黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

『クレサラビジネス弁護士』に潜む罠

2010-03-22 00:25:26 | 弁護士業務
 最近、薬の効き具合が悪く、おかげでここ2週間ほど更新が滞ってしまいました。
 その間、黒猫が寝込んでいる間に日弁連会長選挙の再投票があり、宇都宮健児弁護士が次期会長に当選しました。弁護士業界で初めて実現した「政権交代」であり、これから日弁連のあり方がどう変わっていくか注目されるところです。

 ところで、宇都宮弁護士は、以前からクレジット・サラ金事件の権威として知られている人物で、現在のクレサラ弁護士業界にどういった態度で臨むかも注目される点と言えます。
 事情が分からない人のために一応説明しておくと、宇都宮弁護士は、従来お金にならない事件と思われてきた債務整理事件(自己破産・個人再生を含む)を、弁護士費用の分割払いや大量受任によって採算性の取れる業務に転換するという「大発明」をやり遂げたことで知られています。もっとも、宇都宮弁護士自身はあくまで多重債務者救済という使命感から業務を続けてきたのですが、こういった債務整理事件が意外とお金になることが分かると、一部の弁護士が大規模な借金整理の事務所を開業して成金にのし上がる例が続出し、俗に「(クレサラ)ビジネス弁護士」「バブル弁護士」などと呼ばれる人種を生み出すようになりました。
 なお、この種の弁護士は、そのネーミングからも察しは付くと思いますが、弁護士業界内部では白眼視されている例が多く、宇都宮弁護士もこのような弁護士のことを快く思っていないので、何らかの規制に乗り出すのではないかという憶測が最近流れています。

 黒猫個人としては、弁護士登録以来結構長くクレサラ事件を取り扱ってきたこともあり、クレサラ事件をビジネスとして取り扱う弁護士も、それなりの社会的存在意義はあると思っています。また、このような「クレサラビジネス弁護士」が、近時の司法改革で増えすぎた弁護士人口の受け皿として機能している現実を無視することも出来ないでしょう。
 ただ、大量の事務職員を雇用し、大量の債務整理事件を受任・処理してひたすら利益を追求するというビジネスモデルには、非常に危険な落とし穴が潜んでいることも忘れてはなりません。今回は、体調が悪いこともありあまり体系的にまとまったことは書けませんが、営利追求の「クレサラビジネス弁護士」が陥りやすい「罠」について、いくつか言及してみたいと思います。

1 過払いバブル崩壊後への対応
 現在、「クレサラビジネス弁護士」の主な収入源になっているのは、自己破産や個人再生の弁護士費用ではなく、貸金業者に対する過払い金返還請求の弁護士費用です。しかし、改正貸金業法の施行に伴い、過払い金の発生源となっていたグレーゾーン金利は姿を消し、将来的に過払い金返還請求事件が徐々に無くなっていくことは確定しています。
 そうなると、既存の「クレサラビジネス弁護士」は、事務所の事業規模を大幅に縮小するか、あるいは別のビジネスモデルを開発して新しい分野に参入していくしかないわけですが、もともと「クレサラ事件で手っ取り早く儲けよう」などと考える弁護士は、専門性の高い他の業務をこなせる高度な知識・経験など持っていないのが普通であり、しかも経営の専門家でもないので事業規模の縮小も円滑に行えるとは限りません。
 そうすると、数年後に迫った過払いバブル崩壊後は、現在テレビやラジオなどで頻繁に広告を出している「クレサラビジネス弁護士」の事務所の多くが経営破綻に追い込まれるのではないかという想像が、あまり深く考えなくても成り立つわけです。彼らが「バブル弁護士」などとも呼ばれるのは、おそらくそういった予想が根底にあるのでしょうが、仮に債務整理事務所を標榜する大手事務所が相次いで経営破綻するような事態に至った場合、問題はそこに務める弁護士や事務員、その事務所に事件を依頼していた依頼者との間とのものにとどまらず、弁護士業界全体に対する信用問題に発展しかねません。

