特待生と野球留学

「特待生」、「野球留学」、「アマチュアリズム」に焦点を絞って展開します。

寮費(寮の食費)

2007年05月30日 | 田名部語録

さて、お待たせしている件について、お答えしましょう。その前に、例によって(しつこく)滝口氏の記事から、どうぞ。

特待制度:寮費減免など議論のポイント3項目提示 高野連
(毎日新聞 2007年5月24日 21時17分)
 日本学生野球憲章違反とならない特待制度の基準を協議する「特待生問題私学検討部会」の初会合が24日、日本高校野球連盟で開かれ、日本高野連は議論のポイントとして3項目を提示した。
 「学校教育活動の一環としての部活動の趣旨を損なわない制度」という前提を示した上で、(1)中学生募集段階の問題点(2)部活動参加者を対象とした容認できる制度の検討(3)寮費減免の是非--の3点を検討課題とした。寮費については、中学生を勧誘する際の「丸抱え」との批判もあることから項目に盛り込んだ。
<略>記者会見で日本高野連の田名部和裕参事は「私学の方から自主基準を提案していただいて、それが高野連の考えと一致するのであれば、それに越したことはない」と語り、私学側の意見を多角的に聴く考えを示した。

先のお尋ねは26日のものでした。すでに24日にこういう方向性が示されています。これを踏まえたうえでのご質問かどうかは判断できかねますが…。

私は寮生活をしたことがありませんが、寮の食費や光熱費は寮費に含まれていたり、別になっていたりするはずです。「(寮費はOKだが)食費はNG」と言われると、食費込みで寮費を徴収している学校は、食費相当額を別に算出しなければならなくなります。便宜上、食費を小さくする抜け道も考えられます。

まあ、それは置いても、食費と光熱費ぐらいは、いくら特待生といえども実費負担するのが筋というものでしょう。ここで悩ましいのは、寄付としての差し入れでしょう。寮の食費に関しては、(長期的な休みが入ることもあって)固定的に月額いくらと決まっているのではなく、実費相当額を請求することも多いと思われます。

「差し入れで全部賄えたので、今月の食費はゼロです。負担には及びません」なんて主張されるかもしれないわけです。結局、「食費NG」の縛りを入れたところで、さほど実効性はないような気がします。

もともと、今、問題視されていることは、公立高や名門私大がかつてやってきたこと(の発展形)です。ただ、公立高にはおのずと制約がありますし、すでにブランドを得た名門私大はほとほどの条件で生徒を集められます。南北問題にも似た側面もあるわけです。

かりに「寮費NG」や「寮費はOKだが食費はNG」の線引きをすると、今度は公立高にも話が及んでくる可能性があります。監督の自宅に下宿している部員がいるのは昔からのことです。その下宿代が適正かどうか誰がチェックできるというのでしょうか。これをやっていくと、がんじがらめで窮屈になるだけです。

もし「寮費はNG」という線引きした場合には、ほかにも問題が生じてきます。まず、寮費自体を格安に設定するという抜け道があります。また、第三者の自宅に下宿させるという形も抜け道としては有効かもしれません。このような抜け道が用意されてしまうなら、やはり実効性に欠けることになります。

いわば“赤線”として学校の管理下に置けば、高野連様の指導の範囲内です。高野連様が“赤線”を認めないという姿勢を貫くなら、逆に第三者の介在を許してしまって、手の届かないところに行ってしまうわけです。まあ、清廉潔白を旨とする高野連様に“赤線”を認めろと言うのも、相当無理がありますけど…。

で、結論として、寮費は別にしても食費や光熱費はNGであると私は考えますが、そのように決めたところで担保されるわけではありません。私学部会に丸投げするなら、今のうちに抜け道も探しておけよと言っているようなものです。

まあ、高野連様としては(表向きなくなれば)それでいいのでしょうから、この「落としどころ」は真剣に考えるようなことでもないわけです。本気で取り組む気があるなら、「多角的に聴く」のではなく、私学側と直接対決しなければならないはずです。

ご質問では、これが「問題の本質」であり「最終着地点」とのことでしたが、私の認識はまるで違います。これは瑣末な問題です。


北風より太陽

2007年05月16日 | 田名部語録

緩和措置を決めた5月10日の理事会後の記者会見で、田名部氏は池井氏の「壊滅」発言に対して、次のように反論しています。

特待制度に緩和措置 高野連が緊急理事会
(中日新聞 2007年5月11日)
西武が設置した調査委員会の池井委員長が、関係者の「実名を公表したら夏の甲子園なんてできない」などと発言した件。田名部参事は「アマ側が悪いかのように話すなど、とんでもなく不用意な発言」と強い口調で批判し、今後も実名公表を求めていく姿勢を強調した。

