動大学で学んだ――帝国の官憲に摘発されるのを避けるため、毎週違う場所で学ぶ。

帝国の弾圧に対して、彼女の祖国の人はこうした教育で抵抗していた。

約束通り家庭教師をして姉を助け、失恋に苦しみながら、祖国に溢れていた学問の情熱の中で勉強を続けた。

ブローニャは医学部を卒業し、同級生と結婚する。

そして24歳のとき、姉を追って共和国の首都に女学生として到着した。

マリアは共和国風にマリーと名前を変える。

2年後に物理学の修士号を、その1年後には数学の修士号を得た。

もう少し広い実験スペースを探していたマリーは、ピエール・キュリーを紹介される。

ピエールは知性に恵まれた内気な男性で、2人はすぐに恋に落ちた。

祖国に戻ったマリーに、ピエールは手紙を送り続ける。

そしてマリーが28歳のとき、2人は結婚した――ハネムーンは、自転車で共和国を旅行したらしい。

新たにマリー・キュリーという名前になり、彼女は博士号の取得を目指した――女性は現在以上に様々な機会から差別されていて、女性が博士を目指すのは困難な時代だった。

キュリー夫妻は、アンリ・ベクレルと親友になる。

このころ、ベクレルは硫酸ウランの結晶が写真乾板に像を焼き付けることを発見したばかりだった――ベクレルは科学者の父から、蛍光を発する鉱物のコレクションを受け継いでいた。

