tamiのブログ

このブログ・・・妄想ー空想大好きな私が、勝手に楽しんで・・・勝手に文字にしています。ボロボロですが(笑)

アンリッシュ 25

2019-04-16 01:07:00 | アンリッシュ


囲われた場所へ大きなテントが張り巡らされ始めた事に驚いた。
何より警護者達がいつもより近くで待機している事に苦笑いだ・・・その理由は外の出来事が始まったから・・・

数多くの人達が準備をと出入りする・・・回り込む面倒さで壁が壊されもしていて笑えた。

その笑みが出来る自分にホッとした・・・受け継いだ事を終わりにしたかった母を知れた・・・父も出来ず自分へ回ってきた・・・それを頑張ろうと知らずに来た自分・・・

蒼に出されず、ここで生きたなら・・・未だに母に会えず誰も知らなかったはずだ・・・母の願いさえ。

色んな思いが駆け巡る・・・テントの端で自分を見ていた人に気づく・・・蒼達の父親、加賀美だと分かる・・・そしてマベルという場所の幸坂という人だった。

話がしたい人達は警護者達が丁寧に断り離してくれた。
何より叔父が始まる前から事は進められないのだと知るからか、引き止めては話し込んでいる姿もあった。

機材まで運ばれ驚いたが、家の中へ入り気分転換だとラジオのスイッチを入れたのだった。

それはボリュームのスイッチだったが・・・外へも聴こえるようになったのは、何時からだったか思い出せない。

それでも嬉しかったから・・・一日中、聴こえるようにスイッチを切った事はなかった。

流行りの曲・・・そう言った蒼を思い出す・・・流れる音楽は、ソコにいる人達にも笑みが溢れる事を知った。

運ばれたモノは自分が今日着る為の服と靴だった・・・準備してくれたのだろうと着込むと、新しく付けてくれた屋根の下で待った。

「陽葵様・・・
これから始まりますが、全て近場で待機させて頂きます・・・理由は」
「皆さんが危険になりませんか? そうなりそうな状態になるなら、離れてくれますか?」

「 ・・・」
「守る仕事でも、命を投げ出されても悲しいだけです。
大丈夫と終わりにする私の為に怪我をしたら・・・そっちの方が私には悲しい・・・私の為なら・・・必要ありません」

「 ・・・」
「違います」
「陽葵様 ・・・我らは貴女から雇われていません。主の為に仕事をしているのです・・・陽葵様の為でもなく(笑)主の為です」
「気にせず待機します・・・離そうとするダートンの主へ声にしてくれませんか?」

「だけど・・・」
「(笑)仕事がちゃんと出来るよう、頼んでいるだけですよ・・・」
「お願いしますね(笑)陽葵様・・・我らの為に・・・」

彼らの呟きにジッと見返す陽葵・・・諦めたように頷いた事にホッとする姿があった。
迷うように眺めれば大丈夫と主の為だと新たに声にする・・・諦めるしかないと陽葵はテントの方を眺めたのだった。




勢揃いする中へ入り込む・・・その人達も正装していた事に苦笑いだった。
モニターは、いつもより大きく・・・写された人達の数も多かった事に驚いた。

それぞれの報告・・・今までなら、どんな時も途中で交ざりサインをしたら出されていた・・・居なかった時間の様子はこうだったのかと陽葵は眺める・・・その時間は静かに流れて行った。

途中でダートン側からの報告・・・その他にと声にした叔父の声は、最後にと止められ別の場所のオーナーへ回された。

代表として当番だと声にした人が纏めていく・・・そして陽葵が呼ばれ前の席に着けば、少し離れた場所へ移動した叔父の姿があった。
彼女は構わずにモニターの向こうを眺めた。

「レディ(笑)、報告は完了した。
まずは、そちらから話があるそうだが・・・」
「はい。宜しいですか?」
陽葵の声に、その人は後ろへ控えていた人達の顔を確認するように眺め、了解は取れたと笑みながら陽葵を見返した。

「では(笑)話したまえ・・・」
「話す言葉は一つ・・・」
「声を・・・」
「all out」
そう言った途端にざわつくように、それぞれに話し出した人達の姿があった。

叔父は驚き、どんな意味だと陽葵へ詰め寄るが警護者達は引き離した。
ダートン側席でも、騒ぎだし叔父へも詰め寄っていた。

「取り分を」
新たに言語の違う言葉で話され、ダートン側の驚きは静まり出した。

「10」
「継ぐ者を」
「ダレン様へ全て」
「声を」
「Tribute fromZ toダレン 」

陽葵の呟きに、思わずだろうモニターの真ん中に座っていた人が立ち上がり、その場に居るのだろう人を睨むように眺めた。

それでも、それぞれの言語で話し合いのように始まり陽葵は待つように椅子の背へ凭れた。

向こう側の人達の様子が可笑しいと、ダートン側は密かな相談をする・・・叔父に詰め寄り聞きだしていた。

『ダートンへ、訳して戴きたく・・・』
叔父が恐る恐る声にする・・・真ん中で写る人が手を差し伸べ静止するようにと声を止めた。
グッと陽葵の身を押し顔を眺めた。

『すみません。私の役目を終わらせたく願い出ました。
承認されれば、終わります・・・その後は叔父様が話をし提案して下さい』

『されるわけがない・・・代々から繋いで来たモノぞ?』
『叔父様が作ったモノでもありません・・・』
『お前の父親が遺したんだぞ?』

『知っていましたか?本来・・・引き継ぐべき人は母でした・・・』
『聞いていない・・・』
『 ・・・その話は何故・・・繋がなかったのでしょうね・・・』
『後継者ではなかったと?この方が?』

