tamiのブログ

このブログ・・・妄想ー空想大好きな私が、勝手に楽しんで・・・勝手に文字にしています。ボロボロですが(笑)

Precious -2

2023-08-30 00:24:02 | Precious



部屋へ案内され・・・・
『すみません(笑)、ガウンしかなくて・・・我慢して貰えますか?』
『だ、大丈夫です』

『よければ、それを。それから洗濯するなら・・・使い方は・・・』
『(笑)出来る。使わせて貰うが』
『どーぞ(笑)、全て見える場所に揃ってるはずなので・・・』

大丈夫だろうと言ってみたが苦笑いしつつ頷いていた2人だった・・・取り合えず物の在りかを言いながら説明した。


ホテルのようで苦笑いしかない・・・脱衣する場所の扉も別であり広さも十分にあった。

脱いで直ぐに洗えるスペースの便利さは羨ましくなった。

ツインのベッド回りにはサイドテーブル以外に小さな冷蔵庫があり、持たされた飲み物やツマミをしまった。

ベッドの足元にあるソファーに座ればテレビも楽しめた。

二重の窓ではあるが、窓と窓の間のスペースには洗濯物を干せる広さもあって驚きは通り越す。

この客室だろう部屋は普通のマンションのようで驚いた・・・家でもないと分かるのはキッチンがないだけだ・・・あえて言うなら。

泊めて貰うにも豪華すぎて戸惑ってしまう・・・それでも部屋から出なくて済む事はホッとした。


変に緊張もしてしまう・・・静かにしてみれば大型犬だからか走る足音もあった。

眠気も来ないと静かに2人で話していたが・・・
『クロウ(笑)、ウィンを下へ』

彼女の声が近くて驚いた・・・短く返事をしたような鳴き声はウィンという名の犬を追いたてたようだ。

『(笑)サン!見張りは必要ない。下へ行きなさい(笑)・・・フラワ・・・(笑)大丈夫だから・・・』

2人で見あい想像する・・・苦笑いしつつベッドへ寝そべった。

彼女が走る・・・そう聞こえた足音がした・・・

『(笑)俺らのせいで寝れないんだろうな・・・犬達は』
『な(笑)・・・知らない俺達に安心も出来ないんだろ・・・彼女を守ってるようだったし(笑)』

『にしても大型犬は迫力あるな(笑)』
『海外の犬種なんだろうな・・・』
『彼女・・・本当に飼い主だと思うか?』

『5頭も?』
『いくら好きでも(笑)ほどがあるよな』
『・・・そこまで』
『ん?』

『(笑)どこまで気にする?』
女性へ深く気にする事もなかったハルトの数多い呟きに口を引く・・・

『・・・(笑)この感じ・・・昔みたぞ?』
『・・・(笑)なにがだ?』

『むかーしの事だ(笑)。前の時と似た感じで気になってったぞ?(笑)』
『・・・ん?』
『(笑)好きの始まり』

『・・・違うと思うぞ?5頭の世話が凄いって思っただけだし』
『・・・へぇ(笑)』
『・・・違うと思う』

『ん(笑)・・・・寝ようぜ』
『イツキ・・・』
『(笑)詮索して悪かった』
『・・・』

互いに見あい苦笑いをする・・・違うと自分を見たハルトに寝ろと促せば、また呟き・・・苦笑いをしつつも頷けば、良しと眠り始める。

笑えると静かに笑み目を閉じたハルトを眺めた。



始まりは緩やかで、いつも言動から始まる彼の恋は 自身でも気付かない事に苦笑いだ。

仲間内で誰かが気付き声にしてまで教えるのに、違うと否定しハルトは気付かない。

戻れない状態まで思いを貯めていき本人が気づいた瞬間、自分が激しく落ちたと戸惑う。

思いが叶えば楽になるが、既に遅く誰かへ取られたとグッと耐えるハルトも知る・・・落ち着くまでが大変だった。

ひたすら想う・・・知り合いから友達という近さになるまで早いのに、そこから先へ進まない。

好きな気持ちを大事に温める・・・自分の気持ちを沈め相手を優先していく。

どこまでも尽くすが実る事も少ないのがハルトだった・・・相手が幸せなら・・・その言葉で尽くす。

落ちたハルトの時はギリギリで、仕事にならない状態は数日かかる・・・辛く悲しい恋は堪える・・・だから始まりはと教える。

吹っ切れた頃に言えば、そうなのかと聞いていたハルトが呟くが始まる頃に覚えてもいず皆も黙った。

気にし始める思いが始まりイツキがハルトを眺めた・・・数回言って止まる事もある。

今回はと考える・・・数年前に激しく落ちた・・・その彼女はハルトの気持ちを利用した。

尽くし励まし、彼女の夢を応援し助けてもいた・・・成功という始まりが見えた頃に、彼女は簡単にハルトを切り捨てた・・・たった1本の電話で・・・そして短い言葉で。

だから簡単にはいかないハルトの気持ちを皆で見守る・・・仕事でのハルトとは正反対でもある。

決断もタイミングさえ鋭い・・・気持ちも素早く切り替え出来る仕事は自ら探し手を尽くす。

なのにだ・・・自分の事になると気持ちが鈍る・・・直ぐに切り替えたと思えば相手の先を優先していた。

自分が辛くなるのに、相手の笑顔がハルトの先を決める・・・その辛そうな日々に落ちないよう皆で止める事が増えていた。

そして・・・キャンプに来てからのハルトの言動に直ぐに気付いた・・・何とかしようとまで声にする。

皆で気付いた事で彼女を見つければ考えた・・・ハルトへの言動はと・・・それでも話をする機会は少なかった。

観察しようもないと投げたサクもいたが確かに会話を楽しむ時間は出来なかった。

縁はないと言い切るカズサにイツキは見守る事にすると促したが、二人で話す事もなく見掛けただけ。

本当に縁はないのかと苦笑いしかない・・・ハルトが彼女に会えば、気になる事は呟く・・・その様子で見比べてもいた。

偶然、会えた・・・そして偶然にも彼女のテリトリーへ入れた・・・入れたが多くの会話は出来なかった。

今回は、これで良しとする・・・知り合えた事で切欠は出来たから、何よりハルトがそう思ってくれたらだが。

そう思えば苦笑いだ・・・始まってもいない・・・もっと前・・・見かけただけの状態だから。

なのに、次へ繋げたと錯覚し考えてしまった・・・今のハルトはと、眺めれば穏やかな笑みで眠っていた姿に苦笑いをした。



翌朝・・・

犬が激しく吠えていて目覚めた・・・その鳴き声は数頭のようで、驚きながら体を起こし二人で見あった。

