眠り続ける蒼の手に触れ彼を眺めるだけの日々になった。
ようやく病室へ運ばれ、今は隣に颯も寝ていた・・・そのベッドに凭れ茉尋が笑みながら眠っていた。
そっと息を吐く陽葵が呟く。
『私ね・・・頑張ってくる・・・
だからね・・・その間に頑張って治してくれない?・・・・待ってるから。
変に怖くなるの・・・嫌だから・・・だから動ける今の自分を利用して探してくる。
蒼が教えてくれたから出来るよ・・・ダートンから出る準備と・・・両親と弟に会って顔を覚えてくる・・・だからね・・・・大丈夫って・・・言って・・・』
静かに呟いた彼女は彼の手を包み自分に押しあて祈るように目を閉じた。
それから蒼へキスを落とした陽葵は静かに病室を出たのだった。
柔らかな話し声に目覚めた颯が眺めた・・・陽葵の声に耳をすませる。
静かな室内に優しく響く声・・・それは祈りのように柔らかで・・・決めた思いは強く聞こえた。
-大丈夫と言って-
その声は誓いのようで・・・本当に蒼が声にしたような、そんな不思議さがあった。
大丈夫と祈る・・・自分で初めて決めた思いは実れと祈った。
『持ってきたよー(笑)』
茉尋が笑みながらやって来た・・・ベッドを直せと笑いながら指を指した。
『織田(笑)頼んだわ』
『(笑)うっす!』
後ろから来た織田が笑みながらボタンを回し颯を起こした。
『織田、収まったか?』
『はい(笑)。カナンの上とダーナルの真ん中が喧嘩中。それでも飛び火は無くて助かりました』
『それは柚侑がしてる?』
『(笑)いえ。1つ上の兄貴・・・巧さんがしてました。レミさんの見張り付きで(笑)』
『柚侑が(笑)操ってんじゃん』
『そーとも(笑)言いましたね』
笑う颯と織田に笑みながら蒼が視線を寄越した・・・
『リハビリおせーぞ(笑)』
『確実に治したいからだ(笑)。次いでに鍛えて出ようと思った』
『探せたか?』
『時々、スッと病院を変えてる(笑)。その度に怒りながら出向いてた・・・』
『今は?何処で暮らしてる?』
『 ・・・(笑)』
『蒼兄貴・・・元の場所でした』
『ん?屋敷の部屋じゃなくて?』
『(笑)楽しそうに歌ってましたけどね』
様子を見たのだろう月島の呟きに、驚きながら蒼をも眺めた。
苦笑いした顔・・・呆れた顔をした大多で、自ら選んだのだろうと気付いた。
『鍵はねーよな(笑)』
『無いです。出る時は病院で警護してた人達がついて出てました(笑)』
『それでも味方って気もしないんですよね』
『ん?一花は?』
『笑わず話さずです。病室へ行って会った後の表情はありましたけどね・・・それ以外の姿を見ると一切・・・』
ないのだと寂しそうに呟く月島に口を引き蒼を眺めた。
耐えた顔もせずに出来る事をし、淡々としている蒼に苦笑いだった。
『蒼(笑)』
『ん?』
『ちゃんと時間は守って体も休めろ。大丈夫と叫んだ夢を見て飛ばせ・・・ちゃんと届くから(笑)』
『 ・・・・(笑)』
意味に気づき蒼が笑む・・・また静かに始める彼らに笑み、颯は昼寝だと眠り始めたのだった。
叔父へ連絡を入れれば、時間を待たずに迎えに来た事に苦笑いだった。
自分が居る場所も聞かず、分かったとだけ言って電話が切れたのにだ・・・
暫くして数台の車が連なり来た事に気づく・・・その間に急に割り込むように停まる車があったが、待っていた彼女の後ろから現れた警護者の姿に開けた車のドアは勢いよく閉まり走り去った。
運転手の顔で彼らの父親だと気づいた・・・何より助手席で顔を隠した幸坂友貴の姿もあった。
利用し利用されているだろうにと呆れ眺める陽葵だった。
警護者に促され乗り込めば、守ってくれた人も同じ車に乗り込んだ。
本当の場所は何処なのだろうと思えたが、これは自分に探せるはずもなく様子を眺めるだけにした。
待ち構えた中に一人入り込めば、会議のようにズラリと並び座る人達がいた。
何故か彼らの父親も幸坂も同席し静かに居た事に苦笑いしかない。