最初は、日光に由来する蛍光だろうと考えていた。

その時は2月で、冬の雲が空を覆っていたので実験には適していなかった。

ベクレルは実験装置を引き出しに入れて、天気の回復を待った。

数日晴れることはなく、とりあえず現像してみた。

薄っすらとした像しか出ないと思っていたら、はっきりとした像が出た。

ベクレルは、日光の様な外部のエネルギー源が無くても結晶が光線を出すのだと悟る。

すぐにウランが発生源で、そのためウランを含む物質はすべて類似の光線を発すると気づく。

そしてウランの周囲の大気が伝導性を帯びることも発見し、マリーはこの現象を博士号取得の研究にすることに決めた――のちに、マリーによって放射線と名付けられる。

マリーは、瀝青ウラン鉱…ピッチブレンドを使って研究を始める。

キュリー夫妻は、放射能を測定するのに周囲に形成される電場強度を測ればいいことを理解していた――放射線によって物質が電離するので。

瀝青ウラン鉱は、ウランよりも3倍放射能が高かった。

このため、この鉱石にはウランよりも放射能の高い未知の物質があるはずだと結論した。

その後、その元素の単離に成功する。

ウランの400倍の放射能を持つ新元素に、夫妻はマリーの祖国にちなんでポロニウムと名前を与えた。

マリーはさらに新しい元素を発見し、ラジウムと名付ける――ウランの100万倍の放射能を持っていた。

ピエールはラジウムの破片を皮膚の上に置き、火傷を負う。

夫妻は、この元素が抗がん剤として使えると気づいた――現在でもラジウム針は、がん治療のために腫瘍内部に挿入される。

夫妻は人道的な理由から、ラジウムに関する特許は申請しなかった。

金銭的な苦労もしながら、劣悪な実験環境で仕事を続けた――数mgのラジウムを得るために数トンの瀝青ウラン鉱が必要で、現在でもその生産量は少ない。

今から114年前、キュリー夫妻とベクレルはこれらの功績に対してノーベル物理学賞を受賞する。

マリーは女性で初めての受賞で、その賞金は貧しかった家族を救った――科学で博士号を取得した、ヨーロッパ初の女性にもなった。

その3年後、放射能で弱っていたピエールは荷馬車の車輪に轢かれて亡くなる――マリーは精神不安定に陥り、ピエールへ日記を書き始める。

2年後、失意の中ピエールの研究を続けることを決める――そして650年の歴史を持つ大学で、初の女性教授に任ぜられる。

それから3年後、ラジウムの単離に対して2度目のノーベル賞を受賞する。

さらに3年後、人類を苦痛から解放するという人道目標を掲げてラジウム研究所が設立される――現在はキュリー研究所と改名されている。

第一次大戦中、マリーはX線装置を利用して弾やその破片を見つける方法を看護婦たちに伝授し続けた。

戦後は最初の娘イレーヌと共に、ラジウムのがん治療法を開発する。

イレーヌも夫フレデリック・ジョリオと共にノーベル賞を受賞することになるけど、その前年、マリーは白血病で亡くなる――67歳だった。

彼女は死の前、白内障でほとんど視力を失っていた――その指にはラジウムのための火傷で、赤い斑点が焼き付いていた。

マリーが無くなる前にも、ラジウム研究所の研究者が数人亡くなっていた。

医者たちは放射能が原因だと考えたけど、マリーはそれを認めなかった――その後、イレーヌも白血病で亡くなる。

高線量の放射線はがん細胞を殺すけど、正常な細胞も死ぬ。

X線を扱う研究者の多くが髪を失い、ひどい火傷を負うこともあった。

初期の放射線研究者の4割ががんで死んでいて、その頃にはがんの危険が増加することが分かっていた――ウラン鉱山で働く鉱夫の半数が肺がんになっていた。

第一次大戦中、塹壕内で戦う兵士のためにラジウムを塗った時計が考案された――暗闇でも光る。

戦後、それが流行った。

時計にラジウムを塗る女性従業員は、筆の先をとがらせるために口で湿らせるように教えられていた――ラジウムは万能薬とされ、様々な詐欺商法に利用された。

女性従業員はラジウムをほほに塗ったり、爪や唇、歯にまで塗ることもあった――暗闇でも輝き、にっこりすれば素敵だと言われていたので。

1年も経たないうちに、彼女たちの歯は抜け、顎は崩れた。

何人も死に、医師たちがその体から大量の放射性物質を見るける。

メーカーは金銭上の補償には応じたものの、ラジウムとの関連性については認めなかった。

第二次大戦中、医学界によってラドンの被曝上限が設けられる。

ただ、利権のために放射線の遅延効果は隠された。

このため、最初の原爆をつくった人たちもほとんどは、その放射性降下物による影響は予測していなかった。

広島と長崎で最初の爆風を生き延びた人たちも、その後の黒い雨によって苦しみながら亡くなった――火災によるすさまじい上昇気流で、雨をともなう強風が起こる。

数年でがんになる人もいたけど、発病まで時間のかかる肺がんや乳がん、甲状腺がんなどは15年ほど経てから増加しだした―――

              ポポポタ

ビタミンCが欠乏すると、壊血病になる。

今ではあまり見られない病気だけど、かつては長期航海や軍事行動で新鮮な食物が欠乏すると命を奪っていた。

罹患すると衰弱し、手足は腫れて変色し、歯茎から血が出て腐臭を放つ。

脱力感や貧血、ぶつけてもないのに内出血したり、心機能不全になってやがて死ぬ。

柑橘類などを食べることで予防できることが分かっていたけど、長いあいだ欠乏症だと考えられていなかった――ルイ・パスツールによって、微生物が病気の原因となっている事が示されたためで、壊血病にも原因菌がいると思われていた。

ビタミンCが発見されてからいくつか名前の候補があったけど、84年前にアスコルビン酸と名付けられた――「壊血病に抗する…アンチスコールビューティック」に由来する。

名前が付けられた年に、タデウス・ライヒシュタインとウォルター・ハワースによってそれぞれ合成された――ビタミンとして化学式を最初に特定され、化学的な方法で合成された最初のビタミンとなった。

ビタミンCは壊血病の予防成分として発見されたため、摂取推奨量…RDAはそれに基づいて求められた。

合衆国の刑務所で行われた研究から、壊血病の予防に必要な量は1日10mgほどだと分かった。

1日の摂取量が60mgを超えると、尿にビタミンCが排出され始める――この量で、ビタミンCの分解物も尿に排泄される。

壊血病の予防と尿への排泄、分解速度の3つを理由として、1日あたり60mgが推奨されてきた――私の祖国では成人のRDAは100mgで、合衆国では17年前に60から90mgに引き上げられた。

