黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

弁護士業界の呆れる現状

2009-02-03 02:10:51 | 弁護士業務
 先週、黒猫は無事退院しました。相変わらず寝起きは悪いですが、業務にも復帰できたので、まずまずの回復具合と言ってよいでしょう。
 そんなわけで、約1週間ぶりのブログ更新となるわけですが、今の黒猫は、大変機嫌が悪いです。そのため、今回の記事は愚痴のかたまりとなることを、最初に予告しておきます。

 なぜ機嫌が悪いかという説明をする前に、最近の弁護士会をめぐる政治情勢の話をしておきます。弁護士業界では、毎年2月に選挙を行うのが通例であり、隔年で日弁連の会長選挙、各単位会の会長選挙が交互に行われます。今年は各単位会の会長選挙がある年で、黒猫の所属する東京弁護士会では、今年は3人の候補者が会長選挙に立候補しているようです。いちいち実名は挙げませんが、1人は現執行部派、1人が反執行部派、そしてもう1人が、最近テレビなどに出演して知名度を上げている某若手弁護士です。アディーレのあの人と言えば、実名を挙げなくても分かる人は分かるでしょう。
 以前からこの「黒猫のつぶやき」を読まれている方であれば、黒猫がこのうち現執行部派に投票するわけがないということは、もはや改めて言わなくても察しがつくでしょう。
 法曹人口を増加させるとしても、公認会計士のように、試験の門戸を開いて質の維持・向上を図った上で合格者数を増やすのであればまだ話は分かるのですが、現在進められている司法制度改革による法曹増員は、むしろ積極的に質を落とした上で人数を増加させるという、最悪の組み合わせです。
 現行の法曹養成制度のもとで、建前上法曹養成の「中核的機関」と位置づけられている法科大学院には、もともと法曹教育に関する実績はありません。それ以前に実質上法曹教育を担ってきた司法試験予備校は、法科大学院制度からは徹底的に排除されています。法科大学院の設置認可にあたり、教授の博士論文を捏造するのは大目に見ても、司法試験予備校と提携するのは許さないというほどの徹底ぶりです。
 そもそも、司法改革の方向性を決めた司法制度改革審議会は、現役法曹の委員がわずか3人で、法律の素人が過半数を占めるというおかしな審議会でしたが、そのような審議会の中で、司法試験予備校に法曹養成機関としてのポジションを奪われ歯がみしていた大学法学部出身の委員たちが、大学の利権確保と予備校に対する偏見を隠そうともせず強硬に押し進めたのが法科大学院構想であり、はっきり言ってやる前から破綻することは目に見えていたのですが、最近は(案の定)新人弁護士の就職先がないということで、日弁連や法務省、経団連などのお偉方が集まって、新人弁護士の就職問題について議論を始めたようです。ただ、抜本的な解決策が示される可能性はほとんどないでしょう。
 もともと、内部統制監査の導入で大幅な求人増が見込まれることを背景に合格者数増を行った公認会計士業界と異なり、弁護士業界では、特に需要増が見込まれる業務分野があるわけではありません。その上、試験制度をいじくって、何百万円もつぎ込んで(大して役にも立たない)法科大学院の課程を修了しないと司法試験を受験できないようにした結果、受験者の質の低下は目を覆うばかりとなり、司法試験管理委員会もあまりのことに、昨年の合格者数を予定の下限を下回る数字にせざるを得ませんでした。
 そうした新試験の合格者たちが就職難に陥るのは、あまりにも当然のことで今更驚くにも値しないのですが、問題は法科大学院制度破綻の結果、有能な人材が法曹界に寄り付かなくなってしまうということです。
 通常、今日のように不況で就職難の時代には、専門資格への関心が高まるのが普通であり、実際公認会計士の志望者は増加しているようなのですが、弁護士の志望者は逆に減少傾向にあります。
 法科大学院で何百万円もの学費と2~3年の時間をとられる上に、司法試験の合格率は約3割程度、仮に合格しても弁護士業界は史上空前の就職難で、ノキ弁、タク弁、ケータイ弁などという悲惨な境遇に置かれている人も少なくないというのではそれも当然で、むしろこんな時期に弁護士を志望すること自体かなりの物好きか間抜けと言わざるを得ないと思えてくるのですが、このように明らかに頭の悪い司法「改悪」に、弁護士の業界団体としてろくに反対の声すら挙げられないというのでは、はっきり言って業界団体としての存在価値はないでしょう。
 日弁連からのFAXでは、「司法修習生の質が低下しているとの議論は疑問である」とか、「新司法試験も高度な知識を問うことが中心であり、詰め込み教育をせざるを得ないので、法科大学院は本来行うべき教育ができない。新司法試験のあり方を見直すべきだ」とか、法科大学院関係者の妄言が無批判に紹介されていますが、法曹は法律の専門家である以上、司法試験で法律の専門的知識が問われるのは当然のことであり、これをおろそかにするのであれば、弁護士と司法書士の法律知識レベルが逆転するといったおかしな事態すら生じかねません。
 最近、公認会計士試験の勉強をしていると、「大学に専門家教育をやらせたところで、ろくな成果が上がるわけがない」「公認会計士が、司法試験と同じ制度を採用することにならなくて本当によかった」などと、講師の先生から露骨に司法試験制度をあざ笑う話をよく聴かされるのですが、全く仰せの通りであり反論の余地がないところが悲しいところです。
 余談ですが、黒猫が入院中に読んだライトノベルで、作者が司法試験の受験生という作品がありましたが、その作品の売れ行きは順調でアニメ化もされる一方、司法試験の受験はもう諦めてしまったようです。本来なら「何やってんだ」と言いたくなるところですが、今日の司法界の現状を考えると、軌道に乗り始めた作家業に専念し司法試験を断念するというのは、むしろ賢明な判断だと評するしかありません。
 裁判員制度についても、精神鑑定の優劣について裁判員に判断させるのは難しいので、公判廷ではなるべく複数の鑑定が出ないようにし、捜査段階での正式鑑定を充実させるなどという議論がなされているようですが、刑事責任能力を争っている事案で、弁護側の鑑定証拠を出さずに済ませるなどということが現実的にできるわけがありません。
 アメリカの陪審員制度のように、被告人がいちかばちかで陪審員による裁判を選択できるという制度ならまだしも、日本で行われようとしている裁判員制度は、被告人による辞退も認められておらず、単に刑事裁判を一般市民の晒し者にする意味しかありません。その上、裁判員になる側も参加は強制で、できれば辞退したいと考えている人が多数を占めているという現状のもとでは、国民の大多数の反対を押し切って裁判員制度を施行する意味は全くないでしょう。こんなふざけた制度に、司法の担い手として反対の声を挙げることすらできないというのでは、弁護士の業界団体としての存在価値はないと言っても過言ではないでしょう。