まさかと驚き呟く人達・・・そんなはずはないと驚きながら、それぞれに互いを見あっていた。

些細な囁きは叔父へ少しずつ不信感を持ち始め・・・ついに主導を握り始めたのは加賀美と幸坂の場所マベルだった。


『静かに・・・』
スピーカーからの声で一斉に声を止めモニターへ視線を戻した事に苦笑いをする人達もいた。

『陽葵・・・そちらの言語で始める』
『はい』
『君の声は承認された。よって、この瞬間から完了とす。いいですか?』
『はい』

『駄目だ!駄目です・・・反故して頂きたい』
慌てるように声にする叔父を眺めたが、向こう側の人達は苦笑いをしながら説明だと代表に声にした。

『ダートンの皆様は正統に引き継がれていないようだ。
全ては正統に引き継がれ、ダートンは陽葵へ繋いだ。

その前・・・それは陽葵の母だったが・・・それでも正しく娘へ繋がれた事で、こちらから声に出さなかった。

無駄なサインさえ止められなかったのは、正統な主 陽葵だったからです・・・藤條様は正しく管理されなかった・・・
よって、ダートンは組織から名を完全に削除する・・・』

『陽葵から繋ぐべき』
『無駄だ・・・彼女は全てを手放した・・・誰の管理でも彼女の子でも再び戻れる事はない』

『何て事をした・・・』
『陽葵様・・・』
『陽葵!』
『オールアウトとは?何だ!』
叫び睨むように聞く加賀美を見返した。

『そのままです。組織から出る・・・全てを出し終わりにと願い出ました』
陽葵の声に怒りながら近寄る・・・警護者達が陽葵を囲うも、他の警護者達が現れ対峙する間に幸坂が引き離して連れ出した。

それぞれが銃をだし、それぞれの守る人達から銃口を避けるために銃を向け始めた・・・
止めろとモニターからの声・・・駄目だと焦る声はスピーカーから響く。

陽葵の警護者も銃を出し静かに陽葵の近くへ向かった。
震えた手を押さえ陽葵の身へ銃を突き付ける・・・その姿に回りは驚き幸坂への説得も始まった。

死んだら終わり・・・完全に止まる・・・繋ぐべき者が消えたら・・・次の為に・・・潤うモノが消える・・・・・・全ては自分達のモノのような物言いだった・・・

だからダートンは・・・やはり裏切り者は・・・脱退して良かった・・・先ずは大丈夫・・・揶揄する声はスピーカーからも聞こえてきた。
静かに銃口は陽葵へ集まり始めた・・・

この醜い姿を晒す人達の中に自分も含まれるのだと思えた・・・何より、自分の次へ繋ぐ先は計画されていた事に気付いた。

それで終わるなら構わないと思えた・・・それが願いだったなら、自分が完全に終わらせればいい・・・そう思えた。

逝けばバァに会える・・・バァの家族へ運んでくれる事を願った・・・約束でも確実とは言えない・・・死んだら確認も出来ないから。

それでもダレンという人を信じ母は考えた・・・産まれた私を利用してだ。
正統に引き継がれて居なかった事は本当だった・・・そんな組織の存在する中でまともに先へ繋げられるはずもない・・・

それでもダレンという人は欲しいのだろう・・・その理由は知らないが、母を諦めた・・・事の次第の予測はしても自分へ声を出す事もしなかった。

ならば全てを・・・そう思った・・・全てを終わらせる絶好のチャンスがきた・・・走り出した人が見え、笑みながら駄目だと静止させる・・・驚きながらも足を止めてくれた事にホッとした。


-やっとだ・・・-

そう思えた瞬間・・・嬉しくてだろう微笑む自分に気づけた。
笑みで逝ける・・・その事に感謝して見返し、彼女は目を閉じたのだった。



銃声・・・
聞いた事のない音が始まったが、それは何かも知りたくもなかった・・・楽しい日々が次々と思い出され嬉しくなった。

銃声や誰かの叫びが始まる・・・何処だ何だと言い出し始めたが構うなと目を開けるのも諦めた。

スピーカーからの声さえない・・・怯えた声まで始まり・・・不意に捕まれた腕に驚いた。
顔を引きつらせ辺りを探りながら逃げ場を探していた幸坂だった・・・

『君と生き、先で子供の為に力をつけよう・・・』
『 ・・・』
まだ諦めていないのかと驚いた・・・痛みが走る・・・飛び交う銃声の音は激しいのに自分へ来なかった。

今はやっと掠り傷・・・不思議とガッカリした自分に気づいた・・・テントの中はテーブルの下へ隠れる人達がみえ、何処かへ伏せながら逃げていく姿もあった。

身を隠しながら警護者達は自分を見ていた・・・蒼達の父、加賀美が伏せ・・・様子を探りながら幸坂へ来いと呼んでいる。

繋ぐ彼の手を離そうとするが、食い込むように握り離されなかった・・・それでも撃たれていく・・・加賀美が撃たれた姿に気づく幸坂が驚き焦りながら引き返した・・・激しく揺れた身は自分を掴む手が緩んだ。

視界が揺れる・・・ようやく迎えたモノは身へ突き刺さった気がした・・・


幸坂が激しく揺れた途端に今度は彼女が揺らぎ地面へ倒れていった。
陽葵を守る人達は既に撃たれていて、それに耐えながら自分へ近寄ろうと這っていた。

この惨劇に何処から始めたのかと探り弾が飛んでくる場所を探った。
銃を構えながら多勢の男たちが現れ始めた事に気づく・・・それは、いつか見たダーナルとカナンという組織の者達だった。

