特待生と野球留学

「特待生」、「野球留学」、「アマチュアリズム」に焦点を絞って展開します。

「最後の論客」?

2007年05月25日 | アマチュアリズム

毎日新聞大阪本社で高校野球取材班キャップを務める滝口隆司氏が次のように述べています。

スポーツアドバンテージ>アマチュアリズム再考
(vol.351-2 2007年5月11日発行)
高校野球は日本に残るアマチュアリズムの最後の砦といえるかも知れない。甲子園大会ではフェンスの広告を消し、テレビ放映権料もとっていない。特待制度を選手が得る金銭的利益とみなすのも、その思想に基づいている。一方で日本の大半の競技は「エリート養成」や「商業的マネジメント」にまっしぐらだ。「するスポーツ」と「見るスポーツ」、アマとプロ。今回の問題を機に大いに議論したいテーマだ。

「最後の砦」の部分では私と共通認識があるようです。まあ、私はこの「最後の砦」を粉砕してしまおうとして、このブログを立ち上げました。滝口氏は「最後の砦」を守りたいのでしょう。いや、「議論したい」とおっしゃるぐらいですから、「最後の砦」からの逆襲を試みておられるのかもしれません。

しかしまあ、1986年に出版された本に掲載されている1964年の“ミスター・アマチュア(リズム)”の発言を引っ張り出したあげく、「議論したい」と言われても、誰も乗れない話でしょう。20世紀末に死滅したはずの亡霊を蘇らせたいのでしょうか。

今さら終わった話を蒸し返しても、無駄だということにお気づきでないようです。このまま「アマチュアリズム」に逃げ込むなら、高野連様と滝口氏は返り討ちにあいます。滝口氏はアマチュアリズムという“宗教”の「最後の論客」と言っていいかもしれません。

興味のある方は、次に掲げる国会図書館のWebページで「アマチュアリズム」を検索してみてください。1988年の国会論戦です。質問した高木健太郎参議院議員も、答弁した中島源太郎文部大臣も、90年代初頭に鬼籍に入りました。

参議院会議録情報 第113回国会 文教委員会 第7号

20年前の議論を再現したいと思うほど、現代人は暇ではありません。滝口氏は高野連様の意向に沿った記事を連ねてきました。私の知る限りでは昨夏あたりからです。むしろ、積極的にリードしているようなフシさえあります。

さて、先に紹介したコラムのバックナンバーを読んでみました。元特待生である滝口氏は野球留学を否定していません。当時の中山文科相が開会式で野球留学批判を展開したときのコラムです。

スポーツアドバンテージ>高野連は寮生活の実態にメスを
(vol.264-1 2005年8月17日発行)
だからといって野球留学を規制せよ、という話にはしてはならないと私は思う。15歳にして親元を離れるのは、青年が自立していく成長過程において決して悪いことではない。集団生活で貴重な体験も多く積める。問題とするのなら、それは野球留学ではなく、寮生活のあり方だろう。

ごもっともです。この人が今になって、死滅した「アマチュアリズムを議論したい」と言い出すとは思えません。こんなコラムもあるのです。

スポーツアドバンテージ>欽ちゃん球団の公式戦デビュー
(vol.246-2 2005年4月15日発行)
 試合前の関係者入口では、萩本欽一監督の即席インタビューが開かれていた。「きょうはグラウンドでマイクを持たせてもらえないので残念だなあ」。オープン戦では、試合中もワイヤレスマイクを片手にファンサービスをしていた。しかし、この日は公式戦。当然そんなパフォーマンスが認められないと思っていたら、試合直前に許可が出た。
 県野球連盟の役員が「あまり時間はないですが、試合前だけですよ」とマイクを欽ちゃんに手渡した。ノック中からマイクパフォーマンスが始まり、その一言一言に観客からは大きな笑いが沸き起こる。お年寄りや子どもたちも「欽ちゃーん」と声を掛け、球場は微笑ましいムードに包まれた。
  「公式戦なのに、なんと不謹慎な」と目くじらを立ててはいけない。このパフォーマンスにこそ、今のスポーツ界へのヒントが隠されているように思える。

名門と呼ばれる高校で野球をやっていた滝口氏が野球のルールに詳しくないとしても、滝口氏が落ち込む必要はありません。ルールなど知らなくても、野球はできます。萩本監督のマイクパフォーマンスは厳密にはルール違反です