2 減額報酬「ゼロ」に潜む罠
 話は変わりますが、事務所に債務整理事件(任意整理事件)を依頼した場合、利息制限法に基づく引き直し計算で債務額が減少した場合、その減少額の概ね10%を減額報酬として頂く、という慣行があります。利息制限法による引き直し計算は、業者から取引履歴の開示を受け、全取引履歴を計算ソフトに入力して残債務額を再計算する必要があり、しかも全取引履歴の開示になかなか応じない業者があったり、引き直し計算の結果について争いが生じたりする場合も少なくないので、これを無料でやることは事実上難しいのですが、最近の事務所の中には、この減額報酬を0円として広告を出しているところもあります。
 減額報酬0円となれば、それだけ依頼者にとって利益になりそうな話に見えますが、一生懸命利息制限法による引き直し計算をやっても事務所の利益につながらないということになると、次第に引き直し計算自体をさぼるようになり、ひどいケースでは引き直し計算自体をまったくやらないで業者と和解してしまう場合もあったりします。そして、そのように悪質な弁護士の締結した和解契約の効力が、後の裁判で問題になったりすることもあります。
 減額報酬0円という方針を打ち出した事務所の弁護士が、始めからそのような結果を予期しているのかどうかは分かりませんが、自分の功績につながらない仕事を事務員が一生懸命やることは通常期待できませんから、うっかり減額報酬0円などというシステムを作ってしまうと、自分でも知らないうちに「利息制限法による引き直し計算をやらない悪徳弁護士」というレッテルを貼られてしまうおそれがあるということです。
 もっとも、こういう方針の事務所だと過払い金の返還請求にも不熱心になるので、あまり収益を上げることが出来ず、現在でも数としてはこういう事務所は少ないと思います。むしろ、過払い金の報酬を不当に高く設定したりして、返還請求を依頼した過払い金の大半が戻ってこないと言ったトラブルが増えてきているというのが最近の傾向のようですが。

3 滞留事件の「管理」
 債務整理事件を大量に受任していると、弁護士がその全事件の進捗状況を逐次把握することは事実上不可能になるため、必然的に受任事件の管理は担当事務員にある程度任せざるを得なくなります。そして、その事務員の業績評価も兼ねて、事件を月に何件処理したか報告させることになるわけですが、これだけで満足していると、後にとんでもない事態を招くことになります。
 なぜなら、過大なノルマに苦しめられた事務員は、大抵処理しやすい事件から先に手を付けてノルマを達成しようとするので、何か問題が発生しているような事件の処理は必然的に後回しになってしまいます。そして、そのような事件の存在が明るみに出ると自分の評価が下がるので、弁護士にもそのような事件の存在は知らされず、気がつくとそのような事件は受任後2年間も3年間も放置される事態となり、最悪の場合、怒った依頼者から懲戒請求を起こされることになります。
 ちなみに、かつて黒猫が所属していた事務所のあの弁護士が懲戒処分を受けたのも、直接的にはこういった受任事件の放置が原因でした。もっとも、あの人の場合、晩年は精神に異常を来していて、とにかく事件を大量に受任すれば事務所は儲かると思い込み、その後の事件処理については全くといってよいほど関心を示しませんでした。そのため、事件処理の遅れは年々ひどくなり、事件処理を担当していた主立った事務員も次々と辞めてしまい、懲戒処分を受けた頃には目も当てられない状況になっていたようです。
 いちごの場合は極端なケースでしたが、事務員を大量に雇用しての業務ということになると、それに対する弁護士会の監督の仕方も変わらざるを得ないでしょう。現在、懲戒を受けた弁護士に対する倫理研修の受講の義務化が検討されているようですが、懲戒を受けた弁護士の事務所が大手クレサラ事務所の場合、事務員の監督に関するガイドラインなどを弁護士会で作成して、業務体制に対する適切な指導・監督などを行っていくことも将来的には必要になるのではないかと思います。