ダートンの主を探しだし足へ撃ち込んで動きを止めた事に驚いた・・・結果だと聞いている声も大きく、回りも事の先を教えろと叫ばれていた。

騙すなと脅され、その場にいた者達を捕まえていく・・・
仲間がつつき何だと見返せば、彼女が倒れた場所には幸坂しか居なかった事に驚いた・・・

『加賀美様は?』
『あいつらに捕まり今はテントの中だ』
『なら彼女は彼らが連れ出した?』
『そう願い大丈夫と祈ろう・・・』
『それでも探し確認しないと・・・』
確かにと頷いた仲間と支えあい、静かに場を離れたのだった。


壁沿いを這う・・・少し前に彼女と彼らが会った場所・・・そこは既に壊してあった事に驚いた・・・。
何より知らない男たちが現れ自分達を背負い脱け出した事に声も出せず互いに見あった。

連れ出されている事で利用し倒してから逃げようとふんだのに、着いた場所には知る男が笑って待っていた事に驚いた。

『君・・・』
『(笑)病院に行くんで、全部捨てて下さいよ。そろそろ警察も着くんで(笑)巻き込まれたって事で行きますよ!』

『だから(笑)君はスーツを?』
フッと笑った颯は仲間をそれぞれに乗せ自分達までバンへ乗せ車は走り出した。

『そうだ、撃たれた彼女は?急所は外れてたか?』
『大丈夫だったか?』
『彼が連れ出したんだろ?』

『(笑)早々にぶっぱなす事は予想外で・・・俺らより早く行った事も・・・まじ(笑)ヤバかったですよね・・・』
『君が言った通りだった・・・』

『あの笑いで飛び込んでったから俺の方が焦りました・・・(笑)それでも、慎重に近付いて連れ出せたので』

『本当に笑みながら撃たれるのを待ってた・・・何を思い出してたんだか・・・』
『それでも、君には感謝する・・・』
『いーえ(笑)。この前の礼ですよ』

止血を手伝い、状況の報告のように話してくれる颯に感謝した。
守れなかった事は戻り報告した時に謝ろうと、今は彼女の無事を祈ろうと思う3人だった。



アンリッシュ 24

2019-04-08 12:54:13 | アンリッシュ


主も寝静まる真夜中の屋敷は、震えそうなほどに静かで控えた足音さえ響きそうで怖かった。

迷いながらも、不思議と呼ばれているように廊下を歩き続けた。

錯覚だろう、うろ覚えのある廊下・・・二手に分かれ、どっちに行くかと警護者は陽葵を眺めた。

向こうの端から、ライトが照らされ合図のように点滅し一つのドアを照らした。

誘われるように向かう陽葵・・・互いに訝しげる警護者は辺りを探り陽葵を守りながら歩いた。
近寄れば、男が一人佇み陽葵へ会釈した。

『こちらが、お嬢様のお部屋です』
手招くように静かに声にした人を眺めた。
『貴方は・・・』

『私の母は、陽葵様のお母様・・・その方に仕えておりました、今は私の代に変わり こちらの部屋を管理しております。
今もそのままに・・・そして、これを』

『それは?』
『聞く事があるなら・・・それが陽葵様が使える時代のモノを準備しておく事・・・そう言われ今に至ります。
中に、レースが着いた箱があります。それはどーぞお持ち下さい、陽葵様へと申し使っておりました』

そう言うと静かに鍵をあけドアを開け放ち頭を下げた。

鍵の予備だと陽葵へ手渡すと静かに離れ出て行った。
部屋へ入る・・・明かりは外へ漏れないようにか窓は目張りされていて驚いた。

二重の扉は警護者が閉めていった。
目貼りに気づけば、部屋の明かりを点けるべく探し部屋を明るくした。

柔らかな光りにホッとしながら散策のように部屋の中を静かに歩いた。
寝室のスペースだろう場所・・・主の居ないベッドの上に箱があった・・・それに触れながら辺りを眺めた。

大きな楕円形の鏡がある事に気付く・・・そっと触れれば鏡は少し傾いた。
裏を眺める・・・本当にあったと笑み彼女は鏡を傾け取り出した。

ベッドに座り眺める・・・さっき譲り受けたモノに目が止まり・・・イヤホンをつけてスイッチを押した。

優しい曲だった・・・和希が好きな曲に似ていた事に苦笑いをする・・・聞き入るように目を閉じたのだった。

海外の曲だったのかと笑みながら聴いていれば不思議と歌詞の意味は理解出来ている自分に苦笑いだった。

特別に習った記憶もない・・・その理由も分からなかったが、スッと溶け込むように歌詞は理解出来た。
聞き終わった彼女はポケットへしまうと、読んだ手紙を思い出していた。

優しい曲なのに切なくて・・・悲しくなるような気さえする歌詞でもあった。

もう一度聴こうかと迷うように眺めれば、警護者が扉の向こうの気配を探っている姿がみえた。
確かに見つかっても面倒だと箱を持ち一緒にでたのだった。


少しだけと、ボリュームを調節しベッドの上で聞き入った。

暫くして・・・
『邪魔をして申し訳ありませんが・・・陽葵様へ・・・』
『どうぞ・・・』
返事をし眺めれば静かに警護者が入り携帯を目の前に出された。

『ダレン様が話がしたいと・・・』
小さく頷いた陽葵へ携帯を差し出すと静かに外へ出て行った。

『もしもし?』
「夜分にすまない・・・」
「(笑)起きてましたから・・・」
「話をしよう・・・君が知りたい事も・・・そして願う事も」
「 ・・・はい」

「何からにしようか?」
「なら、この言葉から・・・習った記憶もない言葉を、理解して話せる理由を教えて下さい」

「(笑)遥か昔に計画され、それが実行されたのだろうと思う。
本当に予定通りに進めていた事には驚いたよ・・・それでも・・・」
「分からなかったから、ずっと質問をしていたのですか?」

