そして知らない巫女様の姿に驚きながら見つめれば・・・
「ナギと申します・・・
今日までハルを鍛え足りない力を分けました。
そなたはココで終わらせなさい」
『ハル巫女だけでは!』
「終わらせる力があります。ハル巫女が抑え込んだら、滅しなさい」
『その間に・・・もしかしたらっ!』
「その覚悟は出来ています。だからハルが行ったのですから。それを無駄にしてはなりません」
『ですが!』
「今!そなた一人しか・・・祓う力を持つ者は居ないと知るでしょう!
この先、誰が神殿を守れるのです?祓えなければ汚れていくだけ!違いますか?」
『 ・・・』
その迫力に声まで失う・・・その視線の先に代々の大巫女達が自分を見つめていた事に気付いた。
「ハル巫女が集め封じます・・・そなたは終わらせるだけです。
私の力を持たせ向かわせました・・・迷わずに祓いなさい・・・残された者達の為に・・・何より、一人立ち向かったハルの為に・・・」
目の前で自分へ諭す巫女・・・それでもと迷うトギ巫女・・・その向こうでは出入口の所で新たな悪鬼が渦巻いてきた。
ハルが 散ろうとしているモノを引き留めていた・・・地へ突き刺さっている剣はブルブルと震え、今にも抜けそうな勢いもあった。
対峙しながらも守を唱え剣へ触れる・・・神社の敷地へ押し込むように仕向けていった。
真ん中にある社・・・両扉は開ききっていたが白でもない不気味な色の何かが吸い込まれていく様子がみえる。
何処からともなく漂いながら流れてくる・・・この近場へくればスッと社の中へと誘い込まれて行くようにも見えた。
何もない空間だが、その手で押さえている気までする・・・本当に扉があるように見えるのだ。
彼女の体重をのせ、扉を抑え込んでいるのにハルの身が押し戻される・・・その度に彼女もまた押し込み 守を唱えた・・・
時に札を取り出し空へ放る・・・生きているような動きで舞っていた護符・・・それは何かを探しているようにみえる・・・
そして不意に動きをかえ流れるように見つけた場所まで突き抜け向かった。
木の葉のような小さな小刀は・・・スーっと壁へ張り付くように流れていく・・・その護符の後を追うようにナイフ迄が舞った。
そこは護符が緩み剥がれそうな場所だった・・・張り付いた途端にナイフが護符と共に壁へ突き刺さった。
弱さを強化するように護符を重ねていく・・・新たな剣で空を斬り僅かに残るモノを滅した。
扉を押さえ守を唱える。
押さえ込み護符を自分の血で書き込む・・・守を唱えてから扉の隙間がある場所へすり込んだ。
悪鬼の強さが彼女を襲う
血を吐いていても扉を押さえている手は緩めなかった。
誰もが助けたいのに・・・誰一人、動けずにいる・・・それは自分の力では出来ない事と知るから・・・
自分達が近付けば巻き込まれハル巫女の力を削いでしまう・・・せっかく集めたモノを散らしてしまうから。
片方の扉を封じたハル巫女・・・その姿に頑張れと祈るしかない・・・
何かをしている姿は分かるが、何もされていない巫女が血だらけになり始め戸惑った。
蹴られている訳でもない・・・殴られている訳でもない・・・なのに、そうされているように巫女の体が揺れる。
体が曲がり血を吐く・・・その血で符へ文字を書いたようだが巫女の手から操るように飛んでいく。
扉を型どるように自分の血を塗り付けていく事に驚いた・・・そこへ護符が貼り付く・・・血を糊のように使っていた気がして声も出ない。
別の場所では、それが家屋へ突き刺さった事に驚いた・・・その間に僅かに光る剣先が空(くう)を舞う・・・何かを唱え斬っていた。
見えない何かを閉じ込めている気がした・・・それは巫女の体が揺れるから・・・トギ巫女を見つめ何かを確認もしている気がした。
残る巫女達が集まり浄化するべく守を唱え始め舞い始めればシャンという鈴の音が辺りへ響き始めた。
それは代々の巫女達までが舞い始めれば、音は深く響きハル巫女が放つ護符はより強固に社へ貼り付いた。