人を含む一部の霊長類とテンジクネズミ、フルーツコウモリ以外の動植物は、ほぼすべてビタミンCを自分で合成する。

私たちは、グロノラクトンオキシターゼと呼ばれる酵素をコードする遺伝子を失っており、これがビタミンC合成の最終段階を触媒する。

果物などから十分な量を摂取できたので、合成できなくなる進化が抑制されなかったのだと思われる。

グロノラクトンオキシターゼは、ビタミンC合成の副産物として過酸化水素を生成する――ラットなどは合成速度が速いので、酸化ストレスも大きくなる。

なので十分な量を摂取できるのであれば、合成するより消費するだけの方がいいのかもしれない。

ゴリラの平均的な食事には、ビタミンCが5g…5000mg近く含まれている――私たちの祖先は、旧石器時代には400mg程度摂取していたと考えられている。

ライナス・ポーリングは、量子力学を使ってX線回折や磁気、熱を測定して分子の3次元構造を探り続けた。

そして電子が広がることで、電子密度を薄める共鳴構造を提唱した――結合電子対が特定の原子間ではなくいろいろな原子間を移動することで、分子全体のエネルギーが下がって安定する場合がある。

こうした研究全体に対して、ポーリングはノーベル化学賞を受賞する――特定の発見によらない授与で、先例のない措置だった。

第二次大戦後、原爆の降下物の危険性、特にがんや先天性欠損症についてはばかることなく意見を表明した。

ポーリングは核実験を禁止するための請願書を起草し、11000人もの科学者の著名を合衆国の連邦政府に提出した。

54年前、部分的核実験禁止条約が発効された日にノーベル平和賞を受賞する。

ポーリングは優れた研究者だったけど、間違いも多かった――DNAの構造を解明した一人であるジェームズ・ワトソンは、ポーリングのアプローチは厳密さよりも直感によると述べている。

彼はビタミンCを万能薬だと考え毎日10~40g摂取し、それを唱導した――1gは1000mg。

ビタミンCなどを正常生体物質と呼び、晩年のポーリングはその研究を続けた。

さらにユーアン・キャメロンと共に、静脈注射で高濃度のビタミンCを投与するとがん患者の生存率を高めると報告した――進行がんの生存期間を4倍に伸ばし、いくつかの例では寛解したという。

合衆国の国立衛生研究所…NIHはポーリングの報告の検討を行い、26年前に関連性はないと結論した――ポーリングに手紙を送った。

ただNIHはビタミンCを経口摂取させており、これでは体があまり吸収しないので血液中の濃度はあまり高くならない。

注射で直接投与する場合、がんに対しては効果がある可能性はある。

この時NIHに召集されたマーク・レヴィンは、その後ビタミンCのRDAについて詳細に調べた。

尿にビタミンCが排泄されたのが、体内のビタミンCプールが飽和したからなのかは分かっていなかった――関連していない物質があることは、知られていた。

分解速度も、高濃度だと速くなる。

このため低濃度での推定は、判断を誤らせる可能性を指摘した――初期の測定精度についても。

彼は詳細な研究の結果、成人のRDAは1日200mgとした――100mgでは、少ないという事になる。

400mg以上はそれほど有用性はなく、1gを超すと危険があるかもしれない――下痢を起こし、腎結石を成長させる。

果物と野菜を400g摂れば、200~400mgのビタミンCを摂れる。

もし食事でその量を摂っているのであれば、それ以上はサプリメントなどで摂取しない方がいい。

ビタミンCには、様々な生理作用がある。

コラーゲンはすべての多細胞生物に存在し、細胞外にあって不溶性で張力に対して強い繊維で、骨、歯、軟骨、腱、靭帯、皮膚、血管の繊維など、すべての結合組織をひずみに強くしている――脊椎動物では最も多いタンパク質で、全タンパク重量の30%ほどを占める。

哺乳類では少なくとも46種の遺伝的に異なるコラーゲンペプチド鎖があって、28種のコラーゲンをつくる。

放射性同位体によるラベル実験で、コラーゲンは合成されたのちに水酸化…ヒドロキシ化されることが分かっている――水酸基-OH基が付加される。

このための遊離酸素と酵素プロリル4-ヒドロキシラーゼが必要で、この酵素活性にビタミンCが必要になる――これが働けない条件で合成されたコラーゲンは24℃で変性してゼラチンになるけど、天然のコラーゲンは39℃で変性する。