「そうだ・・・
君が幼い頃は、画面へ出る事は許されなかった。だが声にしてもいいと許可され聞こえそうなギリギリの場所から聞いて確認していたんだ」

「でも時々・・・」
「こちらにも・・・派閥はあるんだよ・・・残念ながらね・・・」
「母と・・・母のお友達でしたか?」
「(笑)互いに幼い頃にね・・・
さぁ(笑)次だ・・・本当に知りたい事だ・・・」

「私の為に生きた人達へ恩返ししたいんです。使ってもいいですか?」
「(笑)構わない・・・何処へ何パーセントを?」
「 ・・・」

「(笑)構わないよ。言ってごらん・・・」
「バァの・・・バァの家族へ・・・長田やよいさんの家族へ3分の2を。加賀美颯さんと蒼さんへ怪我をさせてしまったので・・・そこへ3分の1を。
全てをダレンさん、貴方へ・・・」

「ん?」
「叔父様の前で・・・」
「 ・・・後悔はない?」
「貴方へ危険を強いそうで怖いですが・・・私よりは・・・」
「 ・・・」

「本当に出来ますか?」
「明日、会議があると聞いてる・・・
君は彼女から聞いていたのか?その言葉を知れた?」

「(笑)母の想いに似た曲だと・・・教えてくれました。大丈夫ですか?そして、それをした私は・・・皆へ恐怖を与えませんか?」
「 ・・・」

「10パーセントから・・・」
「 ・・・決めたんだね」
「母が受け継ぐモノが何故、父へ繋いだのか・・・その理由も知りません・・・そして、それが私へ繋いだ方法も・・・」

「君が産まれる前から彼女は考え計画していた・・・継ぐ怖さは君を守る強さに替えて頑張ったんだよ・・・迎えにも行けなかった事が悔やまれる・・・」
「 ・・・」

「君の父親・・・彼は優しい人でね・・・彼女を守っていたが・・・耐えられずだった・・・弟がいたね(笑)話せたかい?」

「少しだけ・・・過去の記憶・・・思い出の中に父と弟は居なかったんです・・・あとは、会ったのは顔のない二人の誰かの声だけでした・・・」

「 ・・・顔のない」
「はい。声だけ・・・言語も違ってて・・・夢で話す自分にも驚いたし・・・大丈夫と・・・覚えていられるという声も・・・」

「それが誰かも覚えていない?」
「はい。誰かへ言っちゃだめだと諭すような声は女性で・・・沢山の声は男性でした・・・身を守る為なのか・・・私を守ってくれる方法だったのか」

「 ・・・(笑)そうだったか」
「貴方は本当に大丈夫ですか?」
「鍛えてきたよ(笑)」
「狙われて行く事は・・・」

「確かに怖かったね(笑)、何も知らない幼い子だったから余計に出来たのかも知れない・・・

私が大人という歳になり、探してみれば既に君は囲われの身になっていた・・・そして彼女ごと・・・囚われ・・・壊され・・・記憶も曖昧になっていた」

「母と・・・」
「(笑)鬼ごっこも、隠れんぼも・・・彼女から習ったから(笑)上手なんだよ・・・
さ・・・(笑)もう寝なさい・・・幸せと笑みが溢れる場所を夢の中で浸りなさい。
私はそれが実現するよう頑張ろうと思う」

聞きながらも、電話の向こうから聞こえ始めた曲に微笑んだ・・・それは、あの部屋で聞いた曲だったから。

-君を抱いて・・・彼女と笑いたかったよ・・・どれほどの幸せだったろう-

歌声の中で囁かれた優しい声音が響く・・・それでも不思議と眠りへ押し進められたように陽葵は眠りに落ちたのだった。



「失礼致します・・・陽葵様は眠られました」
「(笑)ありがとう、助かったよ」
「いえ。これからの指示を・・・」
「明日、会議が開かれる・・・予定通り頼む。変更はないが・・・彼らの動きも気になる・・・」

「陽葵様自身が選ぶなら、彼らへ預け警護しながら逃がしても構いませんか?」
「ダートンが手放さないだろう・・・
何処で連れ出すか予測もな・・・知りえそうか?」

「何処かで待機し様子を見ている気もしますが、姿を隠す事が上手く・・・予測は・・・」
無理だろうと思いながら報告をする・・・そうかと考えながら声にしている気もした。

「より近場で待機はします・・・」
「頼む・・・生かし逃がしてくれ。
もし・・・本当に迎えに来たら陽葵を戻して構わない。早々に逃がし、動きを探りながら守ってくれるだけでいい。
その間に、こちらで事を済ませようと思う」

「了解・・・」
「陽葵を頼む・・・」
「はい」
静かに切れた電話をしまい眠る彼女を見つめ考えた・・・彼女と話した後からの声は前とは違う雰囲気になっていた。

柔らかな物言いだった・・・確実に彼女を守れと言っている気もした。
そう自分が思いたくてかと考えたが、そうでもない主の声を信じようと思えた。

外で待機している仲間へ、受けた指示の中味を話す・・・同じように感じる仲間の声に不思議とホッとするのだった。

ならばと予測し十分に観察してきた人達や敷地を思い出しながら話し合うのだった。



アンリッシュ 23

2019-04-04 09:38:50 | アンリッシュ


苦笑いをしながらも、静かに離れてくれた人達に感謝した・・・
いまだ蒼の上に乗る陽葵・・・ふいに起き出し蒼の体へ触れた事に驚きながら彼らは彼女を眺めた・・・

『良かった・・・・・(笑)』
笑みながら呟いた陽葵は、そっと彼へ凭れ今度は耳を澄ますように蒼の心音を聞いていた。

『(笑)頑張った蒼に褒美はやんねーとな。ちゃーんと(笑)考えるんだぞ!』
颯の呟きに頷く陽葵は まだ聞いていた。

風が葉音を立てる・・・その音を聞きながら彼の温かさを感じていた。
颯まで寝そべり耳を澄ます・・・蒼の手は優しく自分を包んでくれた。

『皆が近くに居たの・・・』
『話せたのか?』
『和希だけ・・・。弟は和希っていう名前だった・・・バァと暮らしてたんだって・・・それから、バァの家族がお世話をしてくれてた・・・
会えたのに・・・さよならされちゃった・・・私の名前を呼んでくれたのに・・・バァに会えるって・・・』