準備をしたかと言いたげに見返すハルの姿に戸惑う・・・押し込めているハル・・・突き刺されても微動だにしない。
自分の血で結界をはり強固にしていく・・・トギはフーと息を吐きながら自分を落ち着かせる。
ようやく現れたモノがハルの目の前に来た・・・ナギと言った巫女が身構え僅かな光でハルへ力を注ぐ。
それは大巫女達までが注いでいた・・・守を唱えながら滅する為に使う剣先を撫でていく・・・鈴の音がより響き渡れば、ハルは刃先へ全部の力を込め身構えた。
僅かな視線の先にトギ巫女が見え意思を固めた事を知った・・・黒く揺れる悪鬼・・・その不気味な笑みは本当に視える者には恐怖を煽る。
この世界の中でなら必ず出来ると知る事で自分に怖さは沸かなかった・・・何より、どうすれば退治出来るかと頭の中で説明してくれていた事に可笑しくて笑えてしまう。
力が沸く・・・ナギや巫女達が勇気と力を自分へ注いでくれていると分かる・・・心強い自分が出来上がった気がした。
血文字で作った護符を扉に貼り付けた・・・完全に封じる為に残る護符を胸にしまう。
剣を握り締め対峙する・・・
-お前にブレはないな(笑)不思議だぞ・・・-
『自分の役目と心してますから』
-なぜ助ける?利用されてきたはずだろう-
『正しき者へ引き継ぎましたから』
-隠れ諦めたらどうだ?-
『(笑)全て出したから、ココにいるのですよ?』
話始めたハル巫女の姿に誰もが驚く・・・味方へ落とすべく脅し恐怖を煽っていく悪鬼の声は誰もが聞き取れない。
動じずに話始めたハル・・・僅かな悪鬼の迷いを剥ぎ取っていく事にナギが気づけば苦笑いしかない。
刻まれ悪鬼から離れたモノが吸い込まれていくが、悪鬼自身はそれに気づく事なくハルと見あっていた。
-仲間もいるだろ-
『半分は罰を受け巫女という場所から離されています。安心して逝きなさい』
-この地に作りたくてな・・・-
『あなたが居るべき場所でもありません・・・あなた一人の場所でもない』
足元が悪鬼の怒りで凍り付く・・・グッと構えた剣先を地へ少しだけ触れた瞬間、スーっと凍り付いた地は元の状態へ戻った。
不意にぐらつく悪鬼に剣が形を作るように舞った・・・何だと見ていた悪鬼の顔が引きつる。
姿が緩んだ隙を狙いハルが悪鬼へ振り下ろす・・・歪んだ顔でハルを見返した頃には遅かった。
一瞬で散らばったそれを扉へ誘い込む・・・トギ巫女迄が近寄りながら守を唱え始めた。
重なる声音と鈴の音の優しさが響く・・・パタンと音がした場所へ 護符が自ら貼り付いた。
背で押さえ込んだハルは数枚を出し護符を作り出す・・・取っ手に剣を突き刺し扉が開かないようにした。
唱えてきる声音がより響きだす・・・ハルは血文字で書いた護符を扉を封じる為に貼り付けた。
扉から僅かに滲み出るような霊体の様子が見てとれる・・・それは時に細長い刃先のように飛び出てハル巫女の体を突き刺していた。
タン!と激しく背を叩かれ正気を戻された事を知った・・・始めよと言われた気がしてハルを見つめた。
滅す為の守・・・唱え始めれば飛び出ていたモノが消えていく・・・ハル巫女だけが優しい笑みで見つめていた。
暫くして彼女は笑みだけを残し目を閉じる・・・・白い扉が赤に染まっていたが・・・消えていく巫女の姿と共に白くなっていった。
何かと対峙するトギ巫女が祷りのように呟き始める・・・剣を巫女へ向け舞うように流れる。
その回りで・・・目を見張り驚いた・・・うっすらと見え始めた数人の巫女の姿に。
神事を行う時に身に纏う服・・・裾が揺れ・・・袖が舞う・・・一糸乱れず流れるような姿が見えた。
その向こう・・・集めていると聞いた巫女の姿は彼女自身の血で赤く染まっていった。
その姿で護符で防ぐ・・・見えなかった扉は本当にあったが、既に赤く染まっていた。
それを背にした巫女の笑み・・・眠り始めるような優しい笑みを浮かべていた事に驚いた。
