黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

「最終的取りまとめ案」に関する雑感

2013-06-22 00:59:15 | 法曹人口問題・法曹養成制度総論
 6月19日,法曹養成制度検討会議の最終取りまとめ(案)が公表されました。
<参 照>
法曹養成制度検討会議取りまとめ(案)(法務省HPより)
http://www.moj.go.jp/content/000111852.pdf
<司法試験>低合格率の法科大学院に「法的措置」 政府方針(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130619-00000108-mai-soci

 取りまとめ(案)の内容は,中間的取りまとめから一部加筆修正されたものですが,毎日新聞が内容の骨子をまとめているので,以下これを基に黒猫の見解を述べておきたいと思います。

骨子1:司法試験合格者を年間3000人とする政府目標を撤回。新たな目標は示さず
 中間的取りまとめと同様。
 黒猫の意見としては,以前に公表した意見書とほぼ同じで,年間3000人といういかれた目標を撤回すること自体は評価しますが,合格者数を多くとも1000人以内にするといった,新たな目標を設定することが必要だと思います。
 これに対し,現役LS生を守るため増員を維持すべきといった意見もみられますが,これは完全に心得違いの主張です。3000人という目標は現時点でも達成されていない上に,法科大学院修了者の司法試験合格率は,現在でも例年20%台に過ぎません。LS生は,法的に司法試験合格を保障されているわけではない上に,事実上保障されているともいえない状況にあります。
 法科大学院制度がもたらした最大の弊害の一つに,法科大学院に入学したというだけで,自分たちは法曹になる権利があるなどという妄想に囚われた受験生を大量に作り出してしまったことが挙げられますが,実際には司法試験の合格者数が多いアメリカやドイツ,司法試験のないイギリスなどにおいても,実際には成績上位者でなければ法曹になれないというのが既に常識として定着しています。日本でも実際にはそうなりつつあり,今どきは司法試験合格者でも若い成績上位者でなければ法曹として食べていくのは絶望的です。法的に守られるべきかという問題以前に,LS生の既得権益などは始めから存在しないのです。LS生を守れと主張する人の多くは,実際には無能なロー教授の職を守りたいだけなのです。
 黒猫は,現役LS生を保護すべきというすべての主張に反対するとともに,そのような主張をする人を「既得権に群がる国賊」として軽蔑します。

骨子2:課題が深刻な法科大学院に対する「法的措置」の導入
 意外と思われるかも知れませんが,今の黒猫はこの考え方自体には賛成です。そもそも,アメリカのロースクールはABAの認証評価をパスしたところでなければ多くの州で司法試験の受験資格を認められていませんし,司法審でも認証評価で不適合とされた法科大学院には司法試験の受験資格を認めない方針でした。アメリカのロースクールと異なり,設立さえ認可されれば,明確な法令違反でもやらない限り野放しという制度にしてしまったことが,法科大学院をここまで堕落させた原因の一つであり,法科大学院制度を存続させるならこの点は改善する必要があります。学問の自由(大学の自治)を盾にこのような制度に反対する人もいますが,大学の自治は自主的に学問研究を行う大学を前提とするものであり,大学の場を借りた専門職養成機関に過ぎない法科大学院には,そもそも大学の自治は適用されないと解すべきです。
 そして司法試験制度の運用実態を見る限り,法科大学院の修了は予備試験の免除と同等の意味を有することから,法科大学院を修了しただけで司法試験の受験資格を認めるためには,予備試験合格と同等以上と評価できる教育及び修了認定を行っていることを要するはずであり,そのような基準を満たさない法科大学院を修了しても,司法試験の受験資格は認めないこととすべきです。
 具体的には,①直近卒業者の司法試験合格率が,予備試験合格者の合格率の少なくとも2分の1以上に達していること,②すべての教員が司法試験合格者であることを最低限の要件とすべきであり,これらを満たさない法科大学院はすべて不適格とし,不適格とされた法科大学院にはすべての予算補助及び裁判官・検察官教員派遣を打ち切り,かつ不適格とされた法科大学院の修了者には司法試験の受験資格を認めず,司法試験を受験したければまず予備試験を受験するものとすべきです。なお,既存法科大学院に対する不適格認定の効果は,現に在学するLS生に対しても適用すべきです。
 このような基準を満たせる法科大学院が現状で一つもないのは重々承知していますが,そもそも黒猫は法科大学院廃止論者ですから,このような法科大学院制度の自滅につながる改革は大歓迎です。また,パブコメでも批判的意見の多かった法科大学院制度を敢えて存続させるというのであれば,これくらい思い切った制度改革をやらなければ,法科大学院制度に対する世間の理解は到底得られないと思います。さらに,このような改革を行えば,基準を満たせる見込みのない下位校は学生が見向きもしなくなり一斉に撤退するでしょうから,税金の無駄遣いも大幅に削減できると思います。

