黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

「3000人目標撤廃」の意思決定過程

2013-04-14 13:14:52 | 法曹人口問題・法曹養成制度総論
 黒猫自身の意見はもう提出してしまいましたが,法曹養成制度のあり方については現在パブリック・コメントが行われていますので,なるべく多くの方のご意見提出をよろしくお願いいたします。
 今回,パブリック・コメントの対象となった検討会議の『中間的取りまとめ』では,司法試験の年間合格者数3,000人という政府目標の撤廃が掲げられていますが,この問題について議論された第10回会議(3月14日開催)の議事録が公開されています。
<参照URL>
法曹養成制度検討会議・第10回会議議事録
http://www.moj.go.jp/content/000109755.pdf

 議事録の内容を見ると,法曹人口のあり方については色々な意見があったようですが,出席した各委員の主な発言内容について,合格者数の減員に対する態度別に分類してみると,概ね以下のようになります。

<減員を主張する委員>
○ 国分委員
 法曹有資格者の急増による就職難,未登録にとどまらず,登録新弁護士が即独,軒弁あるいは宅弁などと,望ましいとは決して言い難い開業形態に押しやられ,OJT機能の弱体化など,プロフェッションとしての団体自体のありようにも悪影響が生じるのではないか,各地方の弁護士会,あるいは日弁連が弁護士の質・価値を保証していると考えるものですが,その団体の権威が損なわれることになるのではないか,と危惧するのです。弁護士人口は,自らの職域拡大の努力とともに,社会からの需要の拡大に見合った形で漸増すべきものであって,政策的に急増させることで需要喚起を狙うのは,間違った手法であると思います。

○ 和田委員
 去年の法科大学院の入学者の総数は御存知のように3,150人で,今年はそれをさらに下回るものと見られています。合格者3,000人というのでは司法試験は無試験と変わらなくなりますので,3,000人という数字が目標として現実離れしていることは明らかであると思います。

○ 萩原委員
 当面の司法試験の合格者のレベルですけれども,私は,現状の2,000人レベルより,相当数削減したところでスタートすべきなのではないかと思います。理由は,今のまま放置しますと,法曹になろう,司法試験にチャレンジしようという人たちの意欲を削ぐようなことになってはないのかなというような感じがいたします。それは,先ほど来,お話がありますように,合格しても就職難というような現実につながっていくんだろうと。そればかりではなくて,このことが,プロセスとしての法曹の養成制度そのものの信頼性も,損なうことにもつながっていくのではないのかと。

○ 田島委員
 司法試験に合格しても合格万歳と言うかというと,万歳とみんなほとんど言っていない。ほとんど言えない。何でかというと,就職はどうだとか,修習だって,司法修習は国家が責任を持って養成するなんて言っていたものが,1年に短縮され,名目だけみたいな。上っ面だけの教育しかやっていないじゃないですか。専念義務は守れ,二度試験はやるぞ! 給付費は止めた。借金で生活しろ! 法曹資格も他の国家試験と同じなどと言う人もいる。それで,そういう中で,例えば弁護士さんだけのことが議論されているけれども,実際は検察官とか,裁判官の人たちの採用した後の養成だって,すごい大変な状況におられると思います。裁判官なんて,何でこれが裁判官かというような判決を下すのがぞろぞろいるじゃないですか。私たち福祉の世界では,もう怒り狂うような判決が出てくるんですよ。何でこんな判決を出すんだって本当,怒鳴りたいくらい。

○ 丸島委員
 2,000名ということを何か所与の前提として,司法試験委員会の合格水準を縛るということは適当ではないと思います。おのずから,事態は,合格者数は2,000名からさらに下方修正することにならざるを得ない。そして我々としては,それも容認せざるを得ないというようなことが現状だろうと思います。

○ 岡田委員
 法科大学院の入学者が3,000人ということになりますと,3,000人で2,000人が司法試験に合格するというと,私たち利用する側としては,質の問題が一番懸念されます。意見書の中では,人口のこともさることながら,質の向上というのもスローガンとなっています。そこの部分が,今,大きな問題として出てきているのだと思います。