巫女達が舞い始めれば、一人残っていた巫女が消えていくように見えた。
扉が真っ白に変化していく様・・・その幻想のような光景に声を失った・・・身内のしでかし・・・その罪を一人背負い消えていくのだと思えた。
一人守った巫女が消えていく・・・その有り得ない光景に身動きも出来なかった・・・。
出逢った者達を声で助けていく・・・それは自分を傷付けていく人達まで・・・それは視えるからと言った巫女の笑みを思い出す。
血を吐き出す・・・何かに殴られたかのように・・・それは誰だと探しても見えない。
何かと対峙している目線で知れる・・・それに怯える事なく立ち向かう・・・先の為にと一人役目を背負った。
感謝し見送る・・・助けられない申し訳なさに項垂れる。
膝まつき頭を下げる・・・同じ気持ちなのだろう護衛していた者・・・誰もが自分の隣へ来て膝まついて頭を凭れた。
『感謝します』
『約束は必ず・・・』
それぞれに話した事はあったのだろう礼を呟きながら祈るように見送るのだった。
「ハル・・・」
『感謝します(笑)』
「(笑)帰れるのだな」
『 ・・・アキとハナを(笑)』
「(笑)幸を運ぶ」
『トギ巫女様へも(笑)』
頷いている間に消えていく・・・最後まで笑みを浮かべていたハルに微笑むナギだった。
体がビクン!と飛び跳ねた・・・苦しかったと息を吸う・・・今度は静かに息を吐いた。
息を吐く音が重なり誰だと目で探せば・・・またかと項垂れ力も沸かなかった。
『何日寝る気だった?』
『遊びに行かないの?』
ムッとして彼の後ろから声をかけるカズネに苦笑いだ。
『覚えてない・・・
なんで私はココで寝てるの?』
『『『酔ったから!』』』
そう言われて余計に力が抜けていくようだった・・・手足を投げ出し力も入らない・・・それは可笑しいのか笑いながら自分の腕を枕のように寝始めた彼の姿。
呆れた友達が出ていく・・・退けろと声も出ない・・・退けろと腕も動かない事に口を引いた。
『毎回・・・身代り』
『しっ!』
慌てるように言葉を止めた彼女に驚き見返した。
『あれから夢は見るが、自分が交ざった事は一度もない。必ず最後の場面だけ見てた・・・』
『 ・・・』
『消えたあと・・・祭りのように人が集まって神社は新しくなってた。
ハル巫女と言われた人の下・・・アキとハナ・・・だったか・・・その二人が祝詞とか何とか・・・まー(笑)忘れたが、それを踊って終わった。
ナギとか言う人が昔の・・・伝説の大巫女だったか・・・なんかお伽噺に入り込んでく事に違和感があって・・・そう思ったら起きた・・・』
『へぇ・・・』
『実際に・・・本当に・・・』
『話は二度としないで。それをすれば今度は貴方が体験してくかもよ?』
『 ・・・』
『それぞれの夢で終わらせて』
分かったと激しく頷いたがスッと黙り・・・自分の身へ腕を回し抱き込まれた。
『ん?ハイリ?』
『俺の夢の中で勝手に死んでくな』
『 ・・・』
『見るなと言われても誰かに見せられてるんだ・・・安心する為には必要なんだ・・・これは我慢しとけ!』
『 ・・・』
『(笑)疲れてんなら寝とけ』
それだけ言うと彼は本当に寝入った事に驚いたが、それよりも何故という疑問が自分を包んだ。
同じ夢・・・自分は体験し彼は見る・・・交ざりは数回らしいが・・・似た人は見るが話した事はなかった。
話しかけられそうな時は無関係だと離れた・・・それだけが違う・・・会話した途端に同じ目にさせそうで怖かった自分だと思えた。
彼女の手を枕に眠る友達に呆れる・・・抱き枕のように抱き込んで寝入っていたからだ。
それは少し羨ましくもあり・・・隣で笑う友達にバレたのだと苦笑いをする・・・同じだと目配せた事で気持ちは一緒なのだと可笑しくなった。
両手を広げ眠った彼女・・・腕枕をされても抱き込まれても寝れる事に可笑しくて笑うしかない。
それが彼女だと思えた・・・だからか二人の姿に笑みを浮かべるナツとカズネだった。