窓から眺めれば、それぞれに鉄柵の近場へ駆け寄り 外側へ威嚇しては吠え唸っては睨んでいた気がした。

何だと眺めるイツキ・・・寝惚けていて頭が冴えない・・・暫く眺めた。


部屋のドアからノックされた音に気付いたハルトは飛び起きて勢い良く開けば、驚いた顔でハルトを見ていた彼女がいた。

ノックしていた手は下ろされずだった・・・

『驚かせて・・・』
『いえ・・・起こしてすみません』
『外・・・の・・・』

『すみませんが暫くキャンプ場へ戻れません・・・大丈夫ですか?今日、帰る予定でしたか?』

『・・・』
『くっ!熊?あれ・・・ハル・・・ハルト(笑)すげーぞ・・・』

ずっと外を眺めていたが、不意に驚いた声で呟いたイツキが振り向いた・・・

『あの・・・』
外の状況に驚いたイツキの呟きに、すまなそうに彼女が見返した。

『熊?野生の?』
『はい・・・すみません。数日前から挑みに来てて・・・』
『敷地は・・・あ、君の犬は大丈夫なのか?・・・』

『入り込む事はないです(笑)、対策はしてるので・・・』
『二重の柵は、この為に?』
『(笑)・・・』
『残り3日で帰る予定にしてたから大丈夫だ』

『安心して貰えるよう連絡しますね(笑)。2階へあげませんから自由にしてください。
奥に予備のキッチンがあります。食材も置きましたから(笑)』

『(笑)セルフ』
『はい(笑)』
『あの・・・』
『はい』

『君の自由な時間はあった?』
『・・・』
『話を・・・』
『・・・昼過ぎなら時間はたぶん取れそうです』

『・・・』
『(笑)あの子達が落ち着けばですが』
『『・・・』』

一段と激しく吠え出した鳴き声に苦笑いをした彼女は自分の返事は待たず謝りながら行ってしまった。


慌て外を眺める・・・牙を剥き出し睨み付けては吠える・・・怒りは獰猛さを増す・・・

仁王立ちし鉄柵へ手をついていた熊が、吠えられた拍子に激しく驚き後ろへ転げた・・・それでも素早く飛び起きて見返した。

暫くは行ったり来たりと彷徨くように歩く姿に驚いた・・・不思議とイラついた姿は人間の行動のように見え怖さは消えた。

何処から襲うかと・・・睨み狙える場所を探しているようにも見える。

その間に犬達は落ち着きを取り戻してきた気がした・・・一番近くにいた焦げ茶色の犬は、睨み付けては熊を眺めつつ家へ戻り出した。

見合えば吠えるが戻りながらだ・・・帰れと脅しているような犬達にも見える。

本当に暫くして諦めたのか静かに、立ち去っていく・・・これが自然という場所だったと改めて思えた。



興奮は覚めないのだろう犬達の荒さは2階にまで感じ取れた・・・興奮したままに彷徨く・・・

不意に自分達の姿を見せないよう気をつけて、取り合えず静かにドアを閉めた。

彼女の声もない・・・何の音かは分からないが、時おりガタンと響く音は気になった。

それが繰り返されていたが、扉を開いているような音がした・・・吠えた鳴き声は少しずつしなくなる。

庭へ駆け出し去った方をジッと様子を伺うよう眺めていた犬・・・そこへ彼女が歩いていく。

その後ろを黒毛の犬が着いて行ったようだ・・・落ち着かせているのだろう優しく撫でては様子を見ていた彼女。

抱くように腕の中へ寄せれば彼女の肩へ顔を乗せ背を撫でられていて気持ちよさげにジッとしていた。

真っ白な犬が静かに寄り添う・・・そして1頭ずつ近寄って来ていた姿に凄いと眺めた。


野生の熊だったと驚いた・・・立ち上がった高さにも・・・あの鉄柵を簡単に乗り越えそうだと怖くもなった。

熊が大きかったから直ぐに、不味いかとドキドキし始めた・・・こんな自分にも苦笑いだけだった。

慣れなのか恐れもなく吠える犬達にも驚いた・・・山奥という場所だから当たり前ではあるが、自然の怖さを改めて身に感じた。

笑みながらジッと見つめるハルトの姿に気付き様子を眺めるイツキだった・・・ならばと静かに窓を開け放つ。

その瞬間、犬達が自分へ視線を向けた事に驚いた・・・離れているのに、しかも2階で静かに開けた。

聞こえたのかと驚き離れているのに身構えてしまった・・・逆にハルトは凄いと呟き自分と彼女達を交互に眺め笑っていた。

照れたような笑みに変えたハルトに呆れてしまった・・・自分と目があい、驚いたようだが苦笑いにかえバスルームへと行ってしまった。

恥ずかしかった・・・朝から彼女を見ていた自分・・・目があい嬉しくなった気もしたが恥ずかしくて照れてしまう。

そばにいた犬へ目を向け彼女から視線を外したが直ぐに彼女を見つめてしまった。

気付いたのか彼女が笑った気がして恥ずかしくなった・・・慌てイツキを見たが自分を見ていて驚いた。

バレた事に苦笑いだ・・・へんな汗が出てきそうでバスルームへと逃げるハルトだった。


軽く食事をしていれば・・・笑みながら彼女がやって来た。

『すみません(笑)朝から』
『『大丈夫でした・・・』』
『・・・(笑)』
『世話になった(笑)ありがとう』

『何もしてませんし(笑)。それより、明日の朝に管理人の一人が迎えに来てくれます。
もう少しだけ(笑)我慢して貰えますか?』

『面倒をかけて本当に・・・』
『こちらこそ(笑)すみません、せっかくのキャンプを台無しにさせました』

『『いい(笑)』いいんだ。野生の熊まで見れたし』
『・・・』
『あ、言い方が不味いか・・・』
『・・・』

『次に来るなら、奥へ入る事は止めて下さい』
『ここを知ったし(笑)避難させて貰えるなら』

『・・・(笑)構いませんけど、留守がちなので・・・』
『ここに住んでない?』
『おい・・・』

『・・・(笑)ここにも住んでます』
『・・・』
『(笑)本来は私有地なので・・・』
『あー・・・』

そうかと唸るハルト・・・細かく聞くなと慌てるイツキだった。

『さっき、そこのコーナーの』
『(笑)友達が暇潰しに持って来るので・・・』
『好みが(笑)広いな』

『(笑)漫画本もありましたよ?』
『見ても?』
『どーぞ。(笑)階段は上がれないよう閉じました。ゆっくりと』

『・・・すまない。(笑)ありがとう』
『(笑)あの子達は入れませんから大丈夫です』
『『・・・(笑)』』

念を押すように呟き彼女は下へとおりていった。