『悲しかったな・・・』
『それでも会えたから・・・』
『和希の先の分は お前が楽しんでけ・・・』
背を撫でながら言った蒼・・・優しく微笑んだ颯は頭を撫でてくれた。

『二人の事も話して、会えたら遊ぼうって言いたかった・・・一緒に暮らそって言ったのに・・』
『 ・・・』
『写真・・・なかったか?』
『 ・・・』
『貰って飾ればいい(笑)。花を添えたら会えるだろ・・・』
そうかと頷く陽葵がいた。

『さーて(笑)、帰んねーとな・・・』
そっと起き出した颯の呟きに、しがみつくように抱き付いた陽葵・・・それが可笑しくて笑う颯と蒼だったが、ギュッと抱き込み彼女の温かさを感じた。

『残りを頑張れ・・・陽葵は大丈夫だ。お前が決めたなら大丈夫・・・(笑)迷わずに終わらせろ』
そうだったと、小さく頷いた陽葵だった・・・

『あー、マジで痩せたな・・・食い足りねーぞ(笑)』
『 ・・・明日から』
フーと息を吐いた蒼は彼女を抱き込んだまま身を起こしキスをして立たせた。

ゆっくりと立ち上がる蒼を眺め確認するように見た陽葵に苦笑いをして隠すように抱き直し歩かせた。

『ちゃんと戻れ!』
颯の呟きに微笑んだ陽葵がいた。
そっと自分の身へ触れた蒼が見つめた・・・

『ここに陽葵の家族がいる(笑)。皆の記憶が陽葵を幸せにしてくれる・・・だから大丈夫だ(笑)』
優しい響きが心地好くて、気持ちが弾む自分に嬉しくなった。

『蒼・・・』
『ん?』
『皆の代わりに愛してくれる? 和希が埋めてくれなかった場所に詰め込んで・・・』
何を言い出すのかと身構えれば、それかと口を引いて彼女を見つめた。

『(笑)愛してるぞ。陽葵が頑張った褒美は俺が考えとく(笑)』
『大丈夫と信じて行け(笑)、皆が待ってるぞ(笑)お前と遊びたくてな』

二人の言葉が嬉しくて、笑みながら蒼へ抱き付きキスをした・・・それは颯にも・・・
照れた二人に微笑んだ陽葵は警護者が待つ場所へ入って行ったのだった。

フーと静かに息を吐いた蒼を、笑いながら支えた颯がいた・・・肩を組ませ蒼の様子を眺める・・・大丈夫と口を引く蒼と歩き出す。
静かな足音に二人が振り向けば・・・一人の警護者が来ていた事を知った。

『送りましょうか?』
『(笑)大丈夫です。車に待たせてますから・・・』
『ありがとうございました・・・』

『貴方がたは・・・加賀美様のご子息でしたか?』
『 ・・・』
『間違いありませんか?』

写真を取り出し二人へ見せれば、陽葵と一緒にいる自分達の姿だった事に驚いた。
身元はバレたのだと静かに頷いたのは颯だった。

『言伝てがあります』
そういうと二人へ静かに話した。
『このまま彼女を引き受けますか?』
『 ・・・』

『構いません。真実を教えて頂けますか?』
『それを言って・・・陽葵へ手が伸びそうですか?』

『 ・・・(笑)彼女なら一人で行きそうですね。
本当は、その回答によって伝える言葉は違いました・・・

では。
彼女の選択でダートンの出方が変わる。今のダートンは分裂し、どの選択でも彼女は囚われる。
その間に身を隠し連れ出すが、皆さんは知らぬふりをして過ごすように頼むと・・・』

『いつまで?』
『戻してくれるんですよね?』
『連れてったまま?』
『 ・・・』
次々と聞いてくる二人に驚いたが、静かに彼らを眺め声にした。

『私の主が逃がします・・・ココに来てはいませんが・・・(笑)大丈夫と信じて放って頂けますか?』
『知らないのに信用しろと?』

『(笑)個人的な意見ですが。
彼女の敵か味方か・・・私には分かりません。最終的に流れを変えたいのだと・・・思えます』
『流れ?』

『彼女に流れているモノ・・・それはダートンではなく主へ・・・』
『そう解釈して陽葵を助けていると?』
『そう見えるだけなのかも知れませんが・・・』

『ならば、それに乗ったら解放される可能性がある・・・そういう事ですか?』
『恐らくとしか・・・
全ては会議の結果次第・・・その選択で主や他のメンバーの動きも代わります・・・』

聞いた二人が、どうするかと考えた・・・直ぐに答えたのは颯だった。

『すみませんが・・・逃がしてくれるだけで結構。その先は俺たちで。
ダートンは後腐れなく潰して陽葵から離して下さいませんか?』
『 ・・・』

『了解したと報告を。俺たちで勝手に始めますから・・・』
『貴方達のミスとして罰はありましたか?』
『分かりませんが・・・』

『会議の決定ならダートンも諦めますよね?その意思に反して仕出かす・・・・可能性もあんな・・・』
考えながら話していたが、ふと過った何かに余計に考え始めた兄を眺めた。

『兄貴・・・何を考えてる?』
『 ・・・やべーな』
『ん?』『はい?』
考えながら話していた颯が突然言い出し戸惑った。

『今の陽葵なら・・・違和感が取れねーんだよな・・・』
『ど・・・んな・・・』
『ん・・・それでも殺すなら殺せ・・・そんな感じ?』
『だけど探せって・・・迎え・・・兄貴・・・』

『全ては自分のせい・・・
全部知ったからな・・・陽葵を生かす為に回りは犠牲になった。

その後の選択をしても、陽葵が居るからって理由で流れも戻せる・・・そう思ってたら?

