大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年08月21日 | 植物

<2061> 大和の花 (298) ガガイモ (蘿蘑)                                ガガイモ科 ガガイモ属

     

  ここではガガイモ科の花を見てみたいと思う。花は花冠のほかに副花冠があり、雄しべと雌しべが合着したずい柱を取り囲み、花粉は花粉塊になる特徴が見られる。また、実は袋果となり、縦に2つに裂けて、種髪と呼ばれる糸が種子について風に飛ばされる仕組みになっている。

 ガガイモは日当たりのよい原野などに生えるつる性の多年草で、長い根茎は地下を這い、地上の茎は草木などに絡んで伸びる。長い柄を有する長卵状心形の葉は裏面が緑白色で、先が尖り、対生する。花期は8月ごろで、葉腋から花序を出し、普通淡紫色の花がかたまってつく。花冠は濃い紅色がかったものも見られ、直径1センチほどで、5裂し、内側には毛が密生する。中央にはずい柱を取り巻くように副花冠があり、ずい柱の柱頭が花冠から長く突き出る。

  実は長さが10センチほどの広披針形の袋果で、熟すと2つに裂け、これが舟の形に見え、内側が白い光沢のあることから、古名にはこれを鏡と見てカガミの名があり、このカガミがガガイモに転じたと言われる。『日本書紀』の神話、大国主神の条に「白蘞(かがみ)の皮を以て舟に為り」と出て来る白蘞はガガイモの袋果を指す。このカガミに漢名蘿蘑(らま)が当てられたという。別名のクサワタ、クサパンヤは草綿で、やはり2つに裂けた袋果の種子に絹糸のような毛(種髪)が生え、これをもってその名はあるという。

 ガガイモは薬草としても知られ、茎を切ったとき出る乳液をイボの患部に塗るとイボが取れるという。実は未熟なものを天ぷらにして食べると強壮によいとされ、昔から親しみをもって接していた植物だったようである。北海道から本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国、千島などに見られ、大和(奈良県)でもそこここに見られる。 写真はつるを伸ばして花を咲かせるガガイモ(左)、ガガイモの花(中)、濃い紅色がかった花(右)。   ぼくたちは時を負ひつつそれぞれに生きゐるところ今にあるなり

<2062> 大和の花 (299) タチカモメヅル (立鷗蔓)                         ガガイモ科 カモメヅル属

                                                     

  池沼や湿地の周辺、水田の放棄されたところなどに生えるつる性の多年草で、はじめ茎が直立し、その後、他物に巻きついて1メートルほどに伸びる。葉は長さが3センチから10センチほどの長楕円状披針形で、裏面脈上に毛がある。一説にはこの葉の対生する形が羽を広げたカモメを思わせるところからカモメヅル(鷗蔓)の名が生まれ、茎の下部が直立するのでタチカモヅル(立鷗蔓)の名がつけられたという。

  花期は6月から9月ごろ。上部の葉腋に直径1センチ弱の暗紫色の花をつける。花は5裂する肉厚の花冠と中央のずい柱を囲む副花冠が特長。本州の近畿地方以西、四国、九州に分布し、大和(奈良県)でも見受けられるが、個体数が少ないとしてレッドリストに希少種としてあげられている。タチカモメヅルがもっとも身近で観察出来るのは、奈良市の磐之媛命陵のお濠端で、アシなどに絡まって花を咲かせている。 写真はタチカモメヅル。右は暗紫色の花のアップ。  未来とは如何なる時か刻々の今を重ねて未来は来たる

<2063> 大和の花 (300) オオカモメヅル (大鷗蔓)                  ガガイモ科 オオカモメヅル属

                             

  山地の木陰など半日陰のところに生えるつる性の多年草で、茎は他の草木に巻きついて1メートル以上に伸び上がる。三角状狭卵形で基部が心形の葉はほとんど無毛の膜質で、先が長く尖り、対生する。他種に比べて葉も花も実も大きくないのでオオカモメヅル(大鷗蔓)のオオ(大)は茎の長さによるものか。オオカモメヅル属にはコカモメヅル(小鷗蔓)と呼ばれる仲間も見える。