苦笑いだ・・・ペットという犬に怖いとは思わなかった自分達・・・その大きさに驚いただけだが、確かに今回の怖さは残っていた。

だから気にするなと彼女は自分達を安心させようと言ってくれたのだと思えた。

彼女が行って直ぐに何かをした音がした・・・キッチンを片付け部屋へ戻る間に見えたモノに驚いた。

外の鉄柵のようで笑えた・・・それは木材で出来てはいたが檻のようだったから。

それは天井まであり2階と区切られていた・・・犬のジャンプ力をもってしても無駄だという作り。

その隙間さえ頭も入らない・・・壁のように隙間がなければ閉じ込められた気もしてくる。

隙間があるから変にホッとする事には驚きしかない・・・かけ上がってくるが犬達は自分達を眺める事もない。

たんに遊び場のように上がっては駆け下りて行った・・・

ふと風が入り込んで来る・・・そっと下を覗けば、ガラス張りの壁ではなく扉だったようだ。

端へ纏められたガラス戸が折り畳まれ特殊な扉だった・・・中と外を一体化していて、開放された場所から犬達は出入りしていた。

部屋へ戻り庭を眺める・・・珈琲を飲みながら来たイツキも眺めながらも寛ぎ始めた。

キャンプでもない寛ぎ・・・バカンスに来た気分で浸ろうとイツキと笑むハルトだった。













Precious -1

2023-08-29 00:02:33 | Precious



久しぶりに皆で楽しむ・・・

『(笑)お前がキャンプとはな』
『・・・来てみたかったんだ!』
『キャンプ場にしては不便過ぎるっ』

『(笑)便利なキャンプ場は楽しくない』
『・・・へぇ』
『向こうのコテージが満杯で借りられなかっただけだ・・・』
『・・・』

それぞれに楽し気に話しては居場所を確保していく親友達の姿に 笑いながら手を動かせと促すハルトだった。


イツキが同僚に連れられキャンプを体験してから、仲間内で誘い始め今は皆で来るまでになった。

面白いとカズサさえ交ざり、今は皆で月一というイベントになりつつある事はハルトが喜んだ。

少しずつ本格的になり、全てに自分達だけでしようとキャンプに来たのだが 悩んだ藤川の一声で観光地にあるライフというキャンプ場に決まった。

このライフという敷地は広大で、川も流れていて・・・そのままの自然が残されている場所だった。

観光地とはいえ中心部からは離れた場所にあり管理はされているが全てに自分達で賄う等、色々なルールがある。

そこはキャンプが出来る敷地があり、準備されているのは薪、そして管理者がいる事で風呂とトイレ等の共用施設は完備していた。

テントでの寝泊まり以外に、ライフの入り口付近にコテージが数棟あり利用も出来た。

温泉地とはいえ自然に涌き出た場所に岩で作られた露天風呂以外にシャワー付きの浴室 この2タイプがある。

これらは管理者の勤務する管理棟にトイレと一緒に設置されていた・・・その管理者がいるキャンプ場がいいと呟くアサヒが探した場所でもあった。

グループで来て、それぞれに過ごす・・・キャンプで使う全てを持参して自分達だけでする事も出来るのだ。

備品は予約時に連絡すれば借りられた・・・当然ながら車も近場へ置けるほどに広々とした敷地で、利用料さえ払えば個々に楽しめる場所だっだ。


やっと休めると皆が寛ぐ・・・火をおこし薪をくべ湯を沸かせば珈琲だとサクが作り皆へ配る。

食料は車で10分ほどの場所に大型のスーパーはあり、キャンプ場で過ごす人達が足りない食材はそこで調達できた。

自分達は初めから買い込み来ていた事で飲みながら調理も始め楽しんだ。

ハルト、イツキ、サクの3人が一番多くキャンプを楽しんでいた・・・残る仲間達もキャンプは嫌いではない。

不便だから・・・面倒なだけで・・・そう言いつつ一番苦手なカズサが参加する・・・

自然が好きなハルト、静かな空間が好きで参加するイツキやサク・・・それぞれの時間を楽しむ。


キャンピングカーで来ているグループが近場にいた・・・テントで寛ぐ自分達と比べ、車で過ごす人達に羨ましくなった藤川の呟きに笑うしかない。

車内で寝たいと静かに囁く事で可笑しかったが・・・逆に個室をやると専用に新たなテントが出れば、回りの人達から羨ましがられ 照れた藤川に気付けば静かに皆で笑った。


久しぶりに早く目覚めたイツキがテントを出たが、それに気付いたサクまで出てきた事にハルトが苦笑いをした。

『・・・(笑)あまりに静か過ぎてさ』
『な(笑)、俺もだ。ハルトが起きた音で目が覚めたし』
火を眺めながら二人で話をした。

『・・・ハル?』
急に黙ったハルトに何だと呼んだが、ハルトが何処かを眺めていた。
『ハルト?どうした?』

『・・・(笑)早起きは俺達だけじゃなかった』
『・・・(笑)』
そうなのかと笑み返したイツキも、ハルトが見ていた方へ視線を流した。

『・・・女性だな(笑)』
『(笑)な、ペットを連れて来てるみたいだ・・・大きいよな(笑)あの犬・・・』
『いいな(笑)・・・すげぇ・・・』

飼い主と遊んでいた様子を眺めていた二人・・・そして、一頭から数頭に増えていく様子に驚いた。

仲間が増えれば楽しいのだろう大型犬の群れに驚く・・・駆け出しては戻り飛び跳ねる・・・じゃれ合う様子を眺めた。

見ていた自分達に気づいた一頭が こっちへ走り出し思わず焦った・・・変な怖さにドキンと自分の中で響く・・・距離も縮んでくる・・・

『ヤバいか?』
思わずだろうサクの呟きに答えられず見返していたが、自分達の方へ走り来る犬に目が離せなかった。

『フィン!』
飼い主だろう声が響く・・・それでも止まらなかったが走るスピードは遅くなりホッとした。

不意に止まり飼い主がいるのだろう方へ振り向く・・・残る犬達が駆け寄る事で余計に驚いてしまう。

また・・・一斉に振り向いた姿に飼い主へ視線を向けたが数頭もの犬達が静かに地へふせた。

自分達がいるココへ飼い主だろう人が歩いてくる・・・被っていたパーカーのフードを外しながら犬達の近場へ佇んだ。

『驚かせてすみませんでした』
『・・・』
『・・・お二人が走って逃げず(笑)助かりました』

『は、走った・・・ら?』
『遊んでくれると(笑)勘違いして皆で追い掛けたかもしれません・・・』
『『・・・』』