全部を理解もしてないダートンだったら、そうなる可能性もあるぞ?
自分が生きてる限り無駄と陽葵が気付いたら?』
『『 ・・・』』
そんなと驚き声を失う・・・

『やべー時に・・・陽葵はお前の言葉を思い出せたら・・・何とか・・・』
『それでも、無理だ・・・陽葵はしない。俺は撃たれたしな・・・怪我をした・・・それを見た陽葵は諦める・・・
含みをダートンに持たせて自分を殺させ終わらせる・・・俺なら・・・』

自分だったらと考えた・・・似た彼女なら・・・そんな気がすると呟いた蒼だった・・・


繋がりは本当に深く繋がっていた事を知った・・・決断も早く予測まで細かい・・・彼女を知るから・・・それだけでもなく、彼女の敵・・・それ以外までの詳細も知るのか深く予測する二人なのだと思えた。

主はと考える・・・彼女へ助言していた姿はあったが、それは流れを変える為・・・それでも回避すべき事は彼女自身を守るような指示だった。

それでも雇われているのは主の方だと彼らを眺めた。

『今の話は聞かなかった事にし、引き受ける事だけ報告します。
貴方は完全に直し、彼女を守って下さい・・・では、失礼いたします』
『ありがとうございました・・・』

『感謝します・・・』
離れる自分へ声にした。傷は全部癒えていない事がバレた・・・改めて会釈した男は離れて行った。



=お誕生日おめでとう、陽葵。
今日は貴女の誕生日だったね。一緒に居てあげれず、ごめんなさい。
時々・・・記憶が途切れ疲れてしまうの。

久しぶりに目が覚めたら2年もたってた・・・忘れてごめん。祝ってあげられず本当にごめんなさい。
パパも今、隣で眠ってるわ・・・怖くて起きれないみたい。

貴女は強い子よ・・・頑張って自分だけの幸せを見つけられるように頼んだの。

貴女には弟が出来た・・・会えたのかな・・・貴女の部屋の鏡の裏に写真を1枚貼って貰ったの。見つけられたかな・・・
確か、前にも・・・和希の写真も頼んだ気がするの・・・

まだまだ子供の貴女へ無理を強いた事・・・本当に驚いたわ。
パパを怒らないで・・・ママが怒ってあげるから。

もし・・・本当にもしもだけど、嫌なら捨てていいの・・・パパは少し怒るだろうけど・・・一緒に居ない罰は受けなきゃね。


ママの想いを貴女へ・・・
それを聞きながら思い出して・・・小さな貴女へ教えた魔法の呪文を。
大好きよ陽葵・・・ずっと・・・
貴女の心が穏やかな日が来ますように。



古びた手紙は大事に袋に入っていた・・・思い出して読んでみれば、これが母の文字だったのかと嬉しくて眺めた。

着替え直した陽葵は静かに表へ出たのだった。





アンリッシュ 22

2019-04-01 08:18:27 | アンリッシュ

ようやく会えた両親は、人形のように目を閉じ眠っていた姿だった。
それ以上は動けないように身を固定されていた事にも驚くしかない・・・息遣いまで弱々しく睨むように叔父を眺めた。

『ずっとだよ・・・いつからか、自由になれば飛び出し狂ったように逃げ暴れていく。
自分に傷がついても痛さもなく暴れ続ける・・・世話をしてくれる人達へまで危害を加え怪我を追わされる。

全部それを防ぎたくて、こうしてある・・・幻覚を見・・・錯覚して襲う・・・ペンさえ凶器になりえ危険だと聞き・・・仕方なくだった・・・』

『その理由は?』
『薬を長年接種していたと・・・聞いた・・・だから防護服を着せ寝かされてもいる・・・』
『生きてますよね?直りますよね?』

『このままと聞いた。見こみもなく、ひたすら息をしているだけの・・・』
叔父の言葉に、言い方に耳を疑った・・・ 自分の家族なのに、これかと。
快方に向かうべく、すべき治療さえしていない叔父と知った。

一時間たっても反応もなく眠る・・・話す事は諦め二人に優しく触れて彼女は帰るのだった。


何をする気にもなれず時間だけが過ぎていく・・・ふと思い出したように弟へ会いに行き歌を歌って時間を潰した。

何度も病院は変えられ、脅しのように叔父へ詰め寄る・・・聞いた先で本当だったと知れば、元の場所へ戻し皆を同じ人達へ頼む陽葵だった。

話しかけても、弟の反応は消えたように視線さえ合わなくなっていた。


じきに連絡が来る・・・その前にと会いに行けばベッドに寝かされ呼吸器を付けられた姿に驚いた。

世話をしてくれる女性と二人で和希を見つめ・・・思い出したように歌を歌い始めた陽葵がいた・・・

優しい曲なのに悲しく聞こえ余計に辛くなった女性が静かに泣き始め・・・それでも和希に届けと祈るように歌う陽葵だった。

『 ・・・義母が逝き・・・その悲しみに負けてしまいました・・・苦しくて・・・逃げたくて・・・怯えていく子と初めて会ったのです。

バァと居たいと・・・一緒に逝くと葬儀も出来ないほどに暴れ・・・あの方が連れて行かれました。

見つけた頃には既に死んだように身動きもせず・・・薬物のような何かを打たれ眠っていました。
今は私が世話をしていますが、前は男性で・・・身形が・・・』

『組織とか・・・』
『はい。専門の看護師でもなくて・・・止めて欲しくて・・・可哀想で・・・何度も頼みやっと・・・

それでも、諦めず探せたのは義母との約束を守りたい主人だったから・・・海外でもそうですが、戻っても狙われる危険もあったり・・・連絡方法も見つからずでした・・・。

噂と・・・何処かからの連絡で聞き・・・主人が会わせたいからと・・・それまでは励まし・・・見つけ来てくれるのを、お待ちしてました』
静かに泣きながら話す人を眺め、和希へ視線を戻した。