骨子3:・新たな体制で法科大学院に対する「法的措置」の内容の具体化,予備試験の見直しの是非,司法試験の論文式の科目削減などを検討
 問題外です。
 法曹養成制度検討会議は,今年の8月2日までに一定の結論を出すことが求められている閣僚会議の諮問機関であり,上記のような内容についてもその任期内に結論を出すべき問題です。新しい組織で2年以内に結論を出すというのは問題の先送り,検討会議の任務放棄に過ぎません。会社で上司から1年以内にプロジェクトの原案をまとめろと命令されて,あと2年くれという原案を提出するような社員が,果たして社会で通用するでしょうか。
 1年間かけてこのような提言しか出せないのであれば,もはや法科大学院制度は存続不可能であり,即刻廃止すべきですから,新たな検討組織についても構成員を大幅に入れ替えた上で,法科大学院制度廃止後の制度のあり方に関するものとすべきであり,上記のような事項に関する検討組織を設けるべきではありません。

骨子4:司法試験の短答式の科目を「憲法・民法・刑法」に削減
 反対します。
 旧試験でも短答式試験は憲民刑の3科目だったので別に差し支えないという意見もあるでしょうが,試験科目を3科目に絞れば,出題範囲が狭い分問題が過度に複雑なパズル問題に逆行するおそれがあります。また,最近の論文試験は難易度を下げるあまり「知識無視」に近い試験となってしまっており,それを補う意味での択一試験は,他の科目についても必要ではないかと思います。
 そもそも,現在の受験生が択一対策に重点を置かざるを得ないのは,論文試験と択一試験がまとめて行われるからであり,旧試験と同様択一試験合格者のみに論文試験を実施するものとすれば,択一の試験科目が現行のままでも択一重視の弊害はかなり改称されるのではないかと思います。

骨子5:司法試験の受験回数制限を「5年で3回」から「5年で5回」に緩和
 現状よりはマシなので特に反対はしませんが,そもそも受験回数制限は即時撤廃すべきです。

骨子6:・司法修習生に一定条件の下でアルバイトを許可
 無意味です。
 具体的には,「司法修習生が休日等を用いて行う法科大学院における学生指導をはじめとする教育活動により収入を得ることを認めることとする」という内容のようですが,旧試験時代の運用でも出身校における後輩の答案添削指導などは認められていましたし,兼業規制の緩和といっても特に目新しい内容ではありません。また,法科大学院における学生指導要員は既に若手弁護士で埋め尽くされており,わざわざ修習生を雇う需要があるとは思えませんから,経済的支援策としてもほとんど意味はないでしょう。
 司法修習生に安心して修習を受けさせるには,給費制の復活が不可欠です。もっとも,修了生の半数が法曹にならない事態もあり得る現行合格者数のままで給費制を復活させるのは国家予算の無駄遣いであり,合格者数を大幅に削減するか,あるいは司法修習を受けられるのは司法試験の成績上位者のみとすることが給費制復活の前提になると思いますが。

52 コメント

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Unknown (Unknown)
2013-06-22 01:30:21
的確な分析と批判には頭が下がるばかりです。
これだけの批判を、発表後直ちにできるのは、黒猫先生だけですね。これからも、ロー信者などのチンカスどものけち付けは無視してがんばってください!
すごい人ですね (信者になりました)
2013-06-22 01:34:32
すばらしい!
すべて同意です。説得的で文句のつけようがないです。
関係者各位 これが正論です。とくとご覧あれ。
Unknown (Unknown)
2013-06-22 09:44:55
>修了生の半数が法曹にならない事態もあり得る現行合格者数のままで給費制を復活させるのは国家予算の無駄遣いであり,