『(笑)滅多にないので・・・では失礼します』
『あの・・・』
『はい?』

『犬の・・・リード・・・』
『(笑)敷地内だったので。気を付けますね・・・』

笑み返し会釈した女性が、首へかけていた何かを口へ運び戻っていった姿を眺める二人だった。

彼女が近付けばスッと立ち上がる・・・通りすぎれば後へ着くように歩きだした。

それでも見ている自分達が気になるのか確認するように振り向く犬もいて苦笑いだった。

また一頭が楽し気に はしゃぎ出す様子を眺めた・・・彼女がリードだろう紐を見せれば直ぐ静かに歩き出す事には驚いた。

思い思いに歩くのに列をなす・・・それを乱す事なく帰っていく・・・それぞれに散歩しているようで面白かった。



ここは広大な敷地だった事に驚き皆で眺める・・・これはキャンプ場だけでもない場所と気付いた。

管理人から聞いて、その山へ登ってみた・・・それほど高くもないと言われたから。

管理はされている登山道と分かる・・・道もだが、木々までも整備されていて綺麗だった。

ようやく頂上につけば、見晴らしが良い場所に柵はあり敷地内を眺められるようだった。

少し向こう・・・岩肌が剥き出した小高い山・・・山々の間には草原があり、そこは道のように川は流れ自然という場所だと改めて意識させられた。

所々に遊歩道のように板が敷かれた小道が見える・・・その先は森で見えなかったが不思議と何処へ繋がるのだと眺めた。

遥か向こうから、その道を歩く2頭の犬が現れた・・・飼い主はいず放されているのか、抜け出したのかと考えた自分に苦笑いをした。

戻ろうと声をかけたカズサに笑み皆で下る・・・聳える木々の間から溢れる光りも幻想的でハルトは気分も穏やかになった。

散歩のように皆でのんびりと歩いていたが・・・不意に小道へ現れた大きな犬に驚いた。

獣かとドキドキしてくる自分・・・犬だと呟くアサヒに皆でホッとしたが、大型犬なだけに驚き身構えてしまう。

自分達に気付き見返されれば、睨まれた蛙のようで苦笑いだ・・・

『走って逃げたら(笑)遊びになるからって聞いたから・・・走るな!』
『野良?ヤバいか?』
『・・・飼われてる?』

『たぶん同じ犬だと思うが・・・』
『(笑)が?』
『前に見た時は数頭いたが、同じかはな・・・』

『物凄く(笑)威圧されてる気がする』
『(笑)確かに』

不意にザッと小さな何かが横切った・・・数頭の犬の反応も早く追い掛け森の中へ行ってしまった。

新たに現れた人と目があった・・・その間に二頭の犬が通り過ぎた事に驚いた。

『・・・見ました?』
自分達へ声をかけた人・・・聞き覚えがあり前に会った彼女だと直ぐに気付き指を指しながら頷いた。

『サン!』
不意に声にした事で彼女と一緒にいた一頭の犬が駆け出した・・・
『ありがとうございました』

礼だと呟く彼女がペダルへ足を乗せた・・・普通に見る型の自転車でもない事は気付いた。

それは何だと近づくハルトに、彼女の近場にいた犬が唸りジッと睨まれれば身が固まった。

威嚇するような唸り・・・鋭い牙を剥き出しに自分達へ唸る・・・彼女もまた来るなと手をだし自分達の歩みを止めた。

『この子達へ近付く事は止めて貰えますか?』
『キャンプに・・・』

『この子達のテリトリーですが皆さんへ貸し出してます、その代金で食べさせてもいます。
利用前に聞いていませんか?』

『・・・』
『すまない。細かく読んでなかった・・・』

『・・・今日も泊まるなら、火は消さずテントからも出ない方が安全です。気をつけて』
『待ってくれ!』

行こうとした彼女を慌て引き止めたアサヒに何だと見返す彼女だった。

『その安全の・・・』
『管理人に聞いて下さい!』

理由を知りたくて聞いたが、彼女は会釈し直ぐに行ってしまった・・・が、動かずにいた一頭の犬が自分達の様子を伺うように眺めていて驚いた。

それは追うなと言いたげなのかも分からない・・・不思議と自分達を確認しているようで変に笑えてしまう。

『クロウ!』
森の中で叫ばれた声・・・最後までいた黒い犬は素早く駆け出し居なくなった。


『あれが名前か?』
『(笑)知るわけないだろ』
『な(笑)』

だよなと笑うイツキと笑いながらも歩き出す皆・・・彼女と数頭の犬が入って行った方を眺めながらもテントがあるキャンプ場へと戻るのだった。



木立の中を自転車に乗った彼女が通る・・・驚いた事にリードを着け 焦げ茶色と黒毛の犬が自転車を引いていた。

本当に引いているのかは分からないが、そう見えた・・・自分達の場所から離れた木立の中で。

少し傾斜した場所・・・その木立の中に小道はあり、細い丸太の杭は小道を教えるラインのように打たれていた。

遥か先へ伸びた小道・・・何処から何処へと思うが、知らないだけに確かめに行く事は止めていた。


いつの間にか見えなくなった・・・暫くして自分達がいるキャンプ場裏の道を走っていた姿に、道は繋がっていたのだと知った。

眺めていたが、管理人がいた場所に自転車を停め何処かへ行ってしまった・・・残念だと口を引く。

ダッシュしていく白い犬・・・風のように駆け抜け見えなくなったが、リードは着いていなかったと気付き驚いた。

それでも彼女を追い掛けたのだろうと思う事にして皆が居る場所にハルトは戻るのだった。



小さな小川が流れる場所があり暫く柔らかに流れる音を 聞いていたハルト・・・隣でイツキは画に残したくてビデオを撮っていた・・・

先へ流れる小川は森の中から伸びていた・・・緑豊かでもあるが、色んな色を魅せる様子は落ち着く。

不意に現れた白に茶色の模様がある犬・・・クリーム色をした犬と川へ飛び込み遊んでいる姿が見え驚いた。

飼い犬というより野性的だったからだが、滅多に見ない犬種で自分が見た大型犬よりも大きい気がした。

顔まで川の中へ沈ませては水をきる様子を眺めた・・・新たに来た白い犬・・・川で遊んでいる2頭を眺め一声吠えた。

その様子に可笑しくなる・・・勝手な自分の想像で笑ってしまったから。

『・・・(笑)どした?何が面白かったんだ?』
『(笑)・・・動物の言葉は知らないが、勝手にセリフを想像してたから自分に可笑しくなった』
イツキに聞かれハルトが答えた・・・