連盟役員は精一杯の配慮をしているのです。まあ、ノック中なら、私とて「目くじらを立てる」つもりなどありませんが、さすがに試合中はまずいはずです。しかし、このマイクパフォーマンスを、滝口氏は「今のスポーツ界へのヒントが隠されている」と評しています。


欽ちゃんが唯一不満だったのは、ゲームセット直後、スタンドの声援に応えて愛嬌を振りまいていたら、審判に「早く整列して」と注意されたことだ。「まずはお客さんを大事にしなきゃあ。舞台人はお客さんに作られる。野球の選手も観客に育てられるんだよ<略>

えっ! まあ、ルールを知らなくても野球記者は務まります。(日本における)アマチュアの試合で球審が「ゲーム」を宣告するのは、たしか整列のときだったと私は記憶しているのですが…。審判が整列を促すのはむしろ当然のことです。

相手チームは整列して待っているのでしょうから、萩本氏がチンタラしているのは逆に失礼な話です。ファンサービスは結構ですが、だからと言って相手チームや審判を待たせていいということにはなりません。

選手へのスポンサーを募り、有料の練習試合で全国を転戦する欽ちゃん球団は、限りなくプロに近いアマです。もちろん、私はそれが悪いとは思いません。むしろ滝口氏と同じ意見です。ほら。


アマチュアスポーツに「お客さん」という意識は低かったに違いない。スポーツはすることも見ることも面白い。欽ちゃんはその一体感を強調したかったのだろう。企業スポーツが低迷し、クラブスポーツに活路が求められている。今年は野球の四国独立リーグや、男子バスケットのプロ「bjリーグ」も始まる。その成功のカギは、人を引き付ける「創意工夫」以外にない。地方球場を満席にする欽ちゃん球団を見ていると、そんな気がしてくる。

あれ? 四国独立リーグもbjリーグも「プロ」です。「プロ」と欽ちゃん球団を同列視しておられます。いや、私もそう思っていますから、別にいいんですが…。ただ、滝口氏は次のようにも語っているのです。

スポーツアドバンテージ>なぜ野球はだめなのか
(vol.348-2 2007年4月20日発行)
10代の若者にスポンサーをつけ、テレビCMに使い、競技会を転戦させる。それが日本のスポーツ界がひた走る時代の最先端なのか。日本のスポーツが目指すべき方向なのか。

あれ? 「テレビCM」云々はたぶん浅田真央のことでしょうが、茨城ゴールデンゴールズの女子選手も化粧品メーカーのCMに出ているはずです。私には滝口氏の最近の発言と2年前の発言に一貫性がないように思えてなりません。

ところで、私は「アマ」です。滝口氏は「プロ」です。私は、自分がやりたくないことはやらなくても済むのが「アマ」だと考えています。意に反することでもやらなければならないのが「プロ」だと思っています。そういう意味で滝口氏は「プロ」なのかもしれません。

別に毎日新聞社の社内事情に詳しいわけではありませんが、大阪本社でキャップなら、いずれ運動部長(兼高野連理事)というコースが見えているのかもしれません。もし、これが「変節」であり、その原因が私の邪推どおりなら、単に滝口氏が「プロ」であることの証左にすぎません。そして、それは否定されることではありません。

私は「アマ」です。このブログで、高野連様をけなそうが持ち上げようが、何の得にもならず何の損にもなりません。金銭的対価を求めない(得られないだけ?)「アマ」です。まあ、「最後の論客」たる滝口氏には再度の登場をお願いするつもりです。


専大北上

2007年05月25日 | 高校別

専大北上の再加盟が高野連様の理事会で承認されました。

専大北上高の再加盟承認 (共同通信 2007年05月24日 19:35)
 日本高校野球連盟は24日、大阪市内で全国理事会を開き、プロ野球西武の裏金問題に関係して野球部を解散した専大北上高(岩手)の6月1日付での再加盟を承認した。同校は夏の全国選手権岩手大会への出場が可能となった。
 4月16日に野球部を解散していた同校はこの日午前に、再加盟のための申請書を提出。理事会では野球部の指導監督体制の整備などが確認されたとして5月31日付で対外試合禁止処分を解除することを決めた。

