『すみません(笑)、ガウンしかなくて・・・我慢して貰えますか?』
『だ、大丈夫です』
『よければ、それを。それから洗濯するなら・・・使い方は・・・』
『(笑)出来る。使わせて貰うが』
『どーぞ(笑)、全て見える場所に揃ってるはずなので・・・』
大丈夫だろうと言ってみたが苦笑いしつつ頷いていた2人だった・・・取り合えず物の在りかを言いながら説明した。
ホテルのようで苦笑いしかない・・・脱衣する場所の扉も別であり広さも十分にあった。
脱いで直ぐに洗えるスペースの便利さは羨ましくなった。
ツインのベッド回りにはサイドテーブル以外に小さな冷蔵庫があり、持たされた飲み物やツマミをしまった。
ベッドの足元にあるソファーに座ればテレビも楽しめた。
二重の窓ではあるが、窓と窓の間のスペースには洗濯物を干せる広さもあって驚きは通り越す。
この客室だろう部屋は普通のマンションのようで驚いた・・・家でもないと分かるのはキッチンがないだけだ・・・あえて言うなら。
泊めて貰うにも豪華すぎて戸惑ってしまう・・・それでも部屋から出なくて済む事はホッとした。
変に緊張もしてしまう・・・静かにしてみれば大型犬だからか走る足音もあった。
眠気も来ないと静かに2人で話していたが・・・
『クロウ(笑)、ウィンを下へ』
彼女の声が近くて驚いた・・・短く返事をしたような鳴き声はウィンという名の犬を追いたてたようだ。
『(笑)サン!見張りは必要ない。下へ行きなさい(笑)・・・フラワ・・・(笑)大丈夫だから・・・』
2人で見あい想像する・・・苦笑いしつつベッドへ寝そべった。
彼女が走る・・・そう聞こえた足音がした・・・
『(笑)俺らのせいで寝れないんだろうな・・・犬達は』
『な(笑)・・・知らない俺達に安心も出来ないんだろ・・・彼女を守ってるようだったし(笑)』
『にしても大型犬は迫力あるな(笑)』
『海外の犬種なんだろうな・・・』
『彼女・・・本当に飼い主だと思うか?』
『5頭も?』
『いくら好きでも(笑)ほどがあるよな』
『・・・そこまで』
『ん?』
『(笑)どこまで気にする?』
女性へ深く気にする事もなかったハルトの数多い呟きに口を引く・・・
『・・・(笑)この感じ・・・昔みたぞ?』
『・・・(笑)なにがだ?』
『むかーしの事だ(笑)。前の時と似た感じで気になってったぞ?(笑)』
『・・・ん?』
『(笑)好きの始まり』
『・・・違うと思うぞ?5頭の世話が凄いって思っただけだし』
『・・・へぇ(笑)』
『・・・違うと思う』
『ん(笑)・・・・寝ようぜ』
『イツキ・・・』
『(笑)詮索して悪かった』
『・・・』
互いに見あい苦笑いをする・・・違うと自分を見たハルトに寝ろと促せば、また呟き・・・苦笑いをしつつも頷けば、良しと眠り始める。
笑えると静かに笑み目を閉じたハルトを眺めた。
始まりは緩やかで、いつも言動から始まる彼の恋は 自身でも気付かない事に苦笑いだ。
仲間内で誰かが気付き声にしてまで教えるのに、違うと否定しハルトは気付かない。
戻れない状態まで思いを貯めていき本人が気づいた瞬間、自分が激しく落ちたと戸惑う。
思いが叶えば楽になるが、既に遅く誰かへ取られたとグッと耐えるハルトも知る・・・落ち着くまでが大変だった。
ひたすら想う・・・知り合いから友達という近さになるまで早いのに、そこから先へ進まない。
好きな気持ちを大事に温める・・・自分の気持ちを沈め相手を優先していく。
どこまでも尽くすが実る事も少ないのがハルトだった・・・相手が幸せなら・・・その言葉で尽くす。
落ちたハルトの時はギリギリで、仕事にならない状態は数日かかる・・・辛く悲しい恋は堪える・・・だから始まりはと教える。
吹っ切れた頃に言えば、そうなのかと聞いていたハルトが呟くが始まる頃に覚えてもいず皆も黙った。
気にし始める思いが始まりイツキがハルトを眺めた・・・数回言って止まる事もある。
今回はと考える・・・数年前に激しく落ちた・・・その彼女はハルトの気持ちを利用した。
尽くし励まし、彼女の夢を応援し助けてもいた・・・成功という始まりが見えた頃に、彼女は簡単にハルトを切り捨てた・・・たった1本の電話で・・・そして短い言葉で。
だから簡単にはいかないハルトの気持ちを皆で見守る・・・仕事でのハルトとは正反対でもある。
決断もタイミングさえ鋭い・・・気持ちも素早く切り替え出来る仕事は自ら探し手を尽くす。