<減員に消極的な委員>
○ 南雲委員
 司法試験合格者数,年間3,000人目標については,その司法制度改革審議会において検討された,閣議決定されたものであることを十分に認識をして,国民が必要とする質と量の法曹の確保,向上に向けて,国を始めとする関係機関はどれだけ今まで努力してきたのかということについても見つめ直す必要があるのではないかと思います。

○ 久保委員
 今回の基礎資料のどの分野を見ましても,目立ったような需要の増大というのは見られません。それは当時の司法制度改革審議会の見込み違いと決めつけるのではなくて,その後の10年間に潜在需要を掘り起こす努力が不十分だったと考えた方がよいと私は思います。確かに弁護士のゼロワン地域はほぼ解消しましたけれども,マップをよく見てみますと,都会地域とか,また,その都会の中でも,より便利な地域に偏っていて,国民の司法アクセスの向上にどこまでつながっているのかは不明です。先ほど弁護士会の御説明にありましたような危機意識,危機感は大変よく分かるんですけれども,国民の側から見れば,まだとても供給過剰などと言える状況ではないと私は思います。

○ 鎌田委員
 それは今,現実の中でいろいろ問題が起きていることは確かでありますけれども,この3,000人という数を変更するということが,その理念を撤回する,あるいは変更するということを語られているのか,その理念は理念として堅持するんだけれども,
現実に整合的に調整が必要だという御議論をされているのか,その点は,今後の議論の在り方を相当変えるのではないかというふうに思います。私は個人的には,やはり理念は理念として,堅持すべきであり,その理念を実現するための努力はまだまだ足りていない,その段階で早急にこの看板を下ろしてしまうのはいかがなものかと思います。

<態度の不明瞭な委員>
○ 伊藤委員
 国民が必要とする質と量の法曹の確保ということ,その旗は下ろすべきではないと,そういう理念は維持すべきだと思います。
ただ,現実にこの間の法科大学院の教育も含めて,3,000人というものを生み出す力がなかったことは,これは我々も認めざるを得ないわけでして,ここ数年間,2,000人という数で,合格者2,000から2,100人程度でしょうか,推移しておりますけれども,私はその数を当面一定の目標とは言いませんが,現実的な数として,これを中心にして,法科大学院の定員,あるいは設置数等も考えて,安定的に,累積という言い方はよくないのかもしれませんけれども,累積として7,8割の,法科大学院に入った人が合格するというようなことになれば,学生もある程度落ち着いて勉強できますし,相当程度の者が入ってくるだろうと思います。

○ 井上委員
 司法制度改革審議会が掲げた,司法を国民に身近で利用しやすいものとし,法的サービスを必要とする国民にあまねく十分な法的サービスを提供するために,質・量ともに豊かな法曹を育成していく必要があるということ自体まで否定されたわけではないと私は考えています。
 そのための一つの指標として,そこに至るまでに実際上どれだけの時間とかステップがかかるかは別として,大きな指標として3,000人という目標を堅持するというのも,理由のないことではないのではないかと思います。
 他方,現実的には,毎年の司法試験の合格者が2,000人を少し上回るレベルでここ数年推移しているということも事実であり,これについては,御承知のように合格者の質という点から多過ぎるという意見がある一方で,司法試験自体の在り方や法科大学院の教育との整合性にも問題とする余地があり,低く抑えられ過ぎているかもしれないという見方もできなくはないと思われますが,少なくとも現行の司法試験のもとで,毎年2,000人強の人が合格水準に達すると認められているという事実は軽視されるべきではないと考えます。

○ 田中委員
 今後とも3,000人という数字を目標として掲げるかどうか,数値目標として掲げるかどうかは別といたしましても,司法制度改革審議会の意見書に基づいて政策目標として定められた3,000人という数値は,大いにその歴史的な役割を果たしてきたという点を,先ほど鎌田委員もおっしゃいましたけれども,理念の持つ重さとして受けとめなければならないのかなというふうに感じております。