-OH基によってコラーゲン鎖が架橋できるようになり、まず3本鎖がつくられ、それがさらに結合する――この架橋が、大きな引っ張り強さを与える。

ビタミンCが不足した状態では結合組織がもろくなり、皮膚や血管が脆弱になり、傷が治りにくくなって最後には死んでしまう――水酸化されていないコラーゲンは輸送もされず、高い反応性のまま細胞内に留まる。

ビタミンCは、鉄や銅の様に電子をひとつだけ渡すことができる。

コラーゲンに-OH基を付加する際、酸素分子から酸素原子が供給される。

このために分子を構成する酸素原子2つに、それぞれ電子を1つ与える必要がある。

ビタミンCは電子を1つだけ渡すことができる。

生体反応では、ビタミンCはそれしかしない――低い酸化還元電位で、弱い酸化剤ではなく強い酸化剤に電子を渡すので、細胞の機能は阻害しない。

生理条件では、ビタミンCはほぼ鉄か銅に電子を渡す。

コラーゲン合成では酵素内の鉄にビタミンCが電子を渡し、この鉄が酸素に電子を渡す――すると鉄は錆び、ビタミンCからまた電子を受け取るまで不活性の状態になる。

                 ―――

カルニチンというアミノ酸合成にも、ビタミンCが必要になる。

脂肪が脂肪酸に分解されると、ミトコンドリアに運ばれて酸化される。

脂肪酸は、カルニチンに付着しないとミトコンドリアの中に入れない。

そして輸送を終えたカルニチンは、ミトコンドリア内から分解され残った有機酸を細胞質へ連れて行く――こうして掃除されないと、ミトコンドリアは有機酸で汚染される。

ビタミンCがないとカルニチンの合成が出来ず、脂肪を燃やせない。

おそらく、壊血病の疲労感の原因だと思われる――また慢性的な疲労の人は、軽度のビタミンC欠乏の可能性もある。

ノルアドレナリンの合成にもビタミンCが必要で、脳下垂体などに見られるPAMという酵素の調整もビタミンCが必要になる。

PAMがないと活性化されないホルモンは多い――ステロイド・ホルモンの生産を促進するコルチコトロピン放出ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、リン酸カルシウムの吸収分配を促すカルシトニン、胃酸分泌を促進するガストリン、水分バランスの調節などのバソプレシン、血管拡張のP物質、胆汁と膵液分泌を促すセクレチン、ストレス緩和などのオキシトシンなど。

少なくとも8つの酵素が、ビタミンCを必要とする――すべてコアに鉄か銅を含んでいて、ビタミンCから受け取った電子を酸素に渡す。

腸管では、酸化された鉄に電子を渡して溶存鉄に変えることで吸収を促進する――ビタミンC不足による疲労の原因のひとつかもしれない。

ビタミンCは水によく溶けるので、脂質でできた膜に囲まれた狭い部屋に濃縮することができる。

ドーパミンからノルアドレナリンの合成は、副腎皮質の細胞内の小胞で行われる。

小胞は微小な空間で、ここのビタミンC濃度は血漿中濃度の100倍にもなる。

ドーパミン・モノ-オキシゲナーゼによってビタミンCが消費されると、鉄を含むチトクロームb651というタンパク質が小胞膜を通過して電子をビタミンCに渡して再生させる。

この様に、生理的な役割に使われるビタミンCは食事によって変化する血漿中の濃度から隔離されることで、数週間ものあいだ最適な濃度に保つことができる。

ビタミンCが電子を渡すと、アスコルビルラジカルというラジカルになる。

この分子は電子が共鳴構造で安定しており、反応性が低い。

このため、ヒドロキシラジカルによる連鎖反応を止めることができる。

ゆっくりとした反応だけど、アスコルビルラジカルはもうひとつ電子を失ってデヒドロアスコルビン酸になる――この分子は反応性が高い。

デヒドロアスコルビン酸が加水分解されると、ビタミン活性のないジケトグロン酸になる――そして排泄される。

分解される前のデヒドロアスコルビン酸は酵素によって再生することも可能で、この酵素に電子を2つ渡すのはグルタチオンという小さなペプチド――1対の電子を渡すので、ビタミンCの再生には中間体のラジカルがない。