  花期は7月から8月ごろで、葉腋から葉身より短い花序を出し、花冠が緑白色から淡紫色の花を咲かせる。花は直径1センチ弱の5裂するこの花冠と雌雄のしべが合着しているずい柱を囲む副花冠が星状に開出し、形成される。副花冠はずい柱より短く、暗紫色で、花を上から一見するとツートンカラーに見える。

  北海道、本州、四国、九州とほぼ全国的に分布し、大和(奈良県)でも見られるが、珍しくなかなか出会えない。私は十津川村の玉置山(1076メートル)の玉置神社近くで出会ったことがある。日陰になった場所で撮り難かったが、三脚を持参していたので撮ることが出来た。この写真はそのときのもの。   強きものはたまた弱きもののありたとへば炎暑の中のそれぞれ

<2064> 大和の花 (301) フナバラソウ (舟腹草)                           ガガイモ科 カモメヅル属

                                               

  山地から丘陵などの日がよく当たる草原に生える多年草で、茎は枝を出すことなく直立し、大きいもので80センチほどの高さになる。長さが10センチほどの卵形の葉は毛が生え浅い緑色で、対生する。花期は6月ごろの梅雨の時期で、濃いチョコレート色の花冠が5裂する星形の花が上部の葉腋ごとに複数段固まってつく。花の奥には花冠より濃い同色の副花冠がずい柱を囲む形に配されて花を構成している。

  フナバラソウ(舟腹草)とは奇妙な名に思えるが、『日本書紀』の神話に出て来るガガイモの袋果の皮の舟と同じで、フナバラソウの細長い袋果も舟の底(腹)に似ているためこの名が生まれたという。北海道、本州、四国、九州に分布し、大和(奈良県)でも見られるが、全国的に減少傾向が見られるため、環境省は絶滅危惧Ⅱ類に分類し、奈良県では絶滅寸前種にあげている。

  大和(奈良県)におけるフナバラソウの自生地としては曽爾高原の高所部の草原が知られるところであるが、最近、めっきり少なくなり、その姿を見なくなった。原因ははっきりしないが、シカによる食害が影響しているかも知れない。 写真は花を咲かせたフナバラソウ(曽爾高原)と花のアップ。    弱きものそはそのゆゑに武器を恃むつまり武器とは弱さの証

<2065> 大和の花 (302) スズサイコ (鈴柴胡)                                ガガイモ科 カモメヅル属

                                                             

  日当たりのよいやや乾いた草地や池の土手などに生える多年草で、細くて硬い茎を大きいもので1メートルほどに伸ばし、線状長楕円形で先が尖る葉を対生する。花期は7月から8月ごろで、茎頂や上部の葉腋から花序を出し、直径1センチほどの小さな黄褐色の花を数個まばらにつける。

  スズサイコ(鈴柴胡)の名は、この小さな花のつぼみが鈴に似てかわいらしく、全体がセリ科のミシマサイコに似ていることによりつけられたという。実はガガイモ科特有の袋果で、花からは想像出来ないほど大きく、長さが5センチから8センチほどの長披針形になる。

  花は、夜から早朝にかけて開き、日が当たると閉じる性質があり、花の撮影には朝早く出かけなくては開いたところは撮れない。他の仲間に似て、花冠は5裂し、内側に副花冠がずい柱を囲むようにつく。

  北海道、本州、四国、九州とほぼ全国的に分布するが、少なく、環境省は準絶滅危惧種にあげ、大和(奈良県)でも北部一帯に分布するが、自生地の消失などで、減少傾向にあるとして希少種に分類している。  写真はスズサイコ (曽爾高原での早朝の撮影による。花は半開きで、閉じられる前の状態と見られる)。  家々を染めて晩夏の西日かな

 

<2066> 大和の花 (303) イケマ (生馬)                                           ガガイモ科 カモメヅル属

    

 山地の日当たりのよいところに生えるつる性の多年草で、根は紡錘形にして太く、茎は他物に巻きついて這い上り、這い上るものがないときは地を這って伸び広がる。葉は3センチから6センチほどの長い柄を有し、卵心形で先は長く尖る。