『(笑)なんて?』
『遊んでないで来い(笑)とか・・・お前らガキだな・・・(笑)とか』
『・・・(笑)』

『風邪引くぞ(笑)とか』
『そー(笑)見えたわけだ』
『(笑)ん・・・』

そうかと笑み返したイツキも眺めていれば、遊びは飽きたのか 川からでた2頭は のんびり歩きだした。

散歩のように歩く・・・何かを観察するように辺りを眺めては歩いて行った。

不思議と楽しくて後をついていく・・・ゆっくりと進むからか、自分達まで散歩のように歩けた。

面白くなったイツキもまたビデオで撮り始めた・・・森へ続く小道を通る・・・そこは木洩れ日が葉の隙間から溢れ幻想的だった。

倒木に生えた苔さえ鮮やかで綺麗に映る・・・仕事と撮影している気までしてくる事も可笑しかった。


急に走り出した犬達に驚いてしまった・・・何が起きたのかとまで考えてしまう。

走る姿も撮りたくてイツキが足を早めたが、脇道はあったのかふいに現れた黒い犬に驚き身構えた。

『おっ!』『うわっ!』
あまりにも急に出てきたので獣かと自分達の心臓が飛び跳ねた気までした。

心臓の音が激しくて耳の中で渦巻くように鳴り響いている気までしてくる。

黒い犬は自分達へ威嚇している様子はない・・・人なら睨むのだろうが、ただジッと見返していた。

『あ・・・後を追うな?』
『・・・たぶん。俺もそんな気はする・・・』
そっと身を立たせた自分が可笑しくなる・・・

『今度はなんだ・・・この状況で何で笑える?何を想像した?』
『・・・(笑)謝りそうだった』
『・・・ん?』

『すみません・・・(笑)って、不審者でもないとか犬に言いそうになったんだ』

『いま?』
『(笑)いま。どう言うかと考えたし』
『・・・』

イツキと二人で間合いかと考え少し離れれば、自分を観察していた犬はハルトを見始めた。

『ご・・・ごめん・・・。君に悪戯はしない』
『・・・(笑)ふっ』

思わずだろうイツキの呟き・・・ジッと聞いていたハルトは、その言葉が可笑しくて笑った。


1頭だけが戻らない・・・何へ警戒していて戻らないのだろうと探しに出れば変な違和感を感じ耳を澄ませた。

笑い声がして驚いた・・・この辺で誰か人の声を聞くのは初めてだったから。

行ってみれば何処かへ視線を向け動かないクロウの姿が見えた・・・辺りの木々は連なり自分からは見えない。

何だと近寄れば誰かと見合っていたようだった・・・自分にも気付いたクロウが少し視線を寄越したが直ぐに見返した。

確かに見た事はあるのだろう人達と気付いたが威嚇せず様子を伺うように眺めていた。

『ここには、どうやって?』
『『・・・』』
新たな声に驚き誰だと探せば女性で驚いた・・・

『じきに陽が暮れますけど・・・真っ暗な中で歩けますか?』
『・・・えっ』『あ?・・・』

この明るさでかと驚いた2人は空や辺りを眺め始め・・・これは知らないで来たのだと苦笑いしかない。

『道なりに1時間ほどで戻れますが・・・大丈夫ですよね?』
『いち・・・』
『川に気を付ければ・・・』

歩けると・・・帰れると言ってみたが、まだ驚いたままで彼女の言葉さえ聞いていない気がした。

『・・・・そんなに遠いですか?』
『普通に歩ければ1時間・・・』
驚いた顔で聞かれ、また言ってみたが動こうともせず空だけ見ていた。

『・・・よければ泊まりますか?慣れてないなら危険なので』
『何処まで危険ですか?』

『・・・怪我をしたら獣が集まるとか、川へ落ちたら溺れるとか』
『・・・』
『そんなに深くは』

なかったと思い出しながら言ってみたが・・・ふと気付いた、小川の前に少し広めの川はあり丸太の橋も最初に渡った事を思い出した。

だから直ぐに見返し頼もうと彼女を眺めた。
『すみません。ありがとうございます。迷惑かけますが世話になっても構いませんか?』
『・・・どうぞ・・・』


礼をした2人は彼女と黒い犬の後を着いて行く・・・チラチラと見返す犬に苦笑いだ。

ピタッと彼女の隣をキープするように歩く・・・不思議と人のように行動している気がして笑みが溢れる。

何より想像豊かな自分に驚き、観察しては変に納得してしまう自分にも可笑しくて楽しくもなった。

吠えない・・・何より飼い主の言動で判断している賢さが目で分かり驚いた。

その忠実さは犬だからかと思えてしまう・・・なにより訓練している犬だったのかと眺めながら歩いた。


ついたのだろう場所の造りに驚いてしまった・・・檻のように囲まれた奥に煉瓦造りの家が建っていた。

よくある柵の替わりに張り巡らせていたのは鉄柵・・・1本1本は太く結構な高さもあり頑丈そうな作りで驚いた。

辺りの木々は多く庭という場所へ木陰さえ作るほどに聳えた木々もあった。

敷地へ入ればガチャンという重い音が響く・・・その敷地の庭というのか、その場所から家屋まで 芝なのか草花なのか一面に敷き詰められていた。

中へと歩く・・・その間は庭を眺めた・・・少し歩けば素早く数頭の犬が家屋から飛び出して来た事に驚き身構えてしまった。

『ストップ!』
彼女が叫べば走る事も止め彼女を一斉に眺め始めた事に驚く・・・彼女だけをジッと見ていた。

ふと・・・彼女が振り向き自分達へ呟いた。
『朝まで部屋から出ないで貰えますか?』
『・・・』

『バストイレは部屋にあります。ここは・・・この子達の家でもあり』
『彷徨く・・・』

『はい(笑)。自由にさせてます。私が案内しているので今も襲う事はありませんが、夜中に2人が部屋から出た場合・・・どうでるか分からないので』

『・・・』
『顔見知りは数人・・・その友達でも部屋から出しません。なので、この家の』
『ルール?』

『はい。まずは夕飯ですが・・・』
『あ・・・』
『(笑)すみませんが、セルフで。私はこの子達の世話があるので時間が』

『・・・すみません』
『(笑)そこは気にせず。キッチンの扉も閉めますから。食材も自由に使って下さい(笑)』