ビタミンE…α-トコフェロールは脂溶性で、膜の中でビタミンCの様に働く。

これが酸化されるとα-トコフェリルラジカルという反応性の低い分子になる――これも共鳴で安定化されている。

膜との境界面でビタミンCはトコフェリルラジカルに電子を渡してビタミンEを再生する。

体が細菌に感染した場合、まず好中球という白血球が撃退に向かう。

好中球は細菌を攻撃するために強力な酸化剤を放出する。

ビタミンCは、好中球が自身の酸化剤で死ぬのを遅らせるために、好中球に大量に取り込まれる。

これは細菌感染があった時だけで、血漿中の100倍近い濃度にまで集める事もある。

ただ、酸化されたビタミンCであるデヒドロアスコルビン酸だけを吸収する――このため吸収されただけでは、役に立たない。

好中球内では、グルタレドキシンという酵素がグルタチオンから電子を奪ってビタミンCを再生する。

そしてグルタチオンはその還元酵素によって再生される。

グルタチオンの再生には、正常な状態なら呼吸に使うはずだった電子をを使う――つまり呼吸を止める。

好中球は侵入した細菌を殺すために、自身は呼吸を止めて仕事を遂行する――その間だけは生き延びられると期待して。

好中球は細菌を飲み込んで、小胞に隔離する――そして酸化物質を小胞内と周囲に放出する。

自分自身の毒から身を守るためには、小胞や外側の膜がちゃんと隔離する能力を保たないといけない。

膜を守るのはビタミンEで、Cの濃度が高ければその再生速度が速い――それで、好中球はビタミンCを大量に取り込む。

こうした抗酸化作用のためにビタミンCは抗酸化物質と呼ばれる。

ただ生理作用では、酵素内の鉄や銅に電子を渡す。

それによって酸化を促している――このような物質をプロオキシダントという。

―――細胞内で呼吸を行うミトコンドリアの膜は、60%がタンパク質で構成され、脂質の組成によってフリーラジカルの漏出やエネルギー生産能力に差が出る。

カルジオリピンは脂肪酸を4つ含む分子で、ミトコンドリアの膜の潤滑剤となる。

不飽和脂肪酸が多いと流動性が高くなるけど、酸化に弱くなる。

寿命の長い動物の膜は、不飽和度の低い脂肪酸が多くある。

年齢を重ねると、不飽和度の高い脂肪酸の割合が増える。

そのため酸化に弱くなり、ミトコンドリアの膜からカルジオリピンが失われる――半分くらいに。

この組成は食事によってはあまり変せず、遺伝子の活性によって変化する。

カルニチンは燃料となる脂肪酸を輸送するけど、膜の脂質の組成も変え、カルジオリピンの量を若いころまで回復させる。

老ネズミにカルニチンを投与すると、活力が戻って活発になる。

ただカルニチンはプロオキシダントとしての効果もあり、アルツハイマー病には効果は期待できない。

カルニチンのプロオキシダント効果は、リポ酸によって抑制できると思われる。

老ラットにリポ酸とカルニチンを同時に投与すると、記憶や知能のテストがよくなった―――

              ・・・

生体は、血漿中のビタミンC濃度をコントロールしている。

大量摂取は下痢を起こし、吸収しても尿で外に出す――1g食べたら、半分は吸収されない。

1日400mg摂ると、体のビタミンCプールは満杯になる。

すぐ尿で出るにしても、一時的には濃度が高まる。

大量摂取は、細胞の酸化ストレスへの応答を阻害することで害がある可能性がある。

体内の鉄は、かなり大事にされる。

なので鉄の吸収率は厳密に調整されている。

西ヨーロッパの人は0.5%という高率で、ヘモクロマトーシスという遺伝病に罹る。

腸での鉄吸収の調節が上手くできない病気で、40代くらいで鉄が体の蓄積量を超えてしまう。

血液に溶存鉄が現れ、腎不全や関節炎、心不全に糖尿病、皮膚への色素沈着など様々な症状に苦しむことになる。

ビタミンCの大量摂取は、鉄の吸収を増加させる可能性がある。