『体が・・・不思議と内緒の話をしてから・・・陽葵様の事を教えた位から(笑)気力のような、会いたいという気持ちだけで生きているように思えます。
楽しみに待つ・・・それだけで・・・本当は、聞こえていないのかもしれませんが・・・』
そんな気がすると話してくれた事に感謝した。



その日・・・連絡が入り時間が決められ屋敷に集まり始めた。
その間に両親がいた病院から連絡があり、陽葵は警護者へ頼み急いで貰った。

病室へ向かえば延命する為の処置もなく二人を見つめる人達に囲まれていた。

『すみません・・・手は尽くし今に至ります。手紙も預かっております』
そっと小声で伝えられ医師や看護師が出て行ってしまった。

音さえ止められていた事で既に逝ってしまったのだと気付いた。
穏やかな顔・・・初めて会った二人の顔とは違って見えた・・・

走り込んできた足音が止まる・・・遅かったかと息を整えた男が陽葵の手を掴むと、二人へ会釈した男はまた彼女を引き走り出した。

『何処へ!』
『和希様が逝きそうです・・・』
驚きしかない・・・先に逝った両親を追う弟だったと・・・それも同じ日に・・・待っていたかのように息を止めるのかと。

慌てながらも走り込む・・・その人は近道と病院の庭へ入り木々の中を早くと急かした。
暫く走り開けた場所は和希がいる庭だった事に気付いた。

心配そうな焦る顔で待っていた女性は泣いていた。
部屋へ飛び込む・・・頑張れと和希を呼ぶ人を眺める・・・足が止まり戸惑った陽葵を優しくそばへ寄せてくれた。
和希の口許を眺める・・・

-バァ(笑)-
微かに笑み呟いた和希に微笑んだ。
『(笑)会えて嬉しかったよ・・・苦しませてごめん・・・知らずにいてごめん・・・』

『ヒナ・・・陽葵・・・ちゃん?(笑)』
溢れるように自分の名がを囁いた・・・
『(笑)そうよ・・・ありがとう(笑)和希くん・・・』
その繋がれた先の音は和希の生きる音の気がした。

弾むような音は少しずつ代わり静かになった・・・ベッドに座り和希の手を握り締める。
フーと息を整え静かに歌い始めた曲は和希が聞いていた歌だった・・・



バァの眠る場所・・・その近くに3人を連れてきた。
バァの家族が取り仕切り葬儀は無事に済んだ事に感謝した・・・・優しい笑みのバァの写真を眺め・・・バァと和希が笑っている写真を眺めた。

自分から離れた理由・・・その息子、バァの子供が迎えに来た理由・・・その家族が生きてきた理由を知った。

その全ては自分にあった・・・バァの家族が自分の為に生きた・・・全てに申し訳なさがわく・・・会ったばかりの家族との別れ・・・一番の家族を犠牲にしてきた自分の存在を呪った。

この許されない生き方に戸惑う・・・この笑みを消した自分が許せなくなった。

返せないほどに大きな恩・・・持ちきれないほどの罪は、どうしたらいいと考えたいのに出来なかった。

たくさんの花束はバァの家族から・・・綺麗な花で埋もれ穏やかな眠りで逝ける場所まで貰えた事に感謝した。

声にもならず頭しか下げられなかった・・・それでも し足りない・・・いいからと言われても、上げる事も出来ず礼しか言えない今の自分を知った。

誰もが離れず日々の懐かしさに微笑んだ・・・こうだったと呟く人へ耳を傾ける。それだけで嬉しくて・・・少しは楽しめた事もあったのだとホッとした。

そのホッとした途端に、緊張が溶けたのか、ふらつく身を支えてくれたのはバァの孫と言った人だった。


『失礼します・・・』
不意に出された声に驚いた人達・・・有無もなく離され陽葵は抱き上げられた。

ゆっくりと意識が遠退く・・・大丈夫という誰かの声が響けば陽葵は全てを手放したのだった。


目覚めた場所に苦笑いだ・・・バァと暮らした部屋のベッドで眠っていた。
織田から借りた携帯を眺めれば・・・日付は既に過ぎ約束の日から10日もたっていた。

『起きれますか?』
優しく呟いた人に苦笑いした。
全てが終わりバァの家族と居たはずだった・・・それから約束した日付はゆうに過ぎていた事に驚いた。

『私・・・』
『退院の許可は貰い、こちらへお連れしました。それから2日ほど(笑)眠っておられました・・・
ずっと点滴でしたので、何か食事を運びます・・・食べたいモノはありますか?』

