アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・鉄道を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

上岡敏之の真実・・

2017-03-18 10:00:00 | 音楽/芸術

日本のオーケストラも春シーズンインとなり、いつになくアントンKは錦糸町まで出向くことが増えている。それは、現在赤坂サントリーホールが改修工事に入ってしまったこともあるが、それ以上に今までにもここで書いているマエストロ上岡敏之を聴くためには、当然彼の母体となっている新日本フィルの本拠地まで足を運ばざるを得ない。

今回のメインはまた初体験のシューマンの演奏だ。

定期演奏会なので本日も同じプログラムでの演奏があるはず。ベートーヴェンの第1交響曲とモーツァルトのファゴット協奏曲、それにシューマンの第2交響曲ということプログラム。すべて見渡している訳ではないが、なかなか渋いプログラムではないだろうか。ドイツでの生活が長い上岡ならではというか、こういう感覚や構成もかつて無く素晴らしいと感じている。どこかドイツの地方オケとの演奏会のような内容でちょっとワクワクしながら会場に向かった。

まず最初のベートーヴェン第1交響曲だが、総じて昨年聴いた第5の延長線上にある演奏と言えるのではないか。出だしの序奏こそ、たっぷりとしたテンポで進行したが、提示部はいよいよ指揮者上岡の独壇場となる。弦楽器を主体としたアクセントの追加と強調。軽やかにリズミカルに明るく進行する演奏は、今までアントンKが好みだった大きく重厚な演奏を端から否定するがごとく、キラキラ輝きながら進んで行くのだ。そして提示部の反復は励行されたが、同じことの繰り返しですまないのが、上岡流とでも言えるか。一回目よりもさらに快活に明るく弦楽器の刻みがさらに雄弁に鳴っていて、上岡自身も、そしてオーケストラも熱く乗ってきた感じに思えた。またオーケストラ全体のバランス感覚も相変わらずで、音楽が大きく膨れ上がるポイントでもHrnやTpが特出して主張することは無い。

そしてメインのシューマンの第2交響曲だ。過去の録音を省みても名演奏というものが見つからず、シューマン独特のオーケストレーションは、テーマが埋もれてしまい、専門家からは問題視されてきた楽曲だ。こんな楽曲を上岡がどう立ち向かうかが、最大のテーマだったが、そんなアントンKの思いをはねのけるようにタクトが下ろされたのだ。特に弦楽器における付点の強調とアクセントの追加はかつて聴いたことがなく、軽快なテンポと相まって心が熱く高揚する。この交響曲全体を支配するファンファーレは、だからといって主張し過ぎずに何事も無かったのように進行する。特に印象に残ったポイントは、やはりスケルツォの弦楽器群の圧倒的な集中力と緊迫感ではなかったか。この楽章ではコーダでさらにもう一段階高速に演奏され、コンマスの崔文珠の牽引により全開で演奏されていたが、これはもう鑑賞の粋を越えてパフォーマンスの領域だった。

まだ数少ない体験ながら、アントンKの想定を絶えず越えてきた上岡敏之の演奏。今回も同じような思いや、かつて聴いたことも無いような感覚に陥ってしまった。これはもう上岡マジックというほかない。この体験は、今までアントンKが好んで聴いてきた演奏スタイルを変えてしまうくらいの感動と驚きを持っている。常に新しい発見や驚きに満ちているのである。この演奏会は、ハ長調のベートーヴェンに始まり、メインのシューマンの第2もハ長調の交響曲。そしてアンコールに演奏されたジュピターもハ長調という、いかにも上岡らしい演出で幕を閉じたが、こういった実に玄人らしい音楽性にアントンKは、明日への希望を見い出したいと思っている。

2017年3月18日 すみだトリフォニーホール

第570回 定期演奏会「トパーズ」

ベートーヴェン 交響曲第1番ハ長調 OP21

モーツァルト ファゴット協奏曲 変ロ長調 K191

シューマン 交響曲第2番ハ長調 OP61

アンコール

モーツァルト 交響曲第41番ハ長調より 第4楽章

上岡敏之 指揮

新日本フィルハーモニー交響楽団

河村幹子(Bassoon)