分かったかと言いたげに見返す彼女に苦笑いをした・・・それでも自分達から目線も外さなくなった犬達の視線が気になり出した。

『どーぞ(笑)』
気付いたのか犬達へ掌を見せた彼女・・・待てという合図のような気がした・・・さっきまで自分達を観察していた目は彼女だけに向く。


食材はと・・・これを使っていいと教えてくれた彼女がキッチンから出で静かに扉を閉めていった。

海外で見るような作り・・・真ん中に台が置かれカウンターの前には数脚の椅子があった。

比較的に高く自分達にも丁度いい高さだと苦笑いだ・・・ハルトが食材を探し眺めては何を作るかと楽しげに始めた。

『イツキ(笑)』
『ん?』
『(笑)何を作る?』
『・・・あー』
『(笑)野菜が多い』

そうかと冷蔵庫の扉を開け 中を眺めながら考える2人だった。

出来上がった料理を食べ始めれば、窓から見えていた微かな景色は消え真っ暗な状態で驚いてしまった。

それでも短時間で、この暗さだったのだと思えばホッとし助かったと思えた・・・

キャンプ場でも ここは知らない場所だ・・・この広さは他はない・・・本当の自然の中だったと変に意識させられた気がした。


片づけていれは彼女が入って来た・・・少し開けた扉の間から黒い犬が覗きスッと床へ伏せた。

『十分に食べれました?』
『ありがとう(笑)、それより君は?まだなら作ろうか?』
『ありがとう(笑)大丈夫です』

『聞いても?』
『・・・なに・・・を・・・』
『あ・・・(笑)ごめん。あの黒い犬だけは君から』

『確かに(笑)。離れる事は滅多にありません・・・』
『君のナイトのようで(笑)驚いてます』

『・・・(笑)確かに』
『何頭(笑)飼ってるんですか?』
『5頭居ます(笑)。』
『大きいですね(笑)』

『はい(笑)、犬種の中でも大きい方だと思います』
『みんな兄弟とか?』
『そうです(笑)。その2頭の弟が、あのこです(笑)』

黒毛の犬を見つめ微笑んだ彼女の呟きで本当に犬が好きなのだろうと思えた。

『・・・(笑)散歩も大変そうだ』
『そうでもないです(笑)、出入りは自由にさせているので(笑)勝手に出ますし』

『家から?』『はい(笑)』
『外に?』『(笑)ええ』
『・・・防犯・・・』
『(笑)滅多に人も来ませんし・・・門の方は夜なら閉じてますけど(笑)』

『家からなら?』
『・・・・(笑)秘密です』
『『(笑)確かに』』

言わないと笑み返した彼女に、聞いた質問は答えるべきでもないなと互いに笑うのだった。







Precious

2023-08-27 00:24:13 | 序章・予告編




慌てながら駆け込む・・・そこにはアイリを抱きこんでいるトウマがいて、いつもなら互いに威嚇し吠えまくる犬達は二人の側へ集まり静かに眺めている姿があった。

従業員は近づけば吠える犬達に怯え近寄れなかったのだと何度も謝る・・・トウマが叫び聞いたモノを運ぶ事で精一杯だったようだ。

近寄れば確かに吠えるが自分へ攻撃はしなかった事にはホッとしたが不意に吠えた瞬間、黙れとトウマが叫ぶ・・・震えながらも犬達へ伸びたアイリの手が近い犬を撫でていた。

アイリの腕に巻かれたタオルは止血していたトウマの手まで赤く染めていて驚いた。

藤城は、そのタオルをトウマに代わりギュッと掴む・・・アイリを抱き上げさせると病院へと急いだ。


縫ったようだが大事にはならずホッとした・・・トウマを心配するアイリの弱々しい声に、ムッとしながらも安心させるトウマに苦笑いだ。

『喧嘩はさせとけよ!アイリが怪我してどーするよ・・・』
『ごめんなさい・・・でも噛まれて可哀想だったから・・・』

『次は駄目だ。離れろよ』
『喧嘩は悲しくなる・・・反省してたし』

『・・・アイリ・・・諦める事も必要なんだぞ?それは犬達に必要な事だったかもしれないし』
『だ大丈夫(笑)』

『今回だけかもしれないぞ?』
『そーかな・・・
でもクロウが止めてくれたから』
『・・・黒の?』

『ん・・・サンが怒って止めてたんだけど、余計に怒ったクロウが凄かった』
『誰が噛んだ?』

『お互いに・・・ヤバいかもって私は手を出しちゃったから・・・偶然・・・自分の手が誰かの口元にはいったんだと思う』
『庇うな!』

孫二人が話し合いのように呟く・・・普段も、こーして話しているのだと思い静かに聞き入った。

『原因は何だった?』
『・・・そこまでは見てない(笑)』
『・・・競ってたならアイリは確認だけにするんだ。犬にも必要な事かもしれないだろ?』

『・・・』
『リーダーは自分だと互いに主張しているのかもしれないだろ?』
『『リーダー?』』

『群れの中で生きていく事で必要なのかもしれないぞ?』
『お祖父ちゃん・・・皆は兄弟だよ?』

『それでもだ(笑)。群れの中で仲良く生きる為には必要だろうて・・・』
『そっか・・・』
『そういえばトウマには噛みついてなかったから、多少は慣れたのか?』

『じゃなくてアイリの様子に驚いたから静かになったのかも。ジイ(笑)、落ちついた状態でも俺には警戒してて観察だけだったよ。

アイリの流れた血が多くてマジで驚いた・・・巻いたタオルも真っ赤になってくし、目が合う度に暴れてくし・・・ムカついて怒鳴ったら余計に静かになった』

『クロウが皆を黙らせた感じ。私を見て驚いてた・・・それから皆を止めるように体当たりしてた・・・
クロウに驚いて静かになったし』

『こっちはビビったんだぞ?囲まれてたけど手が真っ赤だし、近づくと威嚇してきたし』
『・・・』

『それにな、何で笛を使わなかった?』
『あ・・・』
『忘れてたのか?せっかく覚え始めてたのにか?』

『そーだった』
『順調に進んでたろ』
『そーだけど、慌てると加減も出来なくて・・・あまり強いと嫌そうな顔をするから耳が痛くなるんだと思ってた・・・から・・・』

『・・・』
『可哀想な気がして滅多に使ってはいなかったの』