そこまでおっしゃるのなら、特待生で申告させたのと同じように、裏金でも申告させればよろしかろう、と…。現に、社会人はそういう対応をしています。

倫理行動宣言後「不正なかった」…日本野球連盟調査
(2007年5月11日22時19分  読売新聞)
 社会人野球を統括する日本野球連盟は11日、プロ野球実行委員会が2005年6月に採択した「倫理行動宣言」以降の不適切な金銭授受について「調査の結果、不正はなかった」と発表した。
 加盟361チームを対象にアンケートを行い、企業全85チームと、クラブの約75%にあたる207チーム、計292チームから回答があったという。同連盟は、追加の調査について「問題が出れば別だが、現段階では行う予定はない」としている。

たとえ実効性のない形式的なものであっても、特待生問題に先んじて、こっちの「調査」こそ必要だったはずです。もちろん、バカ正直に自己申告してくるとは思えませんから、本当にこの件を追及していく気があるなら、処分を振りかざすのは逆効果です。むしろ免責を与えて自己申告を促せばいいのです。

むろん、もし法律に触れるなら、その部分については高野連様に免責を与える権限などありません。それでも、内部では処分をしないことを約して、いわば「司法取引」に持ち込むべきなのです。「罪を憎んで人を憎まず」でいいのです。

免責を与えることで実態を把握し、そこから予防策を講じるのが建設的というものです。「倫理宣言」以前の話なら他団体への影響は少ないのですから、墓場まで持っていくことを潔しとしない人物からポツポツと出てくるはずです。(「倫理宣言」後を調べた日本野球連盟はまるでやる気がないことがわかります)。

まあ、高野連様単独でやるより、本当はプロ、社会人、大学、シニア、ボーイズを加えた6団体でやるのが理想ですが、これを望むのは今のところ「ないものねだり」になります。この問題はこれからもくすぶり続けるでしょう。ボディブローになります。今回の件を契機に統一組織ができるなら、それだけでも大きな収穫です。


もどかしさ

2007年05月11日 | 田名部語録

7日の伊吹答弁は「特待生そのものが悪いのではなく、各地から選手を集める野球留学は好ましくない」という内容でした。この発言は落とし所を示唆したものです。今日11日に伊吹-脇村会談が予定されているのですから、高野連様が大臣発言に迎合した「修正」を施すのは当然のことでしょう。

高野連が特待制度申告者に緩和措置
(2007年5月11日06時01分  スポーツ報知)
 日本高野連は10日、大阪市内で緊急の全国理事会を行い、日本学生野球憲章違反のスポーツ特待制度の申告者のうち、経済的な事情で就学継続が困難となる部員に限り、卒業まで学校長や関係審査機関の裁量で設けた奨学金を受けられる緩和措置を決めた。
 各都道府県高野連を通じて違反校のその後の状況を調べた日本高野連は、退学や転校する部員が出る可能性を重く受け止め、5月末までの対外試合出場禁止と解約同意書提出の上なら、暫定的に設けたスポーツ以外を理由とする奨学制度は憲章違反とせず、制度の内容も問わない。田名部和裕参事(61)は「野球留学の行き過ぎ是正が今回の目的。十分に事情を知らない生徒、熱心な指導者への影響を考えると緩和が必要」と説明した。

本当に「野球留学の行き過ぎ是正」が目的なら、最初から特待生をターゲットにする必要はなかったわけです。福翔のようなケースは、とても「行き過ぎた野球留学」につながるとは思えませんが、それまでバッサリ切り捨てたのはなんだったのか、という話にしかなりません。

「行き過ぎた野球留学」が問題なら、解消に向けて手順を踏んでいけばいいわけです。大学側がほとんど一顧だにしなかった「憲章」を振りかざして解約を迫ったことで得られたものは、混乱と反発だけでした。

“目的が正しければ手段を選ばないというのは、あんたらが好むフェアプレイ精神とやらに反するだろう”と簡単に突っ込まれてしまうわけです。普段からきれいごとばかり並べているこの団体の場合、それを逆手にとることは容易です。

まあ、これでようやく話が本線に入ってきて、私もやりやすくなりますが、せっかく集めたコレクションですので、「高校別」は週に1~2本でも続けようと思います。

野球留学反対派には2つの流れがあります。1つは、伊吹氏のような「親元を離れて…」派です。これはおそらく故・神田順治元東大野球部監督あたりが源流になるはずです。地元の生徒でないと応援したくないというケ○の穴の小さい人たちです。高校野球が都道府県対抗という色彩を持つために、この考え方は根強く残っています。

心情的には理解できなくもありませんが、「では、オリンピックその他で日本人以外の選手に心を打たれたことはないのか」ということにしかなりません。この層は放っておくしかありません。「成長」を待つしかないのです。自分がそうだからといって(それは自由です)、よそ様の進路先を規制しようとするのは越権行為です。