 まわりくどい発言をする委員が多いので,どちらに分類して良いか判断に苦しむ意見もあるのですが,全体的には3,000人目標撤廃もやむを得ないという意見が多数を占めた,と理解してよいものと思われます。
 ただ,現状のあり方を象徴する発言として象徴的だったのは,次に掲げる国分委員と井上委員のやり取りです。

○ 国分委員
 次に資格を取った方々が就職できないという問題が起こっている。それに対しての対処法も考えなければいけないと思います。医学の方の大学病院では,医員と呼ぶ非常勤のポストがあります。それが,例えば東北大学の場合,現在の正確な数字は存じませんが,私が副病院長であったころは,100名を超えていたはずです。法科大学院で,特に国立の法科大学院で,非常勤の若手の教官を受け入れる,といった制度を検討してみてはいかがでしょうか。それが若い法曹有資格者のプールになるし,また将来の常勤教官の候補になると思います。非常勤であっても生活できる給与が支払われるのであれば,就職難軽減の一つの方策となりましょう。
○ 井上委員
 現行の制度でもそれは可能なのです。問題は,就職難で就職できない人がそれに適しているかどうかということで,悠々と就職している人の方がそれに向いていたりするものですから,ミスマッチが生じ得ると思います。

 現行の司法試験では毎年約2,000人が合格していますが,その中で就職できない人というのは,要するに既存の法曹界から「使い物にならない」と判断された人,であることを意味しています。そして井上委員も,そのような人は法科大学院でも「使い物にならない」ことを認めています。
 法曹になるための勉強をしながら,法曹として「使い物にならない」レベルの能力しか身に付かなかった人が就職できないのはある意味当然のことなのかも知れませんが,問題はそのような人にどうして「司法試験合格」の肩書きを与えなければならないのか,そのような人にどうして法曹になるための「司法修習」を国費によって受けさせなければならないのか,ということです。
 普通に考えれば,法曹として使い物にならない人に司法修習を受けさせても税金の無駄遣いにしかならない上に,使い物にならない人が中途半端な修習を受け「即独弁護士」として社会に拡散していっても,一般市民のうち弁護士業界の実情を知らない人が被害を受けるだけで,社会の発展に寄与することは特にないでしょう。
 第10回会議では,鎌田委員がドイツの例を引き合いに出していますが,ドイツでは大学法学部を卒業すれば司法試験の受験資格を得られて,その8割くらいは司法試験に合格するそうですが,実際には成績が上位10%台くらいに入っていないと法曹としての就職は望めない上に,成績優秀者以外は司法修習も順番待ちになったりするそうです。また,弁護士業務についても低価格競争の弊害が著しいため,最低価格が設けられているとも聞いています。
 わが国ではドイツと異なり,法学部卒業者(法学士)と司法試験合格者は,全く次元の異なる肩書きとして機能しており,実際の「法学士」の中には,司法試験はおろか行政書士の資格すら手に届かないというレベルの人も少なくありません。そのような法学部の現状を知る人であれば,法学部卒業者のほぼ全員に司法試験合格者の肩書きを与えるなどあり得ない,ということは容易に理解できるでしょう。法学士・法務博士と弁護士資格がほぼイコールであるというドイツやアメリカの法曹人口と,わが国の法曹人口を単純比較する方がおかしいのです。
 それを,別に法曹の総数が不足しているわけでもないのに,司法試験の合格者数のみをむやみに増やして,旧試験時代には合格できなかったような人にまで司法試験合格者の肩書きをばらまく。しかも,法科大学院制度によって,司法試験の受験資格は金と時間に余裕のある人に制限する。こんな政策を採り続けることに全く合理性はありません。お隣の韓国でさえも,日本の法曹養成制度を「反面教師」と見なしています。
 それを半ば理解しているにもかかわらず,年間3,000人という合格目標を理念だけでも維持しようなどと主張する目的は,別に国民のためでも何でもなく,単に法科大学院制度を作った人の面子を維持したいだけなのです。それだけのために10年も引っ張ってきたけど,さすがに破綻を認めざるを得なくなったというのが今回の『中間取りまとめ』であるといえます。
 大手マスコミの中には,残念ながら未だに現実を分かっていないところもあるようですが,意見を提出される皆様方には,『国民のため』を標榜する学者や大手マスコミのプロパガンダに惑わされないことを強く望みます。