通常、生体内で鉄や銅はタンパク質の中にある。

この状態なら狭い範囲でしか働くことができないので、周りに害を及ぼすことはない。

だけど溶存した状態の鉄は、過酸化水素に電子を渡してヒドロキシラジカルにする――フェントン反応。

スーパーオキシドの危険性は、活性を失った鉄を再生することにある。

ビタミンCも、原理的にはスーパーオキシドと同じ事が可能だろう。

ポーリングとキャメロンは、がん患者に静脈注射でビタミンCを投与した。

腎臓でビタミンCが除去されるまでの短時間の間、通常の50倍の濃度に達しうる。

放射線療法や化学療法で、血漿中の鉄が一時的に増える――ある程度は、がん細胞に由来すると思われる。

がん細胞は正常細胞の様なコントロールは失われおり、腫瘍には通常よりも高濃度の溶存鉄が存在すると思われる。

高濃度のビタミンCは、腫瘍でフェントン反応を促してこれを攻撃する可能性がある。

試験管内で成長させたがん細胞は、ビタミンCで殺せる――酸素と鉄が必要であることもわかっている。

好中球が活性化されると、細胞内のビタミンC濃度が高まる。

過剰な鉄があると危険なので、フェリチンやカエルロプラスミンなどの過剰分を閉じ込めるタンパク質が生産される――350ほどの遺伝子が活性化され、2時間以内に発現する。

細菌の方にも、こうした仕組みは備わっている。

ただ、デヒドロアスコルビン酸を認識してくみ上げる仕組みがない。

赤血球を破壊するマラリア原虫は、ヘモグロビンから鉄をたくさん集める時期がある――なので、ビタミンCで殺すことができる。

                     ゴク

生物はビタミンC以外にも、フリーラジカルから体を守る方法を進化させている。

好気性生物と一部の嫌気性細菌は、カタラーゼという過酸化水素を除去する酵素を持っている。

この酵素と鉄がない場合、過酸化水素を水と酸素にするには数週間かかる――溶存鉄があれば、フェントン反応を通じて水になる。

鉄がヘムの様な色素分子に捕まった状態だと、分解速度は1000倍になる。

そのヘム色素がカタラーゼの様にタンパク質に組み込まれていると、反応速度は100000000倍になる。

カタラーゼにはいくつか種類があって、動物細胞はほぼコアにヘムが4つあるものを持ってる。

微生物には、ヘムの代わりにマンガンが含まれるものもある。

どちらも過酸化水素の反応を促し、2つの過酸化水素を2つの水と1つの酸素分子にする。

カタラーゼは反応速度を1億倍にするけど、反応には2つの過酸化水素が必要になる。

なので過酸化水素の濃度が高い場合は、それを素早く除去する。

だけどごく微量の場合、2つの過酸化水素が出会う確率が低いのでカタラーゼでは除去が難しい。

このため、好気性生物はペルオキシダーゼという酵素も持っている。

ペルオキシターゼはビタミンCの様な抗酸化物質を利用して、1つの過酸化水素から2つの水をつくつ――酸素はできない。

スーパーオキシドジムスターゼ…SODは、スーパーオキシドラジカルを過酸化水素と酸素にする酵素――もともとヘモクプレインと呼ばれていた。

スーパーオキシドはもともと不安定で、数秒で過酸化水素になる。

SODは、この反応を10億倍も速める――拡散速度に等しく、スーパーオキシドは静電勾配によって酵素中心の銅に誘導される。

細胞の中や外、ミトコンドリアで働くものなどいくつか違うタイプのSODがあるけど、どれも同等の能力を持っている――中心の金属が、銅と亜鉛、マンガン、鉄かニッケルなどの差がある。

ミトコンドリアのSODを欠損させたネズミは、3週間で死んでしまう――小さくて元気がなく、心臓や肝臓に異常がある。

人でミトコンドリアSODに小さな欠陥があると、1型糖尿病や卵巣がんと関連する――細胞内のDODがない場合は破壊的な影響は少ないけど、成長してから不妊症や神経損傷、がんなどが生じる。