誤解も多いはずですが、実は高野連様は「野球留学」それ自体を問題にしているのではありません。先の報知の記事でも田名部氏は「野球留学の行き過ぎ是正」と発言しています。田名部氏だけでなく脇村氏の発言も同じです。

特待制度:高野連緩和策「退学者など出すのは意図にない」
(毎日新聞 5月10日20時15分)
 一方で、日本高野連は憲章の順守と、金銭の絡む行き過ぎた野球留学などにメスを入れる方針に変わりがないことを強調。脇村春夫会長は「最大の問題は野球留学などに伴う不正で、フェアプレー、アマチュア精神に反する。根幹を手術しなくてはいけない」と話した。

ここで脇村氏が「フェアプレイ」だの「アマチュア精神に反する」だのと発言してしまうので、逆に反発を買うのです。今回はっきりとわかったように、こんなものはいくらでも都合よく解釈できてしまいます。先に「憲章」を持ち出したのと同じ愚です。

「野球留学などに伴う不正」の具体的事例を語れば、世論の理解も得られて、話は進展するはずです。「行き過ぎ」とは何なのか、「…などに伴う不正」とは何なのか、「手術を要する根幹」とは何か、ということになります。

おそらくこの問題は、高校の制度をいじっても解決しません。野球留学に規制を設けても本質的な解決にはなりません。県内ならいいのかということにしかならないからです。本丸を攻めることができないので、外堀を埋めようとしたのが、今回の事件の真相ということになるのかもしれません。この2人なら、きっとまた同じ愚を犯すでしょう。

ただし、高野連様は高校の競技団体にすぎず、高校以外のところには手を出すことができません。そうした意味では、2人の能力の欠如だけが問題なのではなく、野球界全体を束ねる統一組織がないことが根本的な問題として強調されなければなりません。

次のような記事もありました。

特待制度で高野連が緩和措置 (日刊スポーツ 2007年5月10日20時38分)
実態調査で違反なしの申告をした学校の規約を精査した結果、新たな違反校はなかった。

また、次のような報道もあります。

特待制度:打ち切りで就学継続が困難なら緩和措置 高野連
(毎日新聞 2007年5月10日 20時05分)
各校の来年度募集要項の作成に間に合わせるため、憲章に違反しない特待制度の基準作りを当初予定していた11月から早め、6月下旬をめどに決める。

11月に決めてもらっても私立校は困るだろうと思っていましたが、6月下旬ではもう2カ月足らずしかありません。夏の予選が始まってからは対応できないのが実情でしょうが、拙速の恐れがあります。来年度に関しては暫定措置をとることも1つの知恵です。

特待制度:高野連緩和策「退学者など出すのは意図にない」
(毎日新聞 5月10日20時15分)
--緩和措置が必要なケースとはどのようなものか。どのように救済するのか。
 田名部 多くの学校に家庭の経済的事情などを理由にした奨学金制度があるが、その給付基準に達しなくても転校、退学に追い込まれかねない生徒がいる。このような生徒に対して、一般生徒と異なる基準で給付するのは憲章違反としてきたが、一般生徒とは別枠の制度で給付をしても憲章違反としないこととした。

きのうまでNG、きょうからOK、その前は黙認、こんな朝令暮改では振り回されるほうが迷惑です。決めるのは俺だと言わんばかりのこういう態度は改めてほしいものです。


違反行為≠違法行為

2007年04月28日 | 田名部語録

あとで、じっくりと検証させてもらいますが、とりあえず、これだけは先に言っておきます。

特待生問題、高野連の全加盟校実態調査を承認
(2007年4月24日22時24分  読売新聞)
保護者や生徒が解約に同意しない場合について、田名部和裕参事は「経済困難者を対象にした奨学制度や公的な制度への切り替えを学校の方で誠意をもって対応してもらうようお願いしたい。違行為の上に成り立った(特待生の)契約は成立しない」とした。

たとえば、詐欺による契約は取り消すことができます(民法96条)。野球賭博で負けたからといって、賭け金を払う義務は(法律的には)ありません。法定金利を超過した利息分をサラ金に払う義務が(法律的には)ないのと同じです。違行為の上に成立した契約なら、当事者が取り消しまたは無効を主張できるのは当たり前です。

しかしながら、単なる一競技団体の内部規定にすぎない「学生野球憲章」に違しているからといって、契約当事者でもない高野連様が特待生の「契約」を撤回するように指示するのは横暴きわまりない話です。こっちのほうこそ「違性」の疑いがあります。契約不履行で訴訟すれば特待生側が学校側に勝てるのではないでしょうか(内容によるでしょうけど…)。