食べたくないとクビをふるが、苦笑いした人は出ていった。
暫くして準備されたモノに笑み、久しぶりだと嬉しくて食べ始めた陽葵がいた。

時々、体休めと消化のよい食事をバァは準備してくれた。
お粥も そのおかずも・・・バァと同じ味はしないが懐かしく・・・優しい味つけで美味しかった。

バァが準備したもより多め・・・本当に居なかったのだと思えば寂しくて悲しくなった。
居たはずの弟まで・・・自分よりも若い弟・・・やっと会えたのに逝ってしまった。

温まる食事なのに一つも温まらない自分が辛かった。
ふと過る思い出・・・優しさを詰めこめた・・・それだけで幸せで、十分とさえ思えた。




見張る仲間から連絡を受けた蒼は飛び出す・・・直ぐにふらついた蒼に笑い颯が追い付き引き止めた。
皆で密かに・・・行こうと言った兄に感謝した。


ダートンが仕切る事なく、一般の葬儀だった事に驚いた・・・その中に彼女がいた。

魂が抜けたような・・・この世の終わりを決めたような・・・全てを止めた陽葵の姿があった。

彼女の姿は、悲しみで潰され、辛さに諦め、全てを投げ出したような気さえしてきた・・・行きたいのに行けずジッと眺めるだけしか出来なかった。

普通の葬儀なのに厳つい人達の警備は激しく・・・その異様さに、他の葬儀をしている人達まで怯えていた。
悲しむ事も許されない・・・そんな雰囲気まで漂う気もした。

『大丈夫だろうな・・・あれ・・・
一花は諦めた気がする・・・そう見えるぞ・・・』
『心は折れてないはずだ・・・』
颯の声に言い返す・・・ずっと見守るように眺め彼女の様子を見る蒼だった。

全てが終わり礼をしているのだろう陽葵の姿を眺めた。
その輪へ交ざる男たちが慌てた顔になった事で陽葵の身に何が起きたかと目を凝らせば、倒れかける姿が目に止まった。

焦るように眺める蒼・・・我慢だと耐えさせる颯も眺めていたが・・・気を失ったのか抱き上げた人が、その場の人達へ礼をして連れ出して行った。

だれた手が揺れる・・・頑張れと祈る・・・今はそれしか出来ない自分に苛立つ蒼だった。

病院に行ったが会える隙間さえなかった・・・数日たち、既に陽葵は退院した事で戻された事を知った。



一人でいる心地悪さは余計に寒くなった。
静かに外へ出てみれば入り口を眺め見張り用の椅子に座り灯した火灯りで夜を過ごす警護者に驚いた。

残る二人は入り口に見えるように停めた車の中のようだった。
空を眺める・・・星空も綺麗に見え・・・そよぐ自然の音は優しかった・・・風の強さで音は大きく聞こえ微笑んだ。

久しぶりの自然の音・・・全く違う音は彼と初めて聞いた。
そう思い出した途端に蒼の顔を思い出す・・・そっと彼女は家から離れたのだった・・・


思い出しながら・・・ここを歩いたはずと音を響かせないように歩く・・・
壁伝いに・・・静かに・・ 扉の板があった場所は鉄柵になり埋め込まれていた。

普通よりは大きめな隙間・・・通り抜けれそうだが今更かと力なく座り込んだ。

出ても蒼の所まで行くのは遠すぎる・・・柵の向こう眺める陽葵・・・ここを潜れば会えるのに・・・そんな思いが過るのだった。


小さな笑い声がした・・・
『(笑)気づくの、おせーよ』
ふと現れた人が、自分と同じように座り 膝に肘をついて頬杖をしたのは蒼だった・・・

目の前に蒼がいる事に驚いた・・・会いたくて来たのに行けないと諦めた陽葵・・・彼の笑みの優しさに嬉しくて見つめた。

『やっと思い出したのか(笑)』
そう言ったのは颯だった。
笑み返し頷く陽葵だったが、蒼を見返し柵へ指さした。

『な(笑)。そこまで付けられたら無理だな。それより、やる事あるだろ・・・(笑)終わんねーのか?』
『あ・・・まだだった・・・』
『だよな(笑)』
話ながらも近くで見たい陽葵が柵へ触れて頷いた。

『これ、通れるよ?』
『(笑)挟まったらヤバいだろ・・・』
止めとけと言う間に陽葵の頭が通り抜けた事に驚いた・・・笑いだす颯がヤバいと笑いを堪える。

焦る蒼と大丈夫と出たい陽葵の やり取りに可笑しくて笑うしかない。
何とか通り抜けたい陽葵が体の向きを変えたりしながら助けを求めた。

『引っ張って!』
『戻れよ(笑)』
『ちょっとだけ!』
『(笑)挟まるだろ・・・』
二人のやり取りまで声が大きくなり、誰かの足音が聞こえてきた。

『あ? 陽葵様?』
『ごっごめんなさい。少しだけ時間くださいー・・・いー・・・いたっ!』
『だからー、挟まるから止めとけって(笑)言ったろ!』
『ほら(笑)抜けた抜けた!』
体を捻り柵を押して身を通した。

『アホだな(笑)お前ら・・・』
『もー引っ張って!。あー貴方は足を押してください、ちゃんと戻りますからー』
引き戻そうとした警護者へ呟く陽葵に苦笑いした蒼は地面へ着かないように支えるだけだった。

『蒼ってば。引っ張って下さい・・・』
頼むと自分へしがみつき始めた陽葵に笑う・・・外から駆け込んできた人へ今度は颯が頭を下げた。

『一時間だけ時間をこいつらに下さい(笑)。様子が気になって見に来ただけなんで(笑)』
それは楽し気に笑いながら警護者へ言った颯だった。

仕方ないと彼女の身を横にして引き出す蒼・・・抜けそうだと喜ぶ陽葵が身を任せ、指先に触れた彼の服を掴んだ。

本当に出れた嬉しさから蒼へ抱き付いた陽葵の勢いに地面へ転がった。
笑う二人も可笑しいと大声で笑う颯の姿に苦笑いで見守る警護者達だった。

『食ってねーだろ(笑)』
『ちゃんと食べた(笑)、必要以上に運んでくれるから頑張って食べてたけど?』
『なんで(笑)この隙間から出れんだよ・・・ガキじゃあるまいし・・・』

『 ・・・』
『だよな(笑)』
隙間を眺め地面で じゃれつく二人に颯が呟いた。