ダウン症候群の人は、21番染色体をひとつ余分に持っている。

この染色体にはSOD遺伝子があり、より多くのSODを生産する。

この症候群は、酸化ストレスによって神経が変性し様々なダメージを与える。

なぜなのかは分かっていないけど、SODが多すぎることが原因のひとつかもしれない。

正常な生理条件では、SODによってつくられる過酸化水素はカタラーゼによって除去される。

マラリアなどの寄生生物は、体内に入ると好中球などからラジカルの激しい攻撃に曝される。

こうした寄生体もSODを持っており、カタラーゼの代わりにペルオキシレドキシンという同様の働きをする酵素を持っている。

尿酸も強い抗酸化作用がある。

だけど高濃度では、間接内で結晶化して痛風の原因となる。

そして血液中の尿酸濃度が高い人は、心臓発作を起こすリスクが高い。

ただこれらの人は、食事から摂取する抗酸化物質の量が非常に少ない場合が多い。

このため、それを補うために尿酸濃度を高めている可能性もある――もしそうなら、尿酸濃度の高さは心臓血管病の原因ではないことになる。

水素と結合した硫黄…- SHはチオール基と呼ばれる。

20ある標準アミノ酸の中で、システインだけがチオール基を持っている。

チオール基が酸素に酸化されて水素…プロトンと電子が取り除かれると、チオール基同士がジスルフィド結合する。

ラジカルである一酸化窒素…NOがある場合、他のラジカルと共にチオール基を酸化してS-ニトロソチオール…-SNOがつくられる。

どちらの場合も、タンパク質の構造が変化する。

グルタチオンとチオレドキシンは硫黄を含む有機物で、どちらかが水素を渡すとチオール基が再生される。

タンパク質の性質はその3次元構造によるので、チオール基の酸化はそれを持つタンパク質の活性を変えることができる。

そうしたタンパク質のリストは増えていて、遺伝子の転写を促進するタンパク質もいくつか含まれている――それらが核内に入るかやDNAと結合するかも、チオール基がスイッチになっている。

酸化ストレスが高くなってスイッチが入ると、細胞の抗酸化力を高めたり、場合によってはアポトーシスで自ら死ぬ――炎症によって戦う場合もある。

チオールの酸化は、ヘムオキシゲナーゼの生産を促す――HO-1というタンパク質。

これは細胞の抵抗性を高め、重金属や放射線、感染などあらゆる酸化ストレスへの耐性を高める――他の抗酸化物質よりも強力な効果がある。

酸化ストレスを受けている細胞に抗酸化剤を与えると、ヘムオキシゲナーゼの生産が阻止される――年齢よりも若く見える人の血液は、ヘムオキシゲナーゼの最終産物であるビリルビン濃度が高い。

人でヘムオキシゲナーゼが欠損すると、成長が遅れて血液の凝固や貧血、腎臓の障害に苦しむ。

この遺伝子欠損マウスは、鉄の吸収調整能を欠いたヘモクロマトーシスと同様の特徴を示す。

こうした抗酸化作用は3つのドメインで共通するものも多いので、おそらくLUCAがある程度の能力を持っていた――強力な紫外線で、海の浅い場所には痕跡量の酸素はあった。

私たちは酸素を利用する様にはなったけど、個々の細胞では太古の酸素濃度に近い環境を維持することで酸素の毒性に対抗している。

抗酸化物質はそれを助けることができるけど、過剰にあると本来の機構を阻害して害にもなる。

酸素バーなどで高濃度の酸素を吸っても、ある程度は体が防御することができる――こうした商法は、100年以上前からある。

ただ過剰であれば、やはり害になるだろう。

                                                 ヮヮヮヮ  ・・・・・

               コト

ボトルを置く。

すぐ横にランタンが置いてあるから、影ができた。

        ――

黒猫は、タオルの背中にかけてる。

箱の中に入れてた。

雨はずっと上から落ちて来ていて、土や石にあたる。

葉っぱや水たまり、タープにも。

心地よい音。

「・・・」

黒猫も耳を立てていて、同じだと思う。

「・・・・」

シッポの先が、箱からはみ出てる。

私はそれを掴まない・・・・

                 ポチャ

                                                 ァァァアア  ――――

            


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