 花期は7月から8月ごろで、葉腋から葉柄よりも長い柄を出し、その先の散形花序に白い花をつける。直径1センチに満たない小さな花はやや黄緑色を帯びる花冠が5裂して反り返る。その内側の中央には純白の副花冠がずい柱を囲み、これも5裂する。仲間に花序の柄が短く、花冠の裂片が反り返らないコイケマ(小生馬)がある。

 イケマ(生馬)はシナンコトキシンという強心利尿作用のある物質などを含む有毒植物であるが、古来よりアイヌ人はイケマの根をカムイケマ(神の脚)と称して悪魔祓いに用いていた。このアイヌ語が和名に転用されたと一説にある。また、馬の薬と見て、生馬の字を当てたようであるが、これは誤りであるとされている。しかし、適当な漢字がないためか、現在も用いている事典があるのでここでも用いた。

 毒草なので直接食べるとよくないが、この毒性を逆用し、先人たちは薬用として生かした。肥厚した根を水洗いし、刻んで日干しにし、煎じて服用すれば、利尿に効き目があると言われ、生薬名は牛皮消根(ぎゅうひしょうこん)という。これはまさに毒をもって毒を制す類と言えようか。

 北海道、本州、四国、九州とほぼ全国的に分布し、国外では中国にも見られるという。大和(奈良県)では大峰、台高山系の標高1500メートル付近で見かけるが、自生地、個体数ともに限定的で希少種にあげられている。因みにコイケマは希少種である。

 なお、イケマはシカに食べられず、食害の心配はなさそうであるが、生育場所は広がって増える様子はなく、限定されているように見える。イケマには南西諸島方面から2000キロにも及ぶ渡りの旅をして来る遠来の客蝶アサギマダラがよく見られる。葉に卵を産みつけるためのようであるが、私はその卵をまだ見ていない。写真は地を這って群生し、花を咲かせるイケマ(左)。遠来の客アサギマダラと花(中)。花序のアップ。花は花冠の裂片が反り返っている(右)。  花あれば花芳しければ蝶も来る生の縁は生に基づく

<2067> 大和の花 (304) クサタチバナ (草橘)                                      ガガイモ科 カモメヅル属

               

  山地の草地に生える多年草で、白い花がミカン科のタチバナ(橘)の花に似るのでこの名がある。茎は枝を分けず直立して高さは大きいもので80センチほどになる。葉はごく短い柄を有し、長さは5センチから15センチの卵形もしくは楕円形で、基部はくさび形、先端は尖り、対生する。

  花期は6月から7月ごろで、上部の葉腋から花序を出し、多くの白い花冠が5裂する花を咲かせる。花冠中央基部にずい柱を囲むように副花冠が存在する。実は袋果で秋に熟し裂開する。本州の関東地方以西と四国に分布し、国外では朝鮮半島から中国に見られるという。産地としては石灰岩の山である伊吹山がよく知られるが、大和(奈良県)でも大峰山脈の極めて限られた石灰岩地に自生している。シカによる食害がないからか、群生の状態は保たれている観があるが、園芸採取が懸念され、絶滅危惧種にあげられている。 写真は群生して花を咲かせるクサタチバナ(左)、直立して茎の上部に花を咲かせるクサタチバナ(中)、花のアップ。タチバナの花に似る(右)。  雷鳴や神の概念ふと思ふ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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1 コメント

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画像使用に関しまして (阪田啓介)
2017-08-27 17:10:50
初めまして、突然の連絡失礼致します。
私、日本テレビで番組制作をしております、
株式会社日企の阪田と申します。

今回ご連絡させていただいたのは2016年10月27日に
ブログにアップされていますオオイヌタデの写真を使わせていただきたくご連絡致しました。

詳しい内容に関しましては大変お手数ではございますが下記の私のメールアドレスまでご返信いただけたら幸いです。

sakata92561@gmail.com

お忙しいところお手数をおかけいたしますが、何卒宜しくお願い申し上げます。

株式会社日企
阪田啓介

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