なのにだ・・・自分の事になると気持ちが鈍る・・・直ぐに切り替えたと思えば相手の先を優先していた。
自分が辛くなるのに、相手の笑顔がハルトの先を決める・・・その辛そうな日々に落ちないよう皆で止める事が増えていた。
そして・・・キャンプに来てからのハルトの言動に直ぐに気付いた・・・何とかしようとまで声にする。
皆で気付いた事で彼女を見つければ考えた・・・ハルトへの言動はと・・・それでも話をする機会は少なかった。
観察しようもないと投げたサクもいたが確かに会話を楽しむ時間は出来なかった。
縁はないと言い切るカズサにイツキは見守る事にすると促したが、二人で話す事もなく見掛けただけ。
本当に縁はないのかと苦笑いしかない・・・ハルトが彼女に会えば、気になる事は呟く・・・その様子で見比べてもいた。
偶然、会えた・・・そして偶然にも彼女のテリトリーへ入れた・・・入れたが多くの会話は出来なかった。
今回は、これで良しとする・・・知り合えた事で切欠は出来たから、何よりハルトがそう思ってくれたらだが。
そう思えば苦笑いだ・・・始まってもいない・・・もっと前・・・見かけただけの状態だから。
なのに、次へ繋げたと錯覚し考えてしまった・・・今のハルトはと、眺めれば穏やかな笑みで眠っていた姿に苦笑いをした。
翌朝・・・
犬が激しく吠えていて目覚めた・・・その鳴き声は数頭のようで、驚きながら体を起こし二人で見あった。
窓から眺めれば、それぞれに鉄柵の近場へ駆け寄り 外側へ威嚇しては吠え唸っては睨んでいた気がした。
何だと眺めるイツキ・・・寝惚けていて頭が冴えない・・・暫く眺めた。
部屋のドアからノックされた音に気付いたハルトは飛び起きて勢い良く開けば、驚いた顔でハルトを見ていた彼女がいた。
ノックしていた手は下ろされずだった・・・
『驚かせて・・・』
『いえ・・・起こしてすみません』
『外・・・の・・・』
『すみませんが暫くキャンプ場へ戻れません・・・大丈夫ですか?今日、帰る予定でしたか?』
『・・・』
『くっ!熊?あれ・・・ハル・・・ハルト(笑)すげーぞ・・・』
ずっと外を眺めていたが、不意に驚いた声で呟いたイツキが振り向いた・・・
『あの・・・』
外の状況に驚いたイツキの呟きに、すまなそうに彼女が見返した。
『熊?野生の?』
『はい・・・すみません。数日前から挑みに来てて・・・』
『敷地は・・・あ、君の犬は大丈夫なのか?・・・』
『入り込む事はないです(笑)、対策はしてるので・・・』
『二重の柵は、この為に?』
『(笑)・・・』
『残り3日で帰る予定にしてたから大丈夫だ』
『安心して貰えるよう連絡しますね(笑)。2階へあげませんから自由にしてください。
奥に予備のキッチンがあります。食材も置きましたから(笑)』
『(笑)セルフ』
『はい(笑)』
『あの・・・』
『はい』
『君の自由な時間はあった?』
『・・・』
『話を・・・』
『・・・昼過ぎなら時間はたぶん取れそうです』
『・・・』
『(笑)あの子達が落ち着けばですが』
『『・・・』』
一段と激しく吠え出した鳴き声に苦笑いをした彼女は自分の返事は待たず謝りながら行ってしまった。
慌て外を眺める・・・牙を剥き出し睨み付けては吠える・・・怒りは獰猛さを増す・・・
仁王立ちし鉄柵へ手をついていた熊が、吠えられた拍子に激しく驚き後ろへ転げた・・・それでも素早く飛び起きて見返した。
暫くは行ったり来たりと彷徨くように歩く姿に驚いた・・・不思議とイラついた姿は人間の行動のように見え怖さは消えた。
何処から襲うかと・・・睨み狙える場所を探しているようにも見える。
その間に犬達は落ち着きを取り戻してきた気がした・・・一番近くにいた焦げ茶色の犬は、睨み付けては熊を眺めつつ家へ戻り出した。
見合えば吠えるが戻りながらだ・・・帰れと脅しているような犬達にも見える。
本当に暫くして諦めたのか静かに、立ち去っていく・・・これが自然という場所だったと改めて思えた。
興奮は覚めないのだろう犬達の荒さは2階にまで感じ取れた・・・興奮したままに彷徨く・・・
不意に自分達の姿を見せないよう気をつけて、取り合えず静かにドアを閉めた。
彼女の声もない・・・何の音かは分からないが、時おりガタンと響く音は気になった。
それが繰り返されていたが、扉を開いているような音がした・・・吠えた鳴き声は少しずつしなくなる。
庭へ駆け出し去った方をジッと様子を伺うよう眺めていた犬・・・そこへ彼女が歩いていく。