まあ、最初からそういう流れになっていたわけです。これは既定路線であって、「除名相当」で解散に追い込んだ悪代官がヒヨったわけではありません。

専大北上高野球部解散 「甲子園が…」涙の部員
(産経新聞 2007/04/17 08:07)
 日本高野連の田名部和裕参事は、専大北上高が再加盟する条件として、再発防止策を確立した上で(1)新しい指導者の就任(2)日本学生野球憲章に違反したスポーツ奨学制度廃止に保護者の同意を得ることなどを挙げた。
 再加盟が申請された場合は、高野連の審議委員会で諮られる。田名部参事は「夏はOKとは明言できないが、県大会の抽選が6月末にあることを考えると会議に諮るリミットは6月初めぐらいだろう」と話した

とはいえ、途中に大騒動を挟んでいますので、「結局、高野連は何をやりたかったの?」という疑問を増幅させることになるでしょう。少数ながら、高野連様支持派もいるわけですが、彼らからすれば納まりがつかないかもしれません。

これまでの流れは、次のとおりです。

★3月9日★西武球団の不正(≠不法)なスカウト活動が発覚。

★3月10日★専大北上高出身の早大選手が計1000万円余りを受け取っていたことが判明。

★3月14日★専大北上高の黒沢勝郎校長が会見、高校在学中からの金銭授受が判明。

★3月15日★専大北上高出身の早大選手が会見、金銭受領を認めて野球部を退部。西武球団による隠蔽工作も判明。

専大北上に強い不信感 (2007年03月21日 23:54 共同通信)
 田名部参事は「高校時代からプロと練習するなどルール違反に強い憤りを感じる。学校ぐるみとしか思えない状況で、除名に値するくらい悪質だと考えている」と話した。日本高野連では22日に全国理事会があり、この件について経過報告が行われる。

★3月22日★日本高野連全国理事会で、各都道府県高野連理事長に対し加盟校に日本学生野球憲章やプロアマ関連規定の順守を促すよう要請。

★3月23日★早大元部員に停学1カ月の処分。専大北上高は金銭授受に関与していた当時の野球部コーチを解雇。

★3月26日★専大北上高の黒沢勝郎校長が学校法人北上学園に辞職願を提出、受理。

★4月4日★西武球団の調査委員会が別の5選手や高校の監督ら170人に金銭を渡していたことを発表。

★4月9日★日本高野連が岩手県高野連を通じて13項目の質問書を専大北上高に送付。

★4月12日★日本高野連が専大北上高校長、当時のコーチら5人から事情聴取。同校のスポーツ奨学制度が日本学生野球憲章に違反することが判明。

高野連、専大北上を「除名相当」と判断 裏金問題で
(朝日新聞 2007年04月12日22時03分)
中学時代の野球の成績などをもとに生徒の入学を認め、学費などの免除をしていた。<略>同校では1学年10人程度の野球部員が、スポーツ特待生制度で現在も入学しているという。日本高野連では、部員がプロから金銭を受けていたことを前コーチが黙認していたことに加え、憲章違反が重なり、学校側に管理能力が欠如していると判断。「極めて重い違反行為。除名相当である」(田名部和裕参事)とした。<略>この日の調査では、選手の早大進学に際し、西武から金銭供与が持ちかけられ、前コーチも選手の家庭事情から了承したことなど、事件の概要もほぼ明らかになった。学校関係者への金銭供与は認められなかった。

★4月14日★専大北上高内に「硬式野球部緊急再生委員会」設置。野球部員のスポーツ奨学制度を廃止する方針を保護者らに説明。

★4月16日★専大北上高硬式野球部が解散届。日本高野連が受理。

専大北上高が野球部解散 学費免除など憲章違反
(産経新聞 2007/04/16 17:57)
 同校は(1)野球部コーチだった元教諭が元選手と西武が交わした覚書に関与(2)中学時代のスポーツの実績に応じて学費などを免除する奨学制度が日本学生野球憲章に抵触-との指摘を重く受け止めたことを解散の理由に挙げている。12日に日本高野連からの事情聴取の際に野球部解散の方向性を伝えていた

ルール違反、苦い決断 専大北上の野球部解散
(朝日新聞 2007年04月17日07時14分)
 専大北上
高校では4時間目の途中に野球部員が集められ、高木敬蔵校長らが「解散」を告げた。「びっくりしている。野球がしたくてこの学校に入ったのに……」。ある2年生はがっかりした様子をみせた。
 3年生の一人は「監督が『夏の大会には間に合わせる』と言ったのでそれを信じている。夏に向けて練習するだけ。最近の練習では『こんなことに負けない』という部員たちの気持ちが出て以前よりも気合が入っている」と話した。別の3年生は「正直不安だ。甲子園に行きたくて入学したので夢は捨てていないけど、この件が今後のモチベーションにどう影響するか、少し心配だ」と語った。
 特待生として入学したという2年生は「突然、特待生がだめだと聞いて驚いた。解散が決まり、自分が悪いことをしているのかと思わされた。ほかの特待生もお金の心配をするなど戸惑っている」。