『(笑)忘れてたと言え』
『ふの字も思い出さなかった(笑)』
『(笑)あー・・・』

想像できる事の起こりに驚いた・・・噛みつかれ怪我までしたのに怯えていないアイリに。

前から犬同士の喧嘩はあり迷わずに入り、アイリが止めていた事は教えて貰っていた。

近寄るなと伝えても我慢は少しで一頭ずつ捕まえては抱き、落ちつかせては離していた。

喧嘩をしている犬達の中へ交ざり自分の身で止めていたアイリ・・・見ていた従業員の溢れた言葉は現実になり本当に怪我までしてしまった。

今の二人の会話で、また喧嘩があれば入り込むのだろうと思える言動に苦笑いだ。

痛そうな顔はあれど、懲りてもいないアイリ・・・喧嘩は悲しいのだと初めて見た頃の事を思い出した。

心配し寄り添うトウマに笑み、帰ろうと促し藤城は孫達を連れ病院を出たのだった。


暫く三人で静かに過ごそうとライフに戻った・・・アイリの腕を眺める犬達・・・人のように観察している気もして驚いた。

これは心配しているのかと・・・黒い犬の名はクロウ・・・そのクロウはアイリに近寄り始めた。

いつもなら近寄らず他の犬達とも少しだが距離を置いていた・・・それでも他の犬達の様子は観察していた。

じゃれていたはずが・・・目で見ても分かる本気の動き・・・唸りは本気で怒り始めた。

いち早く気づいたのか白い犬のサンが吠え始める・・・クロウは身構えるように立ち威嚇するように睨み付ける。

クロウは一番強く唸りはするが滅多に吠えない・・・威圧するように眺めた唸りはあれど、見据えたように視線も外さなかった。

驚いた子達は動きを止めて見返す・・・暫くして その子達が離れ遊び始めた姿をアイリが見ていた。

スッと近寄ったクロウは恐る恐るという動きでアイリの腕に巻かれていた包帯の匂いを嗅ぐ。

大丈夫だと笑みを浮かべ優しくクロウを撫でた・・・反対の手を寄せれば匂いを嗅ぎペロリと舐めた。

『あ・・・』

驚いたのはアイリだけではなかった・・・様子見とトウマも眺めていたが、そのクロウの初めて見る仕草に驚き声が漏れた。

野良犬のような子達・・・なかでもクロウは他の犬達より警戒心が強く兄弟なのに常に群れの中にもいなかった。

喧嘩は生死をかけているような気もして怖かった・・・本当に時々だが他の子達は仲間だという仕草はあったし、自分を観察している気配もあった。

大丈夫だと笑むアイリの顔をジッと見つめる・・・本当に大丈夫なのだと彼女はクロウに囁く・・・包帯をした手でも撫でた。

撫でる手が気持ちいいのかアイリに優しく凭れ、身をふせ目を閉じるクロウがいた。

サンが眺める・・・優しく手を伸ばし来て欲しくてアイリは笑み返したが、クロウから少し離れた場所で座りクロウを眺めてはアイリを観察し始めた。

その様子に驚いたトウマもいたのだった・・・


『(笑)腹は?』
『ありがと(笑)、後で食べるね』
『(笑)先に寝るぞ』
『ん(笑)・・・』

返事をしつつも撫でるアイリの手は止めず二頭を眺めるアイリに苦笑いをした。



翌朝に・・・アイリの様子を見に来たのだが・・・
『トウマ(笑)、早起きだな』
『・・・ん・・・(笑)ジイ、あれ見てよ・・・まったく』

苦笑いをしながらも呆れ呟いたトウマの視線を辿った。

夕べはトウマに任せ、気にはなったが疲れからか先に床についた・・・目が覚めればアイリの様子が気になり早々に部屋を出た。

驚いた顔で犬達を寝かせる為の部屋を眺めていたトウマの姿に苦笑いだ・・・孫二人もまた早起きし世話をしていたのかと。

呆れた顔になり覗けとトウマに言われ何だと眺めれば・・・大きめのクッションに凭れ眠っていたアイリの姿があった。

その服装で着替えていない事に気付く・・・包帯をした手を身へ乗せた状態・・・そのアイリの隣に張り付くように眠るクロウがいた。

その距離でアイリとの近さも分かる気がして苦笑いだ・・・クロウはアイリを主と認めたのだろう。

白い犬はクロウより少し離れた場所にいた・・・そこから少し離れた場所に白と茶の犬・・・と、それぞれの距離で眠っていたようだった。


様子見と犬達とアイリを見ていれば、その距離が短くなっている事に気付き驚いた。

ほんの数日の出来事・・・それからは一定の距離は変わらずだったが、仕事とここを行き来しライフとアイリを従業員達とトウマに頼み貯まった仕事に集中した。


やっとだとホッとする・・・孫二人のそれぞれの時間に慣れ自身を成長させていた。

安定した生活・・・それぞれの自分の時間を作っていた事に・・・二人の笑みが余計に柔らかかった。

自分の想像より早く自身を鍛えていたトウマ・・・その素直で優しい孫に笑む・・・自分の娘夫婦よりも出来が良く、自分を上手く生かす。

トウマを兄弟と離してしまったが、それで良かったのだとさえ思えてしまう。

トウマの優しさがアイリの寂しさを埋めた気もした・・・数年しか育てられず逝ってしまった息子夫婦。

自分一人では限界がある・・・細やかに守れずトウマだけが味方し寄り添ってくれた。

その優しさで自分まで助かったのだと思ったが、多数の孫に一人でもアイリを助けてくれる子がいて良かったと思えた。

似た雰囲気の二人・・・なにより寂しさや辛さだけを覚えさせたようで申し訳なかった。

気にも止めないトウマの言動にホッとした自分に苦笑いだ・・・それはアイリも同じだったと知れば余計に嬉しかった。

大人に負けず物怖じしないアイリ・・・同じ孫達との会話で逆に やり込める・・・助けのように言葉を投げるトウマもいた。

自分の子を守る為の言葉は大の大人が声にする・・・反抗期のような態度ではない様子に驚く事も増えた。

わざわざ会いに来て騒ぐ・・・それでもトウマとアイリは静かな物言いで返す事には驚いた。

そして言い逃げ・・・そういえるタイミングで早々に離れていく二人に笑えた。

それでよしと笑う自分をも確認して帰っていく・・・そんな日が暫く続いたが、ライフという居場所を作ってからは近寄らなかった。