叔父の近場に座らされ、警護者はその後ろに控えた・・・出ろと言われても会釈して佇む。
何かの名前を言い新たな会釈と同時に陽葵の後ろへ控え直した事で叔父は諦めたようだった。
『さっそくだが・・・既に決まった中味を動かしたいと思う』
そう言いながら説明を始めれば、だから始めろと陽葵に言い、新たな会話は皆と始めたのだった。
やっと終わったかと叔父を眺める。
『話が?(笑)取り引きか?』
『気持ちは変わりません。彼らが全て・・・傷をつけた代償は払って頂きます』
『出来ると?』
『それから、私の本当の両親と弟に会わせて頂きます。
も1つはバァの・・・長田やよいさんの家族と・・・全ての理由はこれです。
何も知らされず一人生きて来ました・・・生かして頂き感謝はしますが、その前に私の全てを満たして頂きます』
『出来ると』
『思うから伝えました。何をされても返しは理由に繋がります。
生かすは叔父様の為、殺すは私の為に・・・選んで貰えたら助かります』
『その理由を知るのにか?』
『自分の為に生きてみたいだけです・・・その先へ繋ぐ事はしないと先に言っておきます』
『全ては血筋と聞いたか?』
『既に止めると(笑)先に伝え、皆へ伝言を頼み了承されてます』
『いつ・・・』
『昨日です』
『なら』
『血筋なら、私で終わります』
『聞いてみてくれないか?』
『叔父様がお聞きに。そちらの伝言方法は知りません。
私へ連絡が来るのは10日後だそうです・・・それまでにお願いします。
家族に会いたいので・・・それまで、世話になります。前のように・・・それで十分です』
そう言って立ち上がり丁寧にお辞儀をした陽葵は部屋を後にしたのだった。
『どちらに?』
先に歩いていた陽葵へ警護者が聞く。
『私が住んでいた場所です。でも・・・困りました・・・場所が分かりません』
『森の外れですか?もしかして柵が張り巡らされた・・・』
『(笑)はい、ソコです。連れて行ってくれますか?』
『ソコは・・・』
『壊されてましたか?』
『いえ・・・手配しますね』
『(笑)ありがとうございます』
嬉しそうな彼女に驚きながらも電話をしていく・・・車に乗せ走らせたのだった。
荒れた状態に可笑しくて笑いながら家へ向かう・・・埃はあれど使える状態は多く・・・ホッとした。
『屋根がないから不味いかな・・・』
呟く陽葵は眺めながら中へと入り込んだ。
外と繋がる窓を全て開け放ち、一緒に来た人達はどうするのかと眺めた。
『我らは外に・・・』
『何人も?』
『3人です。今は用で2人が出ました・・・
屋根・・・その依頼と必要な物の準備をしに行かせました』
『狙われる?』
『前ほどはないかと・・・それでも、もしもと指示されているので・・・気になさらず・・・
それと、出口は広くし壊します。
車を入れ置くので・・・入り口付近は大丈夫そうでしたか?』
『平気・・・でも休める場所はここだけよ?皆さんが座る椅子とか準備してくれたら・・・』
『いえ。貴女が良ければ車で休ませて頂きます・・・
構わず自由に。用がある場合・・・それと外出、またはここから離れる場合の連絡は下さい・・・』
『ごめんなさい・・・迷惑かけて・・・』
『それは仕事なので、気になさらずに頼みます・・・』
『(笑)ありがとう』
言われて照れたのか笑みながら会釈し、敷地の中を確認していった。
ならばと遠慮なく家の掃除と楽し気に始める陽葵だった。
静かな場所だった・・・療養所という場所に弟はいた。
叔父に連れられ向かった場所・・・驚くほどに近い場所だった・・・蒼と居た場所よりも時間はかからず驚いた。
別棟だと案内された場所で、その子は車椅子に座り何処かを眺めていた。
付き添う人が会釈する・・・その奥で庭の手入れをしていた人の手が止まった事に気づくが知らないフリをして弟だと言った子を眺めた。
