狼狽を隠せぬ前田泰宏長官。筆者のYouTubeチャンネルより© HARBOR BUSINESS Online 提供 狼狽を隠せぬ前田泰宏長官。筆者のYouTubeチャンネルより

持続化給付金の中抜きで明らかになった電通と経産省の癒着

 2020年6月12日の参議院予算委員会。共産党・山添拓議員は前回記事で紹介した #WeNeedCulture だけではなく、検察庁法改正を巡る黒川検事長の問題、新型コロナウイルスの医療体制など1時間弱の質疑時間に様々なテーマを盛り込んだ。特に持続化給付金の中抜き問題で発覚した経産省と電通の10年以上にわたる癒着関係を追及した場面では、答弁者の回答を利用しながら矛盾と嘘を次々と暴き、まるで法廷ドラマのような展開が大きな注目を集めた。

 本記事ではこの委員会で山添議員と中小企業庁前田泰宏長官2がほぼ一問一答形式の短いやり取りを繰り返し、約6分間で12問の質疑がなされた場面を取り上げる。この約6分間の質疑を一字一句漏らさずにノーカットで信号機で直感的に視覚化していく。具体的には、信号機のように3色(青はOK、黄は注意、赤はダメ)で直感的に視覚化する。(※なお、色表示は配信先では表示されないため、発言段落の後に( )で表記している。色で確認する場合は本体サイトでご確認ください)

 質問に対する前田長官の回答を集計した結果、下記の円グラフのようになった。

<色別集計・結果>

●前田長官:赤信号(虚偽答弁)16%、黄信号(周知の事実)25%、青信号(回答)46%、灰色(不要な言葉)14%

*小数点以下を四捨五入しているため、合計は必ずしも100%にはならない

 青信号が46%あり、半分近くは質問に回答している。しかし、前田長官は質問に答えてはいるものの虚偽答弁の疑いが強い答弁を連発していた。そうした答弁について上記の集計では、現時点で虚偽答弁の「確証」が無い場合は、疑いが濃厚でも青信号、確証がある場合は赤信号という方針で集計している。つまり、それらの虚偽答弁の確証が新たに出てきた場合、集計結果は下記のように一変する。

<色別集計・結果(虚偽答弁の疑いがある回答を赤信号に分類した場合)>

●前田長官:赤信号(虚偽答弁)48%、黄信号(周知の事実)25%、青信号(回答)14%、灰色(不要な言葉)14%

 いったいどのような質疑だったのか詳しく見ていきたい。

 また、実際の映像は筆者のYoutubeチャンネル「赤黄青で国会ウォッチ」で視聴できる。嘘が次々に露見して狼狽していく前田長官の表情、足取り、声色が映像ではさらにハッキリと確認できる。

回答する度に追い詰められていく前田長官

 まず、山添議員は経産省出身の前田長官とサービスデザイン推進協議会の平川健司氏(電通出身)の関係の始まりに着目して、事実関係を確認していく。その質疑は以下の通り。

山添拓議員(1問目):「今クローズアップされておりますのが発注側である前田泰宏 中小企業庁長官と受注側であるサービスデザイン推進協議会の平川健司 業務執行理事、元電通社員の癒着関係であります。週刊誌では前田ハウス(参照;文春オンライン)が取り上げられました。しんぶん赤旗日曜版も今週号でお2人の関係を報じております。長官に改めて聞きます。平川氏とはいつからどういう関係ですか? 」

前田泰宏長官:「お答えいたします。私、あのー、いま中小企業庁長官でございますけれども、その前が次長でございまして、その前が大臣官房の商務情報政策局担当審議官というポストを頂いておりました。で、その前にですね、あのー、大臣官房の政策評価広報課長というのが、ゆうポストになったと思うんですけれども、(黄信号)

 たぶん、あのー、はっきり覚えてないけど、その頃からですね、えーっと、知り合いであったのではないかというふうに思います。(青信号)」

*筆者注:1段落目は周知の事実(自身の経歴)を述べているだけのため黄信号、2段落目は質問には回答しているため青信号と判定した。ただし、2段落目は虚偽答弁の疑いが強いことが徐々に明らかになっていく。

山添拓議員(2問目):「何年頃の話ですか?」

前田泰宏長官:「えーっと、2015だったと思います。2016ですかね。はい。あの、そのへんちょっとはっきり覚えておりません。申し訳ございません。(青信号)」

*筆者注:質問に回答しているため青信号と判定しているが、1問目と同様に虚偽答弁の疑いが強いことがのちに明らかになっていく。

山添拓議員(3問目):「お2人の関係は2009年、家電エコポイントの時点ですでに始まっていたのではないか。平川氏は当時電通社員で政府エコポイント事業のプロジェクトマネージャーでした。

 前田さん、当時の役職は何ですか? 」

前田泰宏長官:「私、あの、商務情報政策局の、えー、情報経済課長の職にあったように思っております。(青信号)」

山添拓議員(4問目):「エコポイントの申請サイト管理システムを担当されていましたね?」

前田泰宏長官:「か、管理システムでございますか。いえ、それは担当しておったという認識はございませんが。(赤信号)」

*筆者注:この時点では山添議員はその存在をあえて隠しているが、前田氏が2009年にエコポイント申請サイトの構築事例を講演したことを伝える記事が存在する。虚偽答弁の確証があるため、赤信号と判定した。この記事の存在は10問目の回答後に山添議員が暴露する。