それだけは助かったと安堵した。


もしもと収入を得る為に考え敷地内を整備した・・・従業員と雇った者の声で、そうかと私有地の端にも造った。

学校で学んだトウマの声で考えライフという居場所になった・・・他の孫達より不便な場所ではあるが、それも楽しむ一つのように生活を始めた。

完全に移住してしまおうと策を練ったが抜け出せずにいる。

その間にトウマとアイリが移住していた・・・いろんな事の起こりも、それぞれに考えては行動した。

真っ直ぐに育った二人に心から安堵する・・・今なら大丈夫だとさえ思えた。

大人への会話のように声にしてみる・・・ならばと楽しげに力を貸してくれた二人だった。


家族でもある二人なのに、他の家族は敵のように接する・・・味方のはずが大袈裟な言動で現す。

同じ孫なのにとため息は激しく出てしまう・・・前を向けばいいものを丁寧に自ら出向き勝手に想像した物言いがふる。

それでも気にしなくなったトウマ達に苦笑いだ・・・正しく返す・・・それに腹が立つ他の家族の訴えは綺麗に流した。

本当に時々だが二人へ頼む・・・見習えと教える為に・・・自分の家族を蹴落とすなと。

必要以上の競争心を煽る自分の子達にがっかりする・・・真に受け素直に受け止める孫達だった。

疑問に持つべき所を丁寧に受け止める・・・それに気付き驚くのはトウマとアイリだけだった。


全員の孫が社会人となって、やっと落ちついたかと思えば 正しく導いてくれる社員が早々に諦め始めた事に驚いた。

その理由は上司という立場の者から自分の秘書へ密かに謝罪と共に囁かれ考えた。

それがトウマとアイリの存在だった・・・トウマが入社したと聞き様子見していれば驚かれた。

上手く泳ぐのだと・・・育ても上手い者から話を聞き安堵した・・・トウマの兄達もいたが同じ場所は本人が拒否したようだった。

学生の頃から出来は良かったのだと聞けば余計に驚いた・・・そのトウマのアイデアは豊富で先が楽しみだと言われ嬉しくもなった。

だからアイリの事だけを考えようと思えば、そのトウマが気晴らしにライフを手伝っていて驚いた。

相談だとトウマに持ちかければ任せろと社の仕事よりライフを選んだ事には余計に驚いた。

何度も話を重ねたが、そこは揺るがず反対する娘夫婦からの小言に苦笑いだ。

説得もしきれず、話し合いは親の方が負けていた・・・本音はと丁寧に言葉にする。

念を押す・・・まだ若いトウマが自分の先を決めた・・・迷いなく好きなことなのだと同じ言葉を繰り返した。

アイリもまた誓うようにライフで暮らす事に驚いた・・・犬達までが自分の家族のように囲う。


ライフで仕事と始めた事で給料を出すことにした・・・優しく接してくれる従業員達に感謝だ。

人の善さを見極められた自分を褒めた・・・それは繋がり必要な従業員達は増えライフの中で纏まった。

ライフでの日々が楽しいのだろうアイリの笑みが増えホッとする・・・穏やかに過ごせるようライフという居場所になった。

少しずつ心配事が消えていく事に安堵した・・・残る社での仕事を減らし渡してしまおうと考える自分に苦笑いだ。

いつかの先で揉めないよう密かに考えては実行出来るよう弁護士と話し合う事にもした。

アイリの親・・・息子夫婦が心配しないよう、アイリを守るトウマに全ての負担が向かないよう策を練ろうと。

家族ではあるが、それぞれにあう生活はある・・・それは重ならず、誰もが穏やかに過ごしていけるよう考えていこうと思えた。



庭の真ん中に座り犬達を眺めるアイリがいた・・・端は自分が集めた犬達が柵に囲まれた場所で遊び回っている。

アイリの犬達と揉めないようにだが、そこは喧嘩は駄目だと教え込むアイリ。

遊びのように調教し、考えては行動していく・・・少しずつ身についているような仕草は見てとれた。

他の犬達の世話までする・・・それでも優先はアイリの犬達で苦笑いだ・・・それでいいとトウマまでが呟く。

そうかと任せてみる・・・犬達の譲渡は途切れず助かっているが、先は分からない事もトウマと相談はした。

自分の体力に限界はある・・・生き物との生活は一般的でもない・・・普通の仕事より大変でもある。

構わないと呟くトウマだった・・・全てを預ける事に、いまだ迷いはある自分がいる。

もう少しだけ悩もうと話しは濁している・・・まだ若いトウマの先が別に出来たならと迷っていた。

二足の草鞋・・・自分が好きなことではあるが、より面倒だと思う方は社の仕事なんだと思うと呟くトウマだった。

驚きは自分に戸惑わせ余計に悩んでしまう・・・自分がしてみたくて始めただけの場所・・・そのライフを選びそうな気もしてきた。

頼みたい自分もいる・・・反対する自分もいる・・・暫くは様子見だとトウマの言動を観察する日々になった。

それでも今は楽しく暮らせる場所で過ごそうと思え、暫くは考える事を止めた藤城だった。




晴れた空の陽射しが心地よく目覚めた・・・何を催促しているのか犬達の鳴き声が響く。

アイリの笑い声がする・・・楽しそうに笑うトウマの声までが聞こえた・・・

ここでの暮らしは正解だったのだと改めて思えば自分に笑みも溢れる。

世話をするのも楽しく始めた二人だった・・・本当に楽しいのだろう笑い声を聞ける自分は幸せだと思えた。

窓から覗けば、自分の犬達がいる囲いの中にトウマがいた・・・残る広さの中でアイリの犬達が駆け回る・・・その後ろを追いかけるように走るアイリ。

鬼ごっこのようにアイリが楽し気に走り回る・・・なかなか捕まらない犬に笑いながら、名を呼びながら走っていた。

見ているだけで幸せだと嬉しくて目を凝らすように眺める・・・これからもアイリが笑える日々をと願う。

気付いたのだろう二人が自分を見返す・・・その笑みが続けと藤城は願うのだった。



-end-



お付き合い下さり感謝です。
よければ本編へ
-tami-