★4月17日★岩手県高野連理事会で藤沢義昭理事長が特待生制度に関する全国調査の可能性を示唆。

★4月18日★日本高野連の審議委員会で専大北上高の処分案を検討、20日の理事会で再審議に。脇村会長が特待生制度の実態調査の方針を明らかに。

★4月20日★日本高野連の常任理事会でスポーツ特待制度について全加盟校に実態調査することを決定。専大北上高の当面の対外試合禁止を決定(処分保留)

★4月25日★申告受付開始。

★4月27日★日本学生野球協会審査室が専大北上高の対外試合禁止処分を正式決定。

専大北上対外試合禁止処分に
(スポニチ 2007年04月28日付 紙面記事)
「学校の責任は重い。しかし、多くの部員が所属する野球部には新たな出直しに期待をかけた処分となった」と日本高野連の河村副会長。(1)学生野球憲章の順守(2)学校の野球部管理体制の適正化(3)学生憲章に違反する特待生制度廃止と解約証明書の提出――を6月28日の県大会抽選日までに満たせば出場が認められる見通しを示唆した。

★5月3日★日本高野連が特待生制度の申告校を最終発表。

★5月10日★日本高野連全国理事会で、専大北上高部長に科した1年間の謹慎処分の短縮を日本学生野球協会に上申することを決定。在校生の緩和措置なども同時発表。

★5月24日★日本高野連が専大北上高からヒヤリング、理事会で6月1日付の再加盟を承認。

専大北上のスポーツ特待制度については、次のような報道があります。

特待生野球は憲章違反 (2007年4月17日 読売新聞)
専大北上高は2000年4月に「スポーツ奨学制度」を創設し、卓球、レスリング部などと同様に野球部にも適用していた。中学時代の実績などにより、A、B、Cの3ランクに分けて、ランクに応じて一定の経費を免除。今回の問題の発端となった早大野球部の元選手が、同高に入学した01年には、野球部で14人が特待生となり、元選手を含む9人が最も優遇される「A」、2人が「B」、3人が「C」とのランク付けがされていた。

ちなみに、野球の成績をもとに入学を認めるだけなら学生野球憲章には触れません。また、この内容なら従来考えられていた「解釈」でもアウトになるでしょう。

4月12日の段階で学校側から高野連様に解散の意思が伝えられていたというのは、「高野連様側から自発的解散を示唆され、これを受け入れた」と深読みすべきでしょう。まあ、恫喝されたとまでは言いませんけど…。

ところで、専大北上と言えば、矢田利勝元監督の存在もクローズアップされねばならないはずです。系列関係にある石巻専修大の選手のプロ入りに際して、斡旋謝礼として数百万円を受け取ったものの、スカウトに固辞されたため1年間預かり、これを理由に04年秋に監督を解任され、学生野球協会からは無期謹慎処分になっています。

この解任を受けて(短期間とはいえ)監督に就任したのが、今回の件で懲戒解雇された高橋利男コーチ(副部長)です。ですから、「除名相当」の声が出てくるのはある意味では必然だったわけです。

さて、日本学生野球協会は1968年から表彰選手を発表しています。現在では、高校が各都道府県1人の計47名、大学は各連盟1人の計26名ですが、まれに「該当者なし」のときもあります。

どういう選考基準があるのか知りませんが、高校の場合は甲子園出場校のキャプテンが選ばれることが多いはずです。無期謹慎処分中の元監督、実は高校時代に学生野球協会の表彰選手になっています。

形式的には協会が表彰するのだとしても、実際に選んでいるのは(県)高野連側です。当時は佐伯天皇の時代です。もちろん当時も「高校野球は教育の一環」でした。すると、これもまた素晴らしき「教育の成果」ということになります。

裏金に関与したスカウト氏にしても、その昔は高野連様の加盟校の1つで汗を流していたはずです。「教育」だの「健全育成」だのと“清く正しく美しく”を謳い上げてみても、しょせんこの程度の結果しか残していないわけです。