山添拓議員(5問目):「エコポイント関係の担当をされていなかったということなんですか?」

前田泰宏長官:「エコポイントの担当ではございませんでした。(赤信号)」

*筆者注:4問目と同様に虚偽答弁の確証があるため赤信号と判定。

山添拓議員(6問目):「平川さんと面識がありましたか? 当時(2009年頃)」

前田泰宏長官:「その当時は面識なかったと思います。」(青信号)

*筆者注:質問に回答しているため青信号と判定しているが、家電エコポイントを担当していながら、そのプロジェクトマネージャーを務める平川氏を知らないとは考えにくく、虚偽答弁の疑いが強い。

山添拓議員(7問目):「当時この事業を電通などの企業連合が事務局を受託した。この事実はご存知ですか?」

前田泰宏長官:「あの、存じておりません。」(青信号)

*筆者注:質問に回答しているため青信号と判定しているが、6問目と同様の理由で虚偽答弁の疑いが強い。

いくつもの事業で名を連ねていた前田長官と電通・平川氏

山添拓議員(8問目):「電通側の中心にいたのが平川氏です。エコポイント事業の申請サイト管理システムは電通からアメリカのSalesforce.comに外注されました。前田さんが紹介されたんじゃありませんか? 」

前田泰宏長官:「そういう、そういうのは記憶にございませんけれども。はい。(青信号)」

*筆者注

質問に回答しているため青信号と判定しているが、直後の9〜10問目で明らかになる前田長官とSalesforceの関係を考慮すると、虚偽答弁の疑いがある。

山添拓議員(9問目):「2009年9月15日、Salesforceが都内で開いたイベントで前田さん講演されたんじゃありませんか?」

前田泰宏長官:「あの、講演、 講演したと思います。(青信号)

山添拓議員(10問目):「その講演でエコポイントのシステムはSalesforceのサービスだと紹介されたんじゃありませんか?」

前田泰宏長官:「あの・・、そういう記憶ございませんですけれども、今、そういう記憶はございません。その、講演の中では。(赤信号)」

山添拓議員:「インターネットに今も記事が出ていますので、ご確認頂ければ良いかと思いますけれども。ですから当時平川さんと面識がないというのはちょっとにわかに信じ難いと思うんですね。」

*筆者注:このタイミングで山添議員が存在を明らかにした記事*には、2009年9月15日にSalesfotce主催のイベントで「家電エコポイント」の申請システムを「セールスフォース」と共同で構築した事例を「前田 泰宏氏」が講演した事実がハッキリと書かれている。よって、10問目は完全な虚偽答弁であり、赤信号と判定した。

〈*参照:IT Leaders「電子政府からミクシィまで――セールスフォースのイベントで国内クラウドユーザーが講演」2009年9月17日付〉

発注元のトップが再委託を把握していない!?

山添拓議員(11問目):「その後もお二人はいくつもの事業で一緒に仕事をされてきました。2016年にサービスデザイン推進協議会が設立をされて最初に落札したのが、おもてなし規格認証事業。さらに次々と事業を受注しました。その発注は経産省 商務情報政策局サービス政策課です。当時、前田さんの役職はどこですか?」

前田泰宏長官:「えーっと、大臣官房審議官の商務情報政策局長担当だったと思います(青信号)」

山添拓議員(12問目):「平川氏は当時(2016年)、電通の社員でもありました。電通への再委託は当然ご存知でしたね?」

前田泰宏長官:「えーっと、あのー、 認識しておりません。すいませんでした。(青信号)」

*筆者注:質問に回答しているため青信号と判定しているが、発注元である経産省 商務情報政策局の大臣官房審議官が再委託を知らないとは考えにくく、虚偽答弁の疑いが強い。

山添拓議員:「大臣官房審議官にありながら電通への再委託を知らないような事業が行われていた。こういうことなんでしょうか。今回の持続化給付金。担当は中小企業庁で長官が前田さんです。平川さんと前田さんというのは、そして電通と経産省というのは、10年以上に及ぶズブズブの関係です。前田さんが責任者の部局から平川氏が役員を務めるサービスデザイン推進協議会へ合計1500億円以上のお金が流れました。大臣、これ異常な関係だと。癒着、癒着だと言われても仕方ないと思うんです。」

 以上が計12問に及んだ約6分間の質疑の全てである。

 映像を確認すれば明らかなように前田長官は質疑中に明らかに狼狽しており、すぐにばれるような嘘を繰り返している。この質疑で明確な根拠(Salesforce主催イベントを伝える2009年の記事)によって虚偽答弁と断定できたのは4問目、5問目、10問目のみであるが、他にも虚偽答弁の疑いが強い答弁が残されている。特に、平川氏と2009年時点で知り合いだったこと、電通への再委託を知っていたことについて前田長官は頑なに否定し続けている。経産省と電通の癒着関係については今後も注視していく必要がある。

<文・図版作成/犬飼淳>

【犬飼淳】

TwitterID/@jun21101016

いぬかいじゅん●サラリーマンとして勤務する傍ら、自身のnoteで政治に関するさまざまな論考を発表。党首討論での安倍首相の答弁を色付きでわかりやすく分析した「信号無視話法」などがSNSで話題に。noteのサークルでは読者からのフィードバックや分析のリクエストを受け付け、読者との交流を図っている。また、日英仏3ヶ国語のYouTubeチャンネル(日本語版/ 英語版/ 仏語版)で国会答弁の視覚化を全世界に発信している。