4 債務整理事件の「電話受任」
 北海道や九州、四国など、遠隔地に居住しているため東京まで出てこられない依頼者の事件受任は、仕方ないので電話受任ということになりがちですが、今のところ弁護士会の公式見解としては、電話受任は本当に弁護士が相談に出ているのかどうか分からないため非弁行為の疑いがあり、基本的に認められないということになっているようです。
 ただ、非弁行為の疑いがあると言われても、実際に弁護士が電話で相談を受け受任している限りは法律上問題はないわけですし、ゼロ・ワン地域と呼ばれる弁護士過疎の問題は徐々に解決に向かっているとは言え、未だに弁護士過疎の地域で債務整理に通じた弁護士を見つけることは困難な場合が多く、そう言った地域の依頼者を見捨てるわけにも行きませんから、電話受任の全面禁止には問題があると思います。
 もっとも、債務整理事件の電話受任には、他にも問題がないわけではなく、特に依頼者側にとって「弁護士に債務整理事件を依頼した」という意識が希薄となるため、受任後の新たな借り入れなど問題行動を起こす可能性が高くなります。そのため、可能な限りは事務所に来てもらって受任することを大原則にすべきことに変わりはありません。
 ここで、いちごに関わる馬鹿話をもう1つご披露することになりますが、いちごのあの弁護士は、インターネットのチャットルームを使った法律相談で事件を受任する「チャット受任」を多用していました。チャットを使えば相談の記録が残るからと言うことでしたが、電話受任以上に誰が相談に応じているのか分からないという問題がある上に、チャットでは会話の能率が極めて低いため、普通なら30分もかからないような相談が2時間以上もかかり、相談料も21,000円取るなどと言うことが平然と行われていました。債務整理事件に関しては初回相談料を無料としている事務所が多くなっている中で、あんなぼったくりがよく通用していたものと思いますが、結果論としてあの事務所が潰れたのは、あるいは歴史の必然だったのかもしれません。もっとも、あの人が命まで失うことになるとは想像もしていませんでしたが。

5 コメント

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対立激化 (オットセイ)
2010-03-25 19:56:54
大手債務整理事務所が倒産することはないでしょう。引き際を知っているからです。

今や事務員の大半を派遣にしているようです。

派遣切りは起きるでしょうけど、弁護士の雇用を維持できる程度の一般事件は受けていると思われます。

規制に関しては、営業の自由、表現の自由、独占禁止法、などアメリカでは散々戦われて憲法上規制には厳しい制約がかかることが明らかにされています。表現の自由に関しては日米憲法はほぼ同じですから、ここで変な規制をしようとすれば日弁連のほうが返り討ちに遭いかねないと思います。

もともと日本の弁護士界は閉鎖的として批判されているわけで、規制をしようとする日弁連と自由に債務者救済をしようとする大手債務整理事務所が本気で衝突すれば、日弁連という組織そのものをも危機に陥れる可能性もあります。

大手債務整理を単なる金もうけ主義とみるのは間違いで、市場原理こそが良いサービスを提供して人々を救うと信じている人たちの集団ですから、左派系のグループとは信念が真っ向から衝突します。信念と信念の衝突ほど恐ろしいものはありません。ついこの間まで日本の主流だった新自由主義を甘く見てはいけません。

さらには、今や大手の真似をしている中小事務所も多いので、変な規制をかけようとすれば日弁連は内部からの激しい突き上げに遭うことになるでしょう。

ちなみに、クレサラという言い方は左翼用語です。クレジット・サラ金の略でしょうけど、サラ金はともかくクレジットカードなんてみんな使うわけで、それを否定するのは資本主義の否定です。気持ちの悪い言葉ですね。
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Unknown (Unknown)
2010-03-27 08:56:59
ハムスターを飼っていた、あの御仁も天国で苦笑されていることでしょう。

ぼくも大手事務所はつぶれないと思います。適宜縮小していけばいいからです。
過払いなんか、もうあまり取れなくなってきていて、今年中に総じて5割を割るでしょう。
このような状況を肌で感じているので、いまは受任を絞り、完済後のボロ業者案件は門前払いでしょう。
ネオライン系の息の根を止めるとか、勇猛果敢な弁護士に期待します。
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Unknown (Unknown)
2010-03-29 21:25:21
事業縮小に失敗して従業員とトラブルになるケースはこれから多発するかもしれませんね。到底口外できないような内部情報を持っている元従業員がこの手の事務所の弁護士に致命傷を負わせることも可能です。前門に依頼者のクレーム、背後からは元従業員に刃を突きつけられて前途多難ですよ、彼らは(笑)。派遣をつなぎに使えば非常に費用がかかる。例え上手く縮小出来てもまともに事件処理の経験のない弁護士に一体誰がどのつてで依頼するのか、今後が見ものです。また広告でもうつのかな(笑)。
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Unknown (Unknown)
2010-04-08 17:00:47
みら○おとか、
「債務整理のお客様が次に
 交通事故や相続の相談へ 」というテレビCM流してますね。

一定有効なんでしょうけど
でも、客層が違うような気も・・・
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Unknown (通りすがり)
2010-04-09 15:29:02
事業の縮小は拡大より数段面倒くさいので
適当なところで足抜けするんじゃないですかね
下っ端は一時でも上に立ちたいでしょうし
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