22 コメント

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Unknown (ネネム)
2013-04-14 16:45:12
教官にふさわしくない人が何で司法試験に合格してるんでしょうか?司法試験に合格している人が何で教官にふさわしくないんでしょうか?

教官にふさわしくない人が司法試験に合格していると思ってるなら、井上委員は、本来、合格者減員を主張すべきでしょうに。
ようするに、「大学の利益のために合格者は減らさないでね。大学に不利益だから、合格者は雇わないけどね。」ってことでしょ?
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Unknown (Unknown)
2013-04-14 17:17:02
>ようするに、「大学の利益のために合格者は減らさないでね。大学に不利益だから、合格者は雇わないけどね。」ってことでしょ

そういうことでしょう。
また,さらに突っ込んで言えば,三振法務博士さん(でしたっけ?)についても,卒業させた法科大学院は製造物責任があるので,就職の面倒を見ないと筋が通らない気がします(まあ,司法試験に合格しても就職先がないのに,合格していない者の面倒まで到底手がまわらないので,華麗にスルーしていますけどね)。
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Unknown (Unknown)
2013-04-14 18:01:43
どこかの偉そうにふんぞり返っている大宮ロー関係者によれば、三振法務博士など、引く手あまたで追いつかないほどでしょ?
製造物責任も何も、就職できないはずなんてないじゃないですか。それとも大宮ローを華麗に三振した人限定?
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Unknown (Unknown)
2013-04-14 18:03:53
大宮ローを出て、の間違いです。意味分かると思うけど助詞の使い方一つで、大宮ローにすら受からなかったかのように読まれても困るので、もっとも今は法科大学院の合格基準は答案に自分の名前が書ける人、みたいですから、ローを落ちるなんて難しすぎますけどね。
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黒猫さんへ (匿名希望)
2013-04-14 18:37:45
既に「パブコメ」で,意見を提出されたのであれば,
後進の参考資料として,このブログでも,公表されてはいかがかな?
いずれ,法務省が公表してくれるとは思うが。
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Unknown (Unknown)
2013-04-14 19:50:21
使い物にならないと判断された人が、本当に使い物にならないのか?という問題もあると思うんですが。
ロー入試から本試験の順位に至るまで、さまざまな利害関係が絡み、決して純粋に実力主義という訳では無いので。ローの問題の本質もそこにある気がします。
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Unknown (Unknown)
2013-04-14 22:07:44
>>法曹として「使い物にならない」レベルの能力しか身に付かなかった人が就職できない

過剰に合格者数を制限し,「合格できない人」を世の中に出してしまった場合,このような人たちは法律と関係のない分野で再就職することは極めて困難です。
となると,このような人たちは,生活困窮者となるか,犯罪者になるしか道はないことになります。犯罪者となって世間に刃を向けた場合,第二,第三の被害者を生むことになります。
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法科大学院をなくせば解決 (Unknown)
2013-04-14 22:22:49
弁護士の需要が増えるじゃん。


仕事が無くて悪事に手を染める弁護士が減って、第二、第三の被害者が減るかもよ。
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Unknown (Unknown)
2013-04-14 23:06:23
有資格者を大量に出しながら実際に法曹として活躍できる人は限定されるドイツやアメリカの制度に対する批判はどこにあるの?日本も結局そうなりつつあるじゃん。司法試験は資格試験であって選抜試験じゃないっていう司法制度改革の前提にみごとにマッチしてるじゃない現状は。
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Unknown (Unknown)
2013-04-14 23:24:50
制度設計としては、入口の法科大学院入試で「選抜」するから、出口の司法試験は「ザル」にしろってことですね。
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