 そんなわけで、黒猫としては、現執行部サイドの候補者には絶対当選してほしくないのですが、残りの2人の候補も、積極的に支持するにはいまいち乗り気になれません。反執行部派の候補は、どうやら法科大学院や裁判員制度に反対してくれるのはよいのですが、法科大学院批判よりは法曹増員自体への批判に重点を置いているようであり(たしかに、現在の弁護士業界内部で支持を集めるにはそのほうが効果的なのかもしれませんが)、その他の主張は人権擁護だとか社会正義だとか憲法改悪阻止だとか、何となく昭和の香りがするものばかりで、現状の弁護士業界が抱える問題点を的確に把握し、弁護士会をあるべき姿に導いていくといった活動は、どうやらあまり期待できそうにありません。
 そして、黒猫より下の期に属する某有名若手弁護士は、正直言って何をやりたいのかよく理解できません。もともと、あの人はテレビ出演などで知名度はあっても、弁護士業界内部での評判はお世辞にもよいとはいえないので、彼が当選することはまずないでしょうが、黒猫が最も恐れるのは、彼が立候補することで現執行部に対する批判票が分断され、結果的に現執行部側を利する結果になることです。特に、反執行部派の候補は、FAXで送られてくる広報紙を読む限り、むしろ主たる攻撃の対象が執行部派の候補より若手弁護士候補に向けられている感じがしているので、批判票の分断で現執行部側の候補を利する結果となる可能性は非常に高い気がします。
 会長選挙に立候補するのは勝手ですが、公聴会などにも出席する様子がなく、あまりやる気がないのであれば、いっそのこと立候補を辞退してもらった方が有り難いです。
 黒猫自身としては、弁護士会の現執行部に対する不満はそれこそ数え切れないほどあるのですが、法律以外の知識に乏しい人が多すぎる現在の業界の現状では、弁護士に対する社会的需要に応えていくことも、司法書士や税理士など隣接職種との競争に打ち勝つことも困難であるという現状認識も持っており、法律の知識さえあればよいという雰囲気のある業界の体質は改める必要があると思っています。
 特に、企業法務の仕事をするのに、会計の知識が皆無などというのはほとんど致命的であり、公認会計士に徐々に職域を奪われていくのも、ある意味当然の結果かもしれません。仮に黒猫が司法制度改革をやるのであれば、おそらく真っ先にやることは司法試験の教養選択科目の復活になると思いますが、それと同時に、法科大学院の修了は新司法試験の受験要件から外すことになるでしょう。そうした、現行法曹養成制度の問題点を的確に把握し、既得権益にしがみつくしか能のない法科大学院関係者の妄言を一蹴し、法曹養成制度をまともな方向に改善して行ける見識を持った人が会長になってくれればよいのですが、今のところ、そういった望みを託せそうな候補者は見当たりません。
 一言で言えば、これが最近における黒猫の不機嫌の原因なのですが、所詮、今の弁護士会に自浄能力を期待すること自体が間違っているんでしょうかねえ。このブログのように、単なる一若手弁護士が思ったことをつらつらと書き連ねているだけの個人ブログに対してまで、日弁連のお偉方がいちいち目を付けて、黒猫の所属する法制委員会に有形無形の圧力をかけてくるような度量の狭い連中が日弁連の中枢を担っているようでは、ろくな法律制度の改善などできるはずもありません。