法科大学院への財政支援も無駄遣いですよね。本当に酷い。

Unknown (Unknown)
2013-06-22 10:52:24
概ね賛成です。
ただ、やはり私は下位ローの修了生の受験資格を剥奪には賛成しかねます。
教育力のなさによる責任を学生に押し付けるのはどうかと。やるならば、既に通っている学生の修了すれば受験資格だけは得られるはず、という信頼だけは保護されるようなやり方を望みます。
その他の点については、全て賛成です。
Unknown (Unknown)
2013-06-22 10:55:14
ブログニート弁護士への障害年金をカットすれば税金の無駄遣いも削減できますねw
Unknown (Unknown)
2013-06-22 11:18:14
> ブログニート弁護士への障害年金をカットすれば税金の無駄遣いも削減できますねw

障害者に対する侮辱も甚だしい!批判は言論の内容に対して行うべきで、内容に関しない社会的身分を貶める言論は不当だ。

貴様のような存在が差別という悪の根源なのだ。

表現の自由を享受できる資格のない、卑劣なお前、
失せろ!!!
Unknown (Unknown)
2013-06-22 11:25:43
 昔の司法試験は公平だったと思います。
たった数パーセントの合格可能性に青春のすべてを賭け挑戦するわけで、当然悲喜こもごものドラマがあり、そこに価値があったのです。
旧司法試験でいったい何の不都合があったというのでしょう?
20数パーセントも合格する試験で合格率低迷?
甘ったれるなといいたいですね。

 今の法科大学院制度は天下の愚策。
本末転倒の大失敗。
学生や司法試験受験生を置き去りにして、(一部を除いて)無能・無気力・無責任な法学部教員救済のための制度に成り下がっています。
 司法試験に受かっていない教員が多すぎるのも問題だと思います。例えば「法科大学院の教員の2割は司法試験合格者であること」という要件を課するだけで多くの法科大学院は自然淘汰されるでしょう。

 そこで、徒然なるまま顰に倣い思いつきで・・・

(司法試験制度私案.)
 ルートごとに司法試験合格者枠を設け、10年後を目途として合格者総数を概ね1500人以内とする。

 (初年度)
①法科大学院卒業者→概ね1800人(受験機会5回)
②予備試験合格者→概ね200人(受験機会制限なし)
但し、法科大学院在籍者及び修了後5年を経ない者には予備試験受験を認めない。

(次年度以降10年間)
①法科大学院の定員を全体で毎年100人程度削減し再編を促すとともに、法科大学院枠での合格者を毎年100人減らし、②の予備試験ルートでの合格者を毎年50人増やすことにより、全体の合格者数を逓減させる。
(10年後①800人②700人 合計1500人)

(10年後)
予備試験枠を廃止し、一切受験資格制限のない「旧司法試験」による合格者枠を復活させる。但し、法科大学院枠で司法試験受験を経験したものは5回の受験機会を行使した後でなければこの「旧司法試験」の受験を認めない。

 これなら法科大学院修了すれば8割~9割程度司法試験に合格するでしょうから、法科大学院入学時に医師国家試験並みの合格保証により進路がほぼ確保できる(ここでは弁護士過剰問題は合格者総数1500人で解消されると仮定)し、諸般の事情で法科大学院へ進学できなかった人にも司法試験受験の途が開かれると思います。
(弁護士過剰問題を解消するにはまだ合格者数が多すぎるかもしれませんが・・。)


 
Unknown (Unknown)
2013-06-22 12:10:38
>LS生を守れと主張する人の多くは,実際には無能なロー教授の職を守りたいだけなのです。

無能なロー教授でも実社会で仕事している分だけ、どこぞのニート弁護士よりはマシだと思います。


>黒猫は,現役LS生を保護すべきというすべての主張に反対するとともに,そのような主張をする人を「既得権に群がる国賊」として軽蔑します。

障害年金を貰いながらパパの金で悠々海外旅行を楽しむ誰かさんのほうがよほど既得権に群がる国賊だよね
感情論はやめましょう (白猫)
2013-06-22 12:30:04
はきちがえていませんか?
ニートの人は、お金をもらって講義をしたり、テストを出題するわけではありません。
また、黒猫先生はこれから法曹になろうとするのではなく既に資格を持っていらっしゃいます。

 パパのお金で旅行してどこが悪いのですか?
障害年金をもらっていたら旅行をしてはいけないという
法律があるのですか?お金もらっていながら、受験生
に迷惑をかける教授の方が問題でしょうが!
Unknown (Unknown)
2013-06-22 12:34:52
これからは、中下位合格者は予備試験に合格しないと採用してもらえなくなるので、
追加的に予備試験合格して箔をつけるようになります。
本試験の事前の試験ではなく、事後的追加的予備的試験になるかもしれません。