家から優しい音が聴こえる・・・その優しい響きに笑み、ゆっくりと様子を見ながら近寄った。
『名前を教えてくれる?』
『 ・・・』
名前が知りたくて声にするが自分を見ない子を眺め叔父を見返した。
『話せない・・・暫く時間をやろう』
それだけ言うと叔父は もと来た道を戻っていった。
膝まつき顔を見つめ視線を重ねた。
『初めまして(笑)。私は藤條陽葵と言います・・・貴方と会えて(笑)嬉しいです・・・』
ジッと視線も合っているのか見てくれているのかも分からない・・・瞳さえ動かさない姿に涙が溢れた。
表情もない・・・生きている温かさはあるのに、触れた手に視線も飛ばさなかった。
『名前・・・この子の名前は知りますか?』
後ろに立っていた人へ陽葵は声をかけて聞いてみた。
『和希と言うそうです。私も一度も声を聞いた事はありません・・・』
『いつから、この子を?』
『お世話を始めて8年になります・・・』
『そばにいてくれて(笑)ありがとうございます・・・』
立ち上がりお辞儀をした陽葵の笑みに目を潤ませうつ向いた。
腰をおろして和希を見つめ、手に触れて優しく包み込んだ。
『知らなくて・・・ごめんね。貴方を待たせてたのかな・・・
(笑)元気になったら・・・一緒に暮らそ?(笑)待ってるから・・・頑張ってみて・・・生きていいの・・・
大丈夫(笑)、貴方の心が弾むように祈るから・・・出来そう?』
ゆっくりと呟く陽葵の声に何となく目が合った気がした。
『あの・・・』
戸惑い・・・言いかけた人を見返す陽葵・・・それでも微かに聞こえた音楽に耳をすませた。
『家から流れている曲は・・・・』
『前からだそうです・・・起きている時は聴かせる事と聞いていたので・・・』
一瞬の迷いは消え、陽葵に聞かれた事を思い出しながら答えた。
『心が休まる音ね(笑)。貴方が大好きな曲? 私が好きなのはね(笑)教えてあげるね・・・』
そう言うと、笑み見つめながら優しく歌い始めた・・・
『小さな頃に、私のお世話をしてくれた人から教えて貰ったの(笑)。
優しくて・・・楽しくて・・・(笑)歌えば嬉しくなった・・・
あの曲も(笑)好きだったな・・・』
思い出すように話す陽葵・・・ふと気づけば和希から溢れた涙に気付いた。
『悲しい曲じゃないのよ?(笑)心を休ませる為の歌なの・・・大丈夫と、和希がホッと休めるように歌ったのに・・・』
何が悲しいのだろうと見つめながら和希へ言った。
-バァ-
和希の口が微かに動く・・・
『バァの優しい心は私の中も温めてくれてる(笑)。和希もでしょ?』
聞こえていたのか、溢れる涙に驚いた陽葵は後ろの女性を眺めた。
何だと近寄り和希の姿に慌て涙を拭きながら大丈夫と囁き抱き締めた。
収まる気配もない・・・落ち着くようにと祈りながら、流れていた曲を陽葵は静かに歌い始めた。
和希の撫でていた手が止まる・・・静かに和希から離れ顔を眺めた。
何かを言いたいのに声がでず、それが悲しいのか何を言いたいのかも分からなかった。
『木の手入れをしてる人は、私がお世話になったバァの家族でしょ?私を助けに来てくれた人・・・
もしかして貴女も?』
歌を止めて和希を眺めず、遥か先の景色を眺めるようにいた陽葵が呟いた。
『 ・・・』
『(笑)答えなくていいです。私が自分で見つけるので・・・』
『あの・・・』
『いいんです。バァのかわりに弟を見てくれてありがとう・・・
私は大丈夫と先に伝えてくれますか?(笑)後で謝り自分で言い直すと・・・』
『 ・・・はい』
『和希君(笑)、も少し頑張れるかな・・・。今ね(笑)叔父様と交渉中なの・・・今度は私達のお父さんとお母さんに会ってくるね・・・』
そう言って抱き締めた陽葵が和希へキスをした・・・
『和希は大丈夫(笑)。また後でね・・・』
手に触れて呟いた陽葵は佇む人に会釈し場を離れたのだった。
途中で振り向く・・・見送るように見ていた人達に微笑んだ陽葵だった。