その後ろを黒毛の犬が着いて行ったようだ・・・落ち着かせているのだろう優しく撫でては様子を見ていた彼女。
抱くように腕の中へ寄せれば彼女の肩へ顔を乗せ背を撫でられていて気持ちよさげにジッとしていた。
真っ白な犬が静かに寄り添う・・・そして1頭ずつ近寄って来ていた姿に凄いと眺めた。
野生の熊だったと驚いた・・・立ち上がった高さにも・・・あの鉄柵を簡単に乗り越えそうだと怖くもなった。
熊が大きかったから直ぐに、不味いかとドキドキし始めた・・・こんな自分にも苦笑いだけだった。
慣れなのか恐れもなく吠える犬達にも驚いた・・・山奥という場所だから当たり前ではあるが、自然の怖さを改めて身に感じた。
笑みながらジッと見つめるハルトの姿に気付き様子を眺めるイツキだった・・・ならばと静かに窓を開け放つ。
その瞬間、犬達が自分へ視線を向けた事に驚いた・・・離れているのに、しかも2階で静かに開けた。
聞こえたのかと驚き離れているのに身構えてしまった・・・逆にハルトは凄いと呟き自分と彼女達を交互に眺め笑っていた。
照れたような笑みに変えたハルトに呆れてしまった・・・自分と目があい、驚いたようだが苦笑いにかえバスルームへと行ってしまった。
恥ずかしかった・・・朝から彼女を見ていた自分・・・目があい嬉しくなった気もしたが恥ずかしくて照れてしまう。
そばにいた犬へ目を向け彼女から視線を外したが直ぐに彼女を見つめてしまった。
気付いたのか彼女が笑った気がして恥ずかしくなった・・・慌てイツキを見たが自分を見ていて驚いた。
バレた事に苦笑いだ・・・へんな汗が出てきそうでバスルームへと逃げるハルトだった。
軽く食事をしていれば・・・笑みながら彼女がやって来た。
『すみません(笑)朝から』
『『大丈夫でした・・・』』
『・・・(笑)』
『世話になった(笑)ありがとう』
『何もしてませんし(笑)。それより、明日の朝に管理人の一人が迎えに来てくれます。
もう少しだけ(笑)我慢して貰えますか?』
『面倒をかけて本当に・・・』
『こちらこそ(笑)すみません、せっかくのキャンプを台無しにさせました』
『『いい(笑)』いいんだ。野生の熊まで見れたし』
『・・・』
『あ、言い方が不味いか・・・』
『・・・』
『次に来るなら、奥へ入る事は止めて下さい』
『ここを知ったし(笑)避難させて貰えるなら』
『・・・(笑)構いませんけど、留守がちなので・・・』
『ここに住んでない?』
『おい・・・』
『・・・(笑)ここにも住んでます』
『・・・』
『(笑)本来は私有地なので・・・』
『あー・・・』
そうかと唸るハルト・・・細かく聞くなと慌てるイツキだった。
『さっき、そこのコーナーの』
『(笑)友達が暇潰しに持って来るので・・・』
『好みが(笑)広いな』
『(笑)漫画本もありましたよ?』
『見ても?』
『どーぞ。(笑)階段は上がれないよう閉じました。ゆっくりと』
『・・・すまない。(笑)ありがとう』
『(笑)あの子達は入れませんから大丈夫です』
『『・・・(笑)』』
念を押すように呟き彼女は下へとおりていった。
苦笑いだ・・・ペットという犬に怖いとは思わなかった自分達・・・その大きさに驚いただけだが、確かに今回の怖さは残っていた。
だから気にするなと彼女は自分達を安心させようと言ってくれたのだと思えた。
彼女が行って直ぐに何かをした音がした・・・キッチンを片付け部屋へ戻る間に見えたモノに驚いた。
外の鉄柵のようで笑えた・・・それは木材で出来てはいたが檻のようだったから。
それは天井まであり2階と区切られていた・・・犬のジャンプ力をもってしても無駄だという作り。
その隙間さえ頭も入らない・・・壁のように隙間がなければ閉じ込められた気もしてくる。
隙間があるから変にホッとする事には驚きしかない・・・かけ上がってくるが犬達は自分達を眺める事もない。
たんに遊び場のように上がっては駆け下りて行った・・・
ふと風が入り込んで来る・・・そっと下を覗けば、ガラス張りの壁ではなく扉だったようだ。
端へ纏められたガラス戸が折り畳まれ特殊な扉だった・・・中と外を一体化していて、開放された場所から犬達は出入りしていた。
部屋へ戻り庭を眺める・・・珈琲を飲みながら来たイツキも眺めながらも寛ぎ始めた。
キャンプでもない寛ぎ・・・バカンスに来た気分で浸ろうとイツキと笑むハルトだった。