7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
めっちゃ (zzz)
2009-02-03 08:36:31
応援してますよ。誰がこんな夢も希望もない業界にしてしまったんですかね。
返信する
Unknown (桜井)
2009-02-03 11:45:31
> 司法制度改革審議会は、現役法曹の委員がわずか3人で、法律の素人が過半数を占めるというおかしな審議会でしたが


おかしなことになった理由は、

> 今の弁護士会に自浄能力を期待すること自体が間違っている

という先生のご認識が、世間のご認識でもある結果の現れなんじゃないですかねぇ
(もちろん1ファクター、レベルですが)

誰がしたんだなんて他人事いってるうちはもう……



英国の例をみてもわかるとおり、弁護士が自ら開放しなければ、外から一方的にいじられるのです(これまでもこれからも)。

だとすれば、制度改革に積極的に関与した方がマシ、という考え方に行くのは自然だと思います。

……ここまでは先生も比較的近い意見なのではないかと。


しかしそこで、弁護士らしい構想力をフルに発揮してしっかりとした「設計」に関与するのではなく、思いつきで行われてしまったところに司法制度改革の不幸があるわけですが
(弁護士らしい構想力なんてものは存在しなかったわけで)


ということで黒猫大先生には、新試験受験生や出身者を狙撃するのではなく(笑)、今の時点からどういう現実的な枠組みをつくればいいのか、いかにすればそこに辿り着けるのか、ご提言いただきたいものです。

LS修了を新司法試験の受験要件から外すのは私も賛成ですが、合格者2000名の質をどうやって旧試験の頃の合格者同様のレベルを保つのか(これが先生のお立場の最低限の前提だと思いますが)、ここが示されない限り妄言を言いっぱなしで責任を取らない他の方と一緒だと思います。



なお私は、あと10年くらいして、人数も多くなって発言力も増した新試験出身者による旧試験出身者に対する逆襲(復讐じゃないですよ)が始まるのを期待しているわけですが(笑
先生がおっしゃるほど、捨てたもんじゃないと思います。設計に問題が山積しているのは同感ですが。LS進学を強制するのも微妙ですし
返信する
作者が司法試験の受験生という作品 (Unknown)
2009-02-03 21:19:10
>黒猫が入院中に読んだライトノベルで、
>作者が司法試験の受験生という作品がありましたが、
>その作品の売れ行きは順調でアニメ化もされる一方

『乃木坂春香の秘密』でしょうか?
相変わらず多方面に造詣が深い黒猫先生には,感服するほかありません。
返信する
政治家も動き始めている (Unknown)
2009-02-10 12:14:55
法曹増員とロー制度の問題については自民党の河井克行衆議院議員が非常に熱心に取り組んでいます。黒猫さんと考えを共通する部分が多いです。
政治の力で一刻も早く抜本的見直しが行われることを願わずにはいられません。
http://www.election.ne.jp/10868/
返信する
Unknown (Unknown)
2009-02-23 03:03:31
第三者ですが、
これまで司法試験の志望者は5万~8万人いたと聞いています。
現在のロースクール志望者は2万人いないですよね
志望者の出身母体(七帝早慶)に大きな変化が無いなら、
どんな教育制度改革をしても質は決して全く変わらないと思うのですが。(統計学的に)
返信する
Unknown (南太平洋)
2009-03-16 19:44:40
結局、他人任せで、自分が何とかしようという気概に欠けるわけですよね。
この場合、法曹が駄目になっても生き延びる策を講じるのが利巧であり、おそらく多数の若手弁護士さんは策を講じていると思います。
返信する
Unknown (Unknown)
2009-03-16 22:28:50
上の方がおっしゃる通りだと思います。
旧試験合格組みで考えない人達は制度の
欠陥を補えば自分達の元にお客が戻って
来るとでも